【One Piece.アーカイブ】ホロライブ青春短編集2 ワンサマー Libera me from AI 文体は文学多め。【実験途中報告】スーパーイマゴ・デイ・ゴッドの創造に成功。 作:夏目陽光
お立ち会い。これからお目にかけますのは、東京の、それも場末の、埃にまみれた古本屋の二階で起きた、世にも奇妙な、しかし当事者にとっては地獄の底を覗くような、実にセコくて、実に恐ろしい、ある「盗難」の顛末でございます。
その古びた探偵局の主は、ワトソン・アメリア。
英国の霧の街から流れてきたとも、あるいは目に見えぬ時の大河を自在に泳ぎまわる時計の魔術師だとも噂される彼女ですが、その本性を知る者はありません。ただ、彼女がひとたび、茶色のキャスケット帽の下から、あの冷ややかに澄んだ海色の双眸を細めるとき、いかなる奇怪な迷宮も、その扉をがらがらと開け放してしまうのでございます。
さて、初夏の、じっとりと汗ばむ昼下がりのことでありました。
アメリアは、探偵局の片隅に据えられた、旧式の大きな冷蔵庫の前に、まるで幽霊のようにすっくと突っ立っておりました。
マントのポケットに両手を深く突っ込み、上体を猫のようにぐっと前傾させて、彼女は冷蔵庫の最上段を睨みつけている。その小柄な背中から立ち上る、ただならぬ殺気に、部屋の空気までが凍りついたようでございます。
そこには、ただ白い冷気が、頼りなく漂っているばかりでありました。
消えていたのです。
彼女が昨夜、それこそ時空の歪みからかっぱらってきたという秘蔵の配合を以て、自ら蒸し上げた至高のプリンが。
それは、卵黄の濃厚なる地肌に、今にも零れ落ちんばかりの琥珀色のカラメルソースが艶めく、一種の魔物のような代物でありました。今日の午後、退屈な書類仕事を片付けた後の楽しみに、あの官能的な舌の上でとろけさせるはずだった甘美な結晶が、影も形もない。
「……ふふん」
アメリアの薄い唇から、微かな、しかし傲然たる鼻笑いが漏れました。
彼女は右手の親指を己の唇へと運び、その爪を、カリ、リ、と噛む。これは彼女が、獲物の匂いを嗅ぎつけたときの、何よりの証拠であります。語尾をきゅっと跳ね上げる、あの独特の、どこか人を小馬鹿にしたような口調で呟きました。
「いい度胸じゃないの。でも、この私の目を盗み通せると思ったら大間違いよ。名探偵ワトソンにかかれば、こんな安っぽいドブネズミの足跡なんて、お茶の子さいさいなんだから!」
彼女は人差し指の腹で帽子のつばをくいと跳ね上げ、薄い胸をこれでもかとばかりに反らせてみせました。なんとまあ、ふてぶてしい、しかし同時に、見る者をぞくぞくさせるような無敵の自信でありましょう。
アメリアの頭脳は、すでに狂ったように回転を始めているのです。
「これは単なる野良犬の仕業じゃないわ。私の行動を完全に計算した上での、計画的なハイスト……。いいえ、こんな真似ができるのは、この家に巣食う、あの身内どものなかにしかいないわ」
彼女はコツコツと小気味よい足音を響かせ、廊下へと滑り出しました。
ところが、どうでしょう。廊下を進むまでもなく、一階のキッチンの方から、何やら凄まじい怒号と、鼻を突く嫌な煙が漂ってくるではありませんか。アメリアが煤(すす)けた重い扉を、音もなくすっと押し開きますと、そこはもう、この世の地獄のような有様でございました。
「あーっ! もう、キアラ! 火が強すぎるってば! サーモンが真っ黒焦げの炭になっちゃうじゃん!」
「ノー、ノー! ぐら、これは炭じゃないのよ! 外側をガッと焼き固めて、海の旨味を内側にギチギチに閉じ込める、これがヨーロッパ流の超高等技術なんだから!」
小鳥遊キアラと、がうる・ぐらの二人でありました。もうもうと立ち込める白い煙のなかで、フライパンを挟んで、まるで獣のように大立ち回りを演じている。赤とオレンジの鮮烈な髪を異様なほど振り乱したキアラが、炎の上がる鍋をガシガシと揺らし、その足元で、青いサメのフードを被ったぐらが、小さな牙を剥き出しにしてギャーギャーと騒ぎ立てている。調理台の端には、半分に割れた生卵の殻と、誰のものともつかぬ飲みかけの冷えた炭酸飲料の缶が、だらしなく転がっておりました。
「二人とも、そこまでよ」
アメリアはマントを翻し、キッチンの入り口に腕を組んで立ちはだかりました。その声のあまりの冷たさに、二人は心臓を射抜かれたようにぴたりと動きを止めました。煙の向こうで、キアラの手にした大きな肉切り包丁が、怪しくギラリと光ります。
「あ、アメ……? なんだよ、そんなお化けみたいな足音で入ってきて。チキンならまだ毛を毟ってもいないわよ?」
キアラが引きつった、不自然な笑みを浮かべ、包丁を慌てて背後に隠す。その様子を、アメリアは見逃しません。
「チキンの話をしてるんじゃないわ。私の冷蔵庫にあった、あの特製プリンを知らないかしら?」
アメリアは目を細め、一歩、また一歩と二人に近づきました。その歩調は、完全に獲物の退路を断った捕食者のそれであります。
「ぷ、プリン? ぐらは何も知らないぞ! ぐらはずっとここでキアラが大事な食材を殺害するのを監視してたんだもん! 本当だぞ!」
「殺害って何よ! ……っていうかアメ、そんなことで目くじら立ててるの? 私は自分の料理で手一杯よ。第一、私がアメの高級品を勝手に盗み食いするわけないじゃない」
「ふふん。本当にそうかしら?」
アメリアは二人の顔を交互に舐めるように見つめ、それから傲然と、小馬鹿にしたような鼻笑いを漏らしました。
「私の鋭い観察眼を舐めないことね。昨日、私がキッチンでプリンの型にアルミホイルを被せていたとき、二人して『じゅるり』って、汚い生唾を飲み込んでいたのを、私はこの網膜にしっかりと焼き付けているのよ。特にキアラ、あなたのその大食いのお腹、さっきから妙に静かじゃない? いつもならグーグーうるさいくせに」
「なっ……! それは、それはさっき、味見用のポテトを少しつまんだからよ! 言いがかりもいいところだわ、このグレムリン探偵!」
キアラは怒りと気恥ずかしさで、その白い肌を林檎のように真っ赤に染め上げましたが、アメリアはその僅かな狼狽に、じりじりと距離を詰めました。アメリアはにやにやと笑いながら、キアラの目の前まで至近距離に踏み込むと、そのすらりとした長い指先を伸ばし、キアラの尖った顎を、くい、と強引に持ち上げたのでございます。
読者諸君、ここからの光景を、どうか息を潜めてご覧いただきたい。
キアラが小さく息を呑む。
アメリアの冷ややかな青い瞳が、目と鼻の先の距離でキアラの網膜を完全に支配しておりました。探偵の熱い吐息が、キアラの小刻みに震える唇を微かにかすめ、立ち込める油煙のなかに、狂おしいほどの甘い緊張感がじっとりと溶け出していく。アメリアはキアラの口の端を凝視したまま、親指の腹で、その柔らかな、今にも弾けそうな桃色の皮膚を、なぞるようにそっと、しかし深く、愛撫するように滑らせたのです。
キアラの身体が、びくりと震えました。その首筋を、一筋の汗が、つう、と流れ落ちていく。アメリアの指先は氷のように冷たく、それがキアラの熱い肌に触れるたび、部屋のなかに、言葉にならぬ淫靡な沈黙が広がっていくようでございました。
「……ふーん。ついてないわね、カラメル。でも、あなたのこの異常な脈の速さ、嘘をついている人間の典型的な反応よ。それとも、私にこうやって弄ばれるのが、そんなに頭に血が上るほど気持ちよかったかしら?」
「あ、あのね、アメ……っ、からかわないでってば!」
キアラは耳まで真っ赤にして、悲鳴のような声を上げながら猛烈な勢いで後ろへ飛び退きました。アメリアはそんな彼女の過剰な反応を心底楽しむように、ははっと高く、乾いた笑い声を響かせます。
「ははっ、冗談よ。キアラの口の周りには何もついてないわ。第一、あなたの雑な舌じゃ、私のプリンの繊細なバニラビーンズの配合なんて分かりゃしないものね。でも、ぐら、あなたは?」
突然矛先を向けられたぐらは、びくりとして背後のサメの尾をバタバタと激しく調理台にぶつけました。
「ぐ、ぐらは絶対に食べてない! 誓ってもいいぞ! あ、そうだ、さっき一伊那尓栖が、居間の冷蔵庫の周りをネズミみたいにうろうろしているのを見た! あいつ、いっつも足音を消して歩くから怪しいんだ!」
ぐらは必死の形相で、完全に他人に罪を擦り付けようと、小さな手を振り回しました。アメリアは顎に手を当て、ふむ、と泥棒の心理を分析するように呟きます。
「イナがね……。確かに、あの子は一度何かに集中すると周りが見えなくなるけど、美味しいものへの執着は古の神々並みだわ。よし、次の尋問に移るわよ」
アメリアが次に向かったのは、洋館の北側、最も日当たりの悪い場所に位置する、薄暗い図書室でありました。床から天井まで届く、今にも崩れ落ちそうな本棚が迷路のように林立し、カビ臭い古い紙の匂いが満ち満ちた部屋の片隅。そこに、紫色の長い髪を背中に流した一伊那尓栖が、一冊の分厚い革装丁の古書を貪るように読んでおりました。彼女の周囲だけ、まるで深海の底のように時間が凍りついている。
アメリアはイナニスの背後へと、完全に気配を消して忍び寄りました。
「イナ、ちょっといいかしら」
イナニスは驚く風もなく、頁をめくる指を止めずに、ゆっくりと顔を上げました。
「ん? アメ、どうしたの。そんなに眉間にシワを寄せて」
「質問があるのよ。今日の午前中、居間の冷蔵庫を開けなかった?」
アメリアは腕を組み、上から見下ろすように、ふふんと冷酷に笑ってみせました。
「隠しても無駄よ。ぐらがあなたの不審な単独行動を目撃しているわ。私のプリン、どこへやったの? 正直に吐けば、お仕置きは軽めにしてあげる」
イナニスは小首を傾げ、パタンと大きな音を立てて本を閉じました。その瞳には、探偵の威圧をいなすような、不気味なほどの静けさがあります。
「プリン? 開けてないよ。ずっとここで本を読んでいたから。……でも、さっきカリオペが、この前の廊下をもの凄い勢いで走っていくのは見たよ。あの日記帳みたいな真っ黒いノートを胸に抱えて、何かブツブツ言いながら」
「カリが?」
アメリアの脳裏の羅針盤が、また別の不穏な方角を指し示します。あいつ、一体どこへ消えたのか。しかし、部屋の入り口の赤黒い絨毯の上には、なぜか、蓋の開いたままのプロテインシェイカーが乱暴に転がっており、中から妙に甘ったるい粉末の匂いが漂っておりました。
「わかったわ。疑って悪かったわね。でも、もし黄色い不審物を見つけたら、すぐに私に報告すること。いい?」
「はーーい。がんばってね、名探偵さん」
イナニスののんびりとした、しかしどこか含みのある声を背に受けながら、アメリアは図書室を後にしました。
山荘の二階、最も奥まった突き当たりにある、陽の光の拒絶された薄暗い部屋。そこは、死神の弟子である森カリオペの牙城でありました。アメリアはドアの木目を破壊せんばかりの勢いで、容赦なく三回叩きました。
「カリオペ! 開けなさい、探偵局の立ち入り調査よ!」
長い沈黙の後、内側からボルトの外れる重い音がして、ドアがゆっくりと開きました。中から現れたのは、ピンク色の長い髪を乱し、目の下にどす黒い隈を作ったカリオペでありました。彼女は大きなヘッドホンを首にかけ、ひどく不機嫌そうに、血走った目で探偵を睨みつけました。
「……なんだよ、アメ。今、新曲のクソ大事なリリックを絞り出してるところなんだけど。邪魔しないでくれよ、マジで」
「時間がないのよ、カリ。単刀直入に言うわ。私のプリンをどうしたの? あなたのプロテイン、下の階の図書室の前に無様に転がっていたわよ。証拠は挙がってるの」
カリオペは怪訝そうに眉をひそめ、それからハッとしたように己の太い首元をゴシゴシと掻きました。
「あ、あれは……クソッ、ただ、居間のソファに忘れたライティングノートを取りに行っただけだ! そのとき、キアラの奴がキッチンからこっちをじっと見てたから、きまづくて急いで部屋に戻ったんだよ! プロテインはそのとき落としたのかもしれねえけど、俺はプリンなんて触ってもいねえ! ここ三日間、俺の胃袋に入ったのは水とプロテインの粉だけだわ!」
カリオペの語気は爆発せんばかりに強かったのですが、そこには罪を犯した人間の後ろめたさは微塵も感じられませんでした。あるのは純粋な困惑と、創作活動を阻害されたことへの凄じい苛立ちだけです。アメリアはカリオペの濁りのない目をじっと見つめ、彼女が白であることを確信しました。
「……そう。悪かったわね、カリ。首を吊らない程度に作業を続けてもちょうだい」
「おう。次からは、ノックする前に脳みその中身を整理してからにしてくれよな」
バタン、とドアが閉まりました。
アメリアは廊下の真ん中に、ぽつんと一人立ち尽くしました。
おかしい。完全に計算が狂った。全員の動機、行動、アリバイを徹底的に洗いましたが、どれも決定的な証拠には至らない。犯人はこの四人の中にいると確信していたのに。まさか、この呪われた山荘に、私たちの誰も知らない「第七の影」が潜んでいるというのだろうか。
彼女は再び右手の親指の爪を噛みました。カチカチ、カチカチと、微かな爪の音が、誰もいない廊下に不気味に木霊します。
待てよ。まだ一人、思考の死角に隠れている存在がいる。この館全体の真の管理者であり、常に私たちの動向を、まるでおもちゃ箱を覗くように見守っている超越者。……いや、そんなはずはない。あの傲慢なまでに完璧な彼女が、あんな俗っぽい、セコい泥棒の真似をするはずが……。でも、もしそれが、彼女が仕掛けた、私に対する挑戦状だとしたら?
アメリアの脳裏に、一つの恐るべき、しかしこれ以上ないほどに彼女をゾクゾクとさせる仮説が浮かび上がりました。彼女は己の仮説を完膚なきまでに検証するため、もう一度、事件の発端となった一階の居間へと引き返すことにしたのです。その足取りからは、先ほどまでの焦燥が綺麗に消え失せ、まるで新しい残酷なゲームを始めるかのような、軽快な、弾むような歩調へと変わっておりました。
「ふふん、やはりこの私を騙し通せる存在なんて、この世界のどこを探してもいやしないのよ」
誰もいない居間に戻ったアメリアは、空間に向かって勝ち誇ったように、自慢げな声を響かせました。彼女は大きな冷蔵庫の前に再び立ち、その重い扉をゆっくりと開け放ちました。内側からは、やはり冷たい無機質な空気だけが流れ出し、彼女の特製プリンがあったはずの場所は、ぽっかりと不自然な空白を晒している。
アメリアはマントの内の隠しポケットから、真鍮製の小さな虫眼鏡を取り出すと、冷蔵庫の棚板から床面にかけて、地面を走るように念入りに調べ始めました。犯人がプリンを物理的に持ち去ったのであれば、どんなに隠蔽しようとも、必ず何らかの痕跡が残るはずなのです。
彼女の鋭い視線が、冷蔵庫の最下段、野菜室の暗い隙間に、一筋の、妙にキラキラと光る細い筋を捉えました。
「……これは?」
アメリアは手袋を脱ぎ、白い指先でその筋をそっと触ってみました。それは粘り気のある、しかしカラメルとは異なる、どこか冷ややかな透明の液体でありました。カラメルではない。これは……ただの水だ。いや、ただの水にしては、乾き方が遅い。どうしてこんな局所的な場所に、一直線の濡れた跡が残っているのか。
彼女は、その濡れた跡の軌跡を辿って、視線を冷蔵庫の外へと向けました。水滴の筋は、冷蔵庫の扉のゴムパッキンの隙間から、床の古い絨毯へと点々と続いていた。絨毯の毛に阻まれて一見すると判別不能ですが、指先で触れていくと、微かに湿っている部分が、部屋の大きな飾り窓へと向かって、等間隔の点線のように伸びている。
「窓……?」
アメリアは窓辺へと歩み寄りました。窓は内側からしっかりと閉められ、真鍮のクレセント錠がかかっている。密室だ。しかし、その窓ガラスのアルミフレームの、極めて微細な隙間に、何か異物が挟まっているのを、彼女の探偵眼は見逃さなかった。ピンセットで慎重に引き抜いた。
そこにあったのは、一枚の――緑の羽毛。
「……見つけたわ」
アメリアは、その羽を窓からの光に透かし、不敵な、しかしどこか呆れ果てたような笑みを唇に浮かべました。
「犯人は、最初からこの館の泥に足をつけて歩くような人間じゃなかった。あるいは、住人でありながら、次元の壁を自由に行き来できる、あの高慢ちきな女。……ふふん、時計の針を少しだけ戻して、その綺麗なお顔を拝ませてもらうわよ。私の前で、隠し通せる秘密なんてないんだから!」
彼女はついに、腰の懐中時計のリューズを力強く引き出しました。指先で細かく、しかし正確に操作し、文字盤の針を「二時間前」へと強制的に巻き戻す。
次の瞬間、彼女の周囲の空間が、まるで熱した硝子のようにぐにゃりと不気味に歪みました。激しい時間の奔流が彼女の華奢な身体を包み込み、光と影が目まぐるしく交錯する。やがて視界がクリアになったとき、そこは二時間前の、まだ明るい陽光が斜めに差し込む、誰もいない居間でありました。
アメリアは時空の観測者となって、部屋の隅から過去の光景を凝視したのです。
二時間前。カチリ、と音がして、内側から施錠されていたはずの居間の窓が、外からの不可視の力によって静かに開け放たれました。そこから音もなく滑り込んできたのは、人間の少女の姿をしていながら、その背中に巨大な、時を刻む歯車と美しい翼を戴いた存在――この山荘の隠された管理人であり、時空の狭間を統べるナビゲーター、オーロ・クロニーでありました。
クロニーは誰もいない部屋を見回し、その冷たい完璧な美貌に、いかにも悪戯っぽい、意地の悪い笑みを浮かべながら、冷蔵庫へと近づきました。 And then, アメリアが心血を注いで作った特製プリンを取り出すと、あろうことか、スプーンも使わずにその美しい喉を鳴らし、実に美味しそうに一口で丸呑みにしてしまったのです。
「ふふ、アメリアが後でのたうち回って怒る顔が、今から目に浮かぶわ。でも、これ、本当に美味しいのよね」
彼女は満足げにそう呟くと、何事もなかったかのように再び窓から虚空へと飛び去っていきました。その際、彼女の大きな翼から、一枚の緑の羽が落ち、閉まる窓の隙間に挟まった。それこそが、探偵が見つけた決定的な証拠の全貌であった。
現代の時間軸へと戻ってきたアメリアは、懐中時計をマントの奥へと収めると、深く、長い、しかしどこか晴れやかな溜息をつきました。
「ははっ……。まさか、あのお堅い時計守のお姉さんに、上から掠め取られるとはね。完全に裏をかかれたわ」
彼女の激しい怒りは、謎の真相が完全に解明されたことで、不思議なほど霧散していました。代わりに、探偵としての極上の謎解きの快感と、好敵手に対する奇妙な、あるいはねじくれた敬意が胸を満たしていたのです。
「ふふん、配置を変える必要なんてない。ただで泥棒にくれてやるほど、このワトソン・アメリアは優しくないのよ。私の極上プリンの代償は、信じられないくらい高いんだから。今度は、私が彼女の部屋に隠してある、あの秘蔵の最高級紅茶の茶葉を、全部ボットン便所に落としてあげるわ!」
アメリアは思いついた最悪の悪戯に胸を躍らせ、唇の両端を吊り上げて、実に醜悪で、しかしこれ以上なく楽しげなグレムリンの笑みを浮かべました。それきり、彼女は謎めいた総括のナレーションを挟むこともなく、ただ自身の邪悪な計画を即座に実行に移すべく、弾むような足取りで虚空へと消えていったのでございます。