祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす。されど、ここ電脳の巷、あらん限りの絶叫と容赦なき身内への煽り合いを繰り広げる「FLOWGLOW」の二人の喧騒は、いまだ盛りにして衰える兆しなし。
時しも文月、夏の盛りなり。都の東、隅田の川辺にて、年に一度の大花火、夏祭りの催されけるに、いと騒がしくも賑わえる二人の姿ありけり。
一人は、これ「綺々羅々ヴィヴィ」と呼び做す、今を時めく巷の女子なり。その身に纏えるは、眩きばかりの薄紅の着物、白き帯には細き紐を飾り、裾を短く端折りて、引き締まりたる脚を晒したる、洗練された出で立ちなり。頭には、金髪の獣耳に似たる飾りを戴き、首には黒き布を巻き付けたり。その瞳、琥珀のごとく輝きて、表には「うーっす!」「それな!」と世俗の口語を放ちて歩みゆく。
もう一人は、これ「虎金妃笑虎」と名乗る、喧嘩上等、特攻隊長の猛き者なり。その身に纏えるは、純白の生地に、朱と深緑の太き縞模様をあしらいたる、武骨にして風変わりなる着物。黒き帯をきりりと締め、その頭には、燃えるがごとき赤髪、端には虎の耳を模したる飾りを乗せたり。さらに、右の眼には白き眼帯を当て、背には大いなる包丁のごとき刀を背負うたる、物々しき姿なり。
「ちょ、マジで人多すぎて無理なんだけどー! ヴィヴィの足、この高下駄でガチ限界だし! てかさー、笑虎先輩ちょっと歩くの早すぎ!」
ヴィヴィは、金髪を振り乱し、大勢の群衆に揉まれながら、半ベソ交じりの声を張り上げる。笑虎が背負った大刀の柄が、行き交う人々の肩にかすめるや否や、「そっち人いるから!マジで危ないって!」と鋭く叫び、左右へせわしなく頭を下げて回りぬ。
「あァ? 何が無理だ、気合入れろよヴィヴィ! こちとら、この眼帯のせいで距離感が完全にバグってんだよ! てか、あそこの射的、マジで美味そうな景品あんじゃん! おい、行くぞ!」
笑虎は、気怠げに眉をひそめながらも、猛然と露店へ突撃せり。懐の財布を引っ掴み、狙いを定めては引き金を引くも、コルクの弾は虚しく的の紙を掠めて落ちる。
「おい、店主! 今の絶対当たっただろ! あァ!? 落ちねえのはおかしいだろ!」
「ちょっと笑虎先輩、マジでやめなよ! 後ろ詰まってるし、ガチで恥ずかしいんだけどー!」
ヴィヴィの制止を鼻で笑い、笑虎はさらに小銭を台へと叩きつける。二発、三発と引き金を轟かせるも、景品は微動だにせず。笑虎の額に青筋が浮かび、弾を込める手元が激しく震える。
「チッ、もう一回だ! 当たるまで終わんねぇよ!」
「いや破産するって! てかその玩具の何が良いわけ!? 絶対いらないじゃんそれ!」
周囲の視線が集まる中、笑虎はついに財布の底をはたき、最後の一発を放つ。鈍き音と共に、いびつなプラスチックの玩具が一つ、床へと転がり落ちた。笑虎はそれを毟り取ると、「ガハハ!見たかコラァ!」と豪快にゲラゲラ笑い転げぬ。
二人は香ばしき醤油の香りが漂う境内へと歩みを進む。笑虎は手に入れた玩具のレバーを、無意味にカチカチと指先で鳴らし続けて歩く。
「ねぇねぇ、それより焼きとうもろこし! ヴィヴィ、マジで腹減って死にそうだし!」
「あァ? とうもろこしだと? そんなもん……って、おい、ヴィヴィ! どこ見て歩いてんだテメェ!」
露店へと視線を奪われたるヴィヴィの足元、高下駄が石畳の窪みに引っかかり、その身体が派手に傾く。笑虎は、朱色の袖を翻し、ヴィヴィの細き腕をガシッと力任せに掴み取る。されど、その勢いに引かれ、自らも「うおっと!」とよろめき、二人して不格好に縺れ合い、境内の隅の草むらへと滑稽なる茶番劇のごとく転がり込みぬ。
「わっ、あぶねー! 笑虎先輩サンきゅ!……ってか今のちょっとイケメンじゃん?惚れてまうやろー!(笑)」
ヴィヴィは草まみれになりながら爆笑し、笑虎の肩をパシパシと何度も激しく叩き散らす。
「うっせぇな、惚れてんじゃねぇよ(笑)。ほら、とうもろこしだろ。テメェが金出せよな!」
笑虎は鼻で笑い、ヴィヴィの背中を店主の前へと手荒く押し出す。二人は、少し離れた木の根元に腰掛け、とうもろこしを豪快にかじる。
「ん〜、タレが濃くて最高! マジでこれ限界突破だわ!」
「……まぁ、悪くはねぇな。ってか、おいヴィヴィ、口元タレついてんぞ。きったねぇな(笑)ほら、これ使え」
笑虎は、懐から白い手拭いを取り出し、ヴィヴィの顔面に向けて容赦なく放り投げる。
「もー、笑虎先輩、雑すぎなんだけどー! てかさー、普通はもうちょっと優しく渡すもんでしょ!」
投げつけられた手拭いで顔を覆い、ゴシゴシと口を拭きながら、ヴィヴィはまたゲラゲラと声を上げて笑う。その賑やかな笑い声は、祭りの雑踏の中へと溶けてゆく。
やがて、夜空に大きな地鳴りが響き渡る。
ドンッ!!!
大輪の花火が、漆黒の帳を切り裂き、鮮やかに咲き誇りたり。光の雨が、二人の上に降り注ぐ。金色の光が、ヴィヴィの金髪と薄紅の着物を、紫に、青に、刻一刻と染め上げてゆく。
笑虎は、地面に置いた大刀の横で、いまだにあの射切の玩具を指先でカチカチと不規則に鳴らし、夜空を仰ぐ。
「……綺麗じゃん」
笑虎もまた、眼帯の奥の左目を細め、火花の色を反射して、さらに激しく燃え盛るように見える赤き髪を揺らす。
「あァ。……たまには、こういうのも悪くねぇな。てかさ、来年はFGの奴ら全員で来て、屋台の食べ物全部奢らせようぜ(笑)」
笑虎は不敵にニカッと笑い、ヴィヴィは「それな!全員巻き込むし!」と応じて、互いにガハハと笑い合う。
その刹那、琥珀の瞳が夜空の万華鏡を映し出し、赤髪の狂犬がふと見せた悪戯な牙の輝き。夏の夜風が二人の浴衣の裾を優しく揺らし、露店から立ち上る無数の灯火がその横顔を彩る。互いの泥臭い絆が火花に爆ぜ、泥臭くも愛おしい一瞬一瞬が、この広い夜空に永遠の熱情を刻み込むのであった。
二人の魂一蓮托生にして離れず。
祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。されど、今宵、隅田の川辺にて、二人の少女が交わしたる記憶は、電脳の海の底にて、いついつまでも熱く鳴り響くのであった。これぞ、綺々羅々ヴィヴィと、虎金妃笑虎の、泡沫の、されど不滅なる、夏祭りの顛末なり。