世界樹と星空の女神 ~無自覚美少女は最強魔法剣士。彼女の愛が重すぎるが、それでも俺は冒険者!~   作:Soularti

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[COORDINATE 0113] The Enlightenment

# Meditation:

 

 銀色の月が浮かび、鮮やかな赤い閃光と緑の閃光が輝く無限の夜空。

 理解を超えた事態の連続に、俺はしばし呆然としていた。

 だが、変化は俺の困惑などおかまいなしに続く。

 ルクスの背に立つ俺の視界は広がり続け、やがて戦場を俯瞰するほどになっていた。

 

[ System : Universal_Truth_Loading... 140%... 150%... 160% ]

 

 ルナリアが業火の剣を左へ引き絞り、鋭く右へ薙ぎ払う。

 彼女の細い腕が振るう紅蓮の剣が、火炎を爆ぜさせながら水平に赤い剣閃を描く。

 

 激しい動きに、ルナリアの大きな胸はあとから付いていき、彼女が剣を振り抜いたあと、たゆんっと横へ弾んだ。

 羽衣越しに透ける彼女の胸の突起が上下し、柔らかに揺れ続けていることを伝えている。

 

 ルナリアの汗が雫となって中空に舞い、きらきらと太陽の光をはね返して輝く。

 

 フェリスが、ルナリアの背後を取ろうとしていた白い魔物へ蹴りを叩き込んだ。

 

 彼女の深緑のニーハイと黒い下着の間から覗く、肉感のある太ももがふるっと波打つ。

 匂い立つ色香を帯びた脚が、凄まじい破壊力を見せ、蹴りぬかれた魔物は後方の群れを巻き込みながら吹き飛んでいく。

 

 フェリスが胸元で双手に握る短剣を、十字に引き絞る。

 彼女の細い腕に押し上げられ、逃げ場をなくした胸がむにゅりと歪み、先端の桜色がつんと羽衣を押し上げた。

 

 振り抜かれた二振りの短剣が、緑と紫の剣閃を描き、光の刃が吹き飛んだ魔物たちを両断していく。

 

 短剣を振り抜いたフェリスは、疾風を纏い瞬間移動してルナリアのそばへ跳んだ。

 飛翔するルナリアの肩を、フェリスは左手で掴んでその場に浮かんでいた。

 おそらく、合間にああやって姿勢を制御しながら戦っているのだろう。

 

 ミーネスの脇から覗く太陽に照らされ、彼女たちの肢体が羽衣越しにくっきりと浮き上がっている。

 その華奢な線と、揺れる少女の膨らみを眺められていることから、俺は自分がとんでもない状態になりつつあることを、ようやく自覚し始めた。

 

 ルクスの背に立っている俺が、望める視界ではない。

 

[ System : Universal_Truth_Loading... 170%... 180%... 190% ]

 

 俺の視界は広がり続け、それに反して時間の流れは遅くなり始めた。

 ウェーブがかった金糸の髪が揺れ、真っ直ぐな水色の髪がさらさらと流れている。

 彼女たちの美しい髪がゆっくりと靡く様子が、俺の視界に映る。

 

 俺は、ただ金色と水色を眺めることだけを考え始めていた。

 

(……っ。……まずい。意識が飛びかけている。いや、消えかけているのか?)

 

 俺は、自分の精神が霧散し始めていることに気が付いた。

 彼女たちの名前を、俺は強く意識する。

 

 ルナリアの赤い瞳とフェリスの瑠璃色の瞳を視界に入れ、ついでに彼女たちの下着に覆われた丸い尻にも意識を向ける。激しい戦いのせいで、下着は少しずつ食い込み始めていた。

 

 俺の馬鹿みたいな下心が、生命の原始的な欲求と絡み合い、強く作用してぎりぎりで俺の思考を繋ぎ止めた。

 

 ローディングの階位が十段を超えたことなど、これまでに一度もない。

 

 なぜか終わりを迎えないこれは、本来の効果を得られないせいで、結果を求めてどこまでも手を伸ばそうとしているのだと感じた。

 

 手といっても、それは俺の感覚の話で、実際には俺自身だ。俺の魂だ。

 このまま行けば、無限に拡張した俺は薄まり続け、やがて魂ごと消え去ってしまうのではないだろうか。

 

——今すぐ集中を解いて停止するべきだ。

 

 俺はいくらかの理性を取り戻し、一度仕切り直すことを考え始めていた。

 

 そんな時、ほとんど停止した世界の中、俺の他に動いているものがあることに気がついた。

 それは、アズールに浮かんでいた青い瞳だった。

 月と化したリゼットが、こちらを見ていた。

 

「お、お兄ちゃん! それは駄目です! 消えてしまいます!」

 

 リゼットの言葉を聞いた俺は、いつまでも『お兄ちゃん』を追いかける彼女に、なぜか強い苛つきを覚えた。

 だから、仕切り直しはしない。

 

 月になった妹へ顔を向けて答えた。

 

「うるさい、リゼット。俺は神の手を感じたくないんだ。お前の中で生き続けることは、絶対に嫌だ」

 

 リゼットが、何かを叫んでいた。

 だが俺が何を聞き、何を話すかは、俺が決める。

 今、お前の声を聞くつもりはない。

 

 行く道を勝手に決められるくらいなら、たとえ消え去る可能性があるのだとしても、俺は賭けに出る。

 リゼット。宇宙だかなんだか知らないが、お前が閉じたというそこに、穴を開けてやる。

 

——俺の魂が加速する。

 

[ System : Universal_Truth_Loading... 200%... 300%... 400% ]

 

——俺の魂が加速する。

 

[ System : Universal_Truth_Loading... 500%... 600%... 700% ]

 

 もはや、リゼットも俺の速度についてこられない。

 

 俺は無限に引き伸ばされた時間の中、静止しているルナリアとフェリスに視線を向けて謝った。

 

(……ごめん、ルナリア、フェリス。……俺は、これだけは我慢できないんだ)

 

[ System : Universal_Truth_Loading... XXX%... XXX%... XXX% ]

 

 俺の魂は輪郭を失い、世界を超えて光の彼方へと消え去っていく。

 

(あーくそ、ぺろぺろしてもらいそこねたなあ)

 

 消え去る寸前、俺の魂が小さな小さな穴を星空の彼方に穿った。

 

 

# Nirvana:

 

 頭の中をかき回すような、酷い雑音がした。

 俺は、その耳障りな雑音を発する白い玉に視線を向けると口を開いた。

 

「うるさいぞ。俺は今不機嫌なんだ。静かにしてくれ」

 

 俺の声など聞く耳を持たないのか、白い玉は雑音を放ち続けている。

 徐々に大きくなっていくその雑音が俺の許容量を超えていく。

 

——俺は発狂した。

 

 白い玉が軽快に話し始めた。

 

「いやあ、ごめんごめん。大丈夫かい? ちゃんと治ったかな?」

「……げほっ、げほっ。大丈夫じゃないよ。なんだよ今のは」

 

 俺は膝に手をついたまま、口を尖らせて意味不明な玉へ文句を言った。

 

「あいさつの仕方を間違えちゃったんだ。本来、君は救世主たる存在じゃないからね。僕の声を直接聞いたら精神が持たないことを忘れていたよ。はっはっは」

 

「はっはっは、じゃないよ。気軽に人の精神をぶっ壊すな。……って、なんだここ。天国か? それにお前は誰だよ」

 

 白い玉がころころ転がりながら、大きな声で笑った。

 

「ははは。君は面白いことを言うね。天国なんて信じてもいないくせに。それにしても……君は悪い男だねえ。『お兄ちゃん』のこと悪しざまに言ってたけど、やったことはそれより酷いよ? 君を守るためにルナリアちゃんもフェリスちゃんも戦ってたのにさ。自由のために首を切るとか、何を考えているんだい」

 

「むむ。……確かによくなかった。それは反省してるよ。けど我慢できなかったんだ」

 

 俺は姿勢を正すと、星切の柄に手を掛けながら、周囲を見渡す。

 それまで何もなかったはずの世界に、俺が視線を向けた瞬間、草原が波打ち、頭上には青空が広がった。

 

「うんうん。反省はしっかりしたまえ。ああ、僕だけど、僕は君のファンさ。ああ、ファンていう言葉の意味が分からないか。うーん、説明がめんどくさいな。えいっ」

 

「……がっ!? ……がはっ!」

 

 俺は脳が焼き切れるかのような激痛に、膝から崩れ落ち、草原に両手をついた。

 血反吐を吐きながら、回復魔法を自分にかける。

 徐々に痛みが引いていき、俺はよろよろと立ち上がった。

 

「はぁ……はぁ……ぺっ。……意味はわかったよ。ファンだなんて嘘だろ。普通、ファンは脳みそを焼き切らないよ」

 

「そうかい? ファンというのは熱狂的な偶像崇拝者という意味だからね。別に偶像がどうなろうと興味はないものさ。踊り続けてくれればそれでいい……って嘘、嘘だよ。そんなに怒らないでよ。ちょっと調整をミスっただけさ。ああ、ミスって言葉も分からないよね」

 

 俺は慌てて手を上げて制止する。

 

「待て。分からない言葉が出てくるたびに脳みそを焼かれていたらおかしくなっちまうよ。あれだな。ええと、失敗とか不手際って意味だろう? 流れ的に」

 

「おおっ! さすが、XXXX君だね! ああ、今はXXXX君じゃないのか。アルス君だったね」

 

 俺の答えを聞いた白い玉は、嬉しそうに草原を転がり始めた。

 とても微笑ましい穏やかな光景だ。

 だが、俺はその様子を見ても、まったく穏やかな気持ちになることはなかった。

 平然とした表情を装いながら、内心では冷や汗をかいていた。

 

(……こいつは、やばい。うまく言えないけど、絶対に怒らせてはいけない)

 

「なあ、なんで俺のファンなんだ? ローディングを行使してるとき力を貸してくれていたのもお前だろ?」

 

「おお、本当に凄いね。もうそこまで気がついているのかい? ああ、気配で分かるのか。僕と同じ気配なんてきみの世界には存在し得ないもんね。ちなみに、力を貸してたわけではなくて、僕は見てただけだけど。それでも影響はあっただろうね。……ファンになった理由は『お兄ちゃん』さ」

 

 俺はその言葉を聞いてうんざりした気持ちになった。またあいつか。

 

「きみは知らないだろうけど、古今東西、世界の内側で魂を萌芽させた存在なんて彼しかいないのさ。僕の世界の魂だって外から作られているんだからね。そんなわけで、君の魂をずっと見ていたんだ。僕が、僕自身の世界に魂を作るためのヒントを得られないかなと思ってね。ああ、ヒントっていうのもわからないか……えいっ」

 

「……っ!? やめろ! ……が、がはっ! ……はぁはぁ」

 

 とんでもない糞野郎だな……。

 くそ、こいつもいつかぶっ飛ばす。

 

 俺は口に溜まった血を吐き出しながら、答えた。

 

「……ぺっ。……な、なるほど。ある程度は俺も知ってるよ。じゃあ、この状況は、消えかけていた俺をお前が助けてくれたってことか?」

 

「うん。そうだよ。リゼットちゃんって子はすごいね。さすが、特異点の魂さ。上位命令を覆す魂なんてこれまで存在しなかった。それどころか、魂縛まで辿り着くなんてね。宇宙の膜にだってそんな記述はないんだよ。まあ、とはいえそれをされると困るのさ。きみが、踊れなくなるからね」

 

 俺は白い玉の口振りに腹は立っていたが、じいちゃんに礼はきちんとするように躾けられている。

 助けてくれたこと自体は確かなようなので、礼を言った。

 

「そうか。助けてくれてありがとう」

「え! 君は、神の手を感じたくないって常々言ってたじゃないか。怒らないのかい?」

 

 俺は小さく息を吐いて答えた。

 

「怒られるかもしれないと思ってたのに、無視して助けてくれたのか。文句を言うべきか、礼を言うべきか。まあ、あれは俺の言葉が悪いんだ。言いたいのはそういうことじゃない。というかやっぱりお前、神様かよ」

 

「きみたち風に言うとね。そうだよ。ああ、そうか。あれだね、きみは賽子の目をいじるなってタイプなだけか。それならよかったよ。ええとタイプっていうのは……えいっ」

 

 白い玉の言葉を聞いていた俺は、嫌な予感がしていたので初めから全力で回復魔法を展開しておいた。

 痛みが奔るよりも早く、俺の魔法が負傷を癒していく。

 新しい技を会得してしまった。

 

 白い玉は、ぽんぽんとその場で可愛らしく跳ねながら言葉を続けた。

 

「まあ、そんなわけでさ。きみが無茶苦茶して魂ごと消滅しようとしていたから、慌てて輪郭を補修したというわけ。ぎりぎりだったんだよ。もう少しで間に合わないところだったんだからね。僕だって発生した因果を超えることはできないんだ。気をつけてよね」

 

「ごめんごめん。そっか、本当にありがとう。じゃあ俺はこのあと、あの地点に戻れるのか? 神性結界も展開できるってことかな?」

 

 白い玉は少しひしゃげて、申し訳なさそうな声を上げた。

 

「それなんだけど、リゼットちゃんが作った蓋のせいで視線を通すことはできないんだ。だから、きみのよく分からない奥義は使えない。もちろん、僕が手を差し込めば蓋は外せるけど、そうしたらぜんぶ吹き飛んじゃうしね。それはさすがに申し訳ないだろう?」

 

 そりゃあ、世界を吹っ飛ばすのに比べれば大した話じゃないかもしれないが、俺の脳を焼き切ることにだって申し訳ないという気持ちを抱いてくれないだろうか。

 

 俺がそんなことを考えていると、突然白い玉の動きが止まった。

 先ほどまで軽やかに弾んでいたそれが、不意に音もなく静まり返る。

 

 俺は違和感を覚えて、白い玉を覗き込んだ。

 白い玉の中に、何かの気配を感じたのだ。

 俺が目を凝らし、その気配へ意識を切り替えた瞬間。

 

——突然、白い玉が巨大化した。

 

 草原と青空は消え去り、空間もなく、俺の身体もない。

 ただ白い玉だけがそこにある。

 

 ……違う。俺が見ていた白い玉は、ただの穴だ。

 

 こちら側からは何も見えない。

 だが、確かに穴の向こうから何かが俺を見ていた。

 

「聞くがよい、アルス。これより、君自身の在り方を少しの間変える。君が行っていた瞑想。君はローディングと呼んでいるが。君の瞑想の深度が階位百一段を超えた時点で、君の肉体は死亡している。当然だ。君は人間であるのだから。……だが、魂縛されたまま、君に死なれては困るのだ」

 

 俺の視界に移ろいゆく無限の連鎖が映り、通り過ぎていく。

 様々な世界、様々な星、様々な大地と海で繰り返される魂の研鑽。

 

「君は再誕する。つまりそれは預言者であり、救世主である。だが君は本来、救世主たるべき者ではない。発現する力はごく短い時間しか保たず、その効果は限定的なものとなるだろう。すぐにその力は消え、二度目はない。それでも——」

 

「——まあ、きみなら勝てるさ。頑張ってね!」

 

 今の俺に口はない。

 それでも心の中で、白い玉に礼を言った。

 同時に、あまり神様を馬鹿にするのはやめておこうと思った。

 それは、信心からではない。

 

 脳みそを焼き切られるからだ。

 

 

# COORDINATE 0113 END

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