胡の地より   作:遼心

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候真は致死軍を張朔へ託し、行方がわからなくなった。張朔は致死軍の情報収集力を使い、金水軍の動向を探る。


第百三十五話 同志へ

 汴河(べんが)流域は、大方調べ尽くした。

 汴河は河水(黄河)と淮水(わいすい)を結ぶ河で、金水軍が海上を経ず、江南へ水軍を進めるには、汴河を必ず通らなければならない。そして最初の攻撃目標は揚州だと考えられた。

 揚州を獲り、水軍の拠点にすれば、淮水や長江を遡上することもできるし、海上に出て、直接臨安府を狙うこともできる。

 張朔は轟交館(ごうこうかん)の一室で、卓に広げられた地図を、何日も睨み続けていた。地図には、地形やら水深、この時期の気象が、こと細かに書き込まれている。

 これらの情報は、致死軍が総出で調べたものだ。そしてその頭領が候真だ。

 張朔は候真と面識はなかったが、致死軍と梁山泊水軍。長年、共に戦ってきたという想いはある。わずかな時で、この情報量を集めてきたことを見れば、致死軍がどれほど大きな仕事を果たしてきたのか、痛いほど伝わってくる。

 そして候真は、致死軍の指揮権を張朔に委ねる、と書簡で言ってきた。

 その直後、梁山湖こにあった造船所が全焼した。

 候真の依頼で派遣した小型船は、無事に千の罪人を拾い上げ、彼らは南方行きの大型船に乗って旅立っていった。

 造船所を焼いたのは、候真に違いなかったが、生死はわからない。

 過去に致死軍が造船所を焼いたとき、指揮官が生還することは稀であった。

 張朔は、目を閉じた。

 梁山湖の造船所の存在は、梁山泊の誇りを傷つけるものだと思っていた張朔は、その候真の覚悟と行動に、敬慕の念を抱いた。

 そして再び目を開き、候真と致死軍が作り上げた地図に、目を落とす。汴河の上流から揚州に向けて、ひとつひとつ丁寧に情報を追っていく。このどこかに勝利の糸口があるはずだ。

 すでに金水軍の艦隊は出港している。時はもういくらもない。

 梁山泊水軍はすでに、汴河流域のいくつもの船隠しに潜伏している。号令ひとつで中型船百艘が決められた地点に集結できる。

 その秘訣が、清針(せいしん)にある。

 清針は、父張清が発見した道具の一つで、細長い針を、盥に水を張り浮かべると、針が必ず北を示す、というものだ。

 この清針があれば、夜間の航行が可能になる。梁山泊が海外との貿易で圧倒的優位に立つことができたのも、経験豊富な水夫と、この清針があったからだ。

 清針とこの地図の写しは、今回戦闘に加わる中型船の指揮官には、すべて渡してあった。

 金水軍は夜間の航行はできず、必ずどこかに停泊する。そこを奇襲すれば、かなりの損害を与えることができるはずだ。

 

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