第29章 兵藤一誠・・・サイタマとの10日間
特訓が始まる前・・・。
黒歌は、オカルト研究部の部室に集まった仲間たちを見渡していた。
リアス。
朱乃。
木場。
小猫。
ギャスパー。
アーシア。
一誠。
レイナーレ。
カラワーナ。
ミッテルト。
ドーナシーク。
部室には、11人の仲間に対応する幻影が待機している。
基本的には、それぞれが1人の特訓を担当する。
黒歌は、皆に向かって言った。
「基本は1人につき1人の幻影だけど、一誠だけは例外にゃ。一誠には、同じ幻影が2つの姿になって、それぞれ10日間ずつ特訓を行うにゃ。」
黒歌が、一誠を見る。
「俺だけ、ですか?」
一誠が首を傾げる。
「そうにゃ。」
黒歌は頷いた。
「一誠には、2つの課題があるにゃ。」
「2つ、ですか?」
「1つは、一撃を受けないための対処にゃ。」
黒歌が指を1本立てる。
「もう1つは、連撃への対処にゃ。」
一誠が黙る。
「だから、一誠には2人の幻影から、それぞれ10日間ずつ学んでもらうにゃ。」
「・・・つまり、俺だけ20日間ってことですね?」
「そういうことにゃ。」
一誠が周囲を見る。
「でも、みんなは10日間なんですよね?」
「だから、普通にやったら時間が足りないにゃ。」
黒歌はそう言うと、静かに目を閉じた。
そして・・・。
「そこで、トリコの世界で学んだ方法を使うにゃ。」
「トリコの世界?」
黒歌の身体から、淡い光が広がっていく。
部室の一角。
そこから空間そのものが、揺らぎ始めた。
「これは・・・、『裏のチャンネル』にゃ」
「裏の・・・、チャンネル?」
リアスが尋ねる。
黒歌は頷いた。
「簡単に言えば、表の世界とは別に重ねられた、もう1つの空間にゃ。」
「この空間でも、時間がちゃんと流れるから、生身で入って修行することができるにゃ。」
黒歌が手を伸ばす。
すると、部室を覆うように、薄い膜のような空間が広がっていく。
しかし、それは部室そのものを変化させているわけではない。
通常の空間。
そのすぐ外側に・・・、もう1つの空間が重なる。
「これが『表』にゃ。」
黒歌が、普段の部室を指す。
「そして、こっちが『裏』にゃ。」
淡い光の向こう側に、別の修行空間が現れる。
「表の世界にいるみんなには、いつも通り10日間が流れるにゃ」
「じゃあ・・・、」
木場が理解する。
「裏側にいる一誠君だけは、皆より多く特訓ができる、ということですね?」
「そうにゃ。」
黒歌は微笑んだ。
「正確には、表の時間を止めたり、世界全体の時間を変えたりするわけじゃないにゃ。」
「特訓する場所そのものを、表の世界から切り離すんですね・・・。」
木場が呟く。
「その通りにゃ。」
黒歌は頷いた。
「トリコの世界で学んだ『裏のチャンネル』で、周囲を覆うにゃ。そうすれば、一誠が追加で十日間の特訓をしても、みんなの邪魔をすることはないにゃ。」
一誠が目を輝かせる。
「ありがとうございます!黒歌さん!」
「どういたしまして。」
黒歌は笑う。
「ただし、楽になるわけじゃないにゃ。」
「それは、分かっています。」
一誠は拳を握った。
「俺は、みんなを守れるようになりたいんです。こんなことで、根をあげていられませんよ。」
黒歌は、その言葉を聞いて微笑んだ。
「なら、行くにゃ。」
こうして・・・。
一誠だけは、幻影による通常の10日間の特訓に加えて、裏のチャンネルでさらに10日間の修行を行うことになった。
合計・・・、20日間。
そして最初の10日間。
一誠の前に、1人の男が立っていた。
頭には1本の毛もない。
完全に禿げ上がった頭。
身体に密着したヒーロースーツ。
腰には黒いベルト。
肩には白いマント。
両手には赤い手袋、足には赤いブーツ。
一見すると、どこか力の抜けた、普通の男にしか見えない。
しかし・・・。
その場にいる者たちは、誰一人として目の前の男を「普通」とは思っていなかった。
男の名は、サイタマ。
『ワンパンマン』の世界から、黒歌の言霊によって呼び出された幻影だった。
「俺の相手が・・・、サイタマさん?」
兵藤一誠が、目の前の男を見つめる。
サイタマは頭を掻いた。
「そうだ。」
「・・・なんか、もっとこう・・・、凄い構えとかするのかと思ってました。」
「別に必要ないだろ。」
あまりにも淡々としていた。
それからサイタマは、軽く両足を開く。
「じゃあ始めるか。」
一誠も構える。
「はい!」
「お前に教えることは、1つだけだ。」
サイタマの目が、一瞬だけ鋭くなった。
「一撃を受けないこと、だ。」
「・・・一撃を?」
「そうだ。」
サイタマは肩を軽く回す。
「強い攻撃を受け止めるんじゃない。そもそも当たらなければいい。」
その言葉を最後に・・・。
サイタマの姿が消えた。
「っ!」
一誠が横へ跳ぶ。
次の瞬間。
ドンッ!
床が大きく震えた。
「うわぁっ!」
一誠は転がるようにして距離を取る。
サイタマは追撃しない。
「今のは避けられたな。」
「・・・はい!」
「じゃあ、もう一回。」
それだけだった。
1日目。
一誠はひたすら攻撃を避け続けた。
反撃は禁止。
拳を振るうことも、反撃のために踏み込むことも許されない。
ただ・・・、避ける。
それだけだった。
だが、それが一誠には難しかった。
強敵と戦えば、これまでの一誠は「攻撃されたら受け止める」「受け止めたら反撃する」という考え方に陥りやすかった。
だからこそ、サイタマは徹底的にそれを壊した。
「力で受け止めるんじゃない。」
「はい!」
「逃げてもいい。」
「はい!」《vib:1》
「当たらなければ、それでいい。」
2日目。
「拳を見るな。」
サイタマの拳が迫る。
一誠は目で追おうとする。
「遅い。」
拳が頬の横を通過した。
《vib:1》「ぐっ!」《vib:1》
「肩を見る。」
「肩、ですか?」《vib:1》
「肩が動けば、腕も動く。」
サイタマは淡々と続ける。
「腰や足、身体全体を見るんだ。」
一誠は少しずつ視野を広げていった。
拳そのものではなく、相手の全身を見る。
3日目。
「真正面に立つな。」
「でも、相手に向き合わないと・・・。」
「向き合うのと、真正面に立つのは違う。」
一誠は横へ移動する。
サイタマの拳が空を切った。
「そう、それでいい。」
一誠は気づく。
攻撃の威力が最も通る場所から、自分自身を外す。
それだけで、避ける難易度は大きく変わる。
4日目。
一誠は初めて、反撃を狙って踏み込んだ。
「今度こそ!」
サイタマへ向かって踏み込む。
しかし・・・。
「違う。」
「え?」
「まず、攻撃を誘え。」
一誠は止まる。
「誘う、ですか?」
「わざと隙を作るんだ。」
一誠は考える。
そして、あえて右側を開けた。
サイタマの視線が動く。
「そこか。」
踏み込み。
一誠は身体を捻る。
拳が空を切った。
「・・・避けられた!」
「そういうことだ。」
5日目。
一誠は「一撃を放った直後にも、相手には次の動作へ移るための時間がある」ことを意識するようになった。
攻撃そのものだけではない。
攻撃した直後の姿勢や、足の位置。
身体の向き、一瞬だけ生まれる隙。
6日目。
一誠は相手の攻撃を、自分だけのために避けなくなった。
サイタマの攻撃が、背後にいる仲間へ向かう。
「危ない!」
一誠は横から踏み込み、攻撃の軌道を逸らした。
サイタマが止まる。
「今のはいいな。」
「仲間に当たるところでしたから・・・。」
「だったら、そうするべきだ。」
7日目。
一誠は珍しく、恐怖を口にした。
「怖い・・・。」
サイタマが一誠を見る。
「何が?」
「一発でも食らったら、終わるかもしれないって・・・。」
サイタマは少し考えた。
「それなら、食らわないように動けばいい。」
「・・・。」
「怖いから動く。それでいいんじゃないか。」
一誠は顔を上げた。
8日目。
一誠は、自分だけが安全になればいいとは考えなくなった。
攻撃を避け、そのまま敵を仲間から遠ざける。
自分が盾になるのではなく、攻撃そのものの方向を変える。
9日目。
サイタマが言った。
「守るって、一人で全部背負うことじゃないぞ。」
一誠は黙って仲間を見る。
リアス。
朱乃。
木場。
小猫。
アーシア。
ギャスパー。
そして・・・、黒歌。
1人ではない。
仲間がいる。
だからこそ、自分がすべてを受け止める必要もない。
10日目。
最後の実戦。
サイタマが構える。
一誠も構えた。
「行くぞ。」
「はい!」
次の瞬間・・・。
サイタマの拳が迫る。
一誠は動いた。
真正面から外れる。
拳が頬の横を通り過ぎる。
一誠はそのまま懐へ入った。
「もらったぁぁぁ!」
拳を突き出す。
サイタマは、その直前で止まった。
「合格だ。」
「・・・!」
一誠は荒い息を吐きながら笑った。
「や、やった・・・!」
しかし、サイタマは続けた。
「でもな。」
「え?」
「今のは一撃だった。」
一誠の笑顔が止まる。
「もし、二発目が来たら?」
「・・・!」
「三発目は?」
「・・・。」
「四発目は?」
一誠は黙り込む。
サイタマは淡々と言った。
「一撃を避けるだけじゃ、まだ終わりじゃない。」
一誠は拳を握った。
「・・・連撃もやってくる。」
「そうだ。」
サイタマの姿が、光に包まれる。
黒歌の言霊が、次の幻影を形作っていく。
「一誠には、次の10日間が必要にゃ。」
黒歌が静かに告げる。
「一撃を避ける力だけじゃない。」
「連続して襲ってくる攻撃の流れを見抜く力が必要にゃ」
光が消える。
そこに立っていたのは・・・。
全身に青い模様を刻み、異様な闘気を放つ鬼。
一誠は目を見開いた。
「・・・誰だ?」
男は静かに構えた。
「俺の名は・・・、猗窩座。」
第2段階の特訓が、始まった。
第30章 兵藤一誠・・・猗窩座との10日間
一誠は、目の前の男を見つめた。
つい先ほどまで、そこにいたのはサイタマの幻影だった。
今は・・・、猗窩座の幻影。
「なんで・・・、猗窩座なんだ?」
猗窩座は答える。
「サイタマから何を学んだ?」
「一撃を受けないことを学びました。」
「ならば、次を学べ。」
猗窩座が構える。
「連撃を受けないことだ。」
一誠は拳を握った。
「連撃・・・、ですか。」
「ただ攻撃が多いという意味じゃない。」
猗窩座の目が、一誠を捉える。
「1つの攻撃から、次の攻撃へ繋がる流れ。その流れを断つことを学ぶんだ。」
1日目。
猗窩座の拳が連続して飛んでくる。
一誠は最初の一撃を避けた。
しかし・・・。
「っ!」
二撃目。
三撃目。
四撃目。
避けた直後、そこへ次の攻撃が来る。
「遅い!」
一誠は吹き飛ばされる。
「避けた後、同じ場所に戻るな。」
一誠は立ち上がる。
「はい!」
2日目。
後ろへ逃げるだけではない。
横や前、そして、斜めへ。
攻撃が来るたびに、移動する方向を変える。
「逃げるだけではない。」
猗窩座が言う。
「位置を変えろ。」
3日目。
一誠は気づいた。
連撃には、必ず「繋ぎ」がある。
拳から蹴りへ、蹴りから次の拳へ。
身体が次の動作へ移る、その一瞬。
「今だ!」《vib:1》
一誠が踏み込む。
猗窩座の攻撃の流れに入り込む。
「そこが繋ぎ目だ。」
一誠の目が見開かれた。
4日目。
猗窩座は、一誠ではなく仲間へ攻撃を向ける。
《vib:1》「しまった!」
一誠は咄嗟に受け止めようとする。
「違う!」
猗窩座の声が響く。
「受ける必要はない!」
一誠は動きを変えた。
攻撃の軌道へ入り、拳の方向を逸らし、そのまま自分も安全な位置へ移動する。
「・・・守れた。」
「そうだ。」
5日目。
3方向から連撃が来る。
一誠は焦らない。
「これは避ける!」
横へ。
「これは止める!」
腕で軌道を変える。
「これは・・・、」
一誠は仲間を見る。
「仲間に任せる!」
別の仲間が動いた。
攻撃が止まる。
「全部、自分でやらなくていいんだ。」
6日目。
猗窩座は、一誠へ言う。
「攻撃を続けることが強さではない。」
一誠が止まる。
「状況を見て、攻撃を止めることも強さだ。」
一誠は、自分が放とうとした攻撃を途中で止めた。
以前なら、そのまま突っ込んでいた。
今は違う。
「・・・引く!」
距離を取る。
攻撃を続けることよりも、状況を見て止まることを選ぶ。
7日目。
連撃を前に、一誠は焦った。
「全部止めなきゃ!」
「違う。」
猗窩座の声。
「流れが終わる瞬間を待て。」
一誠は耐える。
拳、蹴り、突進。
さらに追撃。
しかし・・・。
一瞬、連撃が途切れた。
「ここです!」
一誠が踏み込む。
8日目
仲間が攻撃を受けそうになる。
一誠は反射的に飛び出した。
しかし・・・。
別の仲間が敵を引き受けた。
一誠は足を止める。
「・・・俺1人で守らなくていいんですね。」
猗窩座は何も言わない。
ただ、一誠の変化を見ていた。
9日目。
猗窩座が問う。
「お前は何のために力を使う?」
一誠は迷わなかった。
「仲間を守るためです。」
猗窩座の幻影は拳を構える。
「守るために使う力だからこそ、強くなければならない。」
一誠は、その言葉を胸に刻んだ。
10日目
最後の実戦。
複数の敵が一斉に動く。
1つ目の攻撃。
一誠は避ける。
2つ目。
横へ移動。
3つ目。
さらに斜めへ。
4つ目。
一誠は攻撃を受け止めるのではなく、軌道を逸らす。
そして・・・。
敵の連撃が、次の攻撃へ繋がろうとした瞬間。
「ここだ!」
一誠が踏み込んだ。
連撃の流れが途切れる。
「今だ!」
一誠は仲間へ声を飛ばす。
仲間たちが一斉に動いた。
一誠は、1人ですべてを片付けない。
自分が作った隙を、仲間へ渡す。
そして最後に・・・。
「これが、俺の役目だ!」
必要な瞬間だけ、自分の力を叩き込む。
戦闘が終わった。
猗窩座は静かに一誠を見つめた。
「終わったな。」
一誠は荒い息を整える。
「この修行は、一撃を避けるためだけのものじゃなかったんですね。」
「ああ。」
「連撃の中にある流れを見る。」
一誠は自分の拳を見る。
「その流れを切る。」
そして仲間を見る。
「それから・・・、仲間に任せる。」
猗窩座は静かに頷いた。
「それでいい。」
その姿が、ゆっくりと光へ変わっていく。
「・・・猗窩座さん!」
一誠が呼び止める。
猗窩座は振り返る。
「ありがとうございました!」
ほんの一瞬。
猗窩座の表情が緩んだように見えた。
そして、光が消える。
そこに戻ってきたのは、黒歌の幻影だった。
「お疲れ様にゃ、一誠。」
黒歌が微笑む。
一誠はその場に座り込んだ。
「・・・めちゃくちゃ疲れました。」
「でも、ちゃんと変わったにゃ。」
黒歌は優しく言った。
11人の幻影。
その中で、1人だけが2つの姿を経験した。
サイタマから学んだのは・・・。
一撃を受けないこと。
攻撃を真正面から受け止めるのではなく、避ける。
位置を変える。
相手の身体全体を観察する。
攻撃を誘い、空振りさせる。
そして・・・、仲間を守るために攻撃の軌道を変える。
猗窩座から学んだのは・・・。
連撃の流れを断つこと。
ただすべてを避けるのではない。
攻撃から次の攻撃へ繋がる「流れ」を見る。
その繋ぎ目を見つける。
そこで動きを止める。
そして、自分だけで全てを背負わない。
仲間を信じ、作った隙を仲間へ渡す。
それは、単純な戦闘技術ではなかった。
力を持つ者が、どうやってその力を使うのか。
黒歌が異世界の強者たちから学んできたもの。
それと同じものを・・・。
今、一誠も学び始めていた。
そして・・・。
裏のチャンネルで過ごした20日間の特訓が、終わった。
敵の一撃を避ける。
連撃の流れを読む。
仲間を守る。
仲間に任せる。
そして、必要な瞬間にだけ、自分の力を使う。
20日間の特訓を終えたとき。
兵藤一誠は、以前とは違う戦い方を身につけていた。
レーティングゲームで、兵藤一誠が担う新しい役割。
それは、自分1人ですべてを背負って戦うことではない。
仲間と共に戦い、敵の攻撃の流れを断ち、勝機を仲間へ渡し、そして必要な瞬間に自らの力を叩き込むこと。
そのための20日間だった。
感想や、誤字脱字の報告などお待ちしています!
次回「いざ特訓!リアス眷属! ⑦リジェ・パロVSアーシア・アルジェント」
黒歌が色々な世界に行き、強者から姿と力を(言霊として)借りる展開を書こうと思います。どちらで見たいですか?
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前日譚
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倒れた後に、目覚めた小猫(白音)に話す