胡の地より   作:遼心

28 / 63
風玄の単独行を知った候真は、梁山湖に急行した。しかしすでに事切れていた風玄を発見し心を痛める。しかし候真が見つけた、風玄のそばに落ちていたもは、候真に新たな疑念を抱かせた。


第二十七話 凪

 候真は駆けに駆けた。

 沙谷津(さこくしん)へ向かう途中の宿で、宣凱と食事をしていると、一人の男が宣凱に耳打ちした。それを聞いた宣凱が目を見開き候真に、風玄殿が梁山湖の北の湖岸に一人で、と言ったのだ。候真はそれを聞くと、すぐ宿を飛び出し馬に乗って駆けた。宣凱も慌ててついてくる。

 梁山湖、という言葉で全てが繋がった。風玄は板の行方を追っていて、梁山湖の湖寨に造船所が築かれていることを掴んだのだ。そして造船所を探る為、単身乗り込んでいったに違いない。最後の風玄殿の、あの目が忘れられなかった。おそらく死をも厭わない覚悟だったのだろう。

 梁山湖の湖寨は、かつて梁山泊が反宋の旗を掲げた場所だ。それ自体が天然の要塞になっている。いくら風玄殿でも無事ではすむまい。候真は嫌な予感を振り払うように駆けた。

「候真殿、私は鄆城へ行きます。あそこなら情報も集まってくるでしょう」

「わかった。風玄殿を救い出したら鄆城へ向かう」

 宣凱は馬を返し駆け去っていった。宣凱は脚が不自由だが、見事に万里風を乗りこなしていた。戦うことはないが、毎日剣を振って鍛錬しているという。

 それにしても轟交賈(ごうこうこ)の情報網はどうなっているのだ。梁山泊もかつて、飛脚や鳩の通信を駆使して情報戦を展開した。小さな反乱軍でしかなかった梁山泊にとって、情報はまさに命綱であった。

 しかし轟交賈は湖岸に一人いる風玄を確認し、誰にも居場所を伝えていない宣凱の宿を突き止め、必要と思われる情報を伝える。そんなことが果たしてできるのか。いや、実際に実現している。確かに、そここに物資を運ぶ荷車や商隊は目にするが、それがすべて轟交賈、簫炫材(しょうけんざい)の目となっていると思うと、不気味さすら感じる。それとも独自の情報部隊でも組織しているのだろうか。

 候真は間道を使って北の湖岸の街道に出た。街道はやたら軍の気配を濃く感じる。並足で進む。微かな闘争の匂い。候真は五感を研ぎ澄ませた。

 候真はおもむろに馬を降り、森に入っていった。確かにここだ。まだ闘争があって一刻(三十分)も経たっていないだろう。しばらく進むと複数の兵士の死体を発見した。

 候真は胸を衝かれた。木にもたれ掛る風玄の姿。その表情は穏やかだった。

 死力を尽くしたに違いない。刃傷を一つも負っていないところを見ると、死域に入り、兵士を倒したところで力尽きたのだろう。兵士の傷はどれも、見事に急所を切り裂かれている。

 いや、不自然な死体が二体。

 風玄の傍の二体は、それぞれ首と身体が折れ曲がっている。

「これは、まさか」

 候真は死体のそばに落ちていたものを拾い、しばらくそれを見ていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。