胡の地より   作:遼心

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候真は考え得る最善の条件を馬来達に提示した。暗い小屋に、集まった者のそれぞれの思いが交錯した。


第九十六話 忸怩

「なるほど、考えたな候真。俺も小梁山の事は聞いたことがある。おまえが本当に梁山泊の一員だとしたら、そこへ行くこともできるかもしれん」

 馬来が、一同を見た。

「正直に俺の考えを言おう。海陵王が本当に、ここの罪人を処断するかどうかはわからん。ただここにいても、これ以上俺たちの未来が明るくなることはあるまい。危険を冒してでも小梁山を目指すか、ここでいつ終わるかもわからん労役を続けるか、ここにいるこいつらの意見を聞かねばならん。それがここの掟だ」

 馬来が、ゆっくり周りを見回した。

「俺はやってやりてぇ。いつまでもこんな所にいるのはうんざりだ」 

 即座に一人が言った。

「他の者は」

「俺は、やらん。第一武器もねぇ。失敗すればその場で殺されるだろう。俺は今のままでいい」

「そうだ、大体この候真という野郎が気に入らん。信用ならねぇ」

 残りの者も同じような発言をすると、最初に発言をした奴がうつむいて、黙り込んだ。

「候真、そう言う事だ。この話はなかったことにする」

 馬来は、あっさりと言った。

「馬来、お前はどう思っている。これで本当にいいのか?」

 候真は馬来を見た。

「俺の意見など、どうでもいいのだ。ここで俺はこいつらと一緒にやってきた。いってみれば家族みたいなものだ。仮にここにいて、海陵王に処断されたとしても、こいつらと一緒なら異存はない」

 馬来の言葉にためらいはなかった。馬来たちの心に、割って入ることなどできはしない、と候真は思った。

「わかった。残念だが俺は二人だけでこの造船所を焼く。お前たちはここで大人しくしていろ。火はここまでは来ないはずだ」

 馬来は黙って頷いた。しかし候真の心の中で、何かが蠢いた。

「ただ一つだけ言っておきたい。ここは梁山泊の志を胸に、多くの男たちが集い、闘い、死んでいった場所だ。それは己の命の為ではなく、苦しむ中華の民のために闘ったのだ。そういう人間がここにいたことは、覚えておいてほしい」

 候真は懐から『替天行道』の冊子を取り出し、床に置いた。この志は、理不尽に奪われる民の命を救うためのものだった。いまここにいる罪人達を救ってやれない自分がもどかしく、忸怩たる思いがこみ上げ、思わず涙がこぼれた。

「候真、お前」

 馬来が何か言おうとしたが、候真は無視した。

「おい、そこの。武器がないといったな。武器がないなら兵士に飛びつき、喉をかみ砕け。その武器を奪え。それでお前が討たれても、後ろの奴がその武器を持って戦えるのだ。今のお前らはただの猿山の大将だ。いや、猿は自分の食いものくらいは自分で獲る。お前らは猿以下だ」

 言われた男が、怒りに任せて飛びかかってきた。候真は軽くいなし、男は転がって壁にぶつかった。そして候真は立ち上がった。

「人として生まれたなら、誇りを持て。こんな世の中の掃き溜めみたいなところにいて満足するな。世を嘆くくらいなら、男として思いのさまに生き切って見せろ」

 場が静まり返った。候真の涙はまだ流れている。その訳が、候真にもよく分からなかった。

 その時、突然小屋の壁を何かが貫いてきた。

「お前たち、何をしている」

 外から、兵の叫び声が聞こえてきた。

 

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