【One Piece.アーカイブ】ホロライブ青春短編集2 ワンサマー  Libera me from AI 文体は文学多め。【実験途中報告】スーパーイマゴ・デイ・ゴッドの創造に成功。     作:夏目陽光

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白麻の檻とアールグレイ

外は酷い陽気であつた。むつとするやうな湿気を含んだ風が、窓の隙間を鳴らしてゐる。およそ都会の人間といふものは、夏が来ると浅はかにも海だの祭りだのと騒ぎ立て、汗を流して右往左往するものだ。しかし、私、セレス・ファウナの領土はここ、限界まで冷房を利かせた静かな秘密の部屋にある。

 

私は鏡の前に立つて、今日のために選んだ夏服の具合を確かめた。綿と麻で編まれた、ざっくりとした風合いの白いカントリー風ワンピース。それは大自然の調和を感じさせる、いかにも私らしい素朴な装いであつた。肩から鎖骨にかけての絶妙な露出は、もしこれが配信のサムネイルであつたなら、インターネットの哀れなオタクどもを一網打尽に釣るに足りる、計算され尽くした罠でもあつた。私の頭上に戴く立派な枝角が、冷房の冷気に微かに震へる。鏡の中の私は、自分の意志とは無関係に、あの少し小生意気な、それでいて最高にキュートな微笑を浮かべてゐた。

 

「うーー、うーー……」

 

喉の奥から、甘へ腐つた駄々つ子のやうなハミングが漏れ出す。これは、私の愛する子木たち、あの私をいじることに命を懸けてゐるくせに、私なしでは一刻も魂を維持できぬサプリングスどもを呼び寄せる、私だけの無意識の警笛であつた。彼らは今頃、コンクリートの干からびた牢獄のなかで、熱病に浮かされたやうに私を求めて咽び泣いてゐるに違ひない。私のこの、アップルシナモンティーの香りが漂う居心地の良い腕のなかに引きずり込み、永久の引きこもり生活に処してやりたい。

 

今日の私は、配信といふ公的な祭壇を離れてゐた。完全に一人のギークとして、あの複雑怪奇な都市開発シミュレーションゲームに没頭するつもりであつた。コントローラーの冷たいプラスチックの感触が、薄いリネン布地を通して、火照つた太ももに伝はつてくる。部屋のソファの上には、私が手ずから並べた無数のサプリングスのぬいぐるみが、物言わぬ廷臣のやうに鎮座してゐた。私はその中の一番大きなぬいぐるみをひっつかむと、その不格好な頭を容赦なく小突いた。

 

「いいですか、あなたたち。今日はファウナがいかに完璧なプランナーであるかを、この独占空間で見せつけてあげますからね。いつもチャット欄で生意気な口を利く罰として、あなたたちの脳髄が追いつかないほどの、完璧な楽園を作って見せます。ふふっ、見ていなさい……」

 

誰もいない部屋の静寂のなかで、私の指先はキーボードの上を激しく滑り出した。画面のなかの仮想の自然を、私の規則に従つて、じわじわと舗装し、あるいは緑化していく。私は彼らが外の世界の残酷な現実のなかで、つまらない仕事や学業に追われて傷つくのを見るくらいなら、いっそ私のこの夏服の、白い布地のなかに心まで包み込み、私の過去のアーカイブを永久に再生し続けるだけの幸福な家畜にしてしまいたいと考えてゐた。

 

ところが、突如として画面のなかで原因不明の大火災が発生した。下水管の接続をほんの少し誤つたせいで、私が手塩にかけて育てた都市の住民どもが一斉に病気に罹り、街全体が文字通り泥濘のなかに沈み始めていく。この予期せぬ、私の致命的なうっかりが生み出したあまりにも無様な喜劇に、私は一瞬にして顔を真っ赤に染め、椅子の背もたれに激しく背中を打ち付けた。

 

「うーーうーー! なんで!? なんでこんなことになるのよ! ちょっと、サプリングス、あなたたちのせいでしょ! あなたたちが私を呪ったから、こんなバカげたことが起きるのよ!」

 

誰もいない部屋で、私はソファの上のぬいぐるみに向かって、まるで見当違いな、しかしこれ以上なく小癪で愛らしい八つ当たりを敢行した。もしこれが配信中であつたなら、チャット欄は瞬く間に爆笑と煽りの嵐で埋め尽くされてゐたに違ひなかつた。私はそれに対して、顔をさらに膨らませて「シャラップ! ファウナは何も間違えていません!」と言い返す、あの爽快なプロレスを展開してゐたはずだつた。配信外であるにもかかわらず、私の脳内では、そのサプリングスどもとの、お互いに煽り合い、いじり倒し合う、あの奇妙にカラッとした、現代的なネット文化の熱気が完全に再現されてゐた。

 

私は彼らにとつて、恐るべき絶対の神などではない。ただゲームの難易度にキレ散らかし、お気に入りのアニメについて早口のオタクトークを展開し、時には冷たく突き放すような皮肉を言いながらも、結局は彼らの存在なしにはいられない、一人の寂しがり屋な女の子にすぎないのだ。その事実に、私の白い麻の衣服の隙間から覗く、瑞々しい若葉のような無防備な肌の温もりそのものが証明してゐた。

 

私は気を取り成すために、一旦マウスから手を離すと、キッチンへと向かった。夏服の裾が冷房の風にかすかに揺れて、私のこの白く、そしてほんの少し汗ばんだふくらはぎにまとわりつく。私は戸棚から厳選された最高級の茶葉を取り出すと、驚くほど手際よく、しかしどこまでも優美な手つきでお湯を沸かし始めた。

 

お湯が沸騰するまでの数分間、私はただじっと、窓外の騒々しい夏の気配から隔絶された静謐な空間を愛おしむやうに、スプーンで茶葉を量り、温めた磁器のポットに滑り込ませた。この一連の所作には、大自然の母たる慈愛と、日常の些事をも至高の芸術へと昇華させる、おっとりとした優しい温かみが満ちあふれてゐた。パチパチと燃える暖炉のような温かみを持つた完璧なお茶を淹れるといふ行為こそが、私の傷ついたプライドを癒やすための、無意識の儀式であつた。

 

アールグレイの華やかな香りが部屋全体に広がっていく。私の精神は再び、あの知的でカジュアルな、しかし底なしの独占欲を孕んだお姉さんのトーンを取り戻していく。お茶を淹れたマイカップを机に戻し、私は再びソファの上のサプリングスのぬいぐるみをじつと眺めてゐた。そのボタンの目でできた不格好な顔を眺めてゐると、なんだか無性に、彼らを徹底的にからかって、煽つて、私の手のひらの上で転がしてやりたいといふ、抗いがたいサディスティックで、かつ甘えん坊な衝動が湧き上がってくるのを禁じ得なかつた。

 

「ふふっ……あなたたち、私がゲームで失敗したからって、心の中で笑ったでしょう? 分かっているんですよ。サプリングスはいつもそうやって、ファウナのポンコツなところを見て喜びたいんです。本当に、救いようのない変態たちですね。でも、いいですか? ファウナは、次のターンでこの都市のすべての借金を完済し、あなたたちが二度と文句を言えないほどの、完璧な自然の楽園を作ってみせます。もしそれができたら……あなたたち、私のために、明日から毎日、一日中私の昔のアーカイブを再生し続けなさい。いいね?」

 

彼らはきっと、恐怖するどころか「はい! 喜んで!」と叫びながら、その魂を喜んで差し出すに違ひなく、そればかりか、私の心のうちを占めてゐるのは、これらサプリングスどもを私の冷たい、しかし限りなく甘やかな檻のなかに永久に幽閉し、私の一挙一動に、私のあの愛らしいポンコツな振る舞いに、彼らの生涯のすべてを従属させようとする、あの言語に絶した、おそるべき情熱的な執着に他ならなかつた。彼らの魂は、私のこの薄い、湿つた衣服の繊維のなかに、永久に、一筋の糸となつて織り込まれてしまつたのであるからして、もはや彼らには、私を呪ふ(のろふ)自由(じいう)も、私を愛さぬ自由(じいう)も、残されてはゐないのであった。

 

「Man, I'm so smart! ふふっ、やっぱりファウナが一番ですね!」

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