黒歌が言霊を使い、妹や仲間のために戦う物語。   作:ピック

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完結までよろしくお願いいたします。


第12話 IGO会長、幼きヴァルキリーを助ける

ある日の北欧は、雪が降っていた。

 

まだ太陽が完全に沈みきっていないというのに、空は灰色の雲に覆われ、世界のすべてが白と黒の二色だけで塗り潰されたようだった。

 

冷たい風が荒野を駆け抜ける。

 

雪原には、ただ一人を除いて、誰の足跡も残っていない。

 

「はぁ・・・っ、はぁ・・・っ!」

 

幼い少女が、一人で雪原を走っていた。

 

白銀の髪に青い瞳。

 

小さな身体には似つかわしくない、分厚い防寒具。

 

その胸元には、北欧神話の神々を思わせる紋章が刻まれている。

 

少女の名は、ロスヴァイセ。

 

まだ幼い彼女は、幼いながらも神話や魔術について学ぶ才能に恵まれていた。

 

その才能ゆえに、彼女は今、追われていた。

 

「こっちだ!」

 

「逃がすな!」

 

「北欧のヴァルキリーの娘だ!捕まえれば利用できる!」

 

雪原の向こうから、追手である複数の男たちの声が響く。

 

彼らは、ロスヴァイセが持つ魔術の才能に目をつけていた。

 

しかし、彼女自身に価値を見出したわけではなく、知識や秘めている魔力を利用するために追っているだけである。

 

「いや・・・!」

 

ロスヴァイセは振り返った。

 

遠くに複数の影が見える。

 

大人や、魔術師たち。

 

彼らの手には杖や魔導具が握られている。

 

幼いロスヴァイセには、とても太刀打ちできない相手だった。

 

「来ないで・・・!」

 

少女は必死に走る。

 

だが、雪が深い。

 

足が沈み、身体が冷える。

 

呼吸が苦しい。

 

それでも止まるわけにはいかなかった。

 

「私は・・・!」

 

ロスヴァイセは涙を堪えながら前を見る。

 

「私は・・・、負けない・・・!」

 

自分に言い聞かせるように呟く。

 

ヴァルキリーとして、北欧の一員として、何より、一人の少女として。

 

絶対に諦めたくなかった。

 

だが・・・。

 

「・・・っ!」

 

足が雪に取られ、身体が前へ投げ出される。

 

「きゃっ・・・!」

 

雪の中に倒れ込む。

 

冷たく、痛い。

 

だけど、それ以上に怖い。

 

ロスヴァイセは震えながら立ち上がろうとした。

 

しかし、身体が言うことを聞かない。

 

「・・・立って!」

 

両手を雪につく。

 

「立ってよ・・・!」

 

何度も身体を起こそうとする。

 

けれど、幼い身体にはもう力が残っていなかった。

 

やがて・・・。

 

ザク、ザク、ザク。と、追手たちの足音が近づいてきた。

 

雪を踏みしめる音。

 

ロスヴァイセは顔を上げる。

 

目の前に、複数の魔術師たちが立っていた。

 

「ようやく追いついたか。」

 

「まったく、手間をかけさせてくれる。」

 

「その才能・・・、我々が有効に使ってやろう。」

 

ロスヴァイセは後ずさる。

 

「・・・いや。」

 

「大人しくしろ!」

 

「いや!」

 

少女は叫んだ。

 

「私は・・・、あなたたちの道具じゃない!」

 

その言葉に、追手たちは笑った。

 

「生意気なガキだ。」

 

「ならば、少し痛い目を見せてやろう。」

 

魔力が集まる。

 

白い雪の上に、黒い魔法陣が浮かび上がった。

 

ロスヴァイセの顔から血の気が引く。

 

「・・・っ!」

 

怖い。

 

でも・・・、逃げられない。

 

少女は小さな手を握りしめ、震えを止めようとする。

 

「・・・怖くない。私は・・・、怖くない・・・。」

 

けれど、声は震えていた。

 

その時だった!

 

「そこまでにゃ!」

 

雪原に、少女の声が響いた。

 

「・・・?」

 

追手たちが振り返る。

 

だが、回りには誰もいない。

 

「今の声は・・・?」

 

「上だ!」

 

空を見上げると、雪が舞っている。

 

その中から、一人の少女がゆっくりと降りてきた。

 

黒髪に、猫魈特有の耳。

 

そして、どこか悪戯っぽい笑み。

 

「こんばんはにゃ。」

 

それは、黒歌の幻術だった。

 

ロスヴァイセは呆然と彼女を見上げる。

 

「あなたは・・・、誰・・・?」

 

黒歌は少女を見る。

 

その瞳には優しさがあった。

 

「助けに来たにゃ。」

 

「・・・え?」

 

「私が来たから、もう大丈夫にゃ。」

 

ロスヴァイセの瞳に涙が浮かぶ。

 

「・・・でも・・・。」

 

「ん?」

 

「あなたも・・・、危ない・・・!」

 

幼い少女は、黒歌を心配していた。

 

追手が大勢いる。

 

自分を助ければ、この少女も狙われる。

 

「逃げて・・・!」

 

 ロスヴァイセは叫んだ。

 

「私なんか助けたら、あなたまで・・・!」

 

黒歌は少し驚いた。

 

そして、柔らかく笑う。

 

「・・・なるほどにゃ。」

 

「え?」

 

「やっぱり、優しい子にゃ。」

 

黒歌はロスヴァイセの頭に手を置いた。

 

「だからこそ、助けるにゃ。」

 

追手が怒鳴る。

 

「ふざけるな!」

 

「我々の邪魔をするな!」

 

「その娘を渡せ!」

 

黒歌は振り返る。

 

その瞬間、笑顔が消えた。

 

「・・・嫌にゃ。」

 

たった一言・・・、それだけだった。

 

「この子は、物じゃないにゃ。」

 

追手たちが、無数の魔法弾や、氷、炎、雷、魔力の刃を放ち、

一斉に黒歌へ殺到する。

 

しかし、黒歌は動かなかった。

 

ただ、右手をゆっくりと前へ出した。

 

「・・・この子を守るためなら、私は、力を使うにゃ。」

 

黒歌の瞳が鋭くなる。

 

魔法が迫る、その瞬間。

 

「言霊」

 

黒歌の周囲に、静かな風が吹いた。

 

「『世界は食で満ちている』」

 

世界が震え、魔法が止まった。

 

炎も、雷も、氷も。

 

すべてが黒歌の目の前で静止している。

 

「な・・・。」

 

黒歌の身体から、追手たちが言葉を失う程の凄まじい威圧感が溢れ出す。

 

だが、それはこれまでの変身とは違い、殺気でも、怒気でも、

破壊衝動でもない。

 

もっと大きなものだった。

 

それは、強者が持つ静かな慈愛。

 

そして、圧倒的な包容力だった。

 

雪原を覆っていた冷気すら、ほんの少しだけ和らいだ。

 

黒歌の身体が光に包まれる。

 

そして、筋肉隆々な身体に穏やかな瞳、ブロンドの髪と口髭、さらに、圧倒的な威厳を持つ老人に変わっていく。

 

そこに立っていたのは・・・。

 

IGO会長であり、四天王の師でもある男。

 

一龍だった。

 

ロスヴァイセは目を見開く。

 

「・・・え・・・?」

 

 目の前の男から感じるものが、理解できない。

 

怖いのに、なぜか安心する。

 

強いのに、なぜか温かい。

 

一龍となった黒歌は、ゆっくりと周囲を見渡した。

 

「・・・やれやれ。」

 

 その声は穏やかだった。

 

「こんな小さな子を、大勢で追い回すとはな。」

 

《vib:1》「何者だ!」

 

追手の一人が叫ぶ。

 

だが、一龍は答えない。

 

ただ、ロスヴァイセを見る。

 

「お嬢ちゃん。」

 

「・・・はい。」

 

「怖いか?」

 

 ロスヴァイセは少し迷った。

 

 そして。

 

「・・・はい。」

 

正直に答えた。

 

一龍は笑った。

 

「そうか。」

 

それだけだった。

 

責めなかった。

 

笑わなかった。

 

否定しなかった。

 

「怖いというのは、弱いということではないんじゃ。」

 

 ロスヴァイセが顔を上げる。

 

「・・・え?」

 

「怖いものを怖いと思えるからこそ、人は危険を知ることができる。」

 

一龍は追手を見て、拳を握る。

 

「そして、危険を知った上で、それでも守りたいもののために立ち上がることができる。それが勇気じゃ。」

 

ロスヴァイセの目に、涙が浮かんだ。

 

「・・・私にも・・・できるでしょうか?」

 

「今のお主にも、できるとも。」

 

一龍は即答した。

 

ロスヴァイセは驚いた。

 

「・・・私、何もできません。」

 

「本当にそう思うかのぅ?」

 

「・・・はい。」

 

「なら、さっきの言葉を思い出すんじゃ。」

 

「言葉・・・?」

 

「お主は私に逃げろと言ったのぅ。」

 

ロスヴァイセは目を見開いた。

 

「最初にワシのことを心配してくれた。

自分が危険なのにも関わらず、じゃ。」

 

一龍は微笑む。

 

「それは『何もできない』者にはできないことじゃ。」

 

ロスヴァイセは唇を噛む。

 

涙が一粒落ちた。

 

「・・・私・・・。」

 

「うむ。」

 

「私にも・・・できることが・・・ありますか・・・?」

 

「あるとも。」

 

一龍は頷いた。

 

「お主は優しい。」

 

その言葉は、幼いロスヴァイセの心に、深く響いた。

 

その時。

 

「茶番は終わりだ!」

 

追手の一人が叫んだ。

 

「どれほど強そうに見えても、一人だ!」

 

魔力が膨れ上がる。

 

「全員で殺せ!」

 

無数の魔法が一龍へ向けて放たれる。

 

一龍は振り返る。

 

「・・・そうか。」

 

そして、一歩前へ出た。

 

ただ、それだけだった。

 

一龍から放たれた圧力が、雪原そのものを震わせる。

 

魔法弾はその圧力に触れた瞬間、形を維持できなくなり、次々と霧散していった。

 

「な・・・。」

 

「馬鹿な・・・!」

 

「魔法を・・・、消した・・・?」

 

一龍は静かに拳を握る。

 

「お主らに1つだけ教えてあげよう。」

 

その声に怒りはない。

 

むしろ、悲しさがあった。

 

「強さというものを、他者を踏みにじるための道具だと思ってはいかん。」

 

追手たちが後ずさる。

 

「強い者には、強い者にしかできない役割があるんじゃ。」

 

「それは・・・。」

 

一龍の拳がゆっくりと構えられる。

 

「弱き者を守ることじゃ。」

 

 次の瞬間。

 

一龍の拳が、一度だけ振るわれた。

 

その拳は、追手たちではなく、彼らの足元へ向けられていた。

 

その瞬間、音が消え、風も止まり、雪も止まった。

 

追手たちは、ただ呆然と立っている。

 

そして・・・。

 

彼らの周囲の地面に、巨大な亀裂が走った。

 

だが・・・。

 

彼ら自身には、一切傷がない。

 

武器だけが砕け散っていた。

 

魔導具も壊れている。

 

魔法陣も消えている。

 

戦意だけが、完全に折れていた。

 

「・・・。」

 

誰も動けない。

 

一龍は拳を下ろす。

 

「帰るといい。」

 

静かな声だった。

 

「2度と、この子に手を出そうとは考えんことじゃ。」

 

追手たちは震えた。

 

そして、1人、また1人武器を捨てる。

 

「・・・撤退だ!」

 

全員が逃げ出し、雪原に静寂が戻る。

 

ロスヴァイセは、ただ呆然と一龍を見つめていた。

 

「・・・すごい。」

 

そう思わず呟いた。

 

一龍は振り返る。

 

「そうかのぅ?」

 

「はい!」

 

ロスヴァイセの瞳が輝いている。

 

「どうして・・・あんなに強いのに・・・。」

 

「ん?」

 

「どうして・・・、怖くないんですか?」

 

一龍は少し考える。

 

「強いから怖くない、というのは違うのぅ。」

 

「・・・?」

 

「本当に強くなればなるほど、自分の力がどれほど大きなものなのかを理解するものじゃ。」

 

雪が舞う。

 

「だからこそ、力を振るう時には責任が生まれる。」

 

「責任・・・。」

 

「そうじゃ。」

 

一龍は頷く。

 

「力を持つ者が、その力を好き勝手に振るえば、弱い者は簡単に傷ついてしまう。」

 

「・・・。」

 

「だからワシは、力を持つ者ほど、自分を律しなければならないと思っているんじゃ。」

 

ロスヴァイセは一龍の言葉を一つ一つ聞いていた。

 

「・・・では。」

 

 少女が尋ねる。

 

「強い人は・・・、我慢しないといけないんですか?」

 

「時には、そのようなこともあるじゃろう。」

 

一龍は笑った。

 

「だが、我慢するだけではない。」

 

「?」

 

「守るべき時には、迷わず守る。」

 

一龍はロスヴァイセの頭に手を置く。

 

「それもまた、強さじゃ。」

 

ロスヴァイセの胸に、その言葉が染み込んでいく。

 

「誰かを・・・、守る。」

 

「そうじゃ。」

 

「私も・・・、そんな人になれますか?」

 

一龍は笑った。

 

「なれるとも。」

 

迷いのない返事。

 

「いつか、お前も誰かを導く日が来るはずじゃ。」

 

「私が・・・?」

 

「そうじゃ。」

 

「でも私、まだ子供です。」

 

「今はな。」

 

一龍は空を見上げた。

 

「だが、人は成長する。」

 

 そしてロスヴァイセを見る。

 

「学び、失敗し、悩み、誰かに助けてもらいながら強くなっていく。」

 

「・・・。」

 

「そしていつか、自分が助けてもらった分を、別の誰かへ返す。」

 

ロスヴァイセは黙って聞いていた。

 

「それが、人が次の世代へ何かを残すということじゃ。」

 

その言葉は、後の彼女の人生に繋がっていく。

 

魔術を学び、知識を学び、誰かを教え、誰かの相談に乗る。

 

そして、いつか自分より幼い者たちを導く。

 

その原点が、この雪原にあった。

 

「・・・先生。」

 

ロスヴァイセが呟いた。

 

一龍が眉を上げる。

 

「ん?」

 

「あなたみたいな人を・・・、先生って呼びたいです。」

 

一龍は笑った。

 

「それは光栄じゃな。」

 

ロスヴァイセも、小さく笑った。

 

だが、次の瞬間。

 

ロスヴァイセは一龍の身体に何か違和感を覚えた。

 

「・・・あの。」

 

「どうしたんじゃ?」

 

「あなた・・・、本当に、ここにいるんですか?」

 

一龍は笑った。

 

「どうしてそう思うんじゃ?」

 

「なんとなく・・・。」

 

ロスヴァイセは一龍を見る。

 

「どこか・・・、遠くから来たような感じがします。」

 

一龍は少しだけ目を細めた。

 

幻術として存在している黒歌。

 

そして、異世界から受け継いだ力。

 

すべてを説明するわけにはいかない。

 

だから・・・。

 

「そうだな・・・。」

 

一龍は答えた。

 

「ワシは、少し遠いところから来たのかもしれん。」

 

「・・・遠いところ?」

 

「ああ」

 

「どこですか?」

 

一龍は笑う。

 

「お主がいつか辿り着く未来じゃ。」

 

「・・・?」

 

ロスヴァイセには意味が分からない。

 

それでも・・・。

 

その言葉だけは、不思議と心に残った。

 

「では・・・、いつか、また会えますか?」

 

一龍は答える。

 

「会えるとも。」

 

「本当ですか?」

 

「ああ」

 

そして一龍は、最後にこう言った。

 

「その時には、お主自身が誰かを守れるくらい強くなっているはずじゃ。」

 

ロスヴァイセは力強く頷いた。

 

「はい!」

 

その返事を聞いた瞬間。

 

一龍の身体が光に包まれ始めた。

 

「・・・え?」

 

ロスヴァイセが驚く。

 

「待ってください!」

 

一龍の姿が徐々に薄れていく。

 

「あなたの名前を教えてもらえませんか!」

 

ロスヴァイセは叫んだ。

 

一龍は笑った。

 

「ワシの名は一龍じゃ。覚えておくといい。」

 

「・・・一龍さん。」

 

そして・・・。

 

「強さは、自分のためだけにあるんじゃない。」

 

光が強くなる。

 

「守りたい誰かがいる時、その力は初めて本当の意味を持つんじゃ。」

 

「自分の欲や優越感のためだけに振るうのは、愚かなことじゃ。」

 

「・・・はい!」

 

 ロスヴァイセは叫んだ。

 

「絶対に・・・、忘れません!」

 

光が消える。

 

そこに残ったのは、雪原だけ。

 

ロスヴァイセは1人で立っていた。

 

恐怖は残り、身体も震えている。

 

それでも、少女は自分の足で立っていた。

 

そして、小さな手を握る。

 

「・・・私も、強くなる。」

 

雪が降る。

 

その瞳には、もう涙だけではなく、小さな決意が宿っていた。

 

「誰かを守れるくらい・・・、強くなる。」

 

その言葉は、白銀の荒野へ消えていった。

 

同じ頃。

 

遠く離れた場所。

 

黒歌は目を閉じていた。

 

幻術から意識が戻ってくる。

 

「・・・終わったにゃ。」

 

アザゼルが尋ねる。

 

「どうだった?」

 

黒歌は笑った。

 

「ちゃんと助けられたにゃ。」

 

「そうか。」

 

「これで7人。」

 

黒歌は指を数える。

 

「朱乃」

 

「祐斗」

 

「ギャスパー」

 

「一誠」

 

「アーシア」

 

「ゼノヴィア」

 

「そして・・・、ロスヴァイセ」

 

アザゼルは腕を組む。

 

「お前、ずいぶんと未来の連中を気に入ってるじゃねえか」

 

黒歌は少し照れたように笑う。

 

「だって・・・。」

 

遠くを見る。

 

「みんな、頑張って生きていく子たちにゃ。」

 

「・・・。」

 

「未来を全部変えるつもりはないにゃ。でも、あの子たちが自分の力で未来を掴めるように、最初の一歩くらいは手伝ってあげてもいいと思うにゃ。」

 

アザゼルは苦笑した。

 

「まったく、お前らしいよ」

 

黒歌は空を見上げる。

 

そこには朝焼けがあった。

 

「いつか・・・。」

 

黒歌は呟く。

 

「この子たちが、みんな一緒に笑える未来が来るといいにゃ」

 

その時。

 

これまで救った6人の姿が浮かんだ。

そして、先ほど救ったロスヴァイセの姿が続く。

 

幼い朱乃。

 

傷ついた祐斗。

 

怯えていたギャスパー。

 

震えていた一誠。

 

涙を流していたアーシア。

 

剣を握りしめていたゼノヴィア。

 

そして・・・。

 

雪原で決意を胸に刻んだロスヴァイセ。

 

合計7人。

 

それぞれ違う場所で。

 

それぞれ違う苦しみを抱え。

 

それぞれ違う未来を歩いていく。

 

だが・・・。

 

いつか、彼らは同じ場所へ集う。

 

同じ仲間として、同じ未来を守る者として。

 

その未来を知る者は、まだ誰もいない。

 

黒歌を除いて。

 

「・・・ふふ。」

 

黒歌は笑った。

 

「未来って、不思議にゃ。」

 

「何がだ?」

 

「今はまだ、誰もお互いを知らないにゃ。」

 

「・・・。」

 

「でも、いつかきっと・・・。」

 

黒歌は胸元に手を当てる。

 

「みんなで一緒に戦うにゃ。」

 

その言葉の通り。

 

未来・・・。

 

人間界にある駒王学園。

 

そこには、いつか7人が集うことになる。

 

姫島朱乃。

 

木場祐斗。

 

ギャスパー・ヴラディ。

 

兵藤一誠。

 

アーシア・アルジェント。

 

ゼノヴィア

 

そして・・・、ロスヴァイセ。

 

彼らはそれぞれの力を持ち。

 

それぞれの過去を抱え。

 

それぞれの理由で戦っていた。

 

誰も知らない。

 

自分たちが幼い頃。

 

それぞれの人生の最も苦しい瞬間に、1人の黒猫の少女が現れていたことを。

 

そして、それぞれの前に、異世界の強者の姿を借りた黒歌が立っていたことを。

 

全王・・・朱乃に安心を与えた力。

ジョア・・・祐斗に示した生きる道。

ノッキングマスター次郎・・・ギャスパーに伝えた強さ。

サイタマ・・・一誠に刻んだ不屈の心。

リジェ・パロ・・・アーシアに教えた優しさ。

二枚屋王悦・・・ゼノヴィアに託した剣の責任。

そして・・・一龍。

ロスヴァイセに伝えた、強者が弱者を導く責任。

 

七人の心には、七つの言葉が残っていた。

 

絶対的な安心。

 

守るための強さ。

 

恐怖を抱えたまま立ち上がる勇気。

 

どんな強敵にも立ち向かう、不屈の心。

 

優しさを貫く覚悟。

 

剣を持つ者としての責任。

 

そして、強い者が、弱き者を導く責任。

 

それらは長い年月の中で、決して消えることはなかった。

 

やがて、ロスヴァイセは教師となり、生徒たちの前に立つ。

 

時には叱り、時には悩み、時には失敗しながら。

 

それでも・・・。

 

誰かが道を見失った時には、必ず手を差し伸べる。

 

その姿を見て、生徒が尋ねる。

 

「先生は、どうしてそんなに人を助けたいんですか?」

 

ロスヴァイセは少しだけ驚き、

そして、雪の降る遠い昔の日を思い出す。

 

筋肉隆々な身体。

 

穏やかな瞳。

 

圧倒的な力。

 

そして・・・。

 

「強さは、自分のためだけにあるんじゃない」という優しい言葉。

 

ロスヴァイセは微笑む。

 

「昔、私に教えてくれた人がいたんです」

 

「どんな人ですか?」

 

「とても強い人でした」

 

少しだけ目を細める。

 

「でも・・・、それ以上に、とても優しい人でした。」

 

生徒たちは興味津々で尋ねる。

 

「どれくらい強かったんですか?」

 

ロスヴァイセは笑う。

 

「それは・・・。」

 

遠い記憶を思い出す。

 

雪原、魔法、追手。

 

そして、一度だけ振るわれた拳。

 

「世界で一番強いんじゃないかと思うくらいです。」

 

そう言って、ロスヴァイセは、生徒たちへ向かって笑った。

 

「でも・・・。」

 

その瞳には、あの日と同じ光が宿っている。

 

「本当にすごかったのは、強さではありません。」

 

「じゃあ、何ですか?」

 

「その力を、誰かを守るために使ったことです。」

 

生徒たちは黙って聞いている。

 

ロスヴァイセは教壇に立つ。

 

「だから、あなたたちも覚えておいてください。」

 

優しく、しかし、力強く。

 

「力を持つことそのものが偉いわけではありません。」

 

「・・・。」

 

「その力を、誰のために使うのか。」

 

ロスヴァイセは微笑んだ。

 

「それを決めるのは、あなた自身です」

 

その言葉の根底には・・・。

 

あの日、雪原で聞いた一龍の言葉があった。

 

そして・・・。

 

そのさらに根底には、1人の黒猫の少女が持っていた信念があった。

 

守るべき人がいるなら、力を使う。

 

それが、黒歌の選んだ道だった。

 

そして、その力によって救われた七人が。

 

いつか別の誰かを救っていく。

 

力は受け継がれる。

 

言葉も受け継がれる。

 

優しさも、勇気も、覚悟も。

 

決して消えることなく、次の誰かへ。

 

さらにその次の誰かへ。

 

そうして、1人の黒猫の少女が始めた小さな行動は、やがて、冥界そのものを変えていく大きな未来へと繋がっていくのだった。

 

そして、その始まりの日。

 

北欧の雪原で。

 

幼いロスヴァイセは、一人で空を見上げていた。

 

雪が降っている。

 

けれど。

 

もう寒くはなかった。

 

胸の奥に、小さな炎が灯っていたからだ。

 

「一龍さん・・・。」

 

少女は、遠い空へ向かって呟いた。

 

「私・・・、いつか、誰かを守れる人になります。」

 

返事はない。

 

それでも・・・。

 

ロスヴァイセは笑った。

 

「そして・・・。」

 

小さな拳を握る。

 

「いつか、私も誰かに教えてあげます。」

 

あの日、自分が教えてもらったように。

 

「怖くてもいい。震えてもいい。それでも、大切な人を守るために立ち上がれるんだって。」

 

雪原に、少女の声が響く。

 

それはまだ幼い誓いだった。

 

しかし、その誓いは、何年経っても消えることはなかった。

 

七人目の未来は、こうして始まった。




感想や、誤字脱字の報告などお待ちしています!

次回「リアス、オカルト研究部を創る」

黒歌が色々な世界に行き、強者から姿と力を(言霊として)借りる展開を書こうと思います。どちらで見たいですか?

  • 前日譚
  • 倒れた後に、目覚めた小猫(白音)に話す
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伝説の赤き龍に選ばれし少年は、幼い頃、両親を悪魔に殺されてしまい、自身も殺されかけた際、一人の全身タイツのおかっぱ頭の男に助けられる。▼助けられた少年は彼から体術と青春とは何かを教えられ、それを武器に裏の世界に踏み込む。▼これは、赤龍帝「兵藤一誠」が碧い猛獣と出会うことで正史とは異なる新たな物語である。▼追記▼短編を連載に変え、あらすじを少しはマシなものに変…


総合評価:94/評価:-.--/連載:6話/更新日時:2026年07月15日(水) 20:26 小説情報

ダンまち世界に闇の福音に転生して人類を導くのは間違っているだろうか(作者:魔法少女(偽))(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

令和を生きたアニメやマンガが好きで多少の武道の心得がある社会人がトラ転して前世の武術やアニメの技術を教えたりして色々やらかしたり助けたりして超有名人になっていく▼※他作品のキャラや武器が登場したりします


総合評価:1236/評価:6.78/連載:14話/更新日時:2026年07月16日(木) 09:45 小説情報


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