世界樹と星空の女神 ~無自覚美少女は最強魔法剣士。彼女の愛が重すぎるが、それでも俺は冒険者!~   作:Soularti

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共和国編
[COORDINATE 0014] Dragon Leaps Twice


# Horsey_with_Lunaria:

 

 茶と紺の毛並みを持つ二頭の馬が、俺たちの乗る馬車を引いている。

 俺たちは馬車を注文して納品されるまでの間、カタリナさんの紹介で騎士団の方から手ほどきを受けていた。

 本格的な乗馬はできないが、御者の真似事を務めるくらいなら、二人ともこなせるようになっている。

 

「ん……。ねえ、少し、休憩する……?」

 

 御者台に座る俺の隣から、ひどく甘さの混じった、とろけるような声が鼓膜を撫でた。

 先ほどのエリシウムウルフの群れとの遭遇戦で、ルナリアの理性がかなり削られている。

 

 馬車が轍に乗り上げるたび、隣に座る彼女の細身の身体が小さく上下に弾む。

 濃紺の布地に包まれた、柔らかな曲線を描く大きな胸。

 窮屈な下着に押さえられていない胸が、たぷんっと大きく揺れていた。

 

 ルナリアがじりじりと距離を詰め、俺の腕にぴったりと身を寄せてくる。

 布一枚を隔てて、体温の生々しい熱と、先端の僅かな強張りまでもが腕に押し付けられた。

 星を湛えた赤い瞳は熱を帯び、少し潤んで、真っ直ぐに俺の横顔を見つめ上げてくる。

 

「……いや、さっきの狼との遭遇で少し予定が狂った。急がないと、次の街に着く前に夜になっちゃうよ」

 

 俺が手綱から手を離さずにそう答えると、ルナリアは不満そうに身を捩り、さらに俺の腕へ密着してきた。

 ふわりと甘い石鹸の匂いが鼻腔を掠める。

 毛先がウェーブのかかった金糸の髪が腕に触れ、さらりとこそばゆい感覚が肌を伝った。

 

「そ、そうだよね。急がないと……なんだよね。あ、そうだ。わたしが御者を代わるよっ。……ね? きみはわたしの膝に頭を乗せて……ゆっくり寝ながら、……わたしに命令するのがいいんじゃないかなぁ」

 

 行動には甘ったるさの兆候があるが、会話はまだ成立している。

 理性は飛びかけているが、若干の自制心は残っているようだ。

 

「ねえ……どうかな。……御者は任せてよ。そうだ。わたしがお馬さんの手綱を握っておくから……きみはわたしに付けた手綱を握るのはどうかな……? ……何でも命令して? たしか、荷物の中に予備の馬具が……」

 

 潤んだ熱い吐息を首筋に吹きかけながら、ルナリアが徐々に無茶苦茶なことを言い出す。

 上気した顔は、理性が溶けかけている。本気で荷台へ馬具を取りに行きかねない。

 駄目だ。会話が成立しているようで、成立していない。

 

 俺は平静を装いつつ、内心ではルナリアでやるお馬さんごっこの想像をしていた。

 そんな時、進行方向に一台の馬車が停車しているのが見える。

 

――不意に、空気を切り裂く轟音と獣の咆哮が届いた。

 

「ルナリア、戦闘だ」

 

 俺は、色に蕩けかけていた意識を無理やり引き剥がし、思考を現実へ叩き戻す。

 まず、巨大なグリフォンの姿が見えた。

上級魔物じゃないか。あんな魔物が、なぜこんな平地にいるんだ。

 

 先ほどの狼の群れが異様に大きかった理由はそれか。あれから逃げ延びようとしていたんだ

 

 俺は馬車を急停車させ、怯えて嘶く馬たちに素早く防御結界を張りながら、ルナリアを呼ぶ。

 

「ルナリア、あれが見えるか? 状況を教えてくれ」

 

 俺の声に応じ、隣の御者台でルナリアがふらりと顔を上げる。彼女の赤い瞳はいまだ熱に浮かされたように蕩けていた。

 俺は彼女の頭をぐっと掴み、強制的に前方へ視線を向けさせる。

 

「……んっ。えへへ」

 

 手のひらで頭を押さえられた瞬間、彼女の体がびくりと小さく跳ね、熱を帯びた甘い震えが伝わってきた。

 数秒の沈黙の後、彼女は目を細め、戦士としての鋭さを無理やり引き戻すように前方を見据える。

 

「えっと……グリフォンが一体。人が四人いるよ。馬車の側に一人。……戦士が一人倒れてて、二人が応戦中、かな?」

 

 すでに一人が戦闘不能か……放っておくと全滅の可能性があるな。

 俺はルナリアに支援魔法をかける。

 上級魔物相手に油断はできない。

 俺は速度上昇と魔法攻撃力向上を彼女にかけながら、指示を飛ばした。

 

「助けるぞ。まずあのグリフォンを引き剥がせ。初撃は遠隔魔法だ。俺たちの介入を相手に知らせるんだ」

「ひゃっ……。あんっ……。い、いきなりは……だめだよっ……」

 

 急にかけられた俺の支援魔法を受けて、ルナリアは艶めかしい声を漏らして身体を震わせた。

 濃紺の生地の下、揺れる胸の先端の陰影がうっすらと浮かんだ。

 

「行け。ルナリア」

「……わ、分かった。まかせて!」

 

 馬車から飛び降りたルナリアは、きらめく金糸の髪を夜風に靡かせ、強烈な踏み込みで突撃を開始した。

 彼女が踏み込んだ地面から、土煙が派手に舞い上がる。

 

 俺は馬たちの鼻先を撫で、優しく声をかけて落ち着かせる。

 

「いいか、俺たちがいるからな。お前たちは大丈夫。いい子で待っててな」

 

 ぶるる、と低く鼻を鳴らし、一頭が俺の肩に額を寄せてくる。もう一頭も、ふふんと小さく息を鳴らして応えた。

 最後にもう一度たてがみを撫でると、俺は戦場へ駆け出した。

 

 ルナリアが純白のスカートを翻し、猛然と地を蹴りながら魔法を放つ。

 

「――ファイアランス!!」

 

 ルナリアの左手から放たれた炎の槍が、轟音とともにグリフォンの巨体を大きく仰け反らせた。

 だが、さすがは上級魔物。彼女の魔法の直撃ですら、かすり傷に見える。

 

 魔法を受けて標的を変えたグリフォンが、大きく翼を広げる。

 魔物は上空へ飛翔し、高度を利用して攻撃を加えようと、ルナリアへ滑空してきた。

 

「ルナリア! 一人で倒そうとするな。時間を稼げ!」

 

 返事は戦闘の轟音にかき消されて聞こえない。

 それでも彼女は距離を取り、追撃を避けながら戦い続けている。

 響き渡る轟音を背に、俺は魔物と戦っていた戦士たちのもとへ滑り込んだ。

 

「加勢する。状況を!」

 

 俺の声に、白髪の短髪をしたリーダーらしき年配の男が、焦燥に染まった顔を上げた。

 

「ご助力感謝する! 俺たちは行商馬車の護衛中だ。護衛対象はあちら。仲間の一名が重傷。俺はヴァレリー。このフェリスと応戦していた」

 

 男が視線で示した先、馬の傍に護衛対象らしい年配の男が立ち尽くしている。

 そしてその手前には、護衛の一人が倒れていた。

 俺は屈み込み、傷口を一目見て息を呑む。

 くそ。傷が深い。内臓まで届いてる可能性があるな。

 

「わかった。俺の連れがグリフォンを抑えている。俺の名はアルス。……この人は俺が応急処置をする。だが、あいつを一人で戦わせるのは不安だ。あちらに合流してくれ!」

 

 ヴァレリーさんは一瞬、俺を値踏みするように見た。だが、助けに入ったのは事実だ。彼は迷いを捨てる。

 

「承知した! 行くぞ、フェリス!」

 

 ヴァレリーさんが声をかけると、深くフードを被り、外套を羽織った人物が、両手の短剣の切っ先を低く落とす独特の構えのまま、無言で頷く。

 二人はそのまま、戦闘中のルナリアのもとへ駆け出した。

 

「そこの商人! グリフォンは知性がある。そんなところに突っ立っていたら危険だ! 馬車に入れ!」

 

 俺の叱咤に、商人は腰を抜かしそうになりながらも必死に頷く。

 

「は、はい! あなたがたにも報酬は必ずお支払いします、何卒……!」

「そんな話は生き延びてからだ。早く!」

 

 商人が馬車に転がり込んだのを確認し、俺は重傷者に回復魔法をかける。

 うっすらと白い光が溢れ、傷口を癒していく。

よし、これで即死は免れるだろう。

 

(ルナリアは今、俺がいなければ判断力が落ちる。俺も急いで合流しないと)

 

 応急処置を終えた瞬間、俺は鋼の音と獣の咆哮がぶつかり合う戦場へ飛び込んだ。

 

 

# Griffon_Clash:

 

 轟音が響く戦場へ駆け寄りながら、俺は周囲を見渡す。

 グリフォンはルナリアを狙い、巨大な鉤爪で執拗に攻撃を繰り返していた。

 巨体からは想像もつかない機敏な動きで飛翔と着地を繰り返し、ルナリアの魔法も決定打には至っていないようだ。

 

 ヴァレリーさんは剣を、フェリスさんは短剣を構え、隙を窺っているが、あの巨体の一撃を食らえば命はない。

 二人は完全に攻めあぐねていた。

 

「ヴァレリーさん、それからフェリスさん! 今から支援魔法をかける。属性は物理耐性向上、および速度上昇だ。急激な肉体の変化に気をつけてくれ!」

 

 俺は神器を装った星切を抜き、左腕を彼らへ向けると、魔法をかける直前に鋭く声をかけた。

 ルナリアは慣れているが、初めて受ける者は、突然の身体能力の向上に感覚が追いつかず、逆に危ないからだ。

 

「承知した! 頼む!」

 

 俺は二人に支援魔法をかける。

 彼らの体を一瞬だけ白い光が包み込み、粒子となって溶けるように消えた。

 

「こ、これは……っ。何だ、この力は……!?」

「……っ」

 

 ヴァレリーさんが己の肉体に溢れる力を実感し、驚愕の声を漏らす。

 フェリスさんという人は無口だな……。

 

「防御結界も張る! グリフォンの攻撃でも一、二発は防げるはずだ。俺は連れの援護に行く。落ち着いて動けるようになったら、魔物の敵視を散らしてくれ!」

 

 二人に防御結界を張り、地を蹴ってルナリアの元へ向かって駆ける。

 背後で、薄い光に覆われた二人が唖然と立ち尽くす気配がする。

 

「い、今、詠唱なしで魔法を行使しなかったか……? いや、まずはあれを倒さねば。俺たちも仕事をするぞ、フェリス!」

「……ああ」

 

 二人の戦意が再び燃え上がるのを感じながら、俺は前方の激闘へと意識を集中させた。

 

 ルナリアは赤く炎がゆらめく剣を縦横無尽に振るい、戦場を赤く染めていた。

 横へ一閃、その勢いのまま旋回して炎の槍を撃ち出すが、着弾して怯んだグリフォンは飛翔し、紙一重で彼女の追撃をかわす。

 俺は足を緩めることなくルナリアのもとへ駆け寄り、声を張り上げた。

 

「ルナリア、待たせた! 一度距離を取ってこちらへ戻れ!」

 

 俺の声が届いた瞬間、彼女の剣に宿る炎が爆発的に勢いを増した。

 彼女は迷いなく跳び上がり、グリフォンの巨大な前脚を鋭く斬りつける。

 熱波に焼かれたグリフォンは、たまらず大きく羽ばたく。

 その隙に彼女は跳んで距離を取った。

 

「アルス! わたし、きちんと時間、稼いでるよ……っ!」

 

 俺の姿を認めた瞬間、ルナリアの瞳に、潤んだような熱が宿った。

 彼女は目前の敵から視線を外し、俺の方へと駆け寄ってきた。

 踏み込むたびに短いスカートの裾が持ち上がり、剥き出しの太ももが沈みかけている夕日にさらされる。

 彼女はそのまま、距離を測り損ねたかのような勢いで俺の胸元へと飛び込んできた。

 

「はぁ、はぁ……っ。……ねえ、見ててくれた?」

 

 息がかかるような距離で、バトルドレス越しに、彼女の胸が俺の身体へ押し当てられる。

 薄布一枚隔てただけの彼女の身体は驚くほど柔らかく、激しい鼓動が俺の肌へと伝わってきた。

 激しく動き回ったあとの汗の匂いと、石鹸の香りが、甘く混じり合い、彼女の存在感を、俺の鼻腔に叩きつける。

 

 俺は目前のグリフォンから視線を外さぬまま、本能へ傾きかけた意識を無理やり理性へと引き戻した。

 

「ああ、しっかり見ていた。さすがだ」

 

 ルナリアの甘い匂いを感じながらも、俺は意識を研ぎ澄ませる。

 精神をただ一つの目的へと絞り込む。

 

――ルナリアを勝利させる。俺とこいつなら最強だ。

 

 研ぎ澄まされた意志に応じるように、周囲に神威を感じさせる光が満ち、天から荘厳な讃美歌が静かに降り注ぐ。

 

[ System : Universal_Truth_Loading... 1%... 5%... 10% ]

[ System : Universal_Truth_Load 10% Reached ]

 

 密着したままのルナリアに支援魔法を流し込みつつ、短く指示を飛ばした。

 

「ルナリア、まだだ。敵を警戒しろ。階位を上げた支援魔法をかける。属性は速度上昇。回避を優先して戦闘を続行。グリフォンは魔法を使うからな、気をつけろ」

「……んくっ! あ、あぁっ……! 熱いのが、なかに……っ」

 

 支援魔法が与える甘い快感に、ルナリアは弓なりに背を逸らす。

 潤んだ赤い瞳に熱が宿り、その潤いのある唇からは、湿った吐息が溢れ出した。

 

「はぁっ……。……う、うん。分かった。任せて……っ!」

 

 ルナリアの瞳は熱い光を宿したまま、どろどろとした熱を戦士の熱へと変化させる。

 直後、周囲の大気がグリフォンの巨体へと引きずり込まれるように収束し、凄まじい風の渦が巻き起こるのを感じた。

 

(……やばい!)

 

「グリフォンの魔法だ! ルナリア、俺を抱えて回避!!」

「うんっ! ぎゅっ、て……してて!」

 

 その瞬間、彼女は左手だけで、俺の腰を強引に引き寄せ、飛ぶように跳躍した。

 俺は反射的に片腕をルナリアの首へ回し、抱きつくように身体を固定する。

 同時に左手をかざし、防御結界を自分たちへ急いで張った。

 彼女の胸の柔らかさを、俺の下腹が感じているが、今はそれどころじゃない。

 

 次の瞬間、つい先ほどまで俺たちがいた空間を、凄まじい勢いで風の刃が走り抜けた。

 斬撃音を響かせながら幾重にも大気を裂き、平原の大地に無数の痕を刻んで彼方へと飛び去っていく。

 

[ System : Lunaria Reason_Gauge -10 ]

 

 俺はルナリアに抱えられたまま、彼女に礼を言う。

 

「ルナリア、ありがとう。助かった……」

 

 凄まじい脚力で距離を取って着地したルナリアが、俺をそっと地面に下ろす。

 

「だ、大丈夫……? ……怪我は、ない? 痛いところ、ない……?」

 

 心配そうな顔で、ルナリアの白い指先が、俺の体をくまなく撫で回す。

 急がなければならない。ルナリアの理性がもはや限界だ。

 支援込みのルナリアの奥義なら一撃だろうが、あの動きでは当たるかどうかが賭けになってしまう。

 そんな折、俺の支援魔法に体が慣れてきたらしいヴァレリーさんたちが、グリフォンへの反撃を開始するのが見えた。

 

 ヴァレリーさんが鋭い剣術で敵の注意を引き、フェリスさんが双剣での追撃と離脱を高速で繰り返している。

 俺はその連携を見極め、戦場に声を張り上げた。

 

「ヴァレリーさん! 大技を使う! なんとかグリフォンを固定できないか!」

 

 俺の声に応じ、ヴァレリーさんがフェリスさんへ短く指示を飛ばすのが見える。

 攻撃をいなしながら、必死の形相で返答が戻ってきた。

 

「わ、わかった! くっ……任せてくれ! なんとか固定する、少し待ってくれ!」

「頼んだ!」

 

 フェリスさんが、指示を受けて戦場から少し離れた位置へ駆けていくのが見えた。

 

 俺は即座にローディングへ意識を切り替える。

 ヴァレリーさんたちが敵を固定する瞬間には、ルナリアの奥義準備が完了していなければならない。

 

 精神を研ぎ澄ませると、周囲の喧騒が遠のき、静寂が訪れる。

 俺を照らす光は神威を帯び、天からは静かな讃美歌が厳かに降り注ぎ始めた。

 

[ System : Universal_Truth_Loading... 5%... 10%... 15% ]

 

「ルナリア! おい、命令だ! きちんと立て。俺たちの敵を倒すぞ」

 

 手つきが徐々に淫靡なものに変わり始めていたルナリアだったが、俺の命令を聞くや、彼女は即座に姿勢を正した。

 赤紅色の瞳は熱を帯びたまま揺れ、焦点を結びきれていない。

 唇は吐息を零すようにわずかに開いたままだ。

 だが、それでも、ルナリアは俺の魔法剣士だ。

 

「……は、はい! ごしゅ……。アルス! なんでも燃やすし、なんだって斬り裂くよ!」

 

[ System : Universal_Truth_Load 20% Reached ]

 

 俺はルナリアへ、魔法攻撃力強化の支援魔法を流し込む。

 

「あの人たちがグリフォンを固定する。奥義準備に入ってそれを待て。絶対に外すな!」

 

「……んぁっ! あ、あぁっ……! ……あいつを、倒すんだね……っ。……任せて!! 絶対に外さない!!」

 

 魔力の奔流に突き上げられ、ルナリアはなまめかしい吐息を漏らしながらも、潤んだ赤い瞳に決意の炎を宿す。

 彼女はアストライアの剣を両手でしっかりと握り、胸元で正眼に構えた。

 その切っ先は迷いなく、真っ直ぐと天を指していた。

 

[ System : Universal_Truth_Loading... 10%... 15%... 20% ]

 

 膨れ上がる熱量が、彼女の身体を紅蓮の炎で包み込んでいく。

 俺はその奥底から響いてくる、地を這うようなかすかな竜の唸り声を聞きながら、戦場の変化へ意識を研ぎ澄ませた。

 

[ System : Universal_Truth_Load 30% Reached ]

 

 視線の先では、フェリスさんがいつの間にか地面に何かを仕込み終えている。

 そしてヴァレリーさんが、その地点へ誘い込むようにグリフォンの前を走り、巧みに位置を調整していた。

 

 なるほど。スカウトの罠か。

 

 次の瞬間、グリフォンの前脚が仕掛けを踏み抜いた。

 乾いた破裂音とともに地面から太い拘束網が跳ね上がり、獣の巨体へ一気に絡みつく。

 翼を広げて逃れようとしたグリフォンは、脚と胴をまとめて絡め取られ、その場へ強引に縫い止められた。

 

(あの人、凄いな。上級魔物を固定するなんて、相当な斥候技能を持つスカウトだ)

 

 拘束網の色は……銀か。あれなら、さっきの風魔法にも耐えきるだろう。

 

「ルナリア、今だ!!」

 

 俺の命令を聞き、彼女の瞳が悦びに満ちる。

直後、彼女の身体を包んでいた紅蓮の炎が爆ぜ、直視できないほどの光を放つ。

 ルナリアは重力を無視した凄まじい跳躍で、夜空へと舞い上がる。

 

 中空で切っ先を一度下に向けた後、その刃が赤い半円の軌跡を描く。

 

 アストライアの剣が天を突き刺した。

 

 上空、最高到達点で、ルナリアが吠える。

 

「――アストライア・フレイムインカーネイトッ!!」

 

[ System : Astraea / Flame Incarnate Dragon, Manifest! ]

[ System : Lunaria Reason_Gauge -10 / Total Limit Reached / Next Turn: Tempest_Explosion ]

 

 天を焦がす炎は、さらに輝きを増し、夜空を埋めるように広がっていく。

 荒れ狂う赫い業火は、意思を持つかのように一気に収束し、紅蓮の竜の姿をとる。

彼女の瞳の中の星が、強くキラメキを放った。

 

 そのまま、燃え盛る竜と化したルナリアが、身悶えするグリフォンへ紅蓮の斬撃を振り下ろしていく……。

 

 その瞬間、罠の中からルナリアへ視線を移していたグリフォンが、俺たちには理解のできない言語を発した。

 

「I, a nameless seeker of freedom unbound, manifest the absolute blade that rends all in my path.」

 

「まずい、大魔法が来る! はなれろっ! ヴァレリー! フェリス!」

 

「Blade of Unbound Freedom !!」

 

 すでに星が見え始めた夜空。

 

 その星空に浮かぶアズールが青く光った。

 

 先程、俺たちに向けて放たれた風魔法とは在り方から異なる、全てを斬り裂く青い刃が、グリフォンの周囲で爆ぜるように弾けた。

 その刃は強固な銀の拘束網を斬り裂き、ルナリアを警戒したグリフォンは上空へと逃れ始めた。

 

 駄目だ。くそっ、このままではルナリアの奥義が空を切る。次善の策を練るべきか……。

 

(……いや。あいつは外さないと言った)

 

 なら、俺のやるべきことは、あいつの言葉を現実にしてやることだ。

 俺は、上空で落下に転じようとするルナリアの真下へと地を蹴って駆ける。

 

「ルナリア! 足元に防御結界を張る! それを使って……跳べ!!」

 

 炎の竜の化身と化したルナリアは、落下しながらもグリフォンを射貫くような強い視線で見据えたまま、空中で優雅に身を横へひるがえして一回転する。

 

(……あぁ、アルス。わたしのご主人様……。きみの命令がわたしの全て……)

 

 俺は彼女の回転する動きを、合図だと瞬時に理解し、射程ぎりぎりの上空に、足場となる防御結界を顕現させた。

 

(……きみは絶対に外すなと言った)

 

 刹那、ルナリアは信じられない身体能力でその防御結界を蹴り、再び天へと跳ね上がる。

 

「……そして、わたしは絶対に外さないって言ったの!!」

 

 ルナリアは巨大な紅蓮の竜となって、凄まじい速度で逃げるグリフォンへ肉薄し、そして頭上を奪う。

 炎を従えた彼女が、アストライアの剣を上段からグリフォンへ一直線に振り下ろした。

 

 重い咆哮とともに、解き放たれた紅蓮の竜のあぎとはグリフォンの巨体を呑み込み、鼓膜を震わせる轟音とともに夜空を真っ赤に染め上げた。

 

[ System : Lunaria Reason_Gauge 0 / Tempest_Explosion Triggered ]

 

 

# COORDINATE 0014 END

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