胡の地より   作:遼心

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析律はこれまでの事象を正確に分析し、梁山泊と轟交賈の関係を結びつけた。そして一人の男に辿り着く。それは五年前、とある事件で行方不明になり、表舞台から姿を消した男だった。


第八十五話 継ぐもの

「はい。陛下が阿列総帥に胡土児(コトジ)を襲わせた時、その窮地を救った騎馬隊が掲げていた旗が『呼』と『秦』だったといいます。これは間違いなく、呼延凌と秦容です。二人が胡土児を救ったという事は、胡土児が梁山泊と繋がったとみてよいでしょう。いきさつはわかりませんが、手を組んだ理由は、おそらく陛下の南進の妨害である可能性が高いのです」

 海陵王が、低い唸り声を上げた。

「しかし、もはや領土を持たぬ梁山泊の将が、騎馬隊を率いることができるはなぜだ。しかも阿列の包囲を脱するとは、かつての力も失っておらぬのではないか?」

 析律はそのことについて、今調べていることを語るか否か迷った。まだ確証はなく推測の域を出ないが、ほぼ間違いないという確信はあった。海陵王の心は今揺れている。この心を鎮め、戦に向かわせることが先決だと思った。

「陛下、先年の戦で、梁山泊が沙歇殿を討ち、戦を優位に進めながらも何故か兵を退き、その後梁山泊は消滅しました。その理由がお分かりになりますか?」

 突然の問いに、海陵王は眉をひそめた。

「何を言っておる。梁山泊軍も死力を尽くし、もはや戦を継続することができなくなったからではないか」

 確かに金国内ではそういう認識で通っている。沙歇が身を挺して梁山泊軍を退けたと、英雄譚となって語られている。しかし析律には、ずっと引っかかっているものがあった。

「しかし、たとえ兵を退いたとしても、梁山泊の領土は健在で、再び力を蓄えることはできたはずです。金国も梁山泊を攻める力は残っていませんでしたから」

 海陵王は腕を組んで、考える素振りを見せた。

「言われてみればそうだが、では何故だ?」

「よいですか陛下、梁山泊は『替天行道』の志を、一人の男に託したのです。それができたからこそ、梁山泊は軍を解体し、消滅させることができたのです」

「なに?『替天行道』の志を一人の男にだと?丞相、何を言っている」

 海陵王には話の筋が見えていないようだったが、とりあえず無視した。

「梁山泊がその志を託した男、それは簫炫材(しょうけんざい)です」

「簫炫材だと?あの轟交賈(ごうこうこ)を差配していた男か?奴は撻懶(ダラン)が死んだあと行方不明となり、轟交賈も消滅したはずだ」

 轟交賈は元々、金国内の物流を活発にさせる目的で作られたものだ。簫炫材は国に代わって物流の巨大組織を運営することにより、多額の税収を金国にもたらした。その見返りに、自らの物資もその輸送路に乗せることを、国として許可した。金国には有能な内政官は少なく、民間人の簫炫材の力を活かすことにしたのだ。

「陛下、もう一つ、魯逸という男を覚えておいでですか?」

「ああ、おぬしと共に撻懶の側近にいた男だ。だが撻懶が病死した後、何故か燕京郊外の原野で、首の骨が折れ死んでいたという」

「はい、その魯逸は撻懶殿が病死した後、丞相の座を狙っていました。魯逸の死と同時に、簫炫材の行方が分からなくなったことを考えると、魯逸は独断で虎坊党を使い簫炫材の身柄を押さえて、懐柔を迫ったものと思われます。魯逸の死体の周りには、数十の虎坊党の死体もありました」

「それが今回の事と、どう関係しているのだ?」

「おそらく簫炫材は、魯逸の監禁を脱出した際に、追手の虎坊党を率いた魯逸と戦闘になったのでしょう。しかし簫炫材は商人、戦う術は持っていない。であるなら脱出を手引きした者がいたことになります」

「それは?」

「風玄です。風玄は虎坊党の頭領でありながら、簫炫材と共に同じく行方が分からなくなっております。以前より風玄は簫炫材に心酔していた節がありますので、おそらく簫炫材監禁の情報を得、救出に向かったのでしょう。そして風玄はなぜか三ヶ月ほど前、梁山湖の湖岸で警備兵と戦闘となり死んだのです」

「なに?風玄が造船所を探っていたというのか」

「そうです。これらの事象から推理すると、おそらく簫炫材を救ったのは、梁山泊の致死軍です。魯逸と虎坊党数十名の追手に、対抗できるのは致死軍しかいません。そこで簫炫材と風玄は、梁山泊と結びついたのです。命を長らえながら簫炫材は金を見限り、密かに轟交賈を解散させ、風玄と共に梁山泊に与することにしたのでしょう」

「丞相、それではこの話はおかしいではないか。いまや梁山泊も轟交賈も消滅し、存在しない」

「いえ、轟交賈は消滅してはいません。いうなれば梁山泊と一つになって、見えないところに存在しているのです。これをご覧ください」

 析律は二枚の地図を、卓に広げた。

 

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