世界樹と星空の女神 ~無自覚美少女は最強魔法剣士。彼女の愛が重すぎるが、それでも俺は冒険者!~   作:Soularti

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[COORDINATE 0005] Road to the Capital

# Mass_Conservation_Law:

 

 リッチとの鮮烈な死闘から数日後。

 フリージアの街に差し込む陽光は穏やかで、戦いの緊張を忘れさせるほどに平和な空気が流れていた。

 

 俺とルナリアは、少し遅めの昼食をとるべく、行きつけの食堂の暖簾をくぐった。

 

 古びてはいるが、丁寧な清掃の行き届いた店内で、俺たちは食事をしていた。

 

「……ふぅ。やっぱり、ここは安いしうまいよなぁ」

 

 奥の厨房からは、高温の油がぱちぱちと弾ける小気味良い音が、絶え間なく響いてくる。

 俺は湯気を立てる大ぶりの鮭の揚げ物を切り分け、口へと運んだ。

 さくさくと音を立てる衣の軽快な食感のあとに、ふっくらとした白身の濃厚な旨味が口いっぱいに広がる。

 

「わたしも、美味しいし、いっぱい食べられるから大好き。わあ、この鮭の揚げ物、すごく美味しいね!」

 

 向かいの席から、弾むような声が響く。

 すっかり落ち着きを取り戻したルナリアは、美味しいものを食べてご機嫌なのか、にこにこと無邪気な笑顔を向けてきた。

 

「……なあ、ルナリア。お前、いつも俺と同じもの食べてないか?」

 

 ルナリアは、口いっぱいに頬張っていた最後の一切れを飲み込むと、綺麗な布で上品に口元を拭った。

 その動きに合わせて、彼女の金糸の髪がさらりと肩から流れた。

 それから、至極当然のことを聞かれたと言わんばかりに、ぱちぱちと目を瞬かせた。

 

「え? うん、そうだよ?」

 

 彼女は当たり前のように答えると、またもぐもぐと食事を再開する。

 そして時折、嬉しそうにこちらを見ては、こちらが見惚れてしまうような可憐な笑みを向けてきた。

 

(うーん。ま、まあいいか……)

 

 ルナリアの心の奥底にある、ひどく重たい何かを覗き込んだ気がする。

 不用意に掘り下げて先日の痴態を思い出させでもしたら、暴れ出しかねない。

 

 それにしても……彼女は同じものを頼みはするのだが、食べている量は同じではない。いつも俺の倍は食べるのだ。

 

(この食事量は一体、どこに消えてるんだ? ……やっぱりおっぱいか?)

 

 鮭の揚げ物の旨味を味わいながら、俺はルナリアを観察する。

 

 テーブルに身を乗り出した彼女の、濃紺のバトルドレスに包まれた豊かな胸元。

 それが机の縁にぶつかり、ふにゅりと形を変えている。

 下着をつけていないせいか、薄い布地を押し上げる豊かな胸は、彼女が呼吸をするたびに、生々しく揺れ動く。

 

(うーん。やはり、おっぱいだな……)

 

「……あ、アルス。待って。口に食べかす、ついてるよ」

 

 俺が思考を巡らせていると、不意にルナリアが身を乗り出してきた。

 そのまま、細く白い指先で俺の口端をそっと拭う。

 微かに触れた指先の柔らかさと、彼女の体から漂う甘い香りが、至近距離で鼻腔をくすぐった。

 

「……っ。い、いや、自分で拭くから……ありがとう」

「気にしないでいいよ。ほら、取れたよ」

 

 周りの客たちから向けられる、嫉妬と殺気の混じった視線が、俺の背中に痛いほど突き刺さっている。

 ……若干の居心地の悪さは感じるが、まあ、このくらいは慣れたものだ。

 当の彼女は、自身の美貌にも、周囲の空気にもまったく気づいていない。

 

「それにしても、あのリッチの報奨金……本当にすごかったねえ、アルス」

 

 今の行動に特に疑問を持った様子もなく、ルナリアが話題を振ってきた。

 

「そうだな。これなら、王都まで不自由なく行ける」

 

 俺がそう答えると、ルナリアはどこか懐かしむような、それでいて期待に満ちた眼差しで目を細めた。

 

「きみと一緒に行く王都、楽しみだなあ」

 

 それは、俺と行くことに新鮮な喜びを感じているような言葉だった。

 それと同時に、彼女がぐっと身を乗り出した拍子に、テーブルに押し付けられた胸がさらに深く沈み込む。

 俺の視線が自然とそこへ吸い寄せられるが、やはり彼女は無自覚だ。

 

「ん? どうしたの、アルス」

 

 俺が見ていることに気づいた彼女が、不思議そうに首を傾げて覗き込んできた。

 宝石のような澄んだ赤い瞳に見つめられ、俺は少しどきっとしてしまう。

 

「……いや、なんでもない。よく食うなと思ってな」

「あ、あはは……。美味しいと、つい食事が進んじゃって」

 

 少しだけ照れたように笑うと、彼女は最後の一口をきれいに平らげ、食後の熱いお茶を両手で包み込むようにして啜った。

 ふぅ、と満足げな吐息が、微かな甘い匂いを伴ってテーブル越しに届く。

 

「とりあえず、アリシアさんに挨拶しておくか。お世話になったしな」

「うん、そうだね。出発の前に、きちんとお礼を伝えておきたいね」

 

 ルナリアは最後にもう一度、綺麗な布で口元を拭い、立ち上がった。

 その拍子に白いミニスカートの裾がふわりと跳ね上がり、白いニーハイとのあいだから伸びる健康的な太ももがあらわになった。

 だが、やはり彼女は自分の無防備さに気づく様子もなく、俺の隣へと並び、歩き出した。

 

――王都セレスティア。

 

 一体どんなところなんだろうか。

 新しい冒険の予感に、俺は胸を弾ませていた。

 

 

# New_Objective:

 

「え!? 王都の図書館って、Bランクじゃ入れないんですか?」

 

 俺たちの計画は、旅立つ前にいきなり頓挫していた。

 意気揚々とお別れの挨拶をしに来て、ついでに王都での目的を語ったところで、アリシアさんから無情な事実を突きつけられたのだ。

 予想外の言葉に、俺は思わずカウンター越しに聞き返してしまう。

 

「え、ええ。書籍類は大変貴重ですから、入館には必ずそれなりの身分が必要なはずです。

冒険者なら、最低でもAランクがないと厳しいと思いますよ。それに加えて、貴族階級の方や大商人の方など、社会的な信用のある保証人も必要でしょう。……当たり前ではないですか」

 

 アリシアさんが、じっとりとした視線を俺に向け、少し呆れたようにため息をついた。

 その冷ややかな表情は俺の好みから少し外れる。そう、現実逃避しつつも、俺は冷静に考える。

 

 言われてみれば、その通りだ。

 

 本というものは、言ってみれば少し安い宝石が大量に保管されているようなものだ。

 しかも宝石と違って、汚れたら洗って元通り、というわけにもいかない。

 なぜ俺は、そんな場所に一般市民でもふらりと入れると思い込んでいたのだろうか。

 

「うーん……。Aランクはともかく、貴族の知り合いなんかいないぞ……」

 

 俺が腕を組んで唸っていると、隣からちらちらと視線を感じた。

 横目で見ると、ルナリアが何か言いたげにもじもじとしている。

 その微細な動きに合わせて、濃紺の布地に包まれた豊かな胸が、ふる、ふると揺れていた。

 

 俺は、ルナリアがどこかの良家のお嬢様であることを隠しているのを知っている。

 俺みたいな得体の知れない奴と組んで僻地で冒険者をやっているくらいだ。

 よほどのお転婆で家出してきたのか、勘当でもされているのだろう。

 

(こいつ、俺が困ってるからって、自分の家を頼ろうとしてるんじゃないか……?)

 

「あ、あのね、アルス。もし、貴族の伝手が必要なんだったら……わたしが……」

「ルナリア」

 

 俺は、言いかけた彼女の前にスッと手を出して、その言葉を制止した。

 

「心配しなくていい。俺たちなら、自分たちだけでなんとかなる」

 

 ルナリアが自分を押し殺してまで、実家に頭を下げるような真似をするのは、俺の本望じゃない。

 ……というか、家の意向で勘当を解かれて冒険者を辞めさせられでもしたら、俺はどうすればいいのか。

 

 俺の言葉を聞いたルナリアは、一瞬だけ目を丸くした後、ぱあっと花が咲いたようなとびきりの笑顔を浮かべた。

 

「そうだね。うん、そうだよ! きみなら、絶対になんとかできちゃうもんね!」

 

 彼女は全幅の信頼を寄せて、力強く頷く。

 その拍子に、薄布一枚に覆われた胸元が弾むように揺れる。

 ルナリアの素直な信頼と、無自覚な色気から少し元気をもらった俺は、気を取り直してアリシアさんに尋ねた。

 

「ちなみに、そのAランクって、どうやったらなれるんですか?」

「……アルスさん。前にも説明しましたよ」

 

 アリシアさんが、心底呆れたようなじとっとした目をこちらに向けてきた。

 彼女は、俺好みの仕事のできる年上の女性らしい表情を浮かべ、冒険者のランクについてもう一度説明してくれた。

 

 駆け出しのDランクから始まり、一定の貢献度を稼いで試験に合格すればCランク、Bランクと上がっていく。

 Cランク以上はギルドへの会費が必要で、上に行くほど額は高くなる。

 もちろん、対応はその分手厚くなる仕組みだ。

 

 俺たちは今、このBランクにいる。

 

 だが、Aランクの認定は王都のギルド本部でのみ行われるらしい。

 明確な昇級試験はなく、莫大な貢献を積んだうえで、本部の評議会により認定されなければならない。

 ちなみにその上のSランクに至っては、現在、王国に一パーティーしか存在しておらず、王族から直接認定される必要がある、まさに雲の上の存在だ。

 

 要するに、Aランクへの昇級条件は、想像以上にきつかった。

 

「そうですかぁ……。うーん……」

 

 先ほどまで無邪気に笑っていたルナリアも、現実の厳しさを前に、少し不安そうに眉を下げている。

 そんな彼女の様子を見ながら、俺は内心で一人ごちる。

 

 正直なところ、今の俺たちにとって、そこまでして王都に行く必要も、Aランクになる必要もない。

 しかし……実は昨夜もまた、あの星空の夢を見た。内容はこれまでと同じだ。

 

 もしかすると、本当に何か使命めいたものがあるのかもしれない。

 それは俺自身が何かを成さねばならないのか、それとも、隣にいるルナリアが本当に勇者なのか。

 前者の場合は無視していいが、ルナリアが勇者だというのなら、その冒険にはぜひとも付き合ってみたいと思う。

 

 こいつの隣に立つのは、この俺だ。

 

 俺が勇者パーティーの神官だ。他の誰にも席は譲らない。戦士と魔法使いと勇者は、ルナリアが兼任とする。

 

 それに、どのみち俺はかっこいい冒険者になりたかったのだ。

 いずれはAランクを目指すつもりだった。

 決めた。その時期が今になっただけだ。

 

「わかりました。よし、決めたぞルナリア。王都へ行く。俺たち二人なら最強だ。きっとなんでもできる」

「うん。がんばろうね。わたし、きみのためならなんでも燃やしちゃう。任せてよ!」

 

 放火魔の宣言はひとまず置いておいて、俺はアリシアさんへ真っ直ぐ向き直り、お礼とお別れを告げる。

 

「アリシアさん、これまでいろいろとお世話になりました」

「わたしもいっぱいお世話になりました。ありがとうございましたっ!」

 

 俺に続いて、ルナリアも元気よく頭を下げる。

 

「寂しくなりますね。お二人とも、お体にお気をつけてお元気で。Sランクになった暁には、ぜひフリージアの街を宣伝してくださいね」

 

 それはつまり、Sランクになるまで戻ってくるな、ということだろうか。

 最後まで毅然としていたアリシアさんに感謝を伝え、俺たちはフリージアのギルドを後にしたのだった。

 

* * *

 

「……アルス君が独り身ならねえ。顔も財力も、なかなかの掘り出し物でしたけど」

 

 二人を見送ったカウンターの奥で、珍しく肘をつきながら、アリシアはふぅと一息ついて呟いた。

 

「隣にあのルナリアちゃんがいるんじゃ、ちょっかいをかける気も起きませんよねぇ」

 

 アルスは意外とモテる。

 しかし、隣にルナリアがいる男に粉をかけてくる女性は、そうそういない。

 

* * *

 

 

# Royal_Capital_Celestia:

 

――セレスティア王国。

 

 人類の生存圏には、三つの大国がある。

 そのうちのひとつ――通称『王国』。

 

 地理的条件に恵まれた豊かな大地に位置するこの国は、なだらかな丘陵と豊かな水源に抱かれ、年間を通して穏やかな気候に包まれている。

 

 眩い陽光の恩恵を受け、頬を撫でる風は咲き誇る花の甘い香りを漂わせ、肌を刺すような厳しい冬の寒さとは無縁だ。

 

 また、魔物がひしめく大森林から離れているため、凶悪な魔物の生息域からも外れており、人々の暮らしを根底から揺るがす魔族の出現も、極めて稀であった。

 

 ロドリック・アーサー・セレスティア王。

 

 今代の王は『賢王』と呼ぶにふさわしい見識を持ち、民草の安寧を第一とした善政を敷き続けてきた。

 その結果、王都をはじめとする各都市は、他国が羨むほどの富と繁栄を誇っている。

 

――そんな偉大なセレスティア王国の王都に、俺たちはいた。

 

 俺は目の前の光景に圧倒されながら、自分の生まれ故郷のことを思い出していた。

 

* * *

 

 俺は、大陸の端にある、地図に載っているかも怪しいほど辺鄙な漁村で、じいちゃんに育てられた。

 

 物心つくころには両親はすでに他界していた。

 じいちゃんと、潮の匂いと、波の音。

 それが俺の子供時代のすべてだった。

 

 じいちゃんは不器用だが優しい男で、村で一番の漁師だった。

 幼い頃から冒険者になることは決めていたが、じいちゃんが生きている間はこのまま祖父孝行してやってもいい……などと、生意気なことも考えていた。

 

 俺は、ごつごつとした大きな手で網を扱うじいちゃんの隣で、仕事を手伝うのが好きだった。だから、街へ行くことはほとんどなかったし、興味もなかった。

 田舎者のわりに、都会への憧れも、なぜかなかった。

 

 養成学校に入ってからは、もっと閉鎖的だった。

 外出といえば、実地訓練での過酷な野営か、あるいは薄暗い迷宮の中ばかり。

 綺麗な石畳よりも、泥と血の匂いが漂う土の上の方が、俺にとっては馴染み深いものになっていた。

 

 冒険者になってからも、それは変わらない。

 

 王都の周辺は腕利きの冒険者がひしめき合っている。

 わざわざ腕利きの多いところで仕事を奪い合う必要はない。自然と辺境寄りの街で生活することが多かった。

 ルナリアも、助けの手が少ない田舎での仕事のほうが好きなようだったし、ちょうどよかったのだ。

 

――つまり、俺は都会に縁がない人生をこれまで送っていた。

 

* * *

 

 そんなわけで、この国で一番の都会である王都を見た俺は大きな衝撃を受けていた。

 それは人の多さや規模だけじゃない。もっとこう……人の手で積み上げられたものの偉大さに、圧倒されていた。

 

(すごい……。本当に、同じ人間が作ったのか?)

 

 視界を埋め尽くす王都の威容に、俺はただ圧倒されていた。

 

 白亜の石材で築かれた巨大な城壁は、夕陽を浴びて白く輝いている。

 天を突くほどに高い尖塔の群れと、そこから幾重にも翻る鮮やかな紋章旗。

 フリージアのそれとは比較にならないほど滑らかに舗装された大通りが、どこまでも真っ直ぐに、王城へと続いていた。

 

 視線をずらせば、精巧な石材で築かれた三、四階建ての家々が網の目のように広がり、日よけ幕の並ぶ店先には、高価な武具や道具が鈍い光を反射させていた。

 漂ってくるのは、上品な焼き菓子や香辛料が混ざり合った都会特有の香りで、行き交う豊かな身なりの群衆が放つ無数の足音と活気が、俺の肌をびりびりと震わせる。

 

 辺境の泥臭さとは無縁の、洗練された都市を前にして、俺は自分の履き古した靴がこの美しい石畳を汚してしまわないかと、場違いな心配をするほどに圧倒されていた。

 

「すごいでしょ、アルス! ここが王都だよ!」

 

 隣でルナリアが、弾むような声で俺の腕を揺らした。

 どこか誇らしげに、そして俺の驚く顔が見たかったと言わんばかりに目を輝かせている。

 

 その興奮のせいか、彼女はいつも以上に無自覚に距離を詰めてきていた。

 濃紺の布地を内側から押し広げる胸の谷間に、俺の腕を押し付けるようにしていた。

 彼女が歩調を合わせるたびに、その重たげな膨らみが、ふにゅんと生々しく揺れ動き、俺の腕に柔らかな圧力をかけてくる。

 

「ああ、そうだな。……少し、どころじゃないな。想像を遥かに超えてるよ」

「早く行こうよ! 見てほしいところがたくさんあるんだから!」

 

 ルナリアに手を引かれ、俺は眩い大通りの喧騒へと歩み出す。

 

 夢のお告げに、ギルドランク……考えるべきことは山ほどある。

 

 だけど、今の俺の胸を占めているのは、この可愛い相棒と過ごす王都での暮らしを思い描く、抑えきれない高鳴りだけだった。

 

 

# COORDINATE 0005 END

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