悲願を成就させたルシファーは静かにほくそ笑む。
心血を注ぎ手にすることができた世界十二聖剣の内の一本、光の剣クラウソラスは新たな主を歓迎するかのように淡く輝いている。
ラミエル「何で、あいつが光の剣に認められたんだ…!?」
友であったルシファーが無事であることを喜ぶ暇もなく、何故クラウソラスに認められたのかという疑問が脳内を巡る。
闇の力を主に使用する悪魔が、光の力を手にするなど前例がない、異例としか言えない事態。
悪魔が光の力を行使するという異端すぎる現実がたった今突きつけられ動揺するなと言われる方が無理難題だろう。
リョウ「光の力を扱える程の力量、何かを成し遂げたい思い、強固たる意思、透徹した心があるからこそ、認めたんやろうな。 敵ながらあっぱれと言ったところやね」
ラミエル「何でお前はそんなに冷静でいられるんだよ!」
リョウ「十分驚かされてるよ。 びっくりくりくりくりっくりだよ。 でも、ルシファーならと思うと、納得してしまうところがあるんやないか?」
堕天使だった前、天使族だった頃からルシファーは心身共に剛健だった。
常に平静を保ち、思考速度も早く、戦闘に於いても四大天使と引けを取らない実力の持ち主だった。
天使族の中でも頂点に君臨しても何ら不思議ではない彼ならば、常識を覆すことをしかねないのかもしれない。
ルシファー「お前達はこの剣を求めてこの世界に来たのだろうが、この剣の所有者はたった今俺になった」
アイリ「あたしが手にする筈だったのかもしれないのに…。 嘘だと言ってよ、バーニィ…」
リョウ「残念ながら現実じゃ。 まさか悪魔が手にするとはね」
ラミエル「取られたなら、取り返せばいいだけだ!」
ラミエルが電気を纏った拳で殴り掛かろうと接近する。
ルシファー「無駄だ。 『シャインアウト』」
ルシファーがクラウソラスの切っ先を向け放った閃光。
僅かな発光にも関わらず、威力は絶大なもので、アイリが駆使する技の数倍の威力がある。
咄嗟に顔を覆うように腕を交差し防御体勢を取るが、至近距離で直撃を受けたラミエルは威力を殺しきれず後方へ吹き飛び激しく地面に打ち付けられた。
ルシファー「流石と言ったところだな。 僅かの力しか発揮していないというのにこの威力か」
アイリ「今のが、『シャインアウト』? あたしのと比じゃないだけど…」
リョウ「そりゃそうよ。 無限に広がる多種多様な、あらゆる世界を探しても、複製品が存在しない凄まじい力を秘めた世界十二聖剣なんやから。 さて、もう落ち着いている余裕はないな。 退くぞ、アイリ」
アイリ「え、クラウソラスを取り返さないの?」
リョウ「半分しか力が出せないわしの実力じゃ太刀打ちできない。 今のルシファーにはティルフィングもある」
歴史上、世界十二聖剣の内の二本を所持していた人物は存在しない。
類稀れという範疇を超え規格外という言葉しか合わない。
誰も成し遂げたことのない偉大な事柄だが、敵である
悪魔が成し遂げてしまうという最悪な形となってしまった。
ルシファーは地面に突き刺したティルフィングを引き抜きアイリ達を見据える。
片や光の剣。
片や闇の剣。
交えることが許されない対の力を持つ剣が牙を向く。
計り切れない凄まじい力に、アイリは怖じ気付いてしまい、憮然とした表情となり自然と足が震えている。
ルシファー「退くという手段を勧めるが、どうする?」
ラミエル「退くわけねえだろ! 俺は戦うぜ…」
立ち上がったラミエルが臨戦体勢に入るも、肩で息をしており、第三者からしても分かるほど体力を激しく消耗していた。
ルシファー「無謀だ。 だが、貴様の決意に免じて相手をしてやろう」
ほくそ笑むルシファーは静かに歩みを進める。
静かなる前進とは裏腹に、手中にある二本の剣の力が増大し空気を震わせる。
剣から源泉のように沸き上がる光と闇は神々しくもあり禍々しい。
世界を滅ぼし掛けない力は底が知れないのか、増大し続ける。
一瞬怖じ気付くも、戦意を喪失させる気配がないラミエルの肩にリョウの手がゆっくりと音もなく添えられた。
リョウ「ラミエル、認めたくない現実じゃろうが、ここは受け止めて退くべきや」
ラミエル「退くだと? 退くわけねえだろ。 俺は戦う。 俺だけでも残るから、お前達だけでも退け!」
リョウ「………頭に血が上ってちゃ何言っても無駄、どの世界でもどの時代でも同じなんやな」
瞋恚に燃えるラミエルの前に素早く回り込み、鳩尾に鋭い膝蹴りを放った。
加減も躊躇もない無慈悲な一撃をまともに受けたラミエルは一瞬で気を失い倒れ伏した。
ルシファー「余計な真似を…と、数分前の俺なら言っていただろうな。 今の俺より弱い奴と戦うのは、時間の無駄とさえ思えているからな」
リョウ「わしは無謀と呼べる戦いに仲間を巻き込ませたくはないからね。 さて、少々手荒な行動になってしもうたけど、わし達は退かせてもらうわ」
ルシファー「俺はお前達を逃がすと言った覚えも、約束した覚えもない。 その人間の少女は抹殺させてもらう」
リョウ「…成る程、悪魔らしくなったな。 それがお前の答えか」
ルシファー「俺もサタンフォーとしての顔として、相応の活躍と成果を残さなければならないからな」
リョウ「ふん、老獪な奴やな」
ルシファー「お互い様にな」
ルシファーが二本の剣を構える。
リョウもアルティメットマスターを引き抜きアイリとラミエルを守護するように前に出る。
勝算は限りなく薄い。
唯でさえ一本だけで世界を滅ぼしかねない伝説の剣を、二本扱う悪魔が相手にして勝てる者など、指で数えて存在するかどうか。
アレクやアリスが使用することを固く禁ずる、リョウやピコが持っているあの『力』があれば、この場を凌ぐことは容易いだろうが、リョウも極力使用する頻度を抑えている。
最悪の場合、致し方なく使用する覚悟はある。
もういっそのこと最初から短時間だけ使用しアイリ達を逃がそうと思案していた途中、リョウとルシファーの間に割り込むようにして、一つの流星が舞い降りた。
砂塵が舞うと共に、島全体が大きく揺らいだ。
突如として落下してきた物体に怪訝の目を向けていたルシファーに藍色の炎の球が放たれた。
鮮やかな一閃により炎の球は真っ二つに割れ、ルシファーの真横を通過していった。
アイリ「この技は、テュフォンちゃん!」
テュフォン「がああああああああ!!」
空を斬り裂く咆哮が砂塵を吹き飛ばした。
地を強く蹴り弾丸並の速度でルシファーへ肉薄し、星の力を纏った爪を振るう。
二本の剣と爪が激しく衝突し合い、衝撃波により地面が抉り削られていく。
テュフォン「それはアイリお姉ちゃんが欲しがってたものだよ! 返して!」
ルシファー「この剣は誰の物でもなかった。 つまり俺の物になってもなんら可笑しなことはない」
光と闇の力が反発し合うようにぶつかり収束し、調和が取れたように巨大な一つの力となりテュフォンを襲う。
テュフォンは華奢で小柄な体に鼓舞させて、己が引き出せる星の力を出し押し返し、時に撥ね飛ばす。
アイリ「す、凄い………今まで見てきた戦いがお遊びに思えるくらい…」
壮絶な激闘が繰り広げられ、アイリはただ傍観せざるを得なかった。
自分があの場に介入する隙など無いに等しい、そう思わせる程に桁違いの実力の差があった。
例え助太刀に入ろうものなら、自分は瞬時に戦闘不能に追いやられ、邪魔になってしまう。
力が半減されてしまっているリョウは兎も角、強者の雰囲気を醸し出すアレクやアリス、ピコが未だに本気を出していないとなると、本気を出したときの実力はどれほどにまで強大なものなのか、想像しただけで身震いしてしまう。
リョウ「この場はテュフォンに任せてわしらは退かせてもらおう。 アイリ、カイを頼む」
アイリ「え、う、うん、オッキュー!」
リョウは気絶したラミエルを担ぎ、アイリは後方の物陰で息を潜めているであろうカイの元へと急ぐ。
アイリ「カイ君、お待た…え?」
島全体が戦闘の激しさに揺れ足元が覚束ないなか走り続けカイの元へと辿り着いたが、カイの容態が明らかに異常だった。
カイは両手と膝を地に着け、荒い呼吸を続けており、口からは唾液が滴り落ちている。
体全体から赤黒いオーラのようなものが溢れ、場を覆い尽くしている。
赤黒いオーラの正体は、闇。
闇がティルフィングの闇に共鳴するかのように揺らめいている。
カイ「うううぅ、ぐあああああ………がああああ…!」
朗らかな表情は消え去り、牙を光らせおぞましい表情を見せる姿は、妖怪そのもの。
あまりの変貌振りにアイリは言葉が発せられなかった。
無邪気な笑顔を浮かべていた面影がなく、急変を超え変貌を遂げていれば誰でもショックを受け言葉を失ってしまうだろう。
リョウ「なっ!? ちっ、ティルフィングの闇がカイの中にある闇と反応したんか!」
リョウはラミエルを抱えたまま立ち尽くすアイリの横を通り過ぎ、カイへと素早く接近し首の横に手刀を叩き込んだ。
鋭い一撃にカイは瞬時に気を失い倒れ、溢れ出ていた闇のオーラも徐々に消えていく。
問題解決かと思われたが、倒れたカイの体はクラウソラスの光により燃え焼かれており、僅かに煙が立ち込めている。
リョウ「説明している暇はない! 兎に角この場から退くよ! 急いで!!」
リョウは未だにカイの状態にショックを受け、足が地に着いたまま膠着してしまっま状態のアイリに語勢を強めた言葉を掛け、気を失ったカイを担ぎ翼を展開し飛翔する。
アイリもリョウの言葉と、激闘による衝撃により亀裂が走り徐々に裂かれていく地面が視界に入り我に返ったアイリも翼を広げる。
テュフォンをこの場に残し後を託したことに気が咎めてしまったが、今の自分では残ったところで邪魔にしかならない。
自身の不甲斐なさとカイの安否が心を埋め尽くされながらも、リョウの後を追うしかなかった。