世界樹と星空の女神 ~無自覚美少女は最強魔法剣士。彼女の愛が重すぎるが、それでも俺は冒険者!~   作:Soularti

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[COORDINATE 0027] Leaving Lyon

# Ars_Meets_a_Dog:

 

 三人それぞれの準備が整い、大まかな経路や必要な物資の確認も終えた。

 俺たちはいよいよ、首都ヴァレリオンを目指してリヨンの街を発つ。

 

 残念ながら、ヴァレリーさんとマルクさんは、仕事で近くの村へ出ていたため、出発前の挨拶はできなかった。

 冒険者にはよくあることだ。まあ、仕方ない。

 互いに生きていれば、またどこかで会えるだろう。

 

 ガストンさんは商会に滞在していたため、無事に挨拶を済ませることができた。

 その際、彼からいくつか他の街でのお使いを頼まれた。

 リヨンではかなり世話になった。

 共和国に滞在している間は、この先も世話になることがあるだろう。

 今後の打算もあるが、それ以上に恩義を感じていた俺は、その頼みを快く請け負った。

 

 

——リヨンを発ってから数日。

 

 トゥラン高原の街道を、俺たちの乗る馬車がゴトゴトと車輪の音を立てながら、のんびり進んでいく。

 道中、何度か遭遇した魔物を討伐しつつ、俺たちは気ままな旅を続けていた。

 

 草原を吹き抜ける高原特有の冷たい風が、火照った体を心地よく冷やしてくれる。

 

 俺は牛魔の迷宮での反省を踏まえ、移動中は持久力を上げるべく、馬車の外で走ることにした。

 

 荷物を積んだ馬車は、俺がゆっくり走るのとちょうど同じくらいの速さで進むので、長時間並走するのは絶好の訓練になった。

 

 俺はいつもの裾の長い神官服を脱ぎ、白いシャツに黒いズボンだけの軽装になっている。

 

 とはいえ、もうかれこれ二時間は走り続けている。

 じんわりと脚に疲労が蓄積していた。

 この負荷が、次の冒険で俺が全力で走れる距離を伸ばしてくれる。

 そう思いながら呼吸を整え、速度を一定に保つよう意識しながら走る。

 

 御者席では、手綱を握るフェリスの隣で、ルナリアが身を乗り出して俺を応援してくれている。

 

「がんばれ、アルス! まだまだいけるよ!」

 

 俺が息を整えながら、ルナリアに尋ねる。

 

「すぅ……。はぁ……なあ、ルナリア。ガストン商会の支部がある街を経由しつつ進むんだよな? 途中、分かれ道があったけど、こっちで合ってるか?」

 

 ルナリアは俺の呼びかけに応えて、御者席のへりに身を乗り出してきた。

 

「うん。道は合ってるよ」

 

 手すりに押しつけられた彼女の柔らかく豊かな胸が、濃紺のバトルドレス越しにむにゅりと形を変えている。

 薄い布一枚に包まれただけのそれは、馬車の揺れに合わせて、ふにゅっ、ふにゅっ、とやわらかく揺れていた。

 

 俺は走る活力を取り戻す。やはりおっぱいだな。まだ走れる。

 彼女は、自分のその色気に無自覚なまま続ける。

 

「主流の街道から外れていて、戦士業が滞りがちな街をいくつか経由してほしいって言われてたよね。この先の街がそうだよ」

 

 俺は額から垂れてくる汗が気になって、明るい茶色の髪を軽くかき上げる。

 ちらりと馬車の御者席を見やる。

 

 セミロングの金糸の髪を風に揺らすルナリアと、長い水色の髪を外套の中へ流し込むフェリスが目に入った。

 二人の髪が、頭上から降る陽光を受けてきらきらと輝いている。

 

「すぅ……。はぁ……。そうか。合ってるならいい。フェリス、まっすぐ首都に行けなくて悪いな」

 

 フェリスは、透き通るような凛とした声で答える。

 

「……ん? ……いや、構わない。お前たちと固定で移動するなら、他の集団を転々としながら首都を目指すより早い」

 

 彼女は涼やかな目元のまま、進行方向へ視線を向けて続ける。

 

「……しかし、あの鎧ワームの仲介料。喧嘩の件の埋め合わせなど、あれで十分だろう? お前は変に義理堅いな」

「ふふーん。フェリスちゃん、まだまだだね。アルスはただ、いろんな街を見て回って冒険したいだけだよ」

 

 得意げにそう言うルナリアを、フェリスはちらりと見やり、眉根をわずかに上げて薄く笑う。

 

「……なるほど。さすがだ。……アルスのことばかり見ているだけのことはあるな」

「な、なんかフェリスちゃん、今の言い方はちょっといやらしいよ!」

 

 御者席では、二人がなんだかんだと言い合いながらも、どこか仲が良さそうだった。

 なんか、すっかり仲良くなってるな。

 ……ちょっとだけ妬ける。

 

「すぅ……。はぁ……。冒険は、楽しいだろ」

 

 俺は再び前を向き、呼吸を整える。喋ると、どうしても走る速度が乱れる。

 額から流れた汗はもう手では拭いきれず、滲んだ視界がひどく鬱陶しい。

 

「ちょっと、汗を拭く布を投げて――」

 

 俺が言い終わるより早く、ルナリアが走る馬車の御者席からひょいと宙へ躍り出た。

 重力を無視したような、ふわりとした一回転。

 音もなく俺の真横へ降り立った彼女は、俺の走る速さにぴたりと歩調を合わせながら、手にした柔らかな布で器用に顔の汗を拭き取ってくる。

 

「はい。これで綺麗になったよ。お水もいる?」

「ああ。少しでいい」

 

 至近距離に寄った彼女から、ふわりと石鹸のような甘い香りが漂った。

 

「ちょっと待っててね!」

 

 ルナリアは再び地を蹴り、中空でくるんと後転してから、そっと馬車の荷台へ舞い戻る。

 彼女の純白のスカートから、白いニーハイの上に覗く太ももが一瞬視界に入り、俺は視線を持っていかれそうになる。

 中でがちゃがちゃと物音がしたかと思うと、水筒を手に、また俺の横へ降りてきた。

 

「はい、どうぞ」

「ありがとう」

 

 俺は前を向いたまま、彼女から片手で無造作に水筒を受け取り、渇いた喉へ流し込む。

 飲みきって水筒を返すと、彼女は満足そうに微笑み、今度は回転せず、飛ぶように跳躍して御者席へ戻っていった。

 

 御者席のフェリスが、深くため息をつくのが聞こえた。

 

「……はぁ。……まあ、いいか」

 

 俺は呼吸を整えつつ、再び前を向いて走る。

 冷たい水分とルナリアの声のおかげで、体はずいぶん楽になった。

 よし、これならまだいける。

 

 俺はしばらくの間、無言で走る。

 

「すぅ……。はぁ……」

 

 チャッチャッチャ。

 

「すぅ……。はぁ……」

 

 チャッチャッチャ。

 

「ワン!」

 

 チャッチャッチャ。

 

 無心で走る。

 

「ワン!」

 

 チャッチャッチャ。

 

 無理だ。

 

 先ほどから気づかないふりをしていたが、俺は諦めて足元を見る。

 そこには、茶色い毛並みの、俺の膝ほどの大きさの犬が、ぴったり並走していた。

 

「わん!」

「ワン!」

 

 熱を逃がすように舌を出しながら、愛想よくこちらを見上げている。

 俺はどこから来たのか聞いてみることにした。

 

「わん! わん! わん!」

「ワン! ワン! ワン!」

 

 俺がその犬と会話しながら走っていると、御者席からフェリスの呆れたような声が降ってきた。

 

「……あいつは、犬と話せるのか?」

「あれは、ふざけてるだけだね」

 

 少し進んだところで、俺は二人に向けて手を上げた。

 馬車をいったん止めさせ、息を整える。

 呼吸が落ち着いたところで、俺は足元の犬に目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。

 

 すっかり懐いて足元にすり寄ってくる茶色い毛並みの犬の背を撫でてやる。

 手入れの行き届いた毛並みは、俺の指をすっと通した。

 

 人懐っこく賢そうな顔をしたその犬は、撫でられて嬉しいのか尻尾を大きく振っている。

 ふむ。俺の髪色とおそろいだな。茶色い毛のやつに悪いやつはいない。

 

 俺は犬とあまり目を合わせすぎないよう気をつけながら、その様子を観察する。

 動物は視線を合わせ続けると負荷を感じて嫌がるのだ。

 まだ新しい首輪だ。

 人にも慣れている。狩猟犬という感じはまったくしない。

 

 となると、この辺りの村の迷い犬か?

 このまま俺たちについてくると、本格的に迷子になるかもしれない。

 

「フェリス、この辺に村はあるか?」

「ああ。……地図によれば、少し外れたところに農村があるはずだ」

 

 まあ、仕方ないな。

 

 その農村まで連れて行ってやるか。ついでに、村の近くで野営させてもらおう。

 俺はそう決めて立ち上がり、ズボンの土埃を叩いて払う。

 犬は大人しく、俺が動くのを待っているようだ。本当に賢い子だな。

 

 その時、犬がびくっとして、俺のそばへ寄るように位置を変えた。

 

 ルナリアが馬車から降りて、こちらへ近づいてきていた。

 彼女も犬を撫でたいのだろう、ゆっくりと中腰になって、じりじりと距離を詰めてくる。

 しかし犬は、ルナリアが近づいてくるたびに、くるりと回るように逃げ、常に俺の足の影へ隠れて、彼女から距離を取ろうとする。

 

「ルナリア、犬が怖がってるからやめなさい」

「アルスにはいつも動物が寄ってくるのに、なんでみんなわたしからは逃げるのかな?」

 

 獣の本能がお前を警戒するからだ。

 うちの愛馬たちも、ルナリアに慣れるまでには結構時間がかかったものだ。

 

 ルナリアはしばし口を尖らせていたが、やがて気を取り直して俺を見上げる。

 

「むぅ……。そうか、きっとみんな、きみが好きなんだね。仕方ないか。その村に向かうんでしょ? 馬車を動かすね」

 

 ルナリアは御者席に乗りっぱなしで固まっていた体を、背伸びしてほぐしながら戻っていく。

 フェリスは特に犬に興味はないのか、地図を見て村の位置を再確認している。

 

「……さっき通り過ぎた、……分かれ道を右だ。あ、いや。こちらからなら左か」

「はーい。ブルー、ブラウン、方向転換だよ」

 

 手綱を握るのがフェリスからルナリアに変わった瞬間、俺たちの愛馬の背筋がぴんと伸び、動きが機敏になる。

 二頭はまるで軍馬のような統率で、無駄のない方向転換をしていた。

 やっぱり、彼らもまだ慣れていないのかもしれない。

 

 俺は足元の犬に目をやる。

 相変わらず愛想のいい顔で俺を見つめている。

 

 俺は御者席の二人には見えないよう、その犬ににっこり笑いかけて元来た道をゆっくり走る。

 すると犬も、軽快な足音を立てながら俺の横に並走し始めた。

 

 

# The_Dog_Called_Leo:

 

 走りっぱなしだったため、分かれ道を過ぎたあたりで、一度休憩を取り、着替える。

 新しい村に入るかもしれないので、上からいつもの神官服も羽織っておく。

 神官服はわりと印象がいいのだ。

 

 俺は馬車には乗らず、景色を見ながらゆっくり歩いている。

 高原の爽やかな青空と風が、さっぱりした体に当たって本当に心地良い。

 

 速度を落とした俺に、犬は少し不満そうだったが、勝手にその辺を駆け回っては、またこちらへ戻ってくる。

 たまに拾った小枝を投げてやると、走って咥えに行き、咥えたあと、遠くから得意げにこちらを見て、その場にぽいっと捨てる。

 

 持ってこないんかい。

 

 やがて、少し盛り上がった傾斜の向こうから、壮大な畑が見えてきた。

 農村という名前から、俺は生まれ故郷にあるような、こじんまりとした畑を想像していた。

 だが、視界に飛び込んできたそれは、なかなか壮観だった。

 

 そろそろ収穫の時期なのだろうか。

 

 見渡す限りの畑に、同じ葉野菜が等間隔にずらりと植えられており、風が吹くたびに緑の波がざわわと揺れる。

 その広い畑の向こうに、数軒の家屋が見えた。

 

「おお、すごいな。お前の村、立派なもんだ」

「ワン! ワンワン!」

 

 答えるように吠える犬が、自慢げにしている気がした。

 

 それから、しばらくゆっくり歩いていると再び犬が不満げに俺の足元を走り回り始めた。

 

「ワン! ワン!」

 

 俺は足元の犬に視線を向けた。

 

「うるさい。俺は歩く。走りたいなら勝手に行け」

「クゥーン」

 

 俺の足元で跳ね回っていた犬が、不満げに鼻を鳴らす。

 

 やがて、風に乗って遠くから、子供の切羽詰まったようなすすり泣く声が聞こえてきた。

 

 俺の周りをぐるぐる走り回っていた犬は、その声を聞いた瞬間、耳をぴんと立て、弾かれたようにそちらへ駆けていく。

 

 俺はひとまず胸を撫で下ろした。

 きっと飼い主だろう。

 思ったより早く見つかってよかった。

 これくらいなら、馬車は分かれ道あたりに止めておいて、俺一人で犬を送り届けてきてもよかったかもしれない。

 ああ、いや駄目だ。今の俺は、ルナリアたちから一人行動を厳しく禁止されているんだった。

 

「じゃあな。もう迷子になるなよ」

 

 俺は遠ざかる犬の茶色い背中に向かってそう声をかけ、馬車へ戻ろうと踵を返した。

 さすがに疲れたな。

 帰りは馬車の荷台でゆっくり休ませてもらおう。

 

 しばらく風に揺れる葉野菜を眺める。

 さて、馬車へ戻ろうかというところで、さっきの犬の鳴き声が、またこちらへ向かって近づいてくるのが聞こえた。

 

 振り返ると、茶色い犬が、走っていった道を戻ってくる姿が見える。

 

 犬は立ち止まって俺を確認し、それから後ろを振り返って短く吠えた。

 少し俺のほうへ駆け寄っては、また後ろを振り返って戻っていく。

 

 まるで、誰かを連れてきたから見てくれと訴えるような動きだった。

 

 その声に呼ばれるようにして、小さな幼い女の子が、てこてこと一生懸命こちらへ走ってくる。

 

「も、もう……。待ってよ、レオ」

 

 レオというのか。その茶色い毛並みに恥じない、勇ましくていい名前だ。

 俺が立ち止まって様子を見ていると、レオが俺の足元まで駆けてきた。

 それから、自慢げに俺を示すように首を振り、追いついた女の子へ向かって一声吠える。

 

「ワン!」

「レオー、どうしたの? どこに行ってた……あ……」

 

 息を切らした女の子が、レオの近くにいる俺を見て、びくっと肩をすくませた。

 俺は彼女を怖がらせないよう、ゆっくりしゃがみ込み、目線を合わせて自己紹介する。

 

「こんにちは。レオが街道で俺たちについて来ちゃってたんだ。迷子になりそうだったからここまで連れてきた」

「え、えと……。こんにちは……。あ、ありがとうございます!」

 

 女の子は勢いよくぺこりとお辞儀をする。俺は彼女に優しく微笑み返した。

 さて、無事に送り届けられたことだし、今度こそ馬車へ戻ろう。

 思っていたより飼い主に会うのが早かった。

 

 もう少し進めそうだし、高原を抜けたあたりで野営かな。

 この後の行動を考えつつ立ち上がろうとしたところで、レオが俺の黒い神官服の裾をくわえ、ぐいぐいと引き止めてきた。

 

 俺は足元のレオを見て言う。

 

「おい、こら。やめろ。これは結構高いんだぞ」

 

 レオは俺が怒ったのを見ると、すぐに口を離した。

 今度は俺を止めるかのように、俺と馬車の間へ走り込んで、じっと俺を見つめる。

 

「レオ。無事にご主人様に会えたんだから、俺はもうお役御免だろう」

「レ、レオ、駄目だよ。こっちへ来なさい」

 

 飼い主の呼びかけにも反応せず、レオは何かを強く訴えるように、俺から視線を外さない。

 うーん。

 犬がここまで目を逸らさないのは珍しいな。

 

 俺はため息をつき、レオのところまで歩み寄ってしゃがみ込み、その背を撫でてやる。

 先ほどまでの使命感を帯びたような顔が、すぐに心地よさそうな犬っころの顔に変わった。

 

 尻尾がぶんぶん揺れている。

 

 しばらく撫でたあと、俺は立ち上がって今度こそ馬車へ戻ろうとする。

だが、レオはまた俺の裾をぱっとくわえた。

 

 その行動に、女の子が慌ててレオを叱る。

 

「こ、こら! 駄目! やめなさい、レオ! ご、ごめんなさい……。いつもはこんなことしないの……」

 

 俺が怒ると思ったのだろうか。

 

 少し慌てて涙目になり始めた女の子に、俺は努めて優しい声で返した。

 

「ああ、いや、気にしないでいいよ。これはあれだ。俺の髪の色を見て、仲間だと思ってるのかもな?」

 

 俺は冗談めかしてそう言い、自分の茶色い髪をゆっくりとかき上げる。

 女の子は不安そうな顔をぱっと明るくさせて、ころころと鈴を転がすように笑った。

 

「ほんとうだ! おそろいだね、レオ!」

 

 なんとか涙を引っ込めることに成功し、俺は少しほっとする。

 女の子はしばらくレオの首筋を撫でていたが、やがて純粋な瞳でこちらを見上げて言った。

 

「あの、わたし、クロエっていいます。お兄ちゃんは?」

 

――その瞬間。

 

 俺の胸に、強い焦燥が走った。足元が不確かになるような、嫌な違和感。

 それと同時に、星空の向こうに帰れない故郷があるかのような、喪失感を伴う郷愁まで込み上げてくる。

 

 俺が突然顔色を変えて固まったのを見て、心配したクロエが小さな手で俺の神官服の裾を握り、声をかけてくれる。

 

「だ、だいじょうぶ?」

 

 ああ、いけない。この子を不安がらせてしまう。

 俺は首を振って今の違和感を追い払う。調子に乗って長時間訓練をしすぎたのかもしれないな。

 

「……ご、ごめん。ちょっとここまで走りすぎちゃってさ、貧血かな? もう大丈夫だ! 俺の名前はアルス。……できれば、アルスって呼んでくれるか?」

「うん! アルス! 大人の男の人を名前で呼ぶの、なんだか恥ずかしいね。てへへ」

 

 クロエはそう言って、後ろに手を組み、もじもじと笑う。

 よかった。この子を泣かせるところだった。

 少し落ち着いた俺は、頭の上で腕を組みながら、クロエを見て尋ねる。

 

「うーん。クロエ、レオは俺に何か用事があるのかね?」

「そうかも! おに……じゃない、アルスと遊びたいんだよ!」

 

 うーん。まあ、仕方ないか。乗りかかった船だ。お前の謎を解いてやろう、レオ。

 

 俺は軽く腰に手を当てて背筋を伸ばし、馬車で待機している二人のほうへ声をかけた。

 

「少しだけ、クロエとレオと散歩してくる」

 

 そう声をかけると、成り行きを見守っていたルナリアとフェリスが、御者席で何やら真剣に相談を始めた。

 もしかして、犬の散歩も一人で行っては駄目なのだろうか。クロエもいるから二人だぞ。

 

 やがて当番が決まったのか、ルナリアが身軽な動作で馬車から降りてくる。

 すると、あんなに人懐っこかったレオが、すすすっとクロエの後ろへ隠れるように逃げ込んだ。

 

「……うーん。やっぱりわたしだと、レオが怖がっちゃうよ。フェリスちゃんのほうがよくない?」

 

 ルナリアが、困ったように苦笑しながら振り返る。

 

「……その子を家まで送るのだろう? エルフ族じゃないほうがいい」

 

 御者席に残ったフェリスが、涼やかで平坦な声で答えた。

 

「はぁ。わかったよ。村の人に会えたら、この辺で一晩野営させてもらうことを伝えておくね」

「……ああ。この規模の畑だ。無断の野営は、不要な警戒心を生む。そうしてくれ」

 

 綺麗な女の人が俺についてこようとしているのを見て、クロエが言う。

 

「くすっ。アルスはもてるんだね!」

「ああ、そうなんだ。あいつら、俺がいないと駄目でさ」

 

 やがてレオが、会話の内容を理解しているかのように村のほうへ走り出す。

 途中、ちらちらと俺たちのほうを確認しながら、好き勝手に駆け回っている。

 

 俺とクロエは、にこやかに談笑しながら、レオの駆けていった村のほうへ向かって歩き出した。

 

 

# COORDINATE 0027 END

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