雨の降る異国の荒野。
幼いアーシア・アルジェントは、泥に塗れながら必死に走っていた。
あらゆる傷や病を癒やす力を持つ神器『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』を持つ彼女は、悪魔すらも癒してしまったがために、教会から「異端」の刻印を押され、狂信的な教会の追手たちに命を狙われていた。
「はぁ、はぁ、神様・・・。なぜ、私はただ、傷ついた人を助けたかっただけなのに・・・!」
「見つけたぞ! 異端の魔女め! 神の奇跡を汚した大罪、その命で償え!」
行く手を阻むように、光の剣を構えた追手たちがアーシアを包囲する。
逃げる力すら残っていないアーシアは、冷たい雨の地面に膝をつき、祈るように胸の前で手を組んだ。
その時だった!
「そこまでにゃ。」
路地の闇から、軽やかな少女の声が響いた。
その声の主は、ユーハバッハから教わった「未来予知」によってアーシアの危機を知った、黒歌が飛ばした幻術(5人目)だった。
「はぐれ悪魔の分際で教会の執行に口を出すか! 邪悪な存在め、まとめて浄化してやる!」
光の剣が一斉に黒歌へ向けられる。
しかし、黒歌は悲しげに、そして凛とした瞳で言霊を唱えた。
「『この銃口は全てを貫く』」
瞬間、世界から色が失われた。
雨も、大地も、空も、すべてが白と黒の境界へと変わっていく。
そして――黒歌を包んでいた妖気が、神聖な光へと変わった。
現れたのは、白い奇妙な衣装を纏い、巨大な狙撃銃を携えた滅却師の最高位――万物貫通の権能を持つ神の使い、リジェ・パロの姿だった。
「神の名を騙り、無辜の少女を傷つける者に、神の裁きを語る資格などない。」
リジェ・パロの姿となった黒歌が、静かに狙撃銃の銃口を追手たちに向ける。
「『万物貫通(ジ・イクサクシス)』」
トリガーが引かれた。
だが、弾丸は放たれない。
次の瞬間、追手たちの手にあった武器も、防具も、魔術の障壁も、まるで最初から存在しなかったかのように貫かれ、砕け散った。
追手たちは、自分たちが完全に無力化されたことを理解する暇もなく、その場に崩れ落ちた。
最後の一人だけは恐怖に駆られ、武器を捨てて逃げ去っていった。
リジェ・パロの姿が消え、元の黒歌へと戻る。
黒歌は震えるアーシアの手を優しく握り、温かい仙術の力で彼女の体温を戻した。
「君の優しさは間違ってないにゃ。いつか君のその優しい手を、本当に必要としてくれる仲間に出会えるにゃ。」
「あなたは・・・、天使、様・・・?」
アーシアが涙を流して見上げる中、黒歌の幻術は優しく微笑みながら消滅した。
未来。
アーシアがリアスの眷属(ビショップ)となり、仲間たちの傷を癒すために命を懸けて祈る時。
彼女の心の奥底には、あの雨の日に自分を全肯定し、万物を貫く光で救ってくれた黒猫の少女の温もりが、聖なる盾として宿り続けるのだった。
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次回「すべての刀を打った男、聖剣の扱いに苦悩する少女を助ける」
黒歌が色々な世界に行き、強者から姿と力を(言霊として)借りる展開を書こうと思います。どちらで見たいですか?
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前日譚
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倒れた後に、目覚めた小猫(白音)に話す