世界樹と星空の女神 ~無自覚美少女は最強魔法剣士。彼女の愛が重すぎるが、それでも俺は冒険者!~ 作:Soularti
# Hero of the Goddess:
炎の余波が夜風に溶けていく。
俺の目の前で、アストライアの剣を振り抜いた姿勢のまま、ルナリアがゆっくりと振り返った。
周囲を見渡せば、十数体いたスケルトンはすべて灰となって散っていた。
「助かったよ。ありがとう、ルナリア」
俺が地面から身体を起こしながら声をかけた。
彼女は、普段は絶対に見せないような、だらしない笑みをふにゃりと浮かべた。
「えへへ……。よかったぁ。アルス、怪我はない? わたし、ちゃんとアルスのこと、守れたよね?」
ルナリアは燃え盛る剣を下ろし、ふらふらとした足取りでこちらへ近づいてくる。
まだ奥には、ハイ・アンデッドであるリッチが控えている。
なのに、彼女の意識は完全に敵から逸れ、俺だけに向いていた。
その様子は、明らかに異常だった。
「お、おい、ルナリア。まだ敵は……っ」
「ねえ、アルス……。わたしね、きみの言う通りに動くの、すごく、気持ちいいの……。もっと、わたしに命令して?」
俺の言葉を遮るように、彼女は身体を寄せてきた。
先程、肩口が弾け飛んだ濃紺の布地から、彼女の汗ばんだ白い肌が露わになっていた。
激しい呼吸に合わせて、豊かな胸が重力に抗うように大きく上下に揺れる。
布地越しに押し付けられる胸元の先端が、硬く自己主張していた。
俺を捉えて離さない赤い瞳には、どろりとした狂熱が宿っていた。
(これはやばいときのルナリアだ)
少し心臓を高鳴らせつつも、初めてのことではない俺は、なんとか冷静に受け止める。
だが、そんな彼女の甘い狂気に付き合っている暇はなかった。
――直後、ぞくりと背筋に冷たい悪寒が走る。
墓地の奥へ視線を向けると、佇んでいたリッチが枯れ木のような腕を空高く伸ばしていた。
リッチの掲げる手のひらの先には、月であるアズールがあった。
アズールの光が蒼く、強く輝きを増す。
収束していく魔力が、詠唱によって変換され、肌を刺す凍てつくような冷気となっていく。
「I, a nameless seeker of endless life, manifest absolute frost that erases all.」
それは人類に理解できる言語ではなかった。
だが、経験から俺は理解した。あれは魔法の詠唱だ。
それも、魔物がわざわざ詠唱するということは……。
――大魔法だ!
背筋を凍らせるような死の気配。
あの膨大な魔法の奔流をまともに受ければ、俺たちの命なんか一瞬で凍りつく。
(どうする!? ローディングで最大階位まで上げれば防御結界で耐えられるか?)
いや、駄目だ。そんな時間はない。
その瞬間、俺の脳裏に『星空の少女』の姿が、不意に浮かんだ。
「っ! ルナリア、聖水! 聖水を俺とお前にかけろって……ああ、もう! 命令だ! 俺はローディング行使に入る!」
俺は声を張り上げ、ルナリアに命令した。
こういうときのルナリアは命令しないと、敵の脅威よりも俺の顔を眺めることを優先しかねない。
「聖水? ……うんっ。いっぱいかけてあげるね! えへへ」
俺の言葉を聞いた途端、ルナリアは嬉しそうに破顔した。
「いっぱいはいらん! 一本ずつだ!」
だらしなく蕩けた笑顔の彼女へ指示をしつつ、俺は深く息を吐き、精神を極限まで研ぎ澄ませる。
リッチが撃ってくるまでに上げられる階位は四……いや、三が限界か。
言動の端々がやばくなっていようと、ルナリアはルナリアだ。俺は信じる。
命令を終えると、彼女から視線を外した。
月を掴もうとするかのように腕を振り上げるリッチを注視する。
そして、俺は、ローディングの行使へと意識を深く沈めた。
ルナリアは、鞄から聖水の器を取り出し、冷たい聖水を自分には無造作に、俺の身体へは丁寧にかける。
冷たい液体が、熱を持った彼女の肌を濡らした。
濃紺の布地が透けて、豊かな胸にべったりと吸い付いている。
聖水の冷たさと、俺の肌を丁寧に撫でる艶めかしい彼女の指先を感じつつ、集中する。
――キンッ!!
周囲の戦場の喧騒が、嘘のように遠ざかっていく。
俺の周囲に、神威を感じさせる淡く柔らかな光が顕現し始めた。
時の流れが極端に遅くなったかのような深い静寂。
その中に、かすかに天から降り注ぐような静かな讃美歌が響き渡っていく。
[ System : Universal_Truth_Loading... 5%... 10%... 15% ]
深く、高く、星空の向こうに自分が繋がるような。
そこから、何かが自分の中へ流れ込んでくるような。
そんな不思議な全能感が全身を駆け巡る。
「ルナリア! お前は知らんが、俺はリッチの攻撃なんか直撃したら結界張ってても即死だからな! 気合を入れろ! お前の愛で耐えろ!」
口にしてから、いくら焦っているとはいえ、愛はないだろうと俺は思った。
ただ彼女の意識を戦いに引き戻すために、ひねり出した言葉がそれだった。
しかし、その無理やりな言葉は、ルナリアの魂に強烈に響いた。
彼女に残った理性をさらに激しく摩耗させる。
一瞬だけ目を丸くした彼女は、甘くとろけるような熱い吐息を漏らした。
「愛! きみが、わたしの愛を使えって、命令してくれるの……?」
荒い呼吸と共に、彼女の頬が異常な熱を帯びていく。
死線の只中だというのに、彼女の赤い瞳に浮かんでいるのは恐怖ではなく、自身のすべてを捧げるよう明確に求められたことへの恍惚だった。
「うんっ、わかったぁ……っ! きみの命令なら、わたし、いくらでも……っ!」
ルナリアは俺を庇うように素早く前へ出た。
熱に浮かされたようなだらしない表情のまま、銀の剣に爆発的な炎を纏わせる。
彼女の魂に呼応した炎は、先ほどまでよりも激しく燃え盛っていた。
リッチを覆っていた魔力が形をなし、破滅的な魔法の発動を予感させる。
やがて、掲げていた手をゆっくりとこちらに向けたリッチが、理解できない言語を口にした。
「Death Filled Winter !!」
直後、リッチの放った死をもたらす冷気が、津波のように押し寄せてきた。
俺は三段階位でローディングをやめ、その神威の力で魔法の力を強烈に引き上げる。
[ System : Universal_Truth_Loading... 20%... 25%... 30% ]
[ System : Universal_Truth_Load 30% Reached ]
俺は両腕を伸ばし、階位を上げた渾身の防御結界を展開させる。
俺たちの前方へ淡く光る魔法の障壁が現れる。
ルナリアが、燃え盛る銀の剣を上段に構えた。
「んっ! 負けないっ……! きみの命令通り、わたしの全部で、アルスを守るんだからぁっ!!」
凄まじい轟音が、夜の墓地を支配する。
白い結晶を撒き散らしながら、リッチの大魔法が周囲を凍結させていく。
俺の展開した結界が、圧倒的な魔力に押され、徐々にひび割れ始めた。
「くぅぅっ……!!」
やがて結界が破壊された。
魔法の冷気は、多少減衰したようだが、なお激しい勢いで俺たちへ迫る。
ルナリアは、燃え盛る炎の剣を鋭く振り下ろした。
振り下ろされるアストライアの剣を覆う紅蓮の炎が、殺到する死の冷気を相殺していく。
鼓膜が破れそうな衝撃音が響き、熱と冷気がぶつかり合う暴風が吹き荒れる。
ルナリアの防御を越えて、漏れ出した冷気が徐々に俺へ届き始めた。
正面で大魔法に炎の剣を振り下ろしている彼女は、すでに魔法の冷気に晒されている。
だが……聖水の力が、かろうじて俺たちを踏みとどまらせた。
やがて、土煙と魔力の残滓が晴れていく。
(なんとか、凌ぎ切ったか……)
「はぁっ。はぁっ……。アルス、無事、だね……」
二人とも目立った外傷はない。軽傷だ。
だが、防御のために暴風と冷気の余波をまともに受け続けたルナリアの衣服は、酷い有様だった。
ただでさえ肩口が破れていたバトルドレスは、聖水と汗で完全に透け、白い肌にべったりと吸い付いている。
胸元の布地は魔法の衝撃でさらに大きく裂け、豊かな胸の半分以上が、夜の冷たい空気に晒されていた。
短いスカートの裾も焼け焦げ、捲れ上がった布地の下では、白いニーハイとの間から覗く太ももが、これでもかと存在を主張している。
俺は視線を惹きつけるルナリアの危うい姿から目を逸らし、リッチを見やった。
リッチは、自らの大魔法を耐えきった俺たちを警戒したのか、じっとこちらを見据えている。
(なんだ? ……なにかおかしい)
リッチは生前は大魔法使いだったと聞く。
今、動きを止める理由がわからない。
寄る年波に負けてぼけてるのだろうか?
それとも、大魔法の反動で動けないのか?
少し引っかかるが、今は思案に入るべきじゃない。戦いでは躊躇してはいけない。
俺たちにとって、都合の良い隙が生まれたと考えるべきだ。
「ルナリア、合わせろ」
俺はルナリアの鞄から、最後の聖水を引き抜き、不気味に沈黙するリッチの顔面めがけて全力で投擲した。
狙い違わず頭部に直撃し、聖水の器が砕け散った。
高位の魔法使いが作ったのであろう聖なる水が、襤褸布と枯れ骨にぶちまけられる。
じゅううという不快な音と共に、リッチが浄化の力に苦悶の声を上げて大きく仰け反った。
致命傷にはならない。
だが、一瞬の隙ができれば十分だ。
俺は隣に立つルナリアに指示をした。
「ルナリア! 全力であいつを消し飛ばせ!」
俺の命令を聞いたルナリアは、熱を孕んだ甘い吐息を一つ、長く吐き出した。
「ふぁぁ……! えへへ。全力だね。うんっ、アルスの望む通りに……あいつを全部燃やして灰にしてあげるっ」
ルナリアがローディングの動作に入る。
彼女は頬を火照らせ、蕩けるような笑みを浮かべている。
表情は熱に浮かされたまま、構えと姿勢だけが完全に剣士のものとなった。
彼女はアストライアの剣を、両手で力強く握り直す。
脚をわずかに開き、切っ先を立てて正眼に構えた。
彼女は自分の魂を極限まで研ぎ澄まし、星空の彼方へ手を伸ばす。
ルナリアの宝石のような赤い瞳が、星が輝くような光を放つ。
周囲の空気が、強大な生命の余波に震えだした。
地の底から響いてくるのは、低く、長く、途方もなく重たい、静かな紅蓮の竜の唸り声。
[ System : Universal_Truth_Loading... 5%... 10%... 20% ]
銀の剣を覆っていた炎が、徐々にルナリアの全身を包み始める。
その炎は徐々に密度を増し、燃え盛り、どこまでも広がる赫い光となっていく。
炎が起こす熱波が、破れた濃紺の布地を激しく煽り、夜気に晒された柔らかな肌と、はち切れんばかりの胸が艶めかしく揺れる。
[ System : Universal_Truth_Load 30% Reached ]
「――消し飛べっ! アルスの敵!」
彼女は炎を纏う銀の剣を右下へ下ろし、強く大地を踏み込み跳び上がった。
中空の頂点で銀の剣は、赤い半円を描く。
天高く、ルナリアは紅蓮の炎を纏うアストライアの剣を上段に構えた。
彼女を覆い、果てしなく広がっていくかのように見えた光が、彼女のもとへと収束し、紅蓮の竜の姿をとる。
彼女の瞳の中の星が赤いキラメキを発する。
「――アストライア・フレイムインカーネイトッ!!」
[ System : Astraea / Flame Incarnate Dragon, Manifest! ]
[ System : Lunaria Reason_Gauge -20 / Total Limit Reached / Next Turn: Tempest_Explosion ]
竜の咆哮が、夜の墓地へ響き渡る。
放たれた一撃は、もはや剣閃の域を超えていた。
アストライアの剣から解き放たれた赫い竜のあぎとが、仰け反ったリッチの身体を丸ごと喰い破る。
「ギ、ギィィィィィィィィガァ……!!? ……ッガ!」
ハイ・アンデッドの断末魔すら、爆発的な炎の轟音にかき消された。
襤褸布も、枯れ骨も、その存在の全てを焼き尽くす。
紅蓮の竜がリッチという存在を、文字通り塵一つ残さず呑み込み、跡形もなく蒸発させていく。
遅れて発生した衝撃波が周囲へ抜けていき、俺の茶色の髪を激しく揺らした。
リッチが佇んでいた場所には、もはや黒い煤すら残っていなかった。
ただ、高熱で地面は融解し、赤くどろどろに溶けた大地が円形に凹んでいた。
ルナリアが軽やかに着地し、剣を払った。
俺は回復魔法をかけて労うために、彼女のもとへ歩み寄った。
# Lunaria_Core_Drive:
* * *
赤々と融解して凹んだ大地から、赫い炎がゆっくりと夜風に溶けて消えていく。
わたしの隣で、近づいてきたアルスが安堵の吐息を漏らすのがわかった。
「……いやあ、ぎりぎりだったな。ルナリア、よくやってくれた。さすがだ。今、回復するからな」
アルスの甘い声がわたしの身体を突き抜けた。
腰が抜けて、わたしはその場に力なくへたり込んだ。
わたしは、普段どれだけ長時間戦っていても平気だ。なのに今は、肩が大きく上下し、情けないくらい荒い息が漏れる。
今のわたしは、魔法剣士なんかじゃなくて、ただの華奢な女の子にしか見えないだろう。
「リッチのドロップ品か。どんなのだろうな。高かったらいっぱいご馳走が食べられるぞ」
アルスが、地面に座り込むわたしの背中に手を添えて、回復魔法を流し込もうとする。
――彼の手が、わたしの熱を持った肌に触れた、その瞬間だった。
[ System : Lunaria Reason_Gauge 0 / Tempest_Explosion Triggered ]
「あっ……。あ……ぁ……っ」
わたしの身体が、弾かれたようにビクンッと大きく跳ねた。
わたしは刺激に負けて崩れ落ちそうになるのを、そばにいるアルスの服を掴んで耐えた。
指先が痙攣したように、彼の泥だらけの布地をギュッと強く握りしめる。
「んっ……。ねえ、アルス……。わたしたち二人なら最強、だよね……?」
自分でも驚くほど、声にはひどく甘ったるい吐息が混じっていた。
「え? あ、ああ、俺たち二人は最強だ」
アルスは、なにか戸惑っているような声で答えてくる。
「わたし……自分の魅力とか、そういうのは全然わかんないし……。きみが言うえっちがどういう意味なのかも、本当はよくわかってない……」
わたしは、彼の服を掴んだ手に、じわりと力を込める。
アルスの甘い汗の匂いを感じた。それだけで、わたしの背筋はぞくりと泡立った。
「だから……。きみが使いたいように、使ってほしい……」
わたしの魂が言っている……違う、わたし自身が願っている。
わたしのすべてをアルスに縛ってほしい。
「わたしは、きみの剣。……でも、それだけじゃ嫌。わたし自身を、きみのためだけの存在にしてほしい……」
わたしはさらにアルスの顔に近づく。
アルスから目が離せない。瞬きすら忘れて、彼の瞳の奥底を覗き込む。
鼻先が触れ合うほどの至近距離。わたしの異常なほどの熱を帯びた呼気が、彼の唇を直接撫でた。
「わたし……剣の柄みたいに、硬くないよ……? ほら、触ってみて……?」
わたしは、破れた胸元をアルスの視界の真正面へ突き出すようにして、かすかに身をよじりながら彼の手を引いた。
むにゅりと、破れた濃紺のドレスでは覆いきれない胸が、誘うように形を変えて彼の腕に押しつけられた。
「ちゃんと、きみの指示通りに動くし……すごく、柔らかいから……。きみのこと、ちゃんと満足させられると、思うの……」
(ああ……アルス。わたしの、ご主人様)
心の中で、甘く、痺れるような声でアルスをそう呼ぶ。
その響きだけで、わたしの下腹部の奥底が熱く疼き、息が詰まるほどの快感が全身を駆け巡った。
濡れた瞳で、わたしはすべてをアルスに委ねたいと心底願った。
「わたしの価値も……この身体をどう扱うかも……きみに決めてほしい。だから……わたしに、命令して……?」
夜の焦土の真ん中。
アンデッドの残骸と硝煙の匂いが漂う泥濘の上で。
わたしは、自分が何を言っているのかもあやふやなまま、自分の欲求のためだけに動いていた。
彼に支配されたいと、震えるような甘い声で、ひたすらに、ただひたすらに懇願し続けていた。
[ System : Lunaria Core_Drive / Status: Active ]
* * *
夜の焦土の真ん中。
アンデッドの残骸と硝煙の匂いが漂う泥濘の上で。
俺は、ルナリアが何を言っているのかも分からないまま、自身の奥底からせり上がる欲求を必死に抑え込んでいた。
震えるような甘い声で、理性の欠片もなく依存を訴える彼女を、俺はひたすらに宥めることしかできなかった。
おそらく今、銀色の光が俺を助けることはないだろう。だって俺は嬉しいだけなんだから。
しかし、しかしだ。
相手は、普段は清廉潔白で、明るく実直なルナリアだ。
激しい戦いだったせいか、彼女はいつも以上に理性を飛ばしている。そんな状態の彼女に手を出すべきではないだろう。
……ああ、でも柔らかい。
駄目だ。違うだろう、俺は誓ったはずだ。
(ん……? 何に?)
と、とにかくだ。雰囲気に流されてはいけない。俺も多分、変な態度になってしまう。
精一杯の理性を振り絞り、彼女の肩を優しく押し返した。
「……よし。じゃあとりあえず、ここはまだ危ないから村に帰ろう。宿を用意してもらってから、そこでゆっくり話そう」
解決策として、俺は先延ばしすることにした。
俺は自分の黒い神官服を脱ぎ、見えてはいけないところまで透けてしまった彼女の身体に、ばさりとかけた。
ルナリアは一瞬だけ不満げに頬を膨らませたが、俺の神官服に包まれると、その襟元をぎゅっと握りしめて、くんくんと匂いを嗅ぎ始めた。
そんな姿を見せられると、俺の理性も減少するのでやめてほしい。
村長に報告をしているあいだも、ルナリアは俺の腕にぴったりと張りついたまま離れなかった。
村人が俺たちを口々に称える横で、彼女は恍惚とした表情で、俺の肩に頬を擦り寄せ続けている始末だ。
理性が壊れた彼女には、周囲の視線など一切届いていなかった。
そのまま宴会を開き、ご馳走を振る舞ってくれると村長さんが言ってくれた。
しかし、今日はルナリアの参加が厳しい。
宴会は彼女と一緒がよかったので、その旨を、理由は誤魔化しつつ伝えた。
「今日はちょっと、相棒が戦闘の影響で精神が高ぶってまして……明日にしてもらえると助かります」
そうして、俺たちは宿代わりに用意してもらった民家へと引き上げた。
# Good Morning:
小鳥のさえずりと、窓から差し込む爽やかな朝日が、民家の一室を照らしていた。
激戦を終えたあとの穏やかな朝だった。
「……はっ。……え?」
ベッドの上で、わたしは跳ねるように飛び起きた。
わたしの身体からは昨夜の、あのどろどろした熱が嘘のように引いていた。
恐る恐る身体を起こし、わたしは視線を下に向けた。
アルスの神官服を、宝物のように大事そうに抱きしめていた。
さらには、大きく破れてしまったバトルドレスから、胸元のふくらみがあられもなく零れ落ちている自身の姿が目に入る。
どんな顔で、どんな声で、彼に迫っていたのか。わたしは鮮明に覚えていた。
……わたし。
柔らかいから触ってみて、なんて……。
アルスの手に、自分の胸を押し付けて……!
「……なっ!?」
顔が、火傷しそうなほど真っ赤に染まる。
昨夜、彼の腕を自分の胸の谷間に挟み込んだ感触が、鮮烈な印象となって脳内を蹂躙した。
何より恐ろしいのは、あのとき口にした言葉も、支配を望んだあの熱情も、すべてが紛れもない本心だったと理解できてしまうことだった。
「あああ……。あ、アルス……っ! き、昨日、あの、わたし、えっと……っ!!」
がたがたと震える手で寝具を引き寄せ、必死に自分を隠そうとする。
だが、布の隙間から覗く自身の太ももや、何にも遮られることなく揺れる胸が、昨夜のわたしを嫌というほど思い出させた。
「う……うあああっ! こ、殺して……! 今すぐわたしを聖水で清めてから、殺してええ!!」
わたしの叫び声が部屋じゅうに響き渡り、穏やかな朝は一瞬でぶち壊れた。
大好きな彼が、優しい声音で言った。
「ルナリア、落ち着け。俺がお前を殺せるわけがないだろう。……俺の手が折れるどころか、砕け散るわ」
# COORDINATE 0004 END