薄暗い裏路地。
幼い兵藤一誠は、壁際に追い詰められ、腰を抜かしていた。
彼の前にいるのは、人間の姿を捨て、禍々しい異形の姿を現した「はぐれ悪魔」の追手。
一誠の左腕に宿る、神をも屠る神滅具(ロンギヌス)『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の微かな胎動を察知し、それを強奪するために襲撃してきたのだ。
「ひっ、あ、悪魔・・・!? 嫌だ、来ないでくれ!」
「ヒャーハハハ! 泣け、喚け、人間のガキめ。その魂ごと、お前の身体の奥にある『面白いオモチャ』を毟り取ってやるわ!」
鋭い爪が、幼い一誠の胸を引き裂こうと振り下ろされる。
あまりの恐怖に、一誠はただ目を瞑ることしかできなかった。
その時だった。
「そこまでにゃ。」
路地の闇から、軽やかな少女の声が響いた。
その声の主は、ユーハバッハから教わった「未来予知」によって一誠の危機を知った、黒歌が飛ばした幻術(4人目)だった。
「おいおい、また別の迷い悪魔かよ。鬱陶しい、お前もまとめてバラバラに――」
「『一撃で、戦いは終わる』」
黒歌がそう呟いた瞬間、彼女を包んでいた漆黒の妖気が跡形もなく霧散した。
そして、現れたのは、黄色いスーツに赤いマント、そして完全に禿げ上がった頭を持つ、あまりにも冴えない一人の男の姿――どんな敵も一撃で粉砕する最強のヒーロー、サイタマだった。
「おい、そこの不細工。子供をいじめてんじゃねえよ。」
サイタマとなった黒歌の口から、やる気のなさそうな、しかし絶対的な強固さを持つ声が漏れる。
はぐれ悪魔が本能的な恐怖で後退りする暇すらなく、サイタマは一瞬で間合いを詰めた。
構えなどない。ただ、拳を真っ直ぐに突き出す。
「『普通のパンチ』」
ドゴォォォン!!
それは魔力でも妖力でもない。ただ純粋な拳の力だった。
次の瞬間、拳圧だけで追手は遥か彼方へ吹き飛ばされた。
路地裏の壁には巨大な亀裂が走り、追手は戦意を完全に失って逃げ去っていった。
背後の頑丈なコンクリート壁には、一直線に巨大なトンネルのような風穴が穿たれている。サイタマの姿が消え、元の黒歌へと戻る。
黒歌は呆然と座り込む一誠を見下ろし、にやりと笑って鼻を指で擦った。
「大丈夫にゃ? 男なら、いつか大好きな人を守れるくらい強くなるんだにゃ」
「あ・・・、あ・・・。」
一誠が言葉を失っている間に、黒歌の幻影は夜風に溶けるように消え去った。
未来。
一誠がリアスの眷属(ポーン)となり、どれほど圧倒的な敵に直面しても、泥を啜りながら、「最強になり、仲間や大切な人を守るために強くなること」を目指して立ち上がるその不屈の魂の根底には、あの日に見た、圧倒的な力で戦いを終わらせた男の背中と、黒猫の少女の言葉が、消えない炎として燃え盛っているのだった。
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次回「万物を貫く神の光、異端として追われし聖女を助ける」
黒歌が色々な世界に行き、強者から姿と力を(言霊として)借りる展開を書こうと思います。どちらで見たいですか?
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前日譚
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倒れた後に、目覚めた小猫(白音)に話す