思ってたんと違う……   作:匿名

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よくある男オリ主のブルアカ二次創作です。


第一話

 

 

 

 

 

 「────」

 

 聞き心地の良い小鳥の囀りを耳に入れながらゆっくりと瞼を開ける。視力が著しく低いボクの目でもハッキリと分かる無地の天井が、今日も何一つ変わらない日常の訪れを告げてくれている。

 透明無垢な白色のカーテンから覗かせる晨光が、素晴らしい一日の訪れを予言しているかのようだった。

 

 いまだ閉じかける瞼を左手で無理やり擦り付け、そばに掛けておいた丸み帯びたメガネを装着しゆっくりと上体を起こそうとして。

 右腕に奔る違和感(重み)と強烈な痺れに気づいて、スッと起き上がる動作を止めた。

 

 「───あぁ、そういうこと」

 

 その正体に気づいてくすりと笑う。

 昨夜はこんなことになってなかったはずなんだけどな。ボクが寝てから、わざわざ腕を引っ張り出したのだろうか。そんなことしなくても言ってくれれば幾らでも貸してあげたのに……

 

 右腕に目を遣ると、一人の少女が腕を抱き込むようにして頭を預けていた。

 処女雪のように穢れを知らない白の髪房、あどけなさしか残らない愛らしい寝顔、陽だまりの中にいるような安心感と仄かな匂い。

 この姿を見れば、巷では【最強】の称号を欲しいままにしている少女とはとても思えないだろう。

 

 試しに頬を突いてみる。おぉ、面白いぐらいに沈み込む。極上のクッションだ。癖になりそう。

 その後何度か突いてみるも、彼女は身じろぐだけで目を覚ます気配はない。信頼しきってくれていることに喜ぶべきか、些か無防備すぎると指摘すべきか悩むところだ。

 

 だけど、朝は朝。このままのんびりと彼女の寝顔を眺めるのもいいけれど、このままだと二人平等に遅刻することが確定してしまう。

 

 頬をむにむにと弄ぶのをやめ、右腕にのし掛かる頭を優しく下ろし、傍に垂れたカーテンを一気に開けた。

 

 「ヒナちゃん!起きて!朝だよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 ボクにとって彼女──空崎ヒナという少女は、言うならば唯一無二の幼馴染であり、初恋の相手であり、そして何より大切な恋人である。

 

 出会いは物心つく前から。家が隣同士で、同年代ということもあって、赤ん坊の頃からよく一緒に遊んでいたそうだ。よく覚えてないけど。

 

 それから幼稚園、小学校、中学校、高校と、人生の大半を彼女と共に歩んできた。

 その最中で芽生えた恋心。きっかけ?そりゃこんなカワイイ幼馴染がいて恋しないとかあり得んだろ。

 

 そして、先日───

 

 

 『ずっと……ずっとあなたのことが好きでしたッ!!ボクと付き合ってくださいッ!!』

 

 

 高校三年生にしてようやく想いを告げることができ、何十年に渡る恋が実を結んだのだ。

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………おはよ、レン」

 「うん、おはよう!」

 

 なんやかんや十分ほど経って、ようやく重い腰を上げて布団から脱出できたようだ。

 瞼が完全に開けきれていないのか、ごしごしと瞼を擦りながら朝食の席に着く。

 

 「今日はピザパンを作ってみたよ。ちょうど材料も余ってたしね」

 「……いつもありがと」

 「うん!」

 

 朝はボクの方が早く起きるので、ヒナちゃんの部屋に泊めさせてもらった日はいつも朝食を作っている。

 いや〜、出来れば毎日泊まっていきたいんだけど、言っちゃえばボクらまだまだ未成年の子供だし、学生のうちはあんまり良くないらしいから……

 

 二人で『いただきます』と唱え、出来立てほやほやのピザパンに齧り付く。うん、我ながら美味い。ヒナちゃんも美味しそうにもきゅもきゅと食べている。

 なんか小動物を愛でてるみたい。見てるだけで癒されるって本当にあるんだ。ワンチャン論文に出せるかもね。『表題 空崎ヒナが発する癒しの波動について』みたいな。

 

 「………?どうしたの?」

 「いやぁ、今日もカワイイなって思って」

 「…………………ばか」

 

 照れてるヒナちゃんもカワイイね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『次のニュースです。一週間前に発生した赤い空の出現とサンクトゥムタワーの崩壊をめぐり、連邦生徒会に説明責任を求める声が相次いでいます。また、あの赤い空について、専門家が新たな見解を示しており───』

 

 「うーむ、物騒な世の中になったものだ」

 

 穏やかな朝に似つかわしくない物騒なニュースが視界に映り込む。ヒナちゃんのフワフワモコモコな髪に優しくドライヤーを当てながら、そんな感想がぽろりと漏れ出た。そっと寄りかかってきた小さな背中の重みが信頼の証のように思えて、胸焼けするぐらい嬉しかった。

 あっ、ちなみに如何にも他人事のように語っているが、あの赤い空に関してはがっつり現場にいたどころか、その原因を作った奴らの本拠地にも乗り込んだ当事者も当事者なんですよ、ボクら。

 あの日から一週間か……本当に、人生の中で最も疲れた日はいつかと尋ねたら、すぐにこの日を思い浮かべるくらいには大変な日だった。

 

 シャーレが占拠されたかと思えばいきなり空が真っ赤になって。緊急招集がかかったかと思えば、『このままだと世界滅ぶわ』(訳)と冗談抜きで心臓に悪い予言を聞かされ。アビドス砂漠から掘り出された宇宙船を使って敵の本拠地に殴り込んでは、別世界の砂狼さんと直接対決をして。なんやかんやあって親玉倒したらと思ったら、宇宙船が爆発。残る脱出ポッドはボクか先生のみで、なんやかんや先生を脱出させて。火だるまになりながら大気圏突入、なぜか生きてて。先生+その場にいた生徒(友達)みんなから説教されて。なんやかんやあってヒナちゃんに告白したりなんだり。

 

 え?最後でいきなり飛躍しすぎだって?色々あったんだよ、本当に。それは追々話すと思う。

 

 こんな感じで、ボクとしては最後の最後で全部チャラになるようなハッピーエンドを迎えられたと思っているが、どうやらヒナちゃんはそうではないらしく。

 

 「………レン、本当に今日から学校に行くの?」

 

 杞憂。配慮。不安。懸念。憂慮。危惧。

 ありとあらゆる心配を司った感情を、普段はポーカーフェイスしがちな彼女の顔に、今回ばかりはありありと浮かんでいた。

 連戦の連戦に次ぐ連戦、後に大気圏突入は流石に無傷とはいかなかった。とはいえ休暇をもらうほどの重症でもなかったが。……ぶっちゃけ奇跡を超えた奇跡だと思ってる。

 今回の休暇だって自分から申し出たわけではなくて、ヒナちゃんをはじめ周囲から勧められて(強制的に)取らされたんだが。

 心配しすぎとは思うものの、多分ヒナちゃんが怪我した時は同じようにしていたと思うから、あまり強く言い出せないのである。

 

 「うん!みんなのご厚意でもらった一週間の休暇で思う存分羽を伸ばしたし、もう元気ピンピンよ。無問題(モーマンタイ)!」

 「でも……」

 「それに、まだ風紀委員会のみんなには言ってないもんね?ヒナちゃんとお付き合いすることになったこと。風紀委員会(みんな)にはちゃんと言っておかないとなって思ってるんだ」

 「…………そう」

 

 必死に隠してるとこ悪いけど耳まで真っ赤ですぜ奥さん。だがここは指摘しないのが紳士たる者か。

 

 「はい、できた!鏡どーぞ!」

 「えぇ、ありがとう……ポニーテール?今日はいつもと違うのね」

 「たまには良いかなって。どう?」

 「……似合うかしら?」

 「それはもう」

 「ならいい」

 

 よかった、お気に召してくれたみたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うへぇ、制服に袖通すのも久しぶりだなぁ」

 

 一週間ぶりに見る漆黒のジャケットが妙に禍々しく見える。見慣れて着慣れた普段服の筈なのに。

 

 「着替えるのめんどくさい………着替えさせて───」

 「それは自分でやりなさい」

 

 めんどくさがりにも程があるだろ、この天使。流石に線引きしなきゃダメだ。

 

 さて、姿鏡で改めて確認しよう。

 ジャケットとブレザー───よし。

 『風紀』ロゴ入りの腕章───よし。

 ボクのアイデンティティ(メガネ)───よし。

 

 「……ちょっと違和感あるけどオールOK!準備万端!あっ、ヒナちゃんはボクのことなんか気にせずゆっくり着替えてくれて大丈───」

 「もう終わってるわ」

 「はやっ」

 

 おかしい……さっきまでふにゃふにゃシロモップだったのに、今の目つきはまるで鷹だ。いつの間にかお仕事モードに切り替わったみたい。どうりで早いわけだ。

 

 「……レン、ちょっと屈んで」

 「え?わわっ……」

 

 シュルリ。

 

 「ネクタイ、忘れてる」

 「あぁ……あははっ、ありがとう」

 

 一週間でこんなに忘れるものなの?正面から見たら一番目立つであろう物を忘れるとか、少し気が弛んでいるみたい。

 ヒナちゃんは何頭身も上にあるボクの首元に必死にネクタイを巻きつけてくれている。幼い頃から見惚れていた紫水晶(アメシスト)色の双眸もよく見える。

 ………それにしても、このシチュエーション。

 

 「まるで新婚の夫婦みたいだねぇ」

 「────…………〜〜〜〜!?!?あ、あなたって人は本当に……!」

 

 あぁ、うっかり口に出てしまったか。

 でも、顔真っ赤なヒナちゃんを見れるのは役得なので、たまにはうっかりするのも悪くない。

 

 「じゃあ行くとしますか〜………ん?」

 

 袖を引かれる。

 袖を引かれる思いという言葉があるが、比喩でもなんでもなく、ぎゅっと袖を引かれて前に進めない。

 

 「…………する?」

 「え?」

 

 下手人であるちっちゃな女の子は、その体躯に見合う声量で意思を示す。

 潤んだ瞳がボクの姿を映す。病的にまで染まった赤い頬、狂おしいほどに甘ったるい匂いが脳を揺らす。

 

 

 

 「“行ってきます”のハグ………する?」

 

 

 

 「──────────────アッ、ハイ」

 

 

 

 男という生き物は、生涯好きな子には敵わないという真理を分からされた朝でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やたら多くの視線を浴びながら職場に着いたボクたちは、真っ直ぐに執務室へと足を進ませる。

 その間にあるのは、やはり目、目、目。まるで監視カメラのように首を捻じ曲げながらボクらを───強いて言うならヒナちゃんに熱い眼差しを向けている。

 成程、ヒナちゃんのカリスマ性の一端を窺い知ることができる。何故なら彼女は古今無双、冠絶古今、空前絶後のゲヘナ風紀委員会委員長だ、憧れの的にならない筈がない。

 

 「おはようございます、委員長、副委員長!副委員長、もうお怪我の方はよろしいのですか?」

 「うん、まぁ元からたいした怪我じゃないからね。とりあえず今日からよろしく」

 「は、はい!」

 

 うーむ、元気な後輩を見るのは目と心の栄養剤だなぁ。

 ちなみに副委員長とはボクのことだ。一応役職的に組織の中でNo.2を任せられている。これ言うと行政官に怒られるからあくまで内心に留めているけど。

 とはいえ、副委員長はNo.2ってだけで委員長と比べればパッとしないよね。委員長に何かあれば話は違うけど、無類絶倫、超群抜類、天下無双のヒナちゃんに至っては有事なんて殆ど起こらないからねぇ。

 

 数多の挨拶に手を振りかえすこと十数回、ようやく執務室へと辿り着いた。

 ヒナちゃんはノックすることなく静かに扉を開け放つ。当然だ、だってこの部屋の長は彼女なのだから。

 扉を開け放つと三つの人影が見えた。

 成程、どうやら主要メンバーは既に揃い踏みだったわけか。

 

 「おはようございます、委員長。本日は───……あら?誰かと思えば、随分とお早い復帰ですね、レン。もう少し休んでいただいてもよかったのに」

 

 ※この言葉を安易に受け取ってはいけません。

 表面上は労わる姿勢を見せているけど、多分『もっと家に引き篭もっとけや、このクソお邪魔虫野郎が』をベールに包みまくって、かつ悪性の部分を排除して限りなく良性の部分だけを搾り出して出た言葉ってところだろうか。

 その証拠にほら、ボクを見る目に稲妻が奔ってる。

 

 とまぁ、朝からバチバチの敵対心を剥き出しにする彼女の名は天雨アコさん。ちょっと前に話した行政官の人で、昔からよく難癖をつけられて(一方的に)いがみ合ってきた仲だ。

 この人の特徴を挙げるとすれば……まぁ衣装が際どい。とにかく際どい。バカみたいに際どい。男であるボクにとっては目のやり場に困るよほんと。

 

 「副委員長!もう体の方は大丈夫なのか?私、ずっと心配で……」

 「あっ、うん。大丈夫だよ。モモトークでも話したけど、大きな怪我は特にないよ。心配してくれてありがとうね、銀鏡さん」

 「ッ、そ、そりゃあ副委員ちょ……レン先輩の一番弟子だし……心配するのは普通っていうか……」

 「ちょっと!?なに無視してるんですか!?」

 「ん?あぁ、おはよう、アコさん」

 「はい、おはようございます………じゃない!!一応曲がりなりにも心配してたんですよ!?」

 「ほんと?『しめしめ、このまま帰ってこなかったらNo.2の席は私だけのもの……』とか思ってたんじゃないの?」

 「私のことをなんだと思ってるんですか……まぁ、ほんの少し、ほんの少しだけ思いましたが

 

 思ってるじゃん。思っちゃってるじゃん。……って、今はアコさんじゃなくて後輩の紹介をしないと。

 アコさんとは違って下心なく純粋に心配してくれた優しい後輩の名は銀鏡イオリさん。先ほど名乗ってくれたように、一応ボクの弟子ってことになってる……らしい。ボクからしたら1on1で教えてた時間が長かっただけな気がするんだけど……

 

 

 「おはようございます、レン副委員長。お元気そうで安心しました」

 「うん、ありがと……?」

 「……?」

 「………メガネ変えた?」

 「っわ、分かりますか?」

 「そりゃあ数少ないメガ友*1のメガネだし……」

 

 

 ゲヘナ学園で数少ないメガネを着用する同類として勝手に親近感が湧いている彼女の名は火宮チナツさん。うち(風紀委員会)の中でも一際真面目で常識人の優しい後輩だ。とてもあの()()()()の下で働いていたとは思えないぐらいの常識人でビックリ。うち(風紀委員会)にきてくれてありがとね……

 というか、そのメガネのブランド、ボクのと一緒のやつじゃん。色は違うけど形が一緒だからすぐに分かった。

 

 以上、「自由と混沌」とかいうイカれた校風を持つ学園、ゲヘナ学園の治安維持を任せられた治安維持部隊、ゲヘナ風紀委員会の主要メンバーの紹介でした。頼もしい人たちばかりで助かるわ〜。

 

 「それでさ……ずっと気になってたんだけど……」

 「え?なにが?」

 「その……」

 「委員長……距離近くありませんか?」

 

 ………あれ、ほんとだ。

 ヒナちゃんはボクの背中に隠れるようにじわじわと距離を詰めていた。どうりでヒナちゃんの匂いが強くなってわけだ。なんなら手も握っちゃってるし。

 

 「……みんなに話したいことがある」

 「話したいこと……ですか?」

 

 ヒナちゃんはアコさんの疑問に答えることなく、ボクの手を引っ張って、ヒナちゃんがいつも使ってる専用デスク前までやって来た。

 そうだね。時間もないし、パパッと報告しちゃうか。

 

 

 

 

 「実は………ボクら付き合うことになりました!これから二人で仲良く頑張っていくので、これからもよろしくお願いします!」

 

 

 

 『─────────────』

 

 

 

 

 沈黙。空気の死んだ世界で、アコさんが命より大事に持っている書類ファイルが落ちる音だけが木霊した。

 

 

 

 ……………………………なんか、思ってたんと違う。

 

 

 

 なんていうか、こう、お互い知ってる仲だし、拍手喝采とまではいかなくても、応援のメッセージやら祝福のメッセージとかあると思ってたんだよね。自惚れてたのかな?いや、そんなことない筈なんだけど……

 え、えぇ……?どうしよ、この空気。めっっっっっちゃ気まずいんですが……

 

 「大丈夫よ、レン。あなたには私が付いてるから」

 「え?あっ、うん?ごめん、それってどういう……?」

 

 ヒナちゃんは何も答えてくれなかった。

 ただ、握っていた手を途端に恋人つなぎへと変えた意図を、ボクは知る由もないのだろうと漠然と理解するだけだった。

 

*1
メガネ友達の略称




星灯(ほしあかり)レン】
ゲヘナ学園三年生、風紀委員会副委員長。思った倍斜めの反応に少し凹んでいる。今作のクソボケ。

【空崎ヒナ】
ゲヘナ学園三年生、風紀委員会委員長。幼馴染効果で今作のヒナはメンタル最強。ただしクソボケに何かあったらメンタルはすぐにブレイクする。
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