【One Piece.アーカイブ】ホロライブ青春短編集2 ワンサマー  Libera me from AI 文体は文学多め。ジャンルごちゃ混ぜ闇鍋パーティー   作:夏目陽光

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鏡像のボクセル 【アキ・ローゼンタール&夏色まつり】

鏡張りの壁面が、二つの肉体とその運動軌跡を正確に反射している。

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[0x7FFF5FBFF7A2] [MOCAP] Frame_Index: 10452 // Capture_Rate: 60.00fps

 

スタジオを満たす重低音は、スピーカーの物理的な振動による音響効果ではなく、鼓膜の直前で直接電子的に生成されたかのような波形の純度を維持し、一定の周期で明滅していた。防音壁に囲まれた密室の内部には空気の対流運動が存在せず、表皮を撫でる気流の熱伝導シミュレートが遅延した結果として、無機質な乾燥のみが座標軸の内部に定着している。その周波数の隙間を正確にトレースするように、アキ・ローゼンタールの細い輪郭が空間を切り裂いていく。胸椎を起点とした三次元的なアイソレーション運動。彼女の脊椎フレームは一本のしなやかな生体繊維のように連動し、骨盤の傾斜角度をミリ単位でデジタル制御しながら、極めて重心の低いウェーブパターンを出力していた。

(……右、逃げる、腰。まつり基準に引っ張られてる。ブレ〇・四。フォロースルーを二ミリ秒削る、タメへ。腹斜筋、このテンポだと遅れる。アジャスト、アジャスト、まだ、足りない)

アキの内部演算プロセスは、自身の肉体をひとつの不完全な運動オブジェクトとして定義し、それを周囲の空間座標へどう適合させるかという純粋な最適化処理に終始している。配信時の穏やかで天然なベールを排し、表現の最適解だけを走査する横顔。指先を伸長させる運動の最中、彼女の無意識は、その爪先が空間のボクセルを攪拌する抵抗値さえ逆算しているかのようだった。少し水色が混じった神秘的な紫色の瞳が、対向する鏡の表面を冷たく、かつ異常な熱量の走査線で凝視している。

彼女の纏う黒いシースルー素材のアウターは、肩フレームから滑り落ちるたびにカサリと不自然なほど乾いた高周波の摩擦音を発生させ、その下で熱を持ち始めた肌にタイトなスポーツブラトップが吸い付くように密着していく。ボトムスのとろみのあるサルエル風トラックパンツは、彼女が骨盤を前傾させ、大腿四頭筋を急激に収縮させるたびに、空気抵抗のシミュレーションデータを可視化するようにしっとりとした重量感を持って滑らかなドレープを描いていた。その衣服の不規則な揺らぎさえも、彼女の計算された「表現」のエフェクトとして機能し、溢れ出る成熟した色気と大人の余裕という視覚パラメーターに変換されていく。指先の柔らかな軌道が空間に座標の余韻を残すたび、アイトラッキングの収束率が予測値を突破。観測者の脳内に発生するであろう『艶』のパラメーターが最大値へ固定される。彼女のダンスは、重力加速度を味方につけた大人のエレガンスそのものであり、指先一本、髪のなびき方に至るまで、観る者の視線をからめとるような妖艶な磁場を形成していた。

[0x7FFF5FBFF840] [PHYSICS] Collision_Detect: cloth_to_mesh_error_0.3mm

[0x7FFF5FBFF842] [MOCAP] Target_A: Skeleton_Link_Stable // Confidence: 1.00

 

「――よし、一旦ここで音止めよっか!」

パシ、と乾燥した高音のインパルスが響き、スタジオを圧迫していた低音データが唐突に消失する。音響のフェードアウト処理ではなく、デジタルな切断命令。

声を上げた夏色まつりは、勢いよく胸部を上下させながら、自身の膝に手を置いた。胸式呼吸による急激なチェストのZ軸運動。薄いブラウンの髪が、急激な制動によって遅れて前方へと振り出され、サイドで結ばれたポニーテールが物理演算の数式に従って不規則な軌跡を描いて揺れる。翡翠色にほんのりと水色が混ざり込んだ瞳が、水分量を増しながら、しかし正確な焦点を結んでアキの姿を捉えていた。

(あきちゃん、浮いてる、ブレない。まつり、ここ、固い。ダウンで拾う。次の角度、視線、もっと引きずり回す。いつもの、声漏らすやつ。一番おいしいとこ、全部まつりが座る場所、そこ、譲らん)

まつりの無意識の思考は、常に観測者の網膜への残像効果を最大化することへ特化している。SNSにおける爆発的な瞬発力、配信での変幻自在な機転。その全ての根底にあるのは、リスナーという名の観測者が最もカタルシスを覚える角度を逆算して導き出しようとする、狂気的なまでの客観視だ。それは、暗闇を一瞬で塗り替えるような、圧倒的で華やかなアイドルとしての輝きそのものだった。ただそこに立って息を弾ませているだけで、彼女の周囲には光の粒子が飛び散るようなオーラが自然と収束していく。彼女のダンスは、一瞬の視線移動や首の角度だけでステージ全体の空気の色をガラリと変えてしまう、天性の華やかさに満ちていた。

その躍動を支えるライムグリーンのショート丈タンクトップは、激しい呼吸に合わせて伸縮し、露出した引き締まった腹部に浮き出た薄い汗の膜を浮き彫りにしている。白いメッシュ素材のショートパーカーは、通気性を確保しながらも彼女の激しい腕の振りに合わせてシャカシャカと微細なプラスチック音を立てていた。黒いハイウエストショートパンツと、太ももを締め付けるニーハイソックスの境界線は、彼女がステップを踏込めば深く沈み込み、その肉体が純粋な運動体であることを誇示している。太ももの裏が千切れそうなほどの肉の軋みすらも、彼女の運動神経は歓喜として処理していた。

 

[0x7FFF5FBFF890] [THERMAL] Subject_M_Surface_Temp: 37.2C // Target_Update_Pending

[0x7FFF5FBFF892] [RENDER] Material_Texture_Update // Cache: Normal

まつりは荒い息を吐きながら、右手の人差し指と中指の腹を滑らせるようにおおでこに当て、そこに滲んだ一筋の汗をぬぐい去った。ライムグリーンのタンクトップから覗く鎖骨の窪みにも、じっとりと微細な水滴が光を反射して浮き上がっている。その動作は、彼女自身が意図しない微かな官能性を帯び、健康的な躍動感の隙間から少女特有の色香を微量に放散させていた。

「ふぅ……。まつりちゃん、今のサビの入り、めちゃくちゃ綺麗だった。リズムの取り方が本当に気持ちいいね」

アキの声は、スタジオの吸音壁に吸収されることなく、一定の音圧を保ったまま空間に染み出していく。おっとりとした独特のテンポ。しかし、その声帯の震えには、ダンスを精緻に分析する観測者としての冷徹な熱が混ざり合っている。

「えへへ、ありがとー! でもさ、まつり的には、あきちゃんのその……なんて言うの? 腰から指先にかけての『とろん』とした動き? あれがマージで羨ましいんだけど! まつりがやると、なんか『よし、今からセクシーに動きます!』って感じの、不自然な気合いが入っちゃうんだよねー!」

[0x7FFF5FBFF900] [AUDIO] Processed_Frequency: High_Peak_Detected

まつりの言葉は、弾丸のような速度で空間を埋め尽くす。彼女の喋り方は、周囲の空気の密度を急激に希釈し、自身のペースへと巻き込んでいく強制力を持っていた。人懐っこい笑顔の裏側で、彼女の視線はアキの四肢のポジショニングをミリ単位で走査し続けている。

 

「ふふ、とろん、かぁ。まつりちゃんは元々の骨格がしっかりしてて、バネがあるから、ストリート系とか、カチッとしたロックダンスがすごく映えるんだよ。私は逆に、そういう體幹の強さをパキッと出すのが苦手だから、お互いないものねだりだね」

[0x7FFF5FBFF910] [AUDIO] Ambient_Noise_Floor: -60dB // Fixed

アキはそう言いながら、スタジオの隅へ歩を進める。その歩行モーションには一切の淀みがない。ウォーターボトルを手に取り、まつりへと差し出す。その一連の動作において、彼女の指先はボトルの重心を完全に掌握していた。

「ん、ありがとあきちゃん! ぷはぁ――生き返るわぁ!」

ボトルを受け取ったまつりは、躊躇なく液体を喉へと流し込む。ゴクリ、と鳴る嚥下音。手の甲で口元を拭う動作は少年のような粗野さを含んでいるが、その翡翠色と水色の混ざる瞳は、未だ鏡に映る自身の残像を追いかけていた。

 

「ねえねえ、あきちゃん。さっきの2番のメロのところさ、二人で交差しながら位置入れ替わるじゃん? あそこで、ちょっとだけお互い目を合わせるタイミング、作らない? なんかその方が、エモいっていうか……『あ、今この二人、通じ合ってる!』って感じがして、見てるみんなも絶対『てぇてぇ!』ってなると思うんよ!」

[0x7FFF5FBFF950] [MATH] Interaction_Eye_Contact = 1 // Weight: 0.85

まつりの提案は、常に二次元の画面を超えてリスナーの脳内に発生する感情のパラメーターを操作しようとする。

「あ、それすごく素敵。ただすれ違うだけだと、どうしても個人のダンスになっちゃうもんね。じゃあ、私が右にステップを踏んで、まつりちゃんが左から回り込む瞬間に、一瞬だけ……こう、顎を引いて、視線を合わせる?」

アキはボトルのキャップを回転させる。カチリ、という微小な噛み合わせの音。彼女の身体がわずかに捻られ、鏡の向こうのまつりと視線が交差する。金髪がその運動に伴って遅れて収束し、紫の瞳が冷たい光を放った。

 

「うわっ、それ! それめちゃくちゃ良い! あきちゃん、今の一瞬だけでまつり、ちょっとドキッとしたもん! なにそれ、ずるい! 確信犯じゃん!」

「ふふふ、そんなことないよ? まつりちゃんがそういう風に言ってくれるから、私も引き出されるんだよ。じゃあ、音に合わせて、今のところだけ部分的にやってみようか」

「おっしゃ、やろう! まつり、あきちゃんのその色気、絶対吸収してみせるからね!」

まつりはライムグリーンのタンクトップの裾を無意識に引き下げ、スタジオの中央へと自身の座標を移動させる。ニーハイソックスに包まれた脚が床を踏み鳴らすたび、コンクリートの硬質な響きがスタジオに還元される。

[0x7FFF5FBFF9A0] [ENV] Temperature: 22.0C // Humidity: 45%

 

アキもまた、サルエルパンツの生地を揺らしながらその隣へと並ぶ。

 

金髪と、薄いブラウン。

紫と、翡翠。

二つの色彩が、鏡の表面で並列に配置される。

[0x7FFF5FBFF9E0] [MOCAP] Active_Sensors: 128 // Calibration_Pass

アキがスピーカーのコントローラーに向けて指先を動かした。だが、彼女の指がその物理的なスイッチに接触するより僅かに早く、スタジオには既にイントロの重低音が鳴り響いていた。彼女の手元からは一切の駆動音が消去されており、ただ空気の振動だけが先走る。

[0x7FFF5FBFFA10] [SIGNAL] Motion_Pre_Recognition_Delta: 0.00ms

 

「いくよ、スリー、ツー、ワン――」

アキの声が合図となり、二つの肉体同時に駆動する。

まつりはダイナミックに、地を這うような力強いステップから、一気に上半書を跳ね上げる。床を蹴る反発力を余すことなく骨盤から体幹へと伝え、胸を張る瞬間のポップ。メッシュのパーカーが激しく翻り、彼女の肉体が発する熱量が空気の屈折率を変えていくかのようだ。どこまでも真っ直ぐで、見る者の視界を一瞬で鮮やかに塗り替える華やかさが、そのステップを踏むごとにスタジオ中へと拡散していく。彼女のステップは、ただ正確なだけではなく、空間全体の明度を一段階引き上げるような、天性のプリズムとしての輝きを放っていた。激しい運動による口の中のわずかな鉄の味が、彼女の生命力をさらに尖らせる。

一方のアキは、音楽の波形そのものに変形したかのように、滑らかに、かつ芯の通った動きで空間を侵食していく。膝のクッションを最大限に使い、フロアとの摩擦を極限まで減らしたグライド。シースルーのアウターが彼女の動きに遅れて追従し、肉体の輪郭を曖昧にぼかす。静と動を巧みに操る彼女の指先は、深い知性と、視線を捉えて離さない大人の艶を完全に体現していた。彼女が首を僅かに傾け、デコルテのラインを強調するたび、アイトラッキングの収束率が予測値を突破。観測者の脳内に発生するであろう『艶』のパラメーターが最大値へ固定される。妖艶な引力によって空間そのものが歪むかのような錯覚を呼び起こす。

 

[0x7FFF5FBFFA50] [COLLISION] Distance_A_to_M: 0.42m

解像度を増していく運動。

音楽のBPMは一定であるにもかかわらず、二人の体感時間は極限まで引き延ばされる。

アキが右へ、まつりが左へ。

[0x7FFF5FBFFA80] [PHYSICS] Hair_Mesh_Interference: compensated

[0x7FFF5FBFFAA0] [MOCAP] Tracking_Lag: 0.003ms // Overwritten

すれ違う刹那、二人の顔が互いへと向く。

紫色の瞳と、翡翠色の瞳が、至近距離で完全に噛み合う。

アキは、いたずらっぽく、大人の余裕を感じさせる笑みをその唇に刻む。

まつりは、それを受け流すように、弾けるような野生的な笑顔を返した。

(お、入った。今。これこれ)

(あきちゃん、近い。でも、負けへん、ここや!)

互いの無意識が、鏡の表面を介してではなく、直接脳内で結合したかのような錯覚。

 

最後のキメポーズ。

音楽が、物理的な余韻を一切残さずにゼロへと収束する。

アキは天を仰ぐように片手を伸ばし、背面のラインを極限まで美しく見せるポーズ。まつりはカメラのレンズを射抜くような鋭いポーズで硬直する。末端の神経に至るまで、完全に制御された静止。

[0x7FFF5FBFFAB0] [MOCAP] Sequence: Completed // Flag_Captured

数秒の完全な静寂。スタジオの換気扇の回る音すら聞こえない、無響室のような閉ざされた空間。

二人は同時に、その場に膝を突いた。

 

「は、はぁーーーーー!! キツいっ! でも、めちゃくちゃ気持ちいい……!」

まつりは床に大の字になり、胸を大きく上下させている。翡翠色の瞳が、天井の無機質なLED照明を反射して不自然なほど均一に輝いていた。

「ふぅ……、ふぅ……. うん、今の交差するところ、最高だったね。まつりちゃんの表情、鏡越しに見て鳥肌が立っちゃった」

アキは膝に手を突き、乱れた金髪をかき上げる。その指先は、自身の額に流れる汗を拭っているが、その汗は床に滴り落ちる前に、なぜか空気中に溶けるように消えていく。スタジオの床には、濡れた跡がひとつも残らない。床のウレタン素材は、彼女たちの体重を支える反発力を返しながらも、その表面に一切の摩耗の痕跡を留めていなかった。どのような激しい荷重の移動があろうとも、マテリアルの表面は常に初期化されたテクスチャを維持し続けている。

 

「へへ、あきちゃんに褒められるの、一番嬉しいかも。ねえ、もう一回だけ通してやってみない? まつり、今の感覚を忘れたくない!」

床から跳ね起きるまつり。その薄いブラウンの髪は、激しく動いた直後であるにもかかわらず、あらかじめ設定されたいくつかのプリセットの形状へと、滑らかに収束していく。

「いいよ。じゃあ、最高のステージにするために、もう一回、付き合って?」

 

二人は再び立ち上がり、鏡に向き合う。

[0x7FFF5FBFFB00] [SYSTEM] Simulation_Loop: Phase_3 // Core_Temp_Rising

[0x7FFF5FBFFB02] [SYSTEM] Overclock: Enabled // Fan_Duty_100%

鏡の向こうの暗闇で、サーバーラックの冷却ファンが、彼女たちの次のビートに応えるように一段と高く、悲鳴のような駆動音を上げ始めた。

[0x7FFF5FBFFB20] [SYSTEM] Status: Loop_Restarted

 

二つの影が再び滑り出す。鏡の冷徹な表面は、その運動の因果関係を一切の遅延なく二次元に投射し続けていた。アキ・ローゼンタールの足底が、床の硬度を正確に読み取りながら、次のアイソレーションへのエネルギーを蓄積する。彼女の内部に組み込まれたベリーダンスのムーヴメントは、腰椎を支点とした回転トルクを、ストリート特有の鋭いタウントに融解させていく。

(……左、沈める。〇・〇二。大腿筋、引く。まつりが張るから、こっちは流す。残像、置いていく)

彼女の指先が虚空を描く軌跡は、スタジオ内の光の拡散率を書き換えるかのように、網膜に濃密な「タメ」の数値を残留させる。シースルーの黒い生地が、その四肢の引き上げ動作に伴って規則的な波形を描き、大人の持つ引力をデジタル空間に定着させていった。

 

その視線の先に、夏色まつりの跳躍が重なる。薄いブラウンのポニーテールが、重力シミュレータの極限値まで跳ね上がり、彼女の持ち味である爆発的な輝きを撒き散らす。まつりの骨格が持つ天性のスプリングは、一瞬のストップモーションに最大の減速Gをかけ、そこから瞬時に最大速度へとトップギアを入れる。

[0x7FFF5FBFFB50] [MOCAP] Target_M_Ankle: Max_Load_Detected

(逃がすか。全部乗せる。ここ、リスナー跳ねる。もっと、もっと、まつりを見ろ!)

彼女の翡翠色と水色の混ざり合う瞳は、自らの残像がどのように空間を侵食しているかを完全に掌握していた。ライムグリーンのタンクトップが激しくはためき、メッシュの白がその運動を拡散光へと変調させる。その瞬間、二人の座標は完全に交差し、鏡の奥に広がるサーバーラックの緑色の冷たい明滅と完全に同期した。

 

[0x7FFF5FBFFB90] [SYSTEM] Resource_Load: 87% // Warning_Ignored

[0x7FFF5FBFFBA0] [RENDER] Texture_Anisotropy: Force_Enabled

二人の動きは、一つの生命体のような調和を生み、システムが提示するすべてのパラメータを上限へと叩きつけ続けている。アキの腰のうねりが、まつりの鋭いステップを増幅し、まつりの華やかさが、アキの持つ大人の官能的な深みをさらに引き立てる。ニーハイソックスが食い込む瞬間の、皮膚の微小な痒みさえ、この瞬間は演算の彼方へと置き去りにされていた。熱力学の第二法則を嘲笑うかのように、この電子の檻の中で、二人の美しい残像と加速する熱量は永続するループとして固定され、終わりのない座標軸を刻み続ける。

「まつりちゃん、ラスト、もっと引き上げて!」

「いっくよーー! あきちゃん、ついてきて!」

[0x7FFF5FBFFBF0] [SYSTEM] Physical_Cache: Exhausted // Dynamic_Allocation_Failed

 

スタジオ内の無機質な乾燥は、彼女たちが生み出す熱量によって完全に飽和し、システムの物理演算コアはその限界温度に向かって急速に上昇を開始していた。鏡に映る二人の完全な虚構は、現実の何よりも強烈な光を放ちながら、どこまでも続く暗闇を焼き尽くすように踊り続ける。

 

[0x7FFF5FBFFC00] [SYSTEM] Failsafe: Bypassed // Loop_Confirmed

[0x7FFF5FCA21B0] [NOTICE] Memory_Leak_Detected: Subject_M_Brain_Wave

 

[0x7FFF5FCA21B4] [SYSTEM] Core_Voltage_Boost: 1.45V

 

鏡の表面に、かすかな亀裂のようなノイズが走る。

それは視覚的なバグではなく、走査線の同期ズレが引き起こした、極めて微小なサンプリングのエラーだった。アキが右足を一歩踏み出し、床の反発係数を肉体にフィードバックさせた瞬間、スタジオの光源設定がゼロコンマ数ミリ秒だけ、寒色系へと偏る。その色彩の明滅に気づく者は、ここには誰もいない。

(……違和感。いや、追いつく。体幹、固定。まつりの熱量、マテリアルを引っ張ってる。このままの出力だと、物理演算の領域が融解する。それでも、止めない。このBPMを維持しろ)

アキの髪の金髪が、激しいターンによって宙に描く放物線は、あらかじめ設計されたクロスシミュレーションの限界を超えていた。彼女の紫色の瞳は、鏡の向こうの暗闇を捉えたまま、一瞬たりとも揺るがない。

 

まつりもまた、自身の肉体が発する不快なノイズを、純粋な運動エネルギーへと変換していた。右腕を大きく振り上げ、ポニーテールを遠心力で弾ませる。薄いブラウンの毛先が、空気を切り裂くたびに、計算上の摩擦音とは異なる、生々しい「肉の爆発」を周囲にまき散らす。

「あきちゃん、次、サビ前のブレイク、同時に入るよ!」

「うん、合わせる。テンポ、逃がさないで」

まつりの喋り方は、過呼吸寸前の激しい呼気によって寸断されながらも、その言葉のテンポは音楽のグリッドに完全にアジャストしている。彼女の翡翠色に水色が混ざり込んだ瞳が、一瞬、スタジオの天井の隅に設置された、レンズのないドーム状の突起を射抜いた。

[0x7FFF5FD034A0] [ERR] [RENDER] Shader_Compile_Error: Pixel_Overflow

[0x7FFF5FD034A4] [SYSTEM] Thread_Anisotropy_Crash: Recovered

二人の距離が再びゼロへと接近する。

 

衣装のシースルー素材が、互いの動線と交錯するたびに、カサカサとした不自然な乾燥音をレイヤー化させていく。その音は、実際の布地が立てる音というよりも、スピーカーのコーン紙が物理的な限界を迎えて発する、微細な歪み(ディストーション)に酷似していた。

アキの腰から滑り出す大人のアフェクションが、まつりの持つ天性の跳躍力と衝突し、空間を二分するような視覚的なドラマを形成していく。それは、精緻に組み立てられたパズルの一片を読者の眼前に差し出すかのような、冷徹で、かつ逃げ場のない配置の美学に基づいていた。

このスタジオがどこに実在し、誰がこの運動を観測しているのかという前提そのものが、静かに瓦解を始める。だが、描写の密度はその思考を許さない。

 

(……あ、口の中、鉄の味。まつり、生きてる。このステップ、システムが拾いきれてへん。もっと、もっと速く。網膜の残像を焼き切るまで、動いたるわ!)

まつりの脳内は、言語としての純度を完全に失い、ただ肉体的な衝動のログへと退化していく。右手でおでこの汗を乱暴に拭ったその瞬間、指先に残ったのは、水分としての触感ではなく、走査線が指のメッシュを透過したときの、微小な電気的抵抗のみだった。

 

アキの長い四肢が、スタジオの四隅に向けて完璧なベクトルの矢印を放射するように伸びていく。金髪の束がその運動の頂点で固定され、水色の混ざった紫の瞳が、鏡の奥に潜む「何か」を冷酷に睨みつける。彼女の無意識の行動は、すべてがシステム側の予測モデルを上書きするための戦闘行為だった。

「まつりちゃん、ここ!」

「おっしゃぁ!」

二つの肉体が、最後のシンクロニシティに向けて沈み込む。

衣服のプラスチック音、床のウレタンの匂い、そして口の中の血の味が、電子の海の中で激しく混ざり合い、もはや一つの狂気的なプログラムとして昇華されていく。二人が限界を超えて踊り続けるその残像は、まるであらかじめ定められた永久の檻のように、閉ざされた時空に新たな座標を刻みつけていた。

 

[0x7FFF5FE06700] [CRITICAL] Hardware_Thermal_Throttling_Bypassed

[0x7FFF5FE06704] [SYSTEM] Emergency_Cooling: Max_Output

スタジオの輪郭が、熱によって歪む。

鏡の向こうの暗闇で、サーバーラックの底板の隙間から漏れる緑色の光が、彼女たちの最後のビートに応えるように激しく明滅し、冷却ファンが悲鳴のような駆動音を響かせた。

[0x7FFF5FF0A000] [STATUS] Infinite_Loop_Confirmed // Overclock_Unstoppable

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