第28章 ギャスパー・・・ノッキングマスター次郎との10日間
11体の幻影が、それぞれの相手の前へと進んでいく。
その中で、ギャスパーの前に現れたのは、ノッキングマスター次郎の幻影だった。
白髪をリーゼントに整え、顎には白い髭を生やしている。
そして、小柄な老人の姿をしており、一見すると強者には見えない。
だが、その身体から感じられる気配は、決して普通の老人のものではなかった。
『トリコ』に登場する伝説の美食屋。
かつて「ノッキングマスター」と呼ばれた、ノッキングの達人。
そして、美食神アカシアの弟子の1人。
普段は酒を好む飄々とした老人だが、その実力は、伝説的な美食屋として知られるほどだった。
そんな次郎が、ギャスパーをじっと見つめていた。
「ぼ、僕・・・。」
ギャスパーは身体を縮こまらせる。
「僕は・・・、自分の力が怖いです。」
次郎は、怒ることも笑うこともなく、穏やかに答えた。
「そうかい。」
そして、少しだけ目を細める。
「なら、止めることを覚えるといい。」
「・・・え?」
「力が怖いなら、力に振り回されないようにすればいいんじゃ。」
ギャスパーは目を丸くした。
「振り回されない・・・?」
「そうじゃ。」
次郎は自分の手を軽く振る。
「ノッキングってのは、ただ相手を止めるだけではないんじゃ。」
「・・・?」
「いつ止めるか。どこを止めるか。どれだけ止めるか。そして、いつ解除するか。」
次郎は笑った。
「始めたなら、終わらせるんじゃ。」
その言葉が、ギャスパーの心に残った。
その時、ギャスパーは黒歌の方へと視線を向けた。
「く、黒歌さん・・・。」
「どうしたにゃ、ギャスパー?」
「どうして、僕の特訓相手が次郎さんなんですか?」
ギャスパーは、目の前の小柄な老人を見つめた。
「次郎さんが、とても強い人だということは分かります。でも……僕の力は、相手の動きを止める能力です。ノッキングと似ている部分があるのかもしれませんけど、それだけで僕が強くなれるんでしょうか?」
黒歌は、ギャスパーの問いに静かに頷いた。
「いいところに気づいたにゃ。でも、あたしが次郎を選んだ理由は、単に能力が似ているからじゃないにゃ。」
「え・・・?」
「ギャスパー。あんたは、自分の停止能力を怖がっているにゃ。」
ギャスパーは、うつむいた。
「・・・はい。」
「強い力を持っているからこそ、使い方を間違えたらどうしようって考えてしまうにゃ。自分でも、どこまで力を使えばいいのか分からなくなることがあるんじゃないかにゃ?」
「・・・そうです。」
ギャスパーは、小さな声で答えた。
自分の能力は強力だ。
だからこそ、使うことそのものが怖い。
相手を止めることができても、いつまで止めればいいのか。誰を止めればいいのか。もし、必要以上に能力を使ってしまったらどうなるのか。
そうした不安が、いつもギャスパーの心にあった。
黒歌は、そんな彼を見つめながら続けた。
「次郎は、ノッキングの達人にゃ。相手を止める技術だけじゃなく、どこを、いつ、どの程度止めるのかを見極めることに長けている。つまり、力を使うタイミングと、その加減を学ぶには、うってつけの相手なんにゃ。」
次郎は、黙って二人の話を聞いていた。
「それに、ギャスパーに必要なのは、停止能力をもっと強くすることだけじゃないにゃ。」
黒歌は、ギャスパーの目をまっすぐに見つめた。
「自分の力を、必要な時に、必要な相手へ、必要な時間だけ使うこと。そして、自分の意思で終わらせること。 それを身につけてほしいんにゃ。」
ギャスパーは、次郎を見た。
次郎は小柄な老人にすぎないように見える。
しかし、その目には、長年の経験を積み重ねてきた者だけが持つ、確かな落ち着きがあった。
「でも・・・、僕、失敗するかもしれません。」
「もちろん、失敗することもあるにゃ。」
黒歌は、あっさりと答えた。
「最初から完璧にできる必要なんてないにゃ。大事なのは、失敗しないことだけを考えて何もしなくなることじゃない。失敗から学んで、自分で判断できるようになることにゃ。」
「自分で・・・、判断する。」
「そうにゃ。」
黒歌は頷いた。
「たとえば、仲間が危険にさらされている時、あなたが全員の動きを止める必要はないかもしれない。仲間を襲おうとしている敵だけを止めれば、ほかのみんなが動けることもあるにゃ。」
ギャスパーは、アーシアや一誠たちの姿を思い浮かべた。
「それから、敵を止められたとしても、いつまでも止め続ければいいわけじゃないにゃ。危険がなくなったなら解除する。状況が変わったなら、次に何をするべきか考える。そこまで自分で判断できるようになってほしいんにゃ。」
ギャスパーは、ゆっくりと頷いた。
「僕は・・・、敵を止めることばかり考えていました。」
「それも必要なことにゃ。でも、それだけじゃないんにゃ。」
黒歌は微笑んだ。
「次郎から学んでほしいのは、単なる技術じゃないにゃ。自分の力を理解して、その使い方に責任を持つことにゃ。」
次郎が、そこで初めて口を開いた。
「ほぉ。なかなか、よく考えておるようじゃな。」
黒歌は次郎に向き直った。
「次郎、お願いするにゃ。」
次郎は、ギャスパーへと視線を戻した。
「ふむ。わしに任せておくれ。」
そして、穏やかな笑みを浮かべた。
「ギャスパー。お前さんの力を、無理に怖くないものに変える必要はないんじゃ。」
「・・・え?」
「怖いものは怖い。それでええ。じゃが、怖いからといって、いつまでも逃げていては、何も変わらん。」
次郎は、ゆっくりと自分の手を開いた。
「まずは、自分で止める。自分で解除する。そこから始めればええんじゃ。」
ギャスパーは、次郎の言葉を聞いていた。
恐怖を完全になくさなければ、能力を使ってはいけない。
自分は、そう思い込んでいたのかもしれない。
けれど、そうではないのだ。
怖さが残っていても、自分で考えて、必要な時に力を使うことはできる。
「・・・分かりました。」
ギャスパーは、まだ震えながらも顔を上げた。
「次郎さん。よろしくお願いします!」
次郎は満足そうに頷いた。
「うむ。では、10日間、じっくりやっていこうかのう。」
こうして・・・。
ギャスパーとノッキングマスター次郎による、10日間の特訓が始まった。
1日目
最初の訓練は、極めて単純だった。
停止能力を、1秒だけ使う。
「い、1秒・・・ですか?」
「そうじゃ。」
次郎はのんびりと言った。
「長く止めなくていいぞぃ。まずは、自分で始めて、自分で終わらせるんじゃ。」
ギャスパーは震えながら能力を発動する。
一瞬、相手の動きが止まった。
「・・・!」
そして、1秒後。
自分の意思で解除する。
「で、できた・・・!」
「よしよし。」
次郎は満足そうに頷いた。
「それでいいんじゃ。」
「でも・・・、1秒だけです。」
「1秒じゃから何じゃ?」
次郎は笑う。
「必要な時間が1秒なら、それで十分じゃ。」
ギャスパーは、その言葉を覚えた。
2日目
次郎は、ギャスパーに戦うことを禁止した。
代わりに、相手を観察させる。
「動きを止める前に、まず相手を見るんじゃ。」
「見る・・・、ですか?」
「そうじゃ。」
敵の肩や足、腰や視線。
そして、重心。
次郎は攻撃する直前に身体のどこが動くのかを、ひとつずつギャスパーに確認させた。
「動く前には、何かしらの兆候があるんじゃ。」
「兆候・・・ですか?」
「小さな動きじゃ。肩が動く。足が沈む。視線が変わる。」
次郎は笑う。
「それが見つかれば、怖がってから止める必要はないんじゃ。」
ギャスパーは初めて気づいた。
自分は、能力そのものを恐れていた。
だからこそ、相手を見ることを忘れていたのだ。
3日目
3日目は、攻撃が届く直前に停止する。
早すぎても駄目、遅すぎても駄目。
「い、今です!」
ギャスパーが能力を発動する。
迫っていた攻撃が止まる。
次郎は頷いた。
「そうじゃ。」
「・・・できました。」
「力というものは、早く使えばいい、というものではないんじゃ。」
次郎は穏やかに言う。
「必要な時に使うこと。それが大事なんじゃ。」
ギャスパーは、小さく頷いた。
4日目
訓練相手が変わった。
敵の1人が、アーシアへ向かって走っていく。
「アーシアさん!」
ギャスパーは怯えた。
怖い
能力を使うのも怖い。
けれど・・・。。
「・・・守らなきゃ!」
能力を発動する。
敵の動きが止まり、アーシアは無事だった。
「怖い・・・、です。」
ギャスパーは震えながら、それでも敵から目を逸らさなかった。
「でも・・・、使えた・・・!」
次郎は笑った。
「怖くなくなったわけではないようじゃな。」
「・・・はい。」
「それでいいんじゃ。」
次郎は静かに続ける。
「怖くても使える。それが最初の1歩じゃ。」
5日目
今度は複数の敵が、同時に仲間へ襲いかかろうとしている。
「全部を止めなきゃ・・・!」
ギャスパーは焦る。
しかし、次郎は何も言わない。
ギャスパーは敵を見る。
1人、2人、3人。
その中で、アーシアを狙っている敵を見つけた。
「・・・この人を止める!」
能力を発動させ、敵の動きを止める。
その間に、他の仲間が対応する。
ギャスパーは気づいた。
「全部を止めなくても・・・、いいんだ。」
次郎は笑った。
「そうじゃ。」
「必要な相手を選ぶこと。それもノッキングの腕前のうちじゃ。」
6日目
次郎が指示したのは、停止した相手を解除することだった。
「止めたら・・・、そのままじゃないんですか?」
「それは違うんじゃ。」
次郎は首を振る。
「止めたなら、解除するところまで自分でやるんじゃ。」
ギャスパーは敵を停止させる。
そして・・・。
「解除。」
敵が再び動き出した。
ギャスパーは驚いた。
「使ったら終わり、じゃない・・・。」
次郎は頷く。
「そうじゃ。」
「自分で始めたなら、自分で終わらせるんじゃ.」
その言葉は、ギャスパーにとって大きな意味を持っていた。
7日目
停止、解除。
そして、再び停止。
2度の発動。
最初は成功した。
しかし2回目で、ギャスパーは慌ててしまう。
「う、うまくできない・・・!」
次郎は笑う。
「焦らなくていいんじゃ。」
「・・・!」
「1回目と2回目は同じではないんじゃ。」
「相手の位置も違う。仲間の位置も違う。」
「だから、その都度考えるといいんじゃ。」
ギャスパーは深呼吸した。
そして・・・。
停止、解除。
そして、再び停止。
「・・・できた!」
「その調子じゃ。」
8日目
今度はギャスパー自身が囮になり、敵の攻撃を自分へ引きつける。
「ぼ、僕が・・・?」
「そうじゃ。」
次郎は笑った。
「お前さんが動けば、相手も動くじゃろう?」
ギャスパーは恐怖を感じながらも、敵の前へ出た。
敵が迫る。
さらに迫る。
そして、攻撃が届く直前。
「今!」
能力を発動する。
敵が止まる。
その瞬間、後方にいた仲間たちが移動する。
陣形が変わった。
安全な場所ができる。
ギャスパーは、自分の能力が単に敵を止めるだけではないことを知った。
「仲間が動く時間も、作れるんだ・・・。」
「そうじゃ。」
次郎は笑った。
「力というものは、使い方次第でいろんなことができるんじゃ。」
9日目
次郎は、何も言わなかった。
敵が3人いる。
誰を止めるべきか。
ギャスパーは、自分で考える。
1人目は、仲間へ向かっている。
2人目は、別の仲間と交戦している。
3人目は、こちらを警戒している。
ギャスパーは震えながら、口を開いた。
《vib:1》「この人は・・・、止める。」
そして、別の敵を見る。
「こっちは・・・、みんなに任せる。」
次郎は黙って頷いた。
それ以上、何も言わない。
ギャスパーは気づいた。
次郎は答えを教えてくれているのではない。
自分で答えを選べるようにしているのだ。
10日目
最後の訓練。
複数の敵が、一斉に仲間たちへ迫っていた。
ギャスパーの身体が震える。
怖い。
やっぱり怖い。
能力を使うことも。
失敗することも。
間違った相手を止めることも。
それでも・・・。
ギャスパーは、仲間たちを見る。
アーシア。
一誠。
リアス。
朱乃。
木場。
そして、白音。
守りたい人たちがいる。
だから。
「怖いけど・・・!」
ギャスパーは前を向いた。
「僕は・・・、僕自身で決めます!」《vib:1》
能力を発動させ、必要な敵だけを止める。
仲間が動き、危険が去る。
そして・・・。
「解除!」
停止していた敵が動き出す。
ギャスパーは、自分の力を自分の意思で終わらせた。
静寂。
次郎は、ゆっくりと笑った。
「それでいいんじゃ。」
ギャスパーは息を切らしながら、次郎を見る。
「僕・・・。」
「なんじゃ?」
「怖い気持ちは、なくなりませんでした。」
「なくす必要は、なくていいんじゃ。」
次郎は穏やかに答えた。
「怖いからこそ、慎重になれる。」
「大切なのは・・・。」
次郎はギャスパーの肩を軽く叩いた。
「怖さに負けて何もしないことではない。」
「怖さがあっても、自分で決めることじゃ。」
ギャスパーは、その言葉を胸に刻んだ。
10日間の訓練を終えて。
ギャスパーは、恐怖そのものを消したわけではなかった。
停止能力が怖い。
強すぎる力を使うことが怖い。
間違えることも怖い。
けれど・・・。
以前のギャスパーは、怖いからこそ力から逃げようとしていた。
今は違う。
怖くても、必要なら使う。
使ったなら、自分で解除する。
誰を止めるのかも、自分で選ぶ。
そして、いつまでも止め続けるのではなく、必要な時に終わらせる。
次郎が教えたのは、単なるノッキングの技術ではなかった。
「力を使う責任」だった。
そしてそれは、黒歌が旅の中で何度も学んできたこととも繋がっている。
力は、持っているだけでは意味がない。
いつ使うのか。
誰を守るために使うのか。
そして、いつ手放すのか。
その答えを、誰かに決めてもらうのではない。
自分で選ぶ。
黒歌は少し離れた場所から、ギャスパーを見ていた。
「どうだったにゃ?」
「・・・怖かったです。」
「うん。」
「でも・・・、前より、自分の力を信じられる気がします。」
黒歌は笑った。
「それで十分にゃ。」
「力を怖がらないことが大切なんじゃないにゃ。」
ギャスパーは顔を上げる。
「怖くても、自分で使うかどうかを決められること。それが大事にゃ。」
「・・・はい!」
ギャスパーは、今度は逃げずに頷いた。
レーティングゲームで、彼は自分の力をどう使うのか。
その答えを、この10日間で見つけた。
決定的な瞬間に敵の動きを止め、仲間が動くための時間を作る。
危険な相手を選んで止める。
そして、必要がなくなれば自分で解除する。
それは、まさに「切り札」と呼ぶにふさわしい力だった。
だが・・・。
彼自身は、もうその力だけに怯えてはいなかった。
怖さを抱えたまま。
それでも、自分の意思で一歩を踏み出せる。
ノッキングマスター次郎との10日間は・・・。
彼に「力を恐れない方法」ではなく「恐れながらも、自分で力を選ぶ方法」を教えた10日間だった。
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次回「いざ特訓!リアス眷属! ⑥サイタマVS兵藤一誠、猗窩座VS兵藤一誠」
リアス眷属とライザー眷属とのレーティングゲームの結果
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リアス眷属の勝利
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ライザー眷属の勝利