雨の降る異国の、とある荒れ果てた教会の前庭。
「はぁ・・・っ、はぁ・・・っ! まだ、私は・・・折れるわけには・・・!」
幼きゼノヴィア・クァルタは、泥まみれになりながらも、その手に聖剣を必死に握りしめていた。
彼女は教会の誇る若き聖剣使いの候補であり、その才能は同世代の中でも突出していた。
しかし、聖剣のあまりに強大すぎる力を、今の幼い彼女の肉体では完全に制御しきれていなかったのだ。
力に振り回され、体力を激しく消耗して動けなくなった彼女を、冷酷に取り囲む影があった。
それは、聖剣の力を恐れ、あるいはその強大な力を奪い取ろうと画策する教会の追手である「はぐれ悪魔」たちの集団だった。
「ひゃはは! 噂の聖剣使いの天才少女も、一度魔力が切れればただの無力なガキだな! その生意気な聖剣ごと、ここで肉片に変えてやるわ!」
はぐれ悪魔たちが一斉に禍々しい魔力の刃を形成し、容赦なくゼノヴィアへ向けて振り下ろす。
ゼノヴィアは冷たい地面に膝をつき、己の無力さに悔し涙を流しながらも、戦士としてのプライドから決して目を逸らさずに死の刃を見つめていた。
その時だった!
「そこまでにゃ。」
冷たい雨音を切り裂き、教会の屋根の上から、軽やかで悪戯っぽい少女の声が響き渡った。
その声の主は、ユーハバッハから教わった「未来予知」によって、ゼノヴィアの危機を知った黒歌が飛ばした幻術(6人目)だった。
「あぁん? また別の迷い悪魔かよ。鬱陶しい、一人増えたところでまとめて刻んでやる!」
悪魔たちが一斉に標的を黒歌に変えて飛びかかる。
しかし、黒歌はフッと妖艶に微笑むと、自身の魂に宿る「全ての刃の頂点」たる言霊を紡ぎ出した。
「『ちゃんボクの刀は一振一殺』」
瞬間、世界のすべての「鋭利さ」と「空気の密度」が変わった。路地に満ちていた禍々しい魔力が、目に見えない無数の「刃」に切り刻まれるように一瞬で霧散する。
そして、黒歌の小さな体がまばゆい霊圧の光に包まれ、その姿が瞬時に変貌していく。現れたのは、悪魔でも魔術師でもない。
ファンキーな髪型にサングラス、そして手には、長年メンテナンスをしていなかったのか刀身がグラつき、今にも柄から外れそうな一振りの日本刀を携えた男、霊王宮を守護する零番隊が一人、二枚屋王悦の姿だった。
その刀こそ、あまりに切れ味が良すぎ、刃が滑らかすぎるためにどんなに斬っても刃毀れせず、血の一滴すら付かず、収める鞘すら作れない「失敗作」――『鞘伏(さやふし)』。
王悦となった黒歌は、抜き身では危険すぎるその刀を、液体で満たされた小さな水槽に沈め、肩に担いでいた。
「おっとォ? 幼いレディを大勢でいじめるなんて、イケてないねぇ、お主ら! ――チェケラァ!」
ファンキーな声とは裏腹に、王悦の瞳の奥には、世界の刀すべてを支配する絶対的な神の風格が宿っていた。
本能的な死の恐怖を感じて後退りしようとする悪魔たちに向け、王悦は水槽から『鞘伏』を滑らかに引き抜いた。
構えなどない。
ただ、無造作に、一瞬で駆け抜ける。
「ホラ、一丁あがりッ!」
一閃。それは、あまりにも速く、あまりにも滑らかな一振り。
放たれた斬撃は魔力や障壁を一瞬で断ち切り、悪魔たちの武器と戦闘能力だけを完全に奪い去った。
刃毀れもせず、血の一滴も付かない失敗作の刃。
はぐれ悪魔たちはその場に崩れ落ち、最後の一人だけが恐怖に駆られて逃げ去った。
王悦の姿が静かに消え、元の『黒歌』の幻術へと戻る。
黒歌は呆然と聖剣を握りしめるゼノヴィアを見下ろし、優しく語りかけた。
「強さっていうのはね。誰かを傷付けるためじゃない。誰かを守るためにあるの。いつか、その大きな剣に振り回されない、本当に強い女の子になるんだにゃ」
自分の持つ聖剣とは全く違う、極限まで研ぎ澄まされた「洗練された刃の強さ」と、黒猫の少女の優しい言葉に、ゼノヴィアは震えながら尋ねる。
「あなたは・・・、いったい・・・?」
黒歌はにゃははと悪戯っぽく笑って言った。
「いつか会うにゃ。その時は、自分の剣で誰かを守れる女になるといいにゃ。」
そう言い残すと、圧倒的な安心感だけを遺して、黒歌の幻影は雨の中に溶けるように消え去った。
ゼノヴィアはその日、彼女が残した言葉と、どんな鞘にも収まらない圧倒的な「刀神」の一撃を、魂の奥底に深く刻み込んだ。
未来。
彼女が成長し、リアス・グレモリーの騎士(ナイト)として、一誠や木場たち、そして大切な仲間たちと共に戦う時。
彼女の剣技の根底には、あの日に見た、すべてを滑らかに切り裂いた圧倒的な男の背中と、黒猫の少女の言葉が、何があっても折れない最高の支えとして残り続けるのだった。
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次回「IGO会長、幼きヴァルキリーを助ける」
黒歌が色々な世界に行き、強者から姿と力を(言霊として)借りる展開を書こうと思います。どちらで見たいですか?
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前日譚
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倒れた後に、目覚めた小猫(白音)に話す