第31章 アーシア・・・リジェ・パロとの10日間
兵藤一誠とサイタマ、そして猗窩座による20日間の特訓が終わった。
オカルト研究部の部室には、特訓を終えた仲間たちが戻ってきている。
それぞれが、自分の中に生まれた変化を確かめていた。
一誠は、以前のように何もかも自分1人で受け止めようとはしなくなった。
攻撃を避ける。
敵の流れを見る。
そして、仲間へ繋ぐ。
その姿を見ながら、黒歌は小さく笑った。
「みんな、少しずつ変わってきたにゃ。」
そして・・・。
黒歌は、1人の少女へ視線を向ける。
「次は、アーシアの番にゃ。」
「私、ですか?」
アーシアが驚いたように自分を指差す。
「そうにゃ。」
黒歌が頷いた。
「アーシアにも、ちゃんと学んでもらうことがあるにゃ。」
「私に・・・、ですか?」
アーシアは少し不安そうに周囲を見る。
自分は戦士ではない。
剣を振るうわけでもない。
強力な攻撃魔法を撃つわけでもない。
自分にできることは・・・、治癒のみ。
だからこそ・・・。
「私は、皆さんのように戦えるのでしょうか?」
その言葉に、黒歌は首を横に振った。
「戦えるようになる必要はないにゃ。」
「え?」
「アーシアは、アーシアのやり方で戦えばいいにゃ。」
その瞬間、部屋の空気が変わった。
1人の幻影が、静かに歩み出る。
褐色の肌に薄黄色の短髪。
左目には、閉じられた瞼と、その上に刻まれた「X」の印。
白を基調とした衣装に身を包み、その身体からは冷たい威圧感が漂っている。
身長はおよそ182センチ。
そして・・・。
その手には、巨大な狙撃銃。
霊子から形作られた「ディアグラム」。
BLEACH世界の「見えざる帝国」の皇帝ユーハバッハの側近兼護衛として選ばれた精鋭「神赦親衛隊」を率いた男。
リジェ・バロ。
彼は巨大な「ディアグラム」を操り、「万物貫通(ジ・イクサクシス)」によって射線上のものを貫く狙撃手であり、完聖体「神の裁き」では、八枚の翼を持つ異形の姿へ変化する。
ただし・・・。
今のリジェは、完聖体ではない。
アーシアを鍛えるために必要な姿だけが、黒歌の言霊によって再現されている。
「リジェ・パロ・・・。」
一誠が呟く。
アーシアも目の前のリジェを見つめる。
そして、ふと疑問を口にした。
「黒歌さん・・・。」
「んにゃ?」
「どうして、私の特訓相手がリジェさんなんですか?」
その問いに、黒歌は微笑んだ。
「いい質問にゃ。」
黒歌はリジェを見る。
「リジェは、誰かを治すための力を持っているわけじゃないにゃ。」
「はい・・・。」
「むしろ逆にゃ。」
黒歌の声が少しだけ真剣になる。
「リジェは、遠くから相手を狙い、相手がどこにいるのか、どこへ動くのか、どこなら攻撃が届くのかを見極める狙撃手にゃ。」
アーシアが、はっとする。
「・・・つまり。」
「そうにゃ。」
黒歌は頷いた。
「アーシアが戦場で治癒役として動くなら、一番気をつけなければならないのは、『敵がどこにいるか』だけじゃないにゃ。」
「・・・私が、どこに立っているか。」
「その通りにゃ。」
黒歌はアーシアの肩に手を置く。
「アーシアの治癒は、とても大切な力にゃ。だからこそ、敵から見れば・・・」
黒歌は、少し間を置いてから続けた。
「『先に止めたい相手』になる可能性があるにゃ。」
アーシアの表情が変わる。
「・・・私が、狙われる。」
「そうにゃ。」
「でも・・・、私は、攻撃する力を持っていません。」
「だからこそにゃ。」
黒歌は静かに答えた。
「攻撃できないから狙われない、ということにはならないにゃ。」
その言葉に、一誠たちも黙って耳を傾ける。
「前線で戦う人たちが傷ついた時、アーシアが治せば、また戦えるようになる。」
「・・・はい。」
「なら、敵からすれば、アーシアを自由にさせておくほど不利になるにゃ。」
黒歌はリジェへ視線を向ける。
「だから、アーシアには『狙われる側』の視点を身につけてほしいにゃ。」
リジェは何も言わない。
ただ、静かにアーシアを見ている。
「リジェは、それを教えるのに向いているにゃ。」
「どうしてですか?」
「リジェは遠距離から相手を狙うにゃ。だからこそ、敵の視点で・・・」
黒歌は床を指差した。
「どこに立てば射線に入るのか。」
次に、部屋の奥を指差す。
「どこなら遮蔽物を使えるのか。」
そして、アーシアを見る。
「いつ動けば狙われにくいのか。」
黒歌は微笑んだ。
「それを、身をもって覚えられるにゃ。」
アーシアはリジェを見る。
「私が、リジェさんから学ぶのは、攻撃ではなく・・・」
「『攻撃される側の考え方』にゃ。」
黒歌が答えた。
「そして、それはアーシアにとって、とても大切な力になるにゃ。」
アーシアはしばらく考えた。
自分は、仲間を治すことばかり考えていた。
傷ついた人を見つければ、すぐに駆け寄る。
仲間が苦しんでいれば、すぐに治癒する。
けれど・・・。
そのために自分が敵の前へ飛び出してしまえば。
自分が倒れてしまえば、治癒することそのものができなくなる。
「・・・分かりました。」
アーシアはゆっくりと頷いた。
「私は、治癒することだけを考えるのではなく、自分がどうすれば生き残れるのかも考えなければならないんですね。」
「そうにゃ。」
黒歌は嬉しそうに笑った。
「リジェに教えてもらうのは、狙撃の技術そのものじゃないにゃ。」
「はい。」
「敵の射線を読むこと。」
「はい。」
「自分の立つ場所を選ぶこと。」
「はい。」
「そして・・・」
黒歌はアーシアの胸元を軽く指差す。
「必要な仲間へ、必要な瞬間に力を届けること、にゃ。」
アーシアの目に、少しずつ決意が宿っていく。
「・・・私にも、できるでしょうか?」
黒歌は迷いなく答えた。
「できるにゃ。」
そして・・・。
「アーシアなら、きっと。」
リジェが静かに一歩前へ出る。
「説明は終わったか?」
黒歌が振り返る。
「終わったにゃ。」
リジェはアーシアへ視線を向けた。
「僕が相手をしよう。」
その声は静かだった。
しかし、そこには迷いがない。
アーシアは少し緊張しながら頭を下げた。
「よろしくお願いします!」
リジェは淡々と告げる。
「君の役目は、誰かを倒すことではない。」
「はい。」
「倒れないことだ。」
アーシアが目を見開いた。
「・・・倒れない?」
黒歌が小さく頷く。
「そうにゃ。」
「アーシアの力は、誰かを傷つけるための力じゃないにゃ。」
「はい。」
「だからこそ、アーシア自身が傷つかず、必要な人へ力を届け続けることが大切にゃ。」
リジェがディアグラムを構える。
「治癒能力が優れているからといって、君自身が安全だとは限らない。」
銃口が向けられる。
「届く位置にいること。」
そして・・・。
「撃たれない位置にいること。」
「この2つを覚えろ。」
こうして、アーシアの10日間が始まった。
1日目・・・治す前に、生き残る
最初の日。
アーシアは負傷した仲間役の幻影を見つけた。
「回復します!」
走り出す。
その瞬間・・・。
リジェのディアグラムが向けられた。
アーシアの進路。
その一直線上。
「・・・!」
アーシアは慌てて止まった。
「どうして・・・!?」
リジェは冷静に答える。
「君が治癒役だから、狙われないと思ったのか?」
「・・・!」
「戦場では、役割そのものが狙われる理由になる。」
アーシアは息を呑んだ。
「治す前に、自分が倒れないこと。」
リジェは銃を下ろす。
「それが最初の条件だ。」
その日は、アーシアは一度も治癒を使わなかった。
しかし・・・。
それは失敗ではなかった。
自分が生き残らなければ、治癒もできない。
その当たり前の事実を、アーシアは初めて実感した。
2日目・・・一直線に走らない
負傷した仲間を見つけた。
「待っていてください!」
アーシアが走る。
しかし、リジェは待っていた。
銃口が動く。
「・・・!」
アーシアは横へ跳ぶ。
次の射線。
今度は斜め。
アーシアは進路を変える。
さらに遮蔽物の後ろへ。
リジェは静かに言った。
「目的地だけを見るな。」
「周りを見ます。」
「そうだ。」
「敵がどこにいるのか。どこから攻撃できるのか。そして、自分がどこを通れば安全なのか。」
アーシアは頷いた。
「治癒する相手へ、どう安全に近づくか・・・。」
「それも君の仕事だ。」
3日目・・・立つ場所を選ぶ
アーシアは仲間を治療した。
しかし・・・。
その場から動かなかった。
「アーシア。」
リジェの声。
「なぜそこにいる?」
「え?」
「治癒した後も、その場所にいる必要があるのか?」
アーシアは周囲を見た。
「・・・ありません。」
1歩下がり、横へ移動する。
さらに位置を変える。
「そうだ。」
リジェは頷く。
「治癒して終わりではない。」
「はい。」
「次に必要とされるまで、生き残れ。」
アーシアは、自分の立つ場所そのものが戦術になることを覚えた。
4日目・・・1人を治すために、全員を危険にしない
1人の仲間が傷ついた。
「助けなきゃ!」
アーシアが駆け出す。
だが、敵が近い。
「アーシア、待って!」
仲間の声。
アーシアは足を止めた。
「でも・・・!」
「今行けば、お前まで危ない!」
アーシアは迷う。
その時、別の仲間が敵の注意を引いた。
「・・・あそこなら。」
アーシアは回り込む。
そして、敵から直接狙われにくい場所へ移動した。
「治癒を・・・!」
光が仲間を包む。
「ありがとう!」
「よかった・・・!」
リジェは静かに言った。
「1人を助けることと、全員を危険に晒すことは違う。」
「はい・・・!」
アーシアは、その言葉を心に刻んだ。
5日目・・・誰を治すか
3人の仲間が同時に傷ついた。
「全員を治さなきゃ・・・!」
アーシアが焦る。
しかし、リジェは冷静だった。
「誰から治すんだ?」
「え・・・?」
「君の力は無限ではない。」
アーシアは仲間を見る。
前線で戦っている者や、まだ動ける者。
そして、今にも倒れそうな者。
「・・・まず、この人です。」
最も危険な仲間へ治癒を使う。
その後、前線へ回復を届ける。
「正しい。」
リジェが言った。
「治癒役とは、誰にでも同じように力を使う者ではない。」
「必要な人に・・・、必要な時に・・・。」
「そうだ。」
アーシアの中で、治癒という力の意味が変わり始めていた。
6日目・・・敵を見る
アーシアは、敵だけを見ることをやめた。
味方を見て、敵を見る。
そして、距離や敵の視線を見る。
敵が別の仲間へ意識を向けた瞬間・・・。
「今です!」
アーシアは移動する。
治癒。
そして、すぐに離れる。
「・・・できた。」
リジェは頷いた。
「敵そのものではなく、敵が何を見ているかを考え始めたな。」
「はい!」
アーシアは嬉しそうに答えた。
7日目・・・治癒するタイミングを選ぶ
負傷した仲間がいる。
しかし、アーシアはすぐに治癒しなかった。
リジェが問う。
「なぜ治さない?」
「今治すと、敵に私の位置を知られてしまいます。」
「ならば?」
「まず、みんなに少し下がってもらいます。」
仲間が動き、敵の視線が変わる。
その瞬間・・・。
アーシアが治癒を使った。
光が仲間を包む。
「・・・!」
「治すだけではない。」
リジェが言った。
「いつ治すか。それも力の一部だ。」
アーシアは頷いた。
8日目・・・守られるだけではない
アーシアが狙われる。
以前なら、仲間に助けを求めていた。
しかし今日は違った。
「こちらです!」
敵を仲間のいる方向へ誘導しない。
逆方向へ走る。
敵の視線を自分へ引きつけながら、味方から遠ざかる。
その隙に、仲間が別の敵を突破する。
アーシアは安全な位置へ移動した。
「私は・・・、私にできることをします。」
それは攻撃ではない。
敵を倒すことでもない。
戦線を崩さず、仲間が戦いやすい場所を作る。
それだけでも、戦いに貢献できる。
9日目・・・仲間を信じる
仲間の1人が倒れた。
「助けなきゃ!」
アーシアが走ろうとする。
しかし・・・。
別の仲間が前に出た。
「アーシア!」
「こっちは任せて!」
アーシアは止まった。
そして、自分が守るべき場所を見る。
「・・・お願いします!」
アーシアは別の負傷者へ治癒を届けた。
その結果、前線が立て直される。
リジェは静かに言った。
「仲間を信じることも、支える力の1つだ。」
アーシアは頷いた。
「はい・・・!」
10日目・・・届く場所へ
そして、最後の実戦。
複数の仲間が傷つく。
敵もアーシアを狙っている。
だが、アーシアは走らなかった。
敵の位置や、仲間の位置を見る。
射線に、遮蔽物がないか。
そして、安全な移動経路。
「・・・ここ。」
一歩、横へ。
そして、遮蔽物の後ろへ。
「治癒します!」
1人目を治した後、すぐに移動。
2人目を治した後、さらに位置を変える。
3人目。
「ありがとう、アーシア!」
「まだです!」
アーシアは周囲を見る。
「次は・・・、あの人です!」
しかし、敵が迫る。
アーシアは足を止めた。
以前なら、無理に向かっていた。
だが・・・。
「木場さん!」
「任せて!」《vib:1》
木場が敵の進路を塞ぐ。
その瞬間、アーシアが動いた。
「今です!」
治癒の光が仲間を包む。
傷が癒えていく。
戦線が立て直される。
そして、仲間たちが一斉に反撃へ移った。
戦いが終わった。
アーシアは荒い息を整えながら、リジェを見る。
「私・・・、少し変わりました。」
「そうだな。」
「私は、治すことしかできないと思っていました。」
リジェは首を横に振った。
「違う。」
アーシアは顔を上げる。
「君は、仲間が戦い続けるための条件を作れる。」
「・・・!」
「それは、十分に戦うということだ。」
アーシアの目が少し潤む。
「はい・・・!」
リジェは淡々と続けた。
「ただし、勘違いするな。」
「?」
「君が戦場で役に立つということは、君自身が危険に晒されていいという意味ではない。」
「・・・!」
「生き残れ。治せ。支えろ。そして必要なら、仲間に任せろ。」
それは、10日間を通してアーシアが学んできたことだった。
そこへ黒歌が歩いてくる。
「お疲れ様にゃ、アーシア。」
「黒歌さん・・・。」
「よく頑張ったにゃ。」
黒歌は微笑む。
「アーシアの力は、誰かを倒すための力じゃないにゃ。」
「はい。」
「だからこそ、アーシア自身が生き残って、必要な仲間へ必要な瞬間に届けられることが大切にゃ。」
アーシアは自分の手を見る。
この手は、誰かを傷つけるためのものではない。
誰かを立ち上がらせるためのもの。
そして・・・。
その力を届けるためには、自分自身も強くならなければならない。
「はい!」
アーシアは笑った。
「私、この力を大切にします!」
リジェは、その姿を静かに見つめていた。
そして、ほんの僅かに頷く。
「それでいい。」
その姿が、淡い光へと変わっていく。
「リジェさん!」
アーシアが呼びかける。
リジェは振り返った。
「ありがとうございました!」
「礼を言う必要はない。」
淡々とした声。
「覚えたことを、次の戦場で使え。」
それだけを残して、リジェの姿は消えていった。
11人の幻影による特訓。
その中でアーシアが手に入れたものは、新しい攻撃技ではなかった。
自分自身を守りながら、敵の射線を読み。
安全な位置を選び、必要な仲間へ、必要な瞬間に、必要なだけの力を届ける判断力。
それこそが・・・。
レーティングゲームにおける、アーシア・アルジェントの新しい役割だった。
癒やすだけではない。
仲間を支え、仲間を信じ、仲間が戦い続けられる場所を作る。
そして、自分自身も生き残る。
それが、アーシアの新しい戦い方だった。
感想や、誤字脱字の報告などお待ちしています!
次回「いざ特訓!リアス眷属! ⑧白面の者VSレイナーレ」
黒歌が色々な世界に行き、強者から姿と力を(言霊として)借りる展開を書こうと思います。どちらで見たいですか?
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前日譚
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倒れた後に、目覚めた小猫(白音)に話す