「なるほど、考えたな候真。俺も小梁山の事は聞いたことがある。おまえが本当に梁山泊の一員だとしたら、そこへ行くこともできるかもしれん」
馬来が、一同を見た。
「正直に俺の考えを言おう。海陵王が本当に、ここの罪人を処断するかどうかはわからん。ただここにいても、これ以上俺たちの未来が明るくなることはあるまい。危険を冒してでも小梁山を目指すか、ここでいつ終わるかもわからん労役を続けるか、ここにいるこいつらの意見を聞かねばならん。それがここの掟だ」
馬来が、ゆっくり周りを見回した。
「俺はやってやりてぇ。いつまでもこんな所にいるのはうんざりだ」
即座に一人が言った。
「他の者は」
「俺は、やらん。第一武器もねぇ。失敗すればその場で殺されるだろう。俺は今のままでいい」
「そうだ、大体この候真という野郎が気に入らん。信用ならねぇ」
残りの者も同じような発言をすると、最初に発言をした奴がうつむいて、黙り込んだ。
「候真、そう言う事だ。この話はなかったことにする」
馬来は、あっさりと言った。
「馬来、お前はどう思っている。これで本当にいいのか?」
候真は馬来を見た。
「俺の意見など、どうでもいいのだ。ここで俺はこいつらと一緒にやってきた。いってみれば家族みたいなものだ。仮にここにいて、海陵王に処断されたとしても、こいつらと一緒なら異存はない」
馬来の言葉にためらいはなかった。馬来たちの心に、割って入ることなどできはしない、と候真は思った。
「わかった。残念だが俺は二人だけでこの造船所を焼く。お前たちはここで大人しくしていろ。火はここまでは来ないはずだ」
馬来は黙って頷いた。しかし候真の心の中で、何かが蠢いた。
「ただ一つだけ言っておきたい。ここは梁山泊の志を胸に、多くの男たちが集い、闘い、死んでいった場所だ。それは己の命の為ではなく、苦しむ中華の民のために闘ったのだ。そういう人間がここにいたことは、覚えておいてほしい」
候真は懐から『替天行道』の冊子を取り出し、床に置いた。この志は、理不尽に奪われる民の命を救うためのものだった。いまここにいる罪人達を救ってやれない自分がもどかしく、忸怩たる思いがこみ上げ、思わず涙がこぼれた。
「候真、お前」
馬来が何か言おうとしたが、候真は無視した。
「おい、そこの。武器がないといったな。武器がないなら兵士に飛びつき、喉をかみ砕け。その武器を奪え。それでお前が討たれても、後ろの奴がその武器を持って戦えるのだ。今のお前らはただの猿山の大将だ。いや、猿は自分の食いものくらいは自分で獲る。お前らは猿以下だ」
言われた男が、怒りに任せて飛びかかってきた。候真は軽くいなし、男は転がって壁にぶつかった。そして候真は立ち上がった。
「人として生まれたなら、誇りを持て。こんな世の中の掃き溜めみたいなところにいて満足するな。世を嘆くくらいなら、男として思いのさまに生き切って見せろ」
場が静まり返った。候真の涙はまだ流れている。その訳が、候真にもよく分からなかった。
その時、突然小屋の壁を何かが貫いてきた。
「お前たち、何をしている」
外から、兵の叫び声が聞こえてきた。