胡の地より   作:遼心

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羅辰と候真は、金水軍の指揮官である阿里白の排除を画策するが、阿里白も相当の手だれのようだった。候真は阿里白の力量を試すため、不意に踏み込んだ。


第百二十三話 出会い

 瞬く間に、阿里白(ありはく)との間合いが詰まる。阿里白はその速さに、一瞬戸惑う表情を浮かべたが、すぐさま足を一歩引き、刀を横に薙いだ。その身のこなしの鋭さと刀の速さは、候真の想像をはるかに超えていた。

 候真は咄嗟に地面に身を伏せ、何とか刀をやり過ごした。頭のすぐ上を過ぎ去る風圧と鉄の冷たさは、触れれば即、死と、容易に想像させるものだった。

 候真は地面に伏せた勢いのまま前転、両手で地面を押し、身体を跳ね上げながら、左足で阿里白の鳩尾に蹴りつけた。蹴りは命中したが、刀の風圧で候真の勢いは削がれ、阿里白は数歩後ろに下がっただけだった。

 候真はすかさず跳ね起き、阿里白の懐に飛び込む。刀の勢いはなくなり、阿里白の懐は、がら空きだった。

 渾身の肘を、阿里白の胸に打ち込む。しかし肘が届く前に阿里白の左膝が、候真の腹にめり込んだ。

 一瞬呼吸が止まり、うずくまった候真の頭上に、刀が振り下ろされる。

 その時、阿里白の右手は弾け、刀の柄から離れた。刀は候真の横を過ぎ、土を抉った。

 羅辰が候真の襟首をつかみ、後ろに投げ飛ばした。どうやらすんでのところで、羅辰が鉄球を打ったらしい。阿里白が手首を押さえて呻き声を上げている。

「馬鹿が。相手の力量を見極めもせず、突っ込む奴があるか」

 候真は気息を調え、立ち上がった。

「俺にも速さには自信があったからな。できれば一気に決めたかった」

「奴を侮るな。もうお前の速さは見切られている。二度目の攻撃に、簡単に膝を合わせられた」

「ああ、あの刀の大きさから、打ち終わりに懐に飛び込めばと思ったが、やつは体術でも、俺たちと互角だろうな。信じられないことだがな」

 阿里白は刀を構え直している。手首の影響は少ないようだ。こちらを見つめる目が、どこまでも澄んでいる。

「どうした、次はこっちから行くぞ」

 阿里白が飛び込んできた。打ちおろしてきた刀が唸りを上げる。羅辰と候真は左右に飛び退いた。阿里白が返す刀で羅辰を追う。刀の重さから考えると、ありえない速さだ。

 しかし羅辰は、阿里白の動きを見切っていた。跳躍で軽く刀を躱す。候真はその隙に背を向けた阿里白に飛び込んでいった。しかし阿里白は刀を振った勢いで転身し、候真の胴を払う。

 候真は間一髪踏みとどまるが、横一文字に衣服が裂けた。阿里白はそのまま身体を捻り、左脚で候真に蹴りこむ。それを腕で受けた候真が、横に吹っ飛び転がった。

 その隙を突いて、羅辰が阿里白の懐に飛び込むが、阿里白が少し身体を屈ませ、羅辰の下に潜り込むと、立ち上がる勢いで羅辰を投げ飛ばした。

 羅辰の身体が候真の上に落ちてきて、重なった。二人はすぐに跳ね起き、間合いを取った。

 強すぎる。あの大きさの刀を、まるで木の枝を振り回すように扱い、体術への切り返しも速い。いや、体術と剣術の境目は無く、体術の極意を剣技に昇華させている。

 そのような発想を、候真はしたことがなかった。致死軍では各自得意な武器を持たせていたが、この男はどんな武器でも、その性能を、持った瞬間に最大限に引き出せるだろう。

 候真の胸が、高鳴った。 

 候真は阿里白という男を、好きになりかけていることに気付いた。敵同士。致死軍ではあってはならない感情だったが、候真はどうしても阿里白という男を、もっと知りたくなる衝動に駆られていた。

「お前、泣いているのか?」

 羅辰が不意に言った。候真が阿里白の顔を見ると、その頬を伝う涙が、目に留まった。しばらく沈黙の時が流れた。

「俺は何度もお前たちを斬った。確かに殺した。しかしお前たちは立っている。こんな男たちは初めてだ。それでも俺はお前たちを斬らねばならん。それは悲しむべきことだ」

「おかしな奴だ。敵だから容赦なく殺すといったのは、お前だ」

 答えた羅辰は冷静さを装ってはいるが、しかし心は乱れていることが、候真にははっきりわかった。

「この大火、お前たちは二人で放ったという。それに候真の体術、羅辰の飛礫、このような形で出会わなければ、よい出会いだったと、思う」

 この男は何を言っているのだ。まるで友の出会いを喜ぶような口ぶり、しかしその刀には、純粋な殺意だけが込められていた。

「この期に及んで命乞いか、阿里白」

 羅辰が言った。阿里白が一度刀を振った。にもかかわらず、刀は元の位置にあった。刀を二度振ったのだと、候真は気付いた。剣圧が頬を掠める。

「自分を貶おとしめるな、言ったはずだ」

 羅辰の顔が歪んだ。頭に包帯を巻いて表情は見ることはできない。だが確かに、歪んだ。そして元に戻った。

 

 

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