方々で焚火が焚かれ、玄旗隊は思い思い車座になって飲んでいる。思えばこんなにゆったりと食事をするのも久しぶりだ。皆の緊張がほぐれていくのが、見ていてよく分かった。
胡土児(コトジ)は初め宣凱、呼延凌、秦容と屋敷で乾杯したが、雑談もほどほどに呼延凌と秦容が玄旗隊と飲みたい、と言って席を立った。胡土児と宣凱も後に続いた。
牧の端にある丸太に腰かけ、宣凱の献杯を受け、胡土児も宣凱の椀に酒を注いだ。あちこちで笑い声が聞こえる。どうやら魏悠の、俺の覚悟を返せ、というのが笑い話になっているようだ。誰かがそう叫ぶたび、笑いが起きる。
「本当によく来てくださいました。胡土児殿」
「俺もなぜここまで来たのか、実はよくわかっていないのですよ。海陵王に追われてきた、という見方もできますが」
「胡土児殿は、自らの強い意思でここに来た。私はそう思います」
胡土児はしばらく黙り込んだ。
「どうでしょう、胡土児殿とは年も近いようですので、今後は堅苦しい言葉遣いは無しにしませんか?」
胡土児も宣凱の奥ゆかしさや、優しさに好感を抱き始めていた。
「そうだな、そうしよう。宣凱」
宣凱がにっこりと微笑んだ。
「俺は自分の行動に、ここまで曖昧な思いを抱いたのは初めてなんだ。今まではもっと割り切って行動し、悩むこともなかった気がする」
「行動の結末がどうなるかわからない。それでも何かに突き動かされる。そういう時も、きっとあるのだと思うよ。胡土児」
ふと見ると、宋万がぐったりして転がっていた。そばにいた者に聞くと、なんでも隊長の次に俺が強い、と手あたり次第組み付いていったとか。そしてその全員に投げ飛ばされると、そのうちぐったりして動かなくなったという。焚火の近くに転がされているところを見ると、どうやら宋万も玄旗隊の皆に受け入れられた、という事だろう。
「あいつはここに来る途中、邑を襲っていた賊の頭だった男だ。賊は討ち果たしたが、捕らえたあいつを、何故か連れてきてしまった。生き直す、という意味で宋万と俺が名付けたんだ。あいつの放った矢が、あの子の母親ごと、貫いた」
「宋万殿もあの子も、生き残った意味を考えながら、生きていくことだろう。辛いことも多いだろうが、それは決して、無駄なことではないはずだ」
「轟交賈は、その辛さを少しでも和らげる。そのための組織に見える」
「かつての梁山泊も、そうであったと思う」
「それが宣凱の志、か?」
「それが志かどうかは、私にはよくわからない。だが、誰かのために懸命になる。それでいいのだ、という気がしているよ」
焚火がいつの間にか二つに集まり、その灯りの中、秦容と魏悠が組み合っていた。声援が上がっている。なかなかいい勝負のようだ。
「俺は梁山泊に、また、楊令に興味が湧いてきたよ」
宣凱がにこりと微笑んだ。
「無理に知る必要はないと思うが、私でよければ、いくらでも語ることはできる」
魏悠が力を込めた。秦容がそれをいなすと魏悠の身体が宙に舞い、背中から地面に落ちた。歓声が上がる。
「楽しみにしているよ」
隊長、と誰かが叫んだ。秦容が笑いながら、腕を大きく振って胡土児を手招いている。胡土児は椀の酒を一気に飲み干すと、ひとつ気を入れて、立ち上がった。
焚火の炎が、勢いよく夜空に舞い上がった。