【One Piece.アーカイブ】ホロライブ青春短編集2 ワンサマー Libera me from AI 文体は文学多め。ジャンルごちゃ混ぜ闇鍋パーティー 作:夏目陽光
地鳴りのような地響きが、超満員のインセクト・バトル・コロシアム・ハイパードームを激しく揺さぶっていた。全日本最強昆虫マスター決定トーナメント、その正真正銘の全国決勝戦。観客席のあちこちで興奮した観客が叫び声をあげ、ドーム内の空気は熱気でジリジリと肌を焼くように加熱している。まともに息を吸い込むだけで喉の奥がカサカサに乾くような、尋常ではない息苦しさと興奮が空間全体を支配していた。
その熱狂のど真ん中に、ドタドタと全く締まりのない足音を派手に響かせながら突入してきたのが、我らが桃鈴ねねだ。
頭にはいつものチャイナお団子をちょこんと乗せているものの、今日の格好は完全に気合の入ったバトル仕様の、しかしどこか妙に抜けたコーディネートだった。オレンジ色のノースリーブパーカーに、動きやすさを重視したデニムサロペット。激しい予選をくぐり抜けてきたせいで泥にまみれた細い両膝には、お母さんに無理やり縫い付けてもらったみたいな星マークのアップリケが、今にも端っこからペラペラと剥がれそうな絶妙なダサさでくっついている。さらに顔面のど真ん中、ちんまりとした小鼻の頭には、真っ白な四角い絆創膏が斜めに思いっきりドカンと張り付けられていた。緊張が限界に達すると、無意識に人差し指でその絆創膏の端っこをキッと擦る癖がある。いまもその指先が小刻みに震えていて、自分の爪で絆創膏を剥がしかけながら、荒い息をフーフーと吐き出していた。
「うおーーーーー! 来てやったじゃん! 全国決勝! ねねがここまで来ちゃうなんて、まじで最初の頃は誰も思ってなかったでしょーーー!? 見たかねっ子ーーーーーっ! これがねねの本当の実力じゃい! えっへん!!」
入場するが早いか、ねねは全方位の観客席に向けて、短い両腕をちぎれんばかりにぶんぶんと振り回した。集まった大勢のファンである「ねっ子」たちに向けて、さっそく全開のクソガキマウントを炸裂させている。早口でまくしたてたかと思えば急に声のトーンがひっくり返る、あのいつもの情緒の激しい高低差そのままだ。
だが、対角線上に位置する対戦相手のゲートが、ギギギと重苦しい音を立てて開いた瞬間、ねねの威勢のいい表情は完全にバグった。
「……え、ちょっと待って。まじでなんなの? 意味がわからないんだけど。処理しきれない処理しきれない!」
そこにいたのは、もはや人間なのか昆虫なのかすら判別がつかない、ただただ異形としか言いようのない巨漢だった。上半身は完全に剥き出しの裸。異常なほどにボコボコと肥大化した大胸筋や広背筋が、まるで本物の甲虫的外骨格みたいに不自然な黒光りをテカテカと放っている。端的に言って、もの凄くキモい。大きな影を落とすその巨大な肉体は威圧感の塊だ。そして何より頭部だ。漆黒のアトラスオオカブトを模した、禍々しく鋭い三本の角がそびえ立つ鋼鉄のマスクを深く被っている。彼こそが、この裏昆虫界の暗黒深淵から這い上がってきた最強にして最凶の男、スーパーハイパーマスター佐藤。
佐藤の背中から放たれる、物理的な質量すら感じさせる圧倒的な威圧感と、ドーム中に充満するガチのプロテインと男の汗が混ざったような凄まじい臭いに、ねねは一瞬で足元をガクガクと震わせて腰を引いた。一瞬で涙目が極限まで加速する。
「おい佐藤ぉぉぉ!! なんでお前半分裸なんだよ!! 筋肉キモすぎじゃん!! 決勝戦の神聖なステージにそんな露出度高めの不審者出していいと思ってんの!? 怖い! まじで生理的に無理!! てかその胸筋どうなってんの!? 右と左で別々の生き物飼ってるの!? 動かないで! こっち見ないで!! 怖いから誰かまじで警察呼んでよ!! お巡りさんこいつです!! 早く捕まえてえええええ!!」
「フハハハハ! 桃鈴ねね! 昆虫バトルとは、肉体と肉体、殻と殻、そして男のプロテインがぶつかり合う聖域よ! 軟弱なアイドルごときが、この俺と、我が魂の飢えた猛獣アトラスオオカブトに勝てると思うな!」
佐藤がバキバキの腹筋を波打たせて吼えると同時に、そのゴツい手から巨大な怪物が放たれた。アトラスオオカブト。空力をねじ切るような金属質の羽音が、ブウウウウウウウオンと重低音を響かせる。世界最強のカブトムシの一角。光を完全に吸い込むほど深く重々しい漆黒の前胸背板。前方へと凶悪に突き出た三本の巨大な角は、まるで城門を力任せに打ち破るための鉄槌そのものだ。樹皮をズタズタに削り取るような鋭利なふ節の爪が、フィールドの地面をガリガリ、ガリガリと引っ掻いては土塊を激しく跳ね上げている。本物の虫が持つ、あの湿り気と容赦のない捕食者の気配がそこにあった。
「ひぎぃっ! 出たあああ! まじでデカいじゃん、なんなのあれ! カラスじゃん! もう鳥じゃん!! 虫のサイズ超えてるって!!」
ねねは恐怖のあまり涙目で鼻水を激しくズズッとすするが、ここで逃げるわけにはいかないのだ。
「でもね! ねねにはタラちゃんがいるもん!! いけーーーっ! タラちゃん! あのキモ筋肉露出狂をボコボコにしちゃえーーーっ!!」
ねねが腰の虫かごからべそをかきながら解き放ったのは、白く美しい光沢を放つタランドゥスツヤクワガタの『タラちゃん』だ。磨き上げられた高級な漆器のように艶めくボディ。大顎の内側に刻まれた細かく鋭い鋸状の歯が、獲物を確実に噛み砕くためにギリギリ、ギリギリと音を立てて蠢く。タラちゃんは前胸背板と腹部を激しく擦り合わせ、特有の震動音を発生させた。全身の筋肉を凄すまじい速度で震わせ、フィールドの空気をびりびりと共鳴させる。クワガタ特有の、あの静かながらも凶暴な戦闘態勢だ。
闘争のゴングがけたたましく鳴り響いた。
その瞬間、アトラスオオカブトが弾丸のような速度で飛び出した。ここから始まったのは、左右対称の綺麗な攻防などでは断じてない。あまりにも一方的で、あまりにも容赦のない、アトラスによるただの暴虐だった。昆虫の空中戦とは、華麗な飛行レースなどではない。肉壁と肉壁が超高速で激突し合う、文字通りの肉弾戦、あるいは圧殺の儀式だ。
アトラスは三本の角を突き立てて、上空から猛烈な急降下爆撃を何度も何度も仕掛ける。突進の風圧だけでフィールドの砂煙が激しく巻き上がり、タラちゃんはまともな反撃の糸口すら掴めず、ひたすら防戦一方でドームの底へと押しつぶされていく。バキ、バキ、と甲殻が軋む嫌な音が響く。アトラスの驚異的な反射神経と質量が、クワガタの背後を執拗に捉え、三本の角がまるで巨大な三叉槍のようにタランドゥスの背板を激しく叩きつける。一回、二回、三回。アトラスの容赦ない攻撃のターンがずっと続き、タラちゃんはただ耐えることしかできない。スタジアムの観客も、そのあまりの絶望的な実力差に息を呑み、応援の声すら忘れて静まり返っていく。
そして、アトラスの最も長くて太い頭角が、タランドゥスの頭部へと強烈にねじ込まれた。大顎の付け根を完璧に捉えられたタラちゃんは、激しい衝撃と共に空中ではじき飛ばされ、地面へと真っ逆さまに墜落した。
ドシャァッ、と鈍い音がして土煙が舞い上がり、タランドゥスは完全に仰向けにひっくり返ってしまった。ひっくり返ったタラちゃんの巨体は、それ自体が己を苦しめる絶望の檻だ。六本の脚を虚空に向けてジタバタ、ジタバタと必死に動かすが、ダメージが深すぎて起き上がることができない。そこへ、上空からアトラスオオカブトが、三本の角を下に向けて垂直に落下してくる。完全にトドメを刺すための、死の質量兵器だ。
「やだあああああああああああああ!!!!」
ねねは完全に頭を抱え、バトルフィールドの淵で鼻水と涙をボロボロと流しながら、大絶叫を上げた。
「佐藤の筋肉キモいよぉぉぉ!!!! なんでそんなに強いんだよバカァァァ! タラちゃんが死んじゃう無理ィィィィ!!!! 痛いのやだあぁぁ! ねっ子ぉぉぉぉぉ!!! 助けてええええええええええっっっっっ!!!!」
これっぽっちも格好良くない、情けなさ限界突破の叫び。ド根性覚醒なんて気の利いたものは一ミリもない。ただ怖くて、キモい筋肉男に負けそうで、子供のようにワンワンと泣き喚くことしかできなかった。
「フハハハ! 泣け、喚け! これが現実よ! お前の昆虫バトルはここで終わりだ!」
佐藤の冷酷な宣告と共に、アトラスの角が突き下ろされる。万事休す――その瞬間だった。
「ねねーーーッ!!! 諦めるなァァァァッ!!!」
「ねね! がんばれーーーっ!!!」
「お前が最強のアイドルだろ! 勝てぇぇぇぇ!!!」
ドームの観客席から、地鳴りのような声が湧き上がった。ここに集まった何万人ものねっ子たちの、魂の底からの叫び。オレンジ色のペンライトが、まるで見渡す限りの夕焼け空のようにドーム全体を埋め尽くし、激しく、激しく揺れる。
「う、うぅ……ぅええ……ひっく……」
ねねはグズグズに濡れた顔を上げ、涙をノースリーブの袖でゴシゴシと拭った。鼻水が絆創膏の端っこに滲んで、めちゃくちゃに汚い顔になっている。
「みんな……ねっ子のみんなが、ねねを呼んでる……。でも無理だよぉ、佐藤の筋肉まじで部屋までプロテインの臭いになりそうだし、昨日食べたお肉が少なかったからパワー出ないんだもーーーん!」
一瞬だけ本気で関係のない、ただの食い意地の張った愚痴をグズグズとこぼしながらも、その脳裏に、泥臭いセピア色の記憶がドロリと蘇ってきた。
最初からみんなに期待されて、華々しくデビューしたはずだったのだ。なのに、自分だけみんなより3Dの身体をもらうのが遅れてしまい、同期や仲間たちが眩しいステージの上でスポットライトを浴びてキラキラと輝いているのを、ねねだけただ指をくわえて画面の向こうから見ていることしかできなかった、あの悔しくてたまらなかった日々。画面の向こうの姿が涙で滲んで見えなくなるほど悔しくて、裏で「ううー!」って大泣きしながら、悔しさを紛らわせるために机の上のコーラをバカみたいにがぶ飲みした夜が何度も何度もあったのだ。ねねは天才じゃない。ポンコツだし、すぐ泣くし、弱虫だけど、でも、ずっと待っててくれたねっ子のために、ここで絶対に諦めることだけはしたくないんだという、ねねの泥臭い人間らしさが、胸の奥でドロドロと熱く、炎となって燃え上がった。
「うぅ……みんなが……ねっ子たちがそこまで言うなら……ねね、やるもんっ……! 負けないんだもーーーっっっん!!!!」
情緒が完全にジェットコースター状態のまま、ねねの瞳に本物のド根性の炎が灯った。
「タラちゃんッッッ!!! 起きてよぉぉぉぉぉ!!! ねねと一緒に、あの筋肉野郎を分からせるんだからァァァァッッッ!!!」
ねねの絶叫がフィールドに響き渡った瞬間、スタジアムの空気が一変した。
仰向けになっていたタランドゥスツヤクワガタの全身が、超高速の筋肉摩擦により、漆黒の外骨格が限界を超えた熱を帯びて赤みを放ち、そして次の瞬間、目を灼くような、圧倒的に眩い黄金色の光を放ったのだ。理屈じゃねえ! 生態系がどうした! 昆虫の常識がなんだ! 黄金の光が、そのすべてを力任せに消し飛ばした! タランドゥスは、その強靭な大顎を地面に力任せに叩きつける反動を利用し、バチンと音を立てて一瞬にして跳ね起き、アトラスの必殺の突きを角のわずか数ミリ横で神がかり的に回避した。
「何ぃっ!? 黄金に輝くだと!?」
佐藤が驚愕に目を見開く。その時だ。
観客席の最上段、完全に光の届かない暗がりにたたずむ一人の男が静かに口を開いた。顔の半分を覆う不気味な黒い包帯、探偵のような長いトレンチコート、首元に巻かれた異様に長いマフラー。謎の昆虫調教師、神代レイ。これまでねねの前に何度も立ち塞がり、精度を上げて敗れ去っていった、読者の誰も知らないはずの謎のライバルである。レイはフッと冷たい笑みを浮かべ、胸ポケットから取り出した謎のセンサー付きの虫眼鏡でフィールドの黄金の光を見つめた。
「……やはりな。あいつも成長したというわけか。ただの甘えん坊のクソガキアイドルだと思っていたが、あのタランドゥスに宿る光は、ねっ子たちの執念と、あいつが裏でがぶ飲みしてきたコーラの糖分が奇跡の化学反応を起こした大泥臭エネルギー。佐藤の計算され尽くしたプロテイン筋肉を上回る、野生のド根性がそこにある。フッ、桃鈴ねね……お前が本当の昆虫の王、インセクト・エンペラーになるのを、この俺が見届けてやるさ」
レイは誰に聞かせるでもなくそう呟くと、腕を組んで納得の表情で深く頷いた。
黄金の輝きを放つタラちゃんは、すでに通常の虫の領域を超えたパワーを滾らせていた。
「いくよ佐藤!! ねねとタラちゃんの、最強マックス底力、思い知れぇぇぇぇい!!!」
ねねは鼻水を垂らしたまま、ガキ大将みたいなポーズで佐藤をビシッと指差した。
「アトラスオオカブト! 最大出力だ! ギガント・トライデント・クラッシュッッッ!!!」
佐藤の狂ったような命令を受け、アトラスオオカブトが三本の角を完全に一体化させるかのような超高速回転を加えながら、ドームの空気を爆音で引き裂く突撃を敢行する。
「タラちゃん!! 噛み潰せぇぇぇ!! 『ハイパープレミアム・ねね大勝利・ギガ万力クラッシュ』だぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」
黄金に輝くタランドゥスツヤクワガタが、光の弾丸となってアトラスへと正面から突っ込んでいく。ドームのど真ん中で、最強の角と、最強の黄金の大顎が、完全に正面衝突した。ズガガガガ、と凄まじき衝撃波が走り、フィールドの土壌が完全に消し飛ぶ。ドームの強化ガラスにピキピキと無数の亀裂が入る中、タランドゥスは黄金の大顎でアトラスの漆黒の三本角を――根元から、完全にホールドした。
ギチ、ギチ、と音を立てて大顎が閉じられる。そして――パキィィィィィン!!!!
アトラスオオカブトの誇り高き大角が、根元から粉々に砕け散った。それだけではない。タランドゥスはそのままの勢いでアトラスの巨体を大顎でガッチリと挟み込んだまま、凄まじい遠心力で空中にブンブンと振り回し、ドームの遥か彼方へと豪快に投げ飛ばした。アトラスオオカブトの巨体は、ドームのコンクリート壁に、文字通り深々と叩きつけられ、ドガシャァァァァァァァンと激しい音を立ててそのままピクリとも動かなくなった。完全なる、戦闘不能。
一瞬の静寂の後、審判の手が上がった。
「勝者……桃鈴ねねぇぇぇぇぇぇっっっっっ!!!!」
その瞬間、ドームが爆発したかのような大歓声に包まれた。五色のきらびやかな紙吹雪がスタジアムの全域にドサドサと降り注ぎ、ねねたちの狂乱の雄叫びが天を突いた。
バトルフィールドの中央で、黄金の光を失い、やり切った顔でねねの肩に着地したタラちゃんを乗せ、ねねは最初こそ呆然としていたが……次の瞬間、その顔に邪悪なまでのクソガキ・イキりスマイルが秒で戻ってきた。さっきまで鼻水を垂らしてマジ泣きしていた恐怖なんて、一瞬で脳内から消去されている。ねねはメインカメラに向かってドスの利いた声を張り上げ、全力でマウントを取り始めた。
「見たかねっ子ーーーっ!!! ねね大勝利ーーーっ!!! はい最強! はいねねの勝ちーーーっ!!! 佐藤のキモ筋肉、ねねのタラちゃんのパワーにビビり散らかしててウケる〜〜!! はい、ねねの勝ち! 佐藤はねねにおやつを奢る刑に処しまーーーす!! ねっ子たち、ねねを崇めるなら今のうちだぞーーーっ! うおーーーっ!! 誰か早く冷たいコーラ持ってこい!! 炭酸強めのやつな!! 今すぐ持ってこい!!」
腰に手を当て、鼻の絆創膏を誇らしげに膨らませながら、信じられないほどの勢いで調子に乗り散らすねね。観客席のねっ子たちは、そのあまりのいつものクソガキ情緒ジェットコースターっぷりに、「これだよ、これwww」「ねね最高ーーーっ!!」と、さらに大爆笑と大歓声を送る。散々イキり散らしてハァハァと息を切らせた後、ねねはスタジアムを埋め尽くすオレンジ色の光の海を見渡し、急に恥ずかしくなったようにチャイナお団子をいじりながら、へにゃっとした満面のねねスマイルを咲かせた。
「えへへ……みんな、応援ありがとね。ねね、がんばったよ!」
歓喜に沸くドームの喧騒の中、ねねがコーラを一気に飲み干してぷはぁと息をついたその時、突如としてコロシアムの天井が不気味な紫色の雷撃によって粉々に引き裂かれた。
「ふはははは! 日本一になったくらいで浮かれるなよ、桃鈴ねね!」
上空から降りてきたのは、世界中の希少甲虫を密猟し、サイボーグ手術で強化して世界征服を企む悪の組織『ダークインセクト軍団』の世界最高幹部たちだった。その筆頭である悪の科学者ドクター・ヘラクレスは、改造された不気味なアンテナを頭から生やし、紫色の白衣をはためかせている。さらにその横には、なぜか全身に金ピカのラメを塗りたくった謎の改造クワガタ男や、語尾に必ず「ゲコ」をつけるのにカブトムシ使いを自称する太った男、さらには趣味で集めた世界中のカブトムシの死骸を繋ぎ合わせた巨大な昆虫ロボットを操るマッドサイエンティストなど、あまりにもいびつでダサい、しかし圧倒的な邪悪さを放つ幹部たちがズラリと並んでいた。
「おいなんだよあの頭のアンテナ! カタツムリのマネか!? てかそっちの金ピカのやつ何!? 眩しいからちょっと離れてよ! あとゲコゲコうるさいやつはカエルなの!? 虫関係ないじゃん! 恥ずかしくないの!? ロボットもガムテープで補強されてるし、まじでセンスないよ!」
ねねは一瞬だけ白目を剥いて泡を吹きそうになったが、ねっ子たちの「ねね、まだ終わってないぞ!」という応援の声を聞いて、すぐに鼻の絆創膏をキッと指でこすり、不敵にニヤリと笑った。肩の上のタラちゃんも、再び黄金の火花をバチバチと散らしながら大顎を広げて威嚇する。
「いいじゃん、やってやろうじゃん! 世界最強だろうが宇宙最強だろうが、ねねとタラちゃんを止められると思うなよ! あいつらが世界をめちゃくちゃにする前に、ねねが全員まとめてギガ万力でパッカーン!って、ペッチャンコのボコボコにしてやるんだからねーーーっ! ねっ子のみんな、コーラの代わりにあいつらをボコボコにする応援の準備しといてね!」
怒りに燃える幹部たちが一斉に不気味な巨大バイオカブトの群れを召喚し、スタジアムの空が真っ黒に染まっていく。だが、桃鈴ねねの瞳に宿る黄金のド根性の炎は、一ミリも消えてはいなかった。むしろ、これまでにないほど激しく、熱く、オレンジ色のサイリウムの海と共鳴して燃え上がっている。世界中の悪い虫どもを泣かせ、ねっ子たちと最高の笑顔でコーラを飲むその日まで、ねねの終わりなき大冒険と、魂の激闘は、今この瞬間から始まったばかりなのだ!
【完結記念・完全新作映画予告】
タイトル:劇場版 桃鈴ねねと黄金のタラちゃん 〜激突!宇宙最凶蟲(スペース・バグ)と涙の地球防衛戦じゃい!〜
[BGM:壮大で神秘的なオーケストラが静かに流れ始める]
真っ暗な宇宙空間。巨大な隕石が地球に向かって飛来する映像。
その隕石の表面がひび割れ、中から赤黒く蠢く「巨大な未知の複眼」がギョロリと光る。
「みんなー! やっほー! 最強のアイドル昆虫マスター、桃鈴ねねじゃん!
全日本トーナメントも大勝利で終わって、これで毎日コーラ飲んで焼肉食べる最高の生活が待ってる……って思ってたのにぃ!」
空から隕石がインセクト・バトル・コロシアム・ハイパードームに墜落!
爆炎の中から現れたのは、地球の昆虫とは全く違う、禍々しい紫色のオーラを放ち、脚が8本もある異常な宇宙カブトムシ『メテオ・サタンオオカブト』。
そしてそれを操る、全身を銀色の宇宙服で包んだ謎の宇宙人・ギャラクシー男爵!
『完結記念! 舞台はついに宇宙スケールへ限界突破!!』
「ええええええええ!? 嘘でしょ!? なにあの虫!?
脚がいっぱいある! カブトムシなのに脚8本あるのまじで意味わかんない! キモいキモいキモい!!
てかギャラクシー男爵って誰!? 服のセンスがアルミホイルじゃん! 眩しい!
ねね、宇宙とか聞いてないし、痛いのやだから帰る! もうお布団入って寝るもん!!」
逃げ出そうとするねね。しかし、宇宙カブトムシの圧倒的な超重力波攻撃の前に、街が次々と破壊されていく。
果敢に立ち向かう相棒のタランドゥスツヤクワガタ(タラちゃん)だったが、メテオ・サタンの巨大な顎に挟まれ、宇宙の絶対零度のアイスにカチカチに凍らされてしまう。
「やだぁぁぁぁっ! タラちゃん!!
……うぅ、なんでいつもこうなるの……。ねね、ただのポンコツだもん……。
宇宙一なんてなれるわけないじゃん……ぐすっ、ひっく……」
[BGM:悲しげなピアノの旋律から、徐々に力強く熱いギターロックへと切り替わる!]
絶望して座り込み、絆創膏の端っこを震える指で擦りながら大泣きするねね。
しかし、その後ろから、オレンジ色のペンライトを持った何万人もの「あるじ」たちが、ドーム跡地に集結し、大声援を送る!
『ねね! 立てー!』『地球を救えるのはお前だけだー!』
『みんなとの絆が、奇跡の虹色を呼び覚ます!』
「うぅ……ねっ子たち……!
……うん。ねね、みんながそこまで言うなら……やるっ!
こんなアルミホイル男に、ねねの大好きな地球の焼肉もコーラも、絶対に奪わせないんだもーーーん!!」
ねねが涙と鼻水を袖で乱暴に拭い、腰に手を当ててビシッと宇宙人を指差す!
その瞬間、ねねが裏でこっそりガブ飲みしていた2リットルコーラのペットボトルから炭酸が爆発!
凍りついていたタラちゃんの氷が粉々に砕け散り、宇宙の闇を切り裂くような、限界突破の『黄金の大泥臭エネルギー』が全身から放たれる!
「いっけえええええ! タラちゃん!!
ねねとねっ子の絆パワー全開! 宇宙のキモ虫どもを、まとめてギガ万力でパッカーンってペッチャンコのボコボコにしてやるんだからねーーーっ!!
思い知れぇぇぇぇぇい!!」
虹色の光の弾丸となったタラちゃんと、紫のオーラを纏う宇宙カブトムシが、大気圏を突き抜けて宇宙空間で大激突!
地球を背に、最強の必殺技がぶつかり合い、画面全体が真っ白な閃光に包まれる!
『劇場版 桃鈴ねねと黄金のタラちゃん 〜激突!宇宙最凶蟲と涙の地球防衛戦じゃい!〜』
「はい最強! はいねねの勝ち確定!
映画館に来てねねの活躍を見ないねっ子のみんなは、一生ねねにおやつを奢る刑に処しまーす!
公開日に絶対見に来てね! コーラとポップコーン必須じゃん! うおーーーっ!!」
『今夏、全国の劇場で大勝利の開幕じゃい!!』