世界樹と星空の女神 ~無自覚美少女は最強魔法剣士。彼女の愛が重すぎるが、それでも俺は冒険者!~   作:Soularti

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[COORDINATE 0042] Grave Visit and Audience

# Speaking_to_Her_Brother:

 

 丘の上は、街の喧騒から切り離された、日差しを遮るもののない暖かく静かな場所だった。

 涼やかな風が流れるそこは、寂しさを感じさせながらも、どこか静かで澄んでいた。

 

 手入れされた花々や、植えられた樹木の向こう側に、墓石が等間隔に並んでいた。

 振り返ると、首都ヴァレリオンの街並みがよく見えた。

ここで眠る人たちに街を見守ってもらうためなのかもしれない。

 

 俺はこの霊園を作った人の想いを感じた気がした。

 

 しかし、休憩所らしき建物を通り過ぎ、遮られていた霊園の全容が見えてくると、俺は徐々に不機嫌になってきた。

 

 区画が二つに分かれている。

 人族と、それ以外で分けられていたのだ。

 

 ルナリアも同じように思ったのか、目元を細めて黙り込んでいた。

 

 俺たちの雰囲気を感じ取ったのか、前を歩いていたフェリスが振り向いた。

 透き通るような水色の髪が、さらりと肩からこぼれ落ちる。

 

 彼女は俺の表情を見ると、薄い唇にうっすらと笑みを浮かべた。

 

「……アルス、区画が分かれているのは、悪意からではない。……これはむしろ、エルフ族や獣族への配慮だ」

「そうなのか? そうか。ごめん、フェリスのための墓参りなのに、変な空気にしてしまった」

 

 再び、前を向いて歩き始めたフェリスのあとに続く。

 フェリスは前を向いたまま、俺に教えてくれた。

 

「……いい。お前のそういう所は可愛い。……信徒かどうかに関わらず、人族の墓は女神教のものだな?」

 

 確かにそうだ。

 じいちゃんの墓もそうだった。

 

 風に吹かれて、フェリスの真っ直ぐな水色の髪が陽光を反射しながらきらめくように流れた。

 彼女はそれを白く細い指先で押さえながら続けた。

 

「……しかし、エルフ族や獣族は、女神リゼットを嫌っている。……女神は人族しか祝福しないからだ。だからそれぞれ異なる神を立てている」

「ふーん。今度夢で会ったら、けち臭いことするなって文句いっとくよ」

 

 フェリスは、瑠璃色の瞳をこちらへ向けて微笑んだ。

 

「……気にするな。私は、どうでもいいと思っている。……だから、この霊園を作ったやつは、気を使って分けたんだろう。女神教の墓に入りたがる同族は、あまりいない」

 

 霊園の入口の清め場で、俺たちは手を洗った。

 ルナリアは白く小さな手を洗い終えると、備え付けの木桶に水を汲んだ。

 

 彼女が身をかがめるたび、ウェーブがかった髪が肩からさらりとこぼれ、柔らかな線を描く胸元にかかった。

 

 フェリスは道中で買った献花の泥を落としている。

 水に濡れないように、長い髪を外套の中にしまっていた。

 彼女の白く細い指が花の茎を丁寧になぞり泥を落としていた。

 

 俺は霊園の入口を見ながらフェリスになんとなく聞いた。

 

「エルフ族の神様ってどんなのなんだ?」

「……星だ。星の精霊を信仰している。……私は興味はないが、リナルドは熱心な信徒だったよ」

 

 手を清めた俺たちは、フェリスを先頭にして霊園に入った。

 中に入ると、植えられた樹木が風をほどよく遮っていて、静けさが増したような気がした。

 

「……ライオル村で、銅像を見てリナルドを想起したのは、……像の背中に星の精霊の文様があったからだ」

 

「なるほどなあ。ルナリアは知ってたか?」

「うん。養成学校の座学にあったよ。……そういえば、きみは真面目に聞いてなかったね」

 

 そうだったかな。

 俺は当時を思い出したが、あまり記憶に残っていなかった。

 

 俺たちは霊園の中央を通る道を進んだ。

 

 リナルドさんの墓がどこにあるかは、ここへ来るまでの間に聞いてある。

 剣聖の名は有名なようで、道を尋ねた相手もすぐに知っていた。

 一際大きく立派な墓らしく、霊園に着いたら中央を進めばすぐに分かるだろう、とのことだった。

 

 そこで俺たちは会話を打ち切り、静かに歩いた。

 一際大きな墓が見えてきたからだった。

 

 途中、とても綺麗な女性とすれ違った。

 艶やかな茶褐色の髪を肩上ほどで短く切りそろえた、妙齢の女性だった。

 

 目元は鋭く、瞳には強い力があった。

 口元もまた、その気性を示すように固く結ばれていた。

 

 ひと目見たら忘れない、そんな鮮烈な印象を抱かせる人だった。

 

 彼女はすれ違いざま、俺たちへ一瞬だけ視線を向けた。

 表情は動かさないまま、首だけで小さく会釈をすると、すぐに前を見て歩いていった。

 歩調は一定で鋭く、背筋は一度もぶれることなく真っ直ぐだった。

 

 強化版カタリナさんみたいだな。

 

 俺がしょうもないことを思っていると、前を歩いていたフェリスが、気になるように彼女の背中を見ていた。

 

「どうした? フェリス。今の人が気になるのか?」

「……ん。いや、見覚えがあってな。……まあ、気のせいだろう」

 

 俺たちはリナルドさんの墓を見つけた。

 

 立派な墓だった。

 墓標にはしっかりと名前が刻まれており、先ほどの女性が供えたのだろうか、真新しい花が添えられていた。

 墓標には名前とともに、星を散りばめたような文様が彫られている。

 

「なあ、フェリス。エルフ族の信仰に即した祈りはどうすればいいんだ?」

「……ん。……正式な黙祷は、胸の前で手のひらを合わせる。……別に所作など、なんでもいいと思うが」

 

 よくないよ。

 俺とルナリアはそれを聞いて、手のひらを合わせて祈った。

 

(……貴方のお陰で、俺たちはレオの村を助けられた)

 

 その感謝を込めて祈った。

 

 俺が祈りを終えてフェリスを見ると、彼女は静かに目を閉じていた。

 リナルドさんへ話しかけているんだろう。

 

 胸の前で合わせた白い指先は微動だにせず、真っ直ぐな水色の髪だけが秋の風に細く揺れている。

 彼女の横顔はひどく静かで、一雫だけ頬を伝う涙が、陽光を受けてかすかに光っていた。

 

 俺とルナリアはしばらく言葉を交わさず、秋の晴天を見上げていた。

 

 フェリスが墓参りに行こうと思わなければ、俺たちは出会えなかった。

 彼女は星空を見ていて、ふと墓参りに行こうと決めたと言っていたな。

 

 まだまだ俺の知らない神様が、色々なところにいるに違いない。

 

 もっとこの世界を冒険したくなった。

 

 フェリスはやがて祈りを終え、目尻の涙を拭った後、まだ寂しさの残る目元のまま、優しげに俺たちへ声をかけた。

 

「……待たせた。……ありがとう。行こうか」

「もう話はいいのか?」

 

 フェリスはいつものように、慈愛のこもった静かな微笑を浮かべて頷いた。

 俺とルナリアは、フェリスへ笑顔を返して歩き出した。

 フェリスは霊園に入ったときとは違い、帰りは俺たちの一番後ろを歩いていた。

 

 静かな霊園で、俺たちは言葉を交わさず気持ちを共有していた。

 霊園の出入り口で振り返り、俺たちは静かに一礼した。

 

 休憩所に少し寄ろうかと俺は思っていた。

 

 ふと、遠方を見やると抜けるような秋空の下、遥か先まで長く連なる山脈が見えた。

 

 たしか、あれはフレイヤ山脈だ。

 

 鋭く切り立った稜線を持つその巨大な山並みは、大森林とヴァレリオン共和国のあいだを隔てるように横たわっている。

 

 険しく、標高も高い。

 あの山脈があるおかげで、この国は大森林の脅威をいくらか免れているらしかった。

 

 俺が自分の知識と照らし合わせながら風景を見ていると、その山脈にちらりと黒い小さな影が見えた気がした。

 

「ん? あの山脈のあたり、なにか見えないか?」

「あそこ? どっちかな?」

 

 俺はルナリアに、影が見えた方向を指さした。

 

「あの山脈のあたりだ。……いや、もう見えないな。気のせいか」

「うーん。特に気になるものはないかな。鳥じゃないかな?」

 

 ルナリアじゃあるまいし、俺にあんな距離の鳥が見えるわけがない。気のせいだろう。

 

 俺たちは休憩所で喉を潤し、鮮やかな色の南瓜の看板が目立つ宿へ帰った。

 

 

# Audience_with_the_Chancellor:

 

 俺たちは数日の間、統領との面談の日程が決まるのを待っていた。

 

 その間、リュックが一度遊びに来た。

 

 俺たちが泊まっている部屋の豪華さを羨ましがる一方で、自分の宿舎の文句もつらつらと言っていた。

 俺は少し不憫に思い、その夜はわりといい店へ食事に連れて行ってやった。

 

「アルス様! なんですかこれは! さくさくですよ!」

「ヴァレリオン名物なんだろ? 俺に聞かれてもわからないよ。……でも、確かに美味しいな。肉とジャガイモを混ぜて油で揚げてるのか?」

 

 共和国の飲食店や宿で出る料理は、道中で寄った街のものより格段に美味しかった。

 それに、人族限定といった店もかなり少なかった。

 

 どうやらこの国の指導者であるセルナ統領は、熱心な融和派らしい。

 首都はそのお膝元だから公平な店が多いのだろう。

 なのに選挙権はないんだな。

 政治って難しいんだね。

 

 クロードさんは予定外の軍事遠征が入ったらしく、会うことができなかった。

 本当は面談の所作を確認しておきたかったんだが仕方ない。

 

 リュックと食事をした二日後に、セルナ統領との面談の日程が決まった。

 場所は本庁だった。

 俺たちは時間に余裕を持って赴いた。

 

 共和国の首長である統領は、選挙で選ばれる。

 だが、革命の主役ヴィクトリア・セルナの人気はあまりに高く、建国以来、統領が変わったことはない。

 

 俺はその立場を明確に想像はできない。

 だが、統領とは国の指導者であり、セレスティア王国で言えば国王だ。

 

 当然、面談という名目であっても、謁見のようなもので、相手は綺羅びやかな部屋で待っているものだと思っていた。

 

 まず、案内されたのが来客用の応接室だったことに驚いた。

 

 それも三階だ。

 最上階ですらない。

 

 さらには、俺たちが携帯している武器について何の言及もなかった。

 え? 星切を持ったままでいいのか?

 と思っているうちに、俺たちはそのまま部屋へ通された。

 

 案内した軍人に、ここで統領を待つよう丁寧に告げられる。

 彼の顔には見覚えがあった。

 魔族戦の時、あの場にいた気がする。

 

 えぇ……?

 ここ、控室じゃないのか?

 統領自らここに来るのか?

 

 じゃあ俺たちは、ここでどう待っていればいいんだろう。

 俺はどうするのが礼儀正しいのか皆目見当がつかず、ルナリアへ尋ねた。

 

「なあ、どうすればいいと思う? ソファは座ったら駄目だよな」

「う、うん。さすがに座って待つのは良くないと思うよ。うーん、ここで立ってるのが正しいのかな?」

 

 ルナリアも戸惑っていた。

 フェリスは特に気にすることもなく、俺たちの隣に立っていた。

 俺たちに合わせているだけで、本人は気にしていないのが伝わってきた。

 

「とりあえず、このまま待ってるか」

 

 俺は悩むのをやめて周囲を見回した。

 落ち着いて見てみると、応接室とは言うが飾り気は一切ない。

 申し訳程度に植木がいくつか置かれており、壁面は書籍で埋め尽くされている。

 

 ただ、壁の一面が大きな窓になっていて、陽光を取り込んだ部屋は明るく開放感があった。

 俺たちが起立したまま待っていると、廊下からつかつかという靴音が聞こえてきた。

 

 応接室の戸が開いた。

 

 先ほど案内してくれた軍人が戸を押さえ、その向こうから、背筋を真っ直ぐ伸ばした毅然とした女性が入ってくる。

 さらにその後ろから、目付きの鋭い戦士らしき人物が二人続いて入ってきた。

 護衛らしきその二人は、一人が獣族で、もう一人は人族だった。

 

「ご苦労。貴君は業務に戻れ」

 

 彼女にそう言われ、戸を開けた軍人は静かに退室した。

 

 鋭い目元のまま俺たちを見渡し、最後に俺へ目を向けた。

 俺の装いを見て、ほんの少しだけ眉尻が上がった気がした。

 だがそれはすぐに消え、引き締まった声で端的に話を切り出した。

 

「君たちがクロードの推薦した者たちだな。私が現在の共和国統領ヴィクトリア・セルナだ。着席してくれてよい」

「お初にお目にかかります。武装請負業を生業にしています、アルスです」

 

 一歩後ろに控えていたルナリアとフェリスが、俺の挨拶に続き礼をした。

 セルナ統領は俺たちの挨拶を聞くと、薄く笑みを返して自らの椅子の前まで進んだ。

 

 そのまま、俺たちを見ている。

 

 え、俺たちが先に座るのか?

 いいのか?

 

 ま、まあ、そう言うならいいか……。

 

 俺たちが着席すると、ほぼ同時にセルナ統領も腰を下ろした。

 その様子を見届けると、護衛の一人が静かに退出した。

 

「今、護衛の者に茶を持ってこさせている。待たせて悪いな。君たちの勇者候補認定に関しては、クロードの頼みにより余人を交えず話をすることにした」

「いえ、お気遣いありがとうございます。クロード閣下には、色々とご配慮いただいているようで助かります」

 

 セルナ統領は、四十に届くかどうかという年頃に見えた。

 だが、肌には張りがあり、肩の上で短く切り揃えられた茶褐色の髪は、陽光を受けて艶やかにきらめいていた。

 

 鋭い目元に宿る意志の力は、凄まじいものを感じさせた。

 身に纏うのは、これまで見た国軍の軍人たちの中でも、ひときわ豪奢な軍服だ。

 だが、それすら彼女の力強さの前では添え物に思える。

 

 見るだけで英雄だと思える人物を、俺は初めて見た。

 

 ……いや、初めてじゃないぞ。

 この人、霊園ですれ違った女性じゃないか?

 

 間違いない。

 こんな空気を纏う人が、そう何人もいるはずない。

 

 ふと、フェリスの様子に違和感を覚えた。

 気になってちらりと彼女を見ると、フェリスは俺たちにしかわからない程度に戸惑いを浮かべていた。

 

 俺たちの戸惑いをよそに、セルナ統領はまず、前置きとして俺たちへ礼を述べた。

 

「まずは、君たちのノワール砦奪還への助力に感謝する。クロードによれば、君たちがいなければ全滅もありえたそうだな」

「いえ、あの場の全員で協力した結果だと思っています」

 

 これは謙遜ではなく、本音だった。

 

「興味深い報告書だった。君たちの英雄然とした戦果はもちろん、あの偏屈なクロードが、死傷者なしの理由を女神様の加護と記していた」

「謙遜ですよね。クロード閣下の采配は見事でした」

 

 セルナ統領は、目元に一切の笑いを浮かべないまま口元だけで笑みをつくった。

 

「そうか。それならそれでいい。軍総司令でもある私にとっても誇らしい言葉だ」

 

 俺たちのやり取りの後、退出していた護衛の人が茶を淹れて戻ってきた。

 茶がテーブルに配られた後、それを合図にセルナ統領が告げた。

 

「では、共和国選出の勇者候補の面談を始める」

「はい。よろしくお願いします」

 

 それからいくつかの質問をされた。

 

 自分の後ろに守るべき存在がいるが、勝利が難しい場合はどうするか。

 窮地に陥った老人と宝箱の、まずどちらに駆け寄るか。

 

 倫理観を試すような質問が十個ほど続いた。

 あまりに答えてほしい方向性が見え透いていたので、俺は途中で機転を利かせて面白い回答をしてやろうかと思った。

 だが、俺の態度を見てセルナ統領が目で釘を刺してきた。

 

 質問をすべて終えると、セルナ統領は書面にペンを走らせ、後ろの護衛へ手渡した。

 

「ご苦労。面談は終了だ。私の審査は合格とする。おめでとう。君はこれで共和国公認の勇者候補だ」

「え? もう終わりですか?」

 

 茶で喉を潤してからセルナ統領は答えた。

 

「ああ。私はクロードを信用している。私の面談など本当は必要なかった。まあ、クロードを誑かした君の顔は見たかったから、無駄ではなかった」

「そ、そうですか。ありがとうございます」

 

 セルナ統領は自分の腕へ視線を落とした。

 小さな機械の中で針が動いていた。

 おお、あれ時計なのか……凄いな。

 

「まだ時間はあるな。私からいくつか質問がある。審査とは関係ないので、忌憚なく答えよ」

「はい。もちろんです」

 

 俺を見て、セルナ統領は質問した。

 

「君は勇者候補になったわけだが、この後ろ盾をどう使うのかね? 共和国で特級の武装請負業を目指すか? それとも王国へ帰ってS級冒険者になるのか?」

「そうですね。まずは、マアト温泉街の高級宿を勇者の名のもとに、こき下ろしたいと思っています」

 

 俺は忌憚なくと言われたので、本当に思っていることをそのまま口にした。

 彼女は一瞬固まったが、すぐに鋭い目つきのまま俺へ言葉を返す。

 

「確か君はガストン商会に関わりがあったな。商売敵を潰したいということか? 意外と俗物だな。まあ、好きにすればいいが」

「ああ、いえ違います。ここへの旅の途中で寄ったんですが、人族以外は駄目だと言われて、宿泊できなかったんですよ」

 

 セルナ統領はフェリスへ視線をやり、後ろの護衛を見やった。

 

「宿泊拒否? おい、ベルナール。どうなっている」

「はっ。統領閣下。共和国法典では禁じられている行為でありますが、いまだ地方ではそういった風習が根強く残っております」

 

 少し表情に棘が増したセルナ統領は続けた。

 

「具体的に言え。マアト周辺の街は度々視察を入れているはずだ。あそこには資源採掘のための軍事施設もあるのだ。地方ではない」

「……マアトの宿場町は、旧貴族階級の利用が多い土地です。法では禁じられておりますが、現地では慣習を理由に事実上黙認されているものと思われます」

 

 セルナ統領は表情を元に戻し、彼へ答えた。

 

「そうか。お前が直接指導し、実態がそうであるならすべて接収しろ」

「し、しかし、あそこは多くの資産家が出資している施設です。強引に事を運べば、足をすくわれます」

 

 セルナ統領はそれを聞き、しばし思案に入った。

 ただ強引なだけじゃなく、結果を出すために最善を尽くす人物なんだろうな。

 

 俺はベルナールさんが少しかわいそうだったので、助け舟を出すことにした。

 

「やはり、ここは勇者の名のもとに、ぼろくそに喧伝するのがいいのではないでしょうか」

 

 セルナ統領は俺に向き直り、薄く笑みを浮かべた。初めて瞳に喜色が浮かんだ気がした。

 

「よし。ではそうしよう。アルスだったな。その件は任せておけ。君の名前を使うぞ」

「はい。よろしくお願いします」

 

 少し穏やかになった彼女は続けた。

 

「少し君個人に興味が湧いた。君はセレスティア王国の王子に身分を保証されているな。何故わざわざ旅をしている?」

 

 セルナ統領の人物像は、俺の好みど真ん中だ。

 それを理解しているルナリアは、統領の発言を聞いて雰囲気を変えた。

 

 俺はルナリアへ視線を向けて、にこりと笑っておく。

 ルナリアはもじもじし始めた。

 よし、これでしばらくは大丈夫だ。

 

 一安心して、俺は少し考えた。

 

 今の目的は世界樹へ至ることだ。

 そのために賢者の迷宮へ行きたい。

 共和国にも確かあったはずだが、これをそのまま話していいのだろうか。

 

 俺は少しぼかして話してみることにした。

 

「僕は世界樹へ行きたいと思っています」

「いい夢だ。勇者としても聞こえがいい。私はさっきの話のほうが好みだが。それで?」

 

 木杯を掴んだまま、俺は探るように話した。

 

「僕はご存知の通り王国の出身です。王国には、世界樹へ至るための試練があるという伝承がありまして」

「なるほど。賢者の迷宮だな。婉曲な言い方は必要ない。王子から聞いたんだな」

 

 俺は拍子抜けして、素直に言ってしまった。

 

「はい。実はそうなんです。賢者の迷宮に行きたいんですが、そのために仲間を探す旅をしていました。もう見つけましたが」

「君は思慮深そうに装っているが、根本が雑だな。王子から聞いたことは否定しておくべきだ。まあいい。聞かなかったことにしよう」

 

 よく俺のことを雑だと言うフェリスをちらりと見て、俺は聞いた。

 

「俺って雑なの?」

「……ん。まあ、可愛くて良いじゃないか」

 

 セルナ統領は俺たちの会話を聞いて、口元に薄く笑みを浮かべて続けた。

 

「私たちは皇帝を打倒して共和国を建国した。ゆえに、皇家が管理していた情報の大半は、すでにこちらで把握している。まだ公開には制限を設けているが、賢者の迷宮の所在もその例外ではない。我が国の勇者候補である以上、その情報に触れる資格はある。行きたければ行くといい」

 

 俺はルナリアに満面の笑みを向けた。

 彼女は窓から差し込む陽光を受け、金糸の髪をきらきらと輝かせながら嬉しそうに頷いてくれる。

 

「本当ですか! やった! ありがとうございます! やったな、ルナリア!」

「うん、うん。よかったね! アルス」

 

 そんな俺たちを見ながら、セルナ統領は言った。

 

「君は本当に勇者になろうとしているのか。傑作だな。良いと思うぞ。クロードも面白い人物を見つけたものだ」

 

 書面を捲って確認しながら、さらに続ける。

 

「君たち二人は王国から一緒なんだな。なぜわざわざ共和国に仲間を探しに来たのかは理解できんが、英雄になる者は時に意味不明なことをするからな」

 

 書面へ目を通し終え、それを置いたあと、セルナ統領はフェリスへ視線を向けた。

 

「君が、我が国で彼らの仲間になったわけか。名はフェリスだったな。戦果報告書に記された内容は素晴らしいものだったが、エルフ族だとは想像していなかった。戦士になるエルフ族は少ないからな。しかし確かに、報告書にある速度を重視した戦闘方法は……」

 

 そこまで言って、セルナ統領は言葉を切った。

彼女はフェリスの顔をまじまじと見た。

 

「……エルフ族のフェリス? 短剣使いのフェリス?」

 

 後ろの護衛も、フェリスの顔を見て目を見開く。

 セルナ統領は、目の前のフェリスから視線を外さないまま、信じ難いものを見るような顔でさらに呟いた。

 

「…………え? 義姉さん?」

 

 フェリスは少し気まずそうに答えた。

 だが声音には少し懐かしさも混じっているようだった。

 

「……やはり、そうか。久しぶりだな、ヴィクトリア」

 

 セルナ統領は目を見開いたまま、ほんのしばらく言葉を失っていた。

 だが、すぐに表情を引き締め、後ろを振り向いてベルナールさんへ視線を向けた。

 

「ベルナール、今晩の予定は全て取り消し、もしくは延期だ。加えて、人目につかない席を用意しておけ。護衛はお前たち二人のみだ」

「い、いえ……お気持ちはわかりますが、すべては厳しいかと。せめて明日に――」

 

 セルナ統領は、有無を言わせない鋭い目つきでその言葉を遮った。

 

「今日だ。いいな」

「はっ。閣下」

 

 そしてフェリスへ視線を戻す。

 

「…………義姉さん。本日夜、時間を作れ。話がある」

「……ん。アルスたちが一緒で、いいならいいぞ」

 

 俺とルナリアは揃って小首をかしげた。

 

 

# COORDINATE 0042 END

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