世界樹と星空の女神 ~無自覚美少女は最強魔法剣士。彼女の愛が重すぎるが、それでも俺は冒険者!~   作:Soularti

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教国編
[COORDINATE 0052] Road to the Holy Realm


# Leaving_Valerion:

 

 早朝、まだ日が昇り始めたばかりの時間に、俺たちは出発の準備をしていた。

 俺は愛馬たちを誘導して引き綱を馬車に繋ぐ。

 

 ブルーとブラウンが嬉しそうに鼻面をこすりつけてきた。

 最近は迷宮や戦いの連続で、あまり構ってやれていなかったからだろう。

 

「わかった、わかったって。悪かったよ。また今日から一緒に旅だぞ。楽しみだな」

「ぶるるん」

 

 俺は二頭のたてがみを撫でてやり、視線を遠方へ向けた。

 

 早朝のフレイヤ山脈はうっすらと霞がかっていた。

 朝の空気は少し肌寒く、吐く息にはもう秋の終わりが混じっている。

 

 胸元の星屑のネックレスを手に取り、ヴァレリオン共和国での出来事を振り返った。

 秋とともに過ごしたこの国の冒険を楽しめたのは、リナルドさんの残した想いのお陰だった気がした。

 俺は今でも、貴方はセルナ統領を幸せにしたかったのだと思っている。

 

 さあっと柔らかな風が吹いた。

 

 俺は肌寒い風を受け、ネックレスを首元にしまい、新しく購入したの神官服の襟元を正した。教国の気候に合わせ、分厚い生地の防寒仕様だ。

 

 俺は馬車の方へ振り向いて、二人へ声をかけた。

「お前ら、寒くないのか?」

 

 馬車へ荷物を積み込んでいたルナリアが、ひょいと顔を覗かせた。

 朝日を受けて輝く、セミロングの金糸の髪が、肩からさらりと流れた。

 

「え? わたしは全然平気だよ」

 

 荷台で荷物を整理していたフェリスが、横側の乗り口から俺へ顔を向けた。

 

「……ん。私も別になんともない」

 

 それだけ言うとフェリスは、荷台の整理に戻った。

 

 二人とも本当に平気そうだ。

 

 ルナリアとフェリスの衣服は、普段と変わらない薄手のままだ。

 少女らしい身体の曲線を浮かべる彼女たちに、朝日がなだらかな陰影を落としていた。

 

 フェリスは、作業の邪魔だからと外套すら羽織っていない。

 前傾姿勢になったせいで、浅緑のワンピースの布地が張り、尻の輪郭が浮いていた。

 

 俺が軟弱なのだろうか。

 

 そう思っていると、少し二日酔いの頭痛を感じた。

 俺は回復魔法を使う。

 淡い光が俺の体を包み、頭痛を吹き飛ばした。

 

 昨日、クロードさんが壮行会を開いてくれたのだ。

 クロードさん自身は、部下に配慮して途中で引き上げたが、リュックと俺はその後も夜遅くまで飲んでいた。

 今頃、リュックはひどい二日酔いで死にそうな顔をしているだろう。

 

 そのせいで、俺も少し寝不足だった。

 

 それでも眠気を堪えて、こんな早朝に出立しようとしているのには理由があった。

 

 勇者候補自体は、公的な称号のようなものだから、市民にはさほど影響しない。

 誰がそうなのかなんて、興味のない人のほうが多いのだ。

 

 しかし、先日のヴァレリオン防衛戦で、俺たちはかなり目立った。

 あれだけ派手な戦闘をしたパーティーが、勇者候補なのだ。

 

 おそらく、世間の興味を強く引いただろう。

 

 特に、ルナリアが空を飛びながらドラゴンを倒したのは影響が大きい。

 縦横無尽に空を駆ける彼女の姿は街の中からも見えただろうし、多くの者が彼女こそ伝説の勇者だと思ったはずだ。

 

 ちなみに、俺は昔からそう思っている。

 

 セルナ統領の一喝により、戦闘に居合わせた国軍の人たちは回復魔法について口外せずにいてくれていたし、ルナリアやフェリスの魔法も喧伝しないでくれた。

 

 だが、さすがに市民に箝口令は敷けない。

 

 今後の冒険活動も考えると、俺たちはあまり顔を知られたくなかった。

 

 そういった理由から、人目の少ない早朝に出立することにしたのだ。

 

「アルスー、全部積み終わったよ」

「お、ありがとう。じゃあ、そろそろ出発するか」

 

 俺は愛馬をもう一度撫でてやる。

 

「今日からまたよろしくな、ブルー、ブラウン」

 

 それから、馬車の御者台へ歩き、踏み板に足をかけて飛び乗った。

 

 ルナリアが馬車の影から跳び上がり、軽やかに御者台の縁へ着地した。

 そのまま縁を掴み、くるりと身を翻して腰を下ろした。

 

 がちゃりと、フェリスが荷台の留め具を閉じる音がした。

 

「……ん。出して、いいぞ」

 

 俺が手綱を握ると、愛馬たちがゆっくりと歩き出した。

 やがて、ごとごとと車輪の音が鳴り始めた。

 

 馬車が進み出す音が、旅の始まりを感じさせる。

 久しぶりの感覚に、自然と胸がわくわくしてきた。

 

 街道へ向けて進路を変えていると、城壁の方から大きな歓声が響いてきた。

 防衛戦で共に戦った兵士たちが、いつの間にか城壁の上へ集まり、こちらへ向かって盛大に送り出してくれた。

 

 俺は、この国のことがすっかり好きになっていた。

 少し笑みを漏らしながら隣のルナリアへ声をかけた。

 

「ルナリア、手を振ってやれ」

「うん」

 

 ルナリアは、とんっと跳び上がり、荷台の天板に飛び乗った。

 そして、にこやかに彼らへ向かって手を振った。

 

 より一層、歓声が大きくなった。

 

 少しずつ距離が開いていくが、まだ歓声は続いていた。

 しばらくして、勝手に集まった兵士を叱りつけるクロードさんの、重厚でよく通る怒号が聞こえてきた。

 

 そりゃ怒られるよ。

 

(……でも、ありがとう)

 

 俺たちはそんな見送りを背に、一路、教国へ向けて街道を進み始めた。

 

 

# Sparring_Match:

 

 俺たちの馬車は、ダイアナ渓谷に沿うように西へ進む街道をゆっくりと進む。

 魔物との遭遇戦はなく、平和な数日が過ぎた。

 

 冬に入り始めて日が短くなっていたが、魔法の灯火を使って、移動距離は変わらず保てていた。

 

――そんなある日、俺はフェリスとルナリアの模擬戦に付き合わされていた。

 

 渓谷近くの平原へ、昼のやわらかな陽光が降り注ぎ、穏やかな風が吹き抜ける。

 その風に、ルナリアのウェーブがかった金糸の髪と、フェリスの水色の髪がさらさらと流れていた。

 

 二人は美しい髪を揺らしながら向かい合っていたが、その目は鋭く、これから始まる模擬戦への真剣さがはっきりと表れていた。

 

 俺は気乗りしないまま、フェリスに言った。

 

「本当にやるのか?」

「……ああ。……無理を言って、すまない」

 

 フェリスによれば、先日のある出来事をきっかけに、戦闘力が数段階上昇したらしい。

 神器の獲得とは関係ないらしく、本人は原因に心当たりがあるようだったが、頑なに教えてくれなかった。

 

 確かに、ドラゴンをひとりで圧倒するなど、先日までの彼女には考えられなかったことだ。

 

 だからこそ、一度限界を知っておく必要があるとのことだった。

 

 その理屈はわかる。

 

 しかし……ルナリアは、とても手加減が下手くそだ。

 俺は過去の出来事から、あいつとは模擬戦を二度とやらないと心に誓っていた。

 

 フェリスもそのことは話に聞いて知っているようで、だから俺を回復役として付き合わせているんだろう。

 

 正直言って、俺はかなり嫌だった。

 

 俺が渋っていると、フェリスは外套の中から折りたたまれた紙片を取り出した。

 それは俺が牛魔の迷宮攻略の後に、彼女へ渡した『何でもひとつ言うことを聞く券』だった。

 

 大きく息を吐き出して、俺は了承した。

 

 フェリスは目元をやわらかく細め、労るように俺に礼を言った。

 

 そのやり取りを見ていたルナリアは、衝撃を受けたように目を見開いていた。

 

 ルナリアが何を考えているのかは、なんとなく分かった。

 こんな格好いい使い方は、きっと彼女の中では候補にすら上がっていなかったのだろう。

 

 

――二人は、距離を取って向かい合っていた。

 

 ルナリアはいつもの銀の剣ではなく、黒檀で作られた木剣を右手に握っていた。

 

 俺が素振り用に買った木剣だ。

 

 結構値の張る品で、作りもしっかりしている。

 それに見た目に反して相当重い。

 俺では両手で構えるのがやっとで、片手で振り回すなんて到底無理だ。

 

 当然、ルナリアはそれを軽々と扱い、半身に構えていた。

 風に煽られてスカートが揺れ、白いニーハイに包まれた太ももの肌が、一瞬だけくっきりと浮かび上がった。

 

 対するフェリスは、左手は空けたまま、右手にシルフの短剣を握っている。

 浅緑のワンピースの裾が風に揺れるたび、深緑のニーハイの上、白い太ももがちらりと覗く。

 

 木剣と神器という得物の差はあるが、俺はそれを聞いて立ち会いに納得した部分もあった。

 フェリスには悪いが、これくらいの差がなければ危険だと思っていた。

 

 それにしても、二人とも綺麗な太ももだなあ。

 

 軽く跳躍し、身体の調子を確かめたフェリスが口を開いた。

 

「……では、いくぞ。ルナリア」

「うん。いつでもいいよ」

 

 短いやり取りの直後、フェリスが強く地面を踏み込んだ。

 小柄な身体が風を切って駆け出し、ルナリアとの間合いを保ったまま、円を描くように周囲を駆ける。

 

 ルナリアは動かない。

 

 赤い瞳は視線さえ揺らさず、少しだけ脚を開いて立っていた。

 風に吹かれて金糸の髪だけが揺れて陽光を反射している。

 

 フェリスの動きには、ありありとした緊張が滲んでいた。

 彼女はルナリアの側面に入った瞬間、軸足で地面を蹴って跳び上がった。

 

 フェリスが、シルフの短剣を逆手に握り、身体を後ろへ大きく捻る。

 溜めた力を解放し、腕を左へ鋭く振り抜いた。

 ルナリアの肩めがけて緑の剣閃が走る。

 

 静かに動いたルナリアは、姿勢を変えながら木剣を切り上げた。

 そのわずかな動きだけで、短剣の斬撃を正確に弾く。

 

 だが、フェリスは勢いを殺さない。

 

 そのまま横へ回転しながら着地し、再び距離を詰めた。

 流れるように次の斬撃へ繋げようとした。

 

 ルナリアの木剣が、俺の理解を超えた異常な軌跡を描いた。

 まるで流れる水のような赤い剣閃が、フェリスの脚へ直撃した。

 

 フェリスは姿勢を崩して倒れ込み、その場で手をついた。

 だが、自ら身体を回して衝撃を殺したようだった。

 

 彼女はすぐに立ち上がった。

 

 回復魔法をかけようと駆け寄る俺を、フェリスが鋭く片手を上げ制した。

 

 ルナリアは、すっと目元を細めてフェリスを見据える。

 彼女の華奢な身体からは想像できないほどの、強く重厚な戦士の圧。

 赤い瞳が真っ直ぐにフェリスを射抜いていた。

 

「フェリスちゃん。それじゃ駄目だよ」

 

 フェリスは苦笑し、左手で紫の短剣を鞘から抜き放った。

 

「……すまない。私が悪かった。……ありがとう。胸を借りる」

 

 フェリスはその場で軽く跳んで、脚の具合を確かめる。

 双手の短剣を順手に握り直し、後方へ跳躍して間合いをとった。

 

 そのまま、フェリスはシルフの短剣をすっと頭上へ掲げた。

 少し恥ずかしそうに唇を引き結んだ後、目元に強い意志を宿した。

 

「……私はフェリス! 私はアルスの翼! 私は彼のすべてを赦し肯定する為に在る! 彼の望みを叶えるため、我が身を風の妖精と化せ!」

 

 詠唱と同時に、フェリスの周囲に鮮やかな緑の風が舞い始めた。

 風に青い外套が揺れ、深緑のニーハイに包まれた脚の線がくっきりと浮かび上がる。

 

 次の瞬間、フェリスは大地を強く踏み込んだ。

 

 地面が爆ぜるような音が響き渡り、足元が陥没する。

 飛ぶように跳躍し、身体を捻りながら右腕を左に大きく引き絞る。

 

 激しい動きに外套が翻り、浅緑のワンピースの裾から太ももの白さが覗いた。

 跳躍の頂点で、水色の髪がさあっと巻き上がり陽光を反射して輝く。

 

 ルナリアは、星の宿る赤い瞳でフェリスを捉えたまま、なおも動かない。

 黒檀の木剣を握る彼女の手に、僅かに力がこもって見えた。

 直後、木剣が紅蓮の炎を纏い始める。

 

(え? 魔法剣、使うの?)

 

 フェリスは重力を無視した動きで、鋭くルナリアへ迫った。

 双手の短剣がルナリアを射程に収める直前、フェリスの全身を疾風が覆う。

 

 鮮やかな緑の風が彼女の姿を掻き消す。

 

 瞬間移動したフェリスが、ルナリアの背後に現れた。

 引き絞ったままだった右腕の力を、解放するように横薙ぎに振り抜いた。

 

 左から右へ。

 一直線に緑の剣閃が奔る。

 

 ルナリアは鋭く身を翻して回避した。

 その動きに合わせて白いスカートがふわりと翻り、肉感のある太ももが露わになる。

 

 だが、フェリスは止まらない。

 

 短剣の射程を外れたルナリアへ向かって、さらに間合いを詰めた。

 勢いを乗せ、今度は身体を右へ捻る。

 引き込んだ力を解放し、左手の紫の短剣で斬撃を放った。

 

 姿勢を立て直していたルナリアは、炎を纏う木剣を振り上げ、短剣の斬撃を正面から受け止めた。

 

 木剣と神器がぶつかり合い、ありえないことに金属質な音が響く。

 フェリスはそのまま間を置かず、左右の短剣で高速の連撃を繰り出し続けた。

 

 緑と紫の剣閃が鋭く奔り続け、そのすべてを赤い剣閃が跳ね返していく。

 衝撃波とともに、金属がぶつかり合うような音が断続的に鳴り響く。

 

 だが、そのすべてをルナリアは防いだ。

 

 連撃を終えたフェリスのわずかな隙を突き、ルナリアは姿勢を下げ、鋭く身を回転させる。

 

 地面すれすれを薙ぐように、燃え盛る木剣が払われた。

 

 フェリスの周囲を覆うように、鮮やかな緑の風が舞う。

 次の瞬間、フェリスはルナリアの後方、宙へ移っていた。

 フェリスの透きとおるような水色の髪がふわりと広がり煌めく。

 

 けれどルナリアは、最初からそこに現れるとわかっていたかのように、瞬間移動したフェリスを赤い瞳で捉えていた。

 

 それでも攻撃には移らない。

 ただ、じっと見ているだけだ。

 

 赤と瑠璃の瞳が交差する。

 

 フェリスが目元を細め、双手の短剣を順手に返し、揃えて上段に構える。

 中空で縦に回転しながら、ルナリアへ二筋の斬撃を繰り出す。

 

 ルナリアが左脚を踏み込み、右足をすべらせながら、業火を纏う木剣を横薙ぎに振るう。

 踏み込みに合わせて、下着を着けていない胸が、濃紺の生地ごとぶるんと大きく揺れた。

 

 凄まじい轟音とともに衝撃波が巻き起こる。

 周囲の草木が激しく揺れ、その余波が離れた位置に立つ俺の頬を撫でる。

 

 短剣を弾かれたフェリスはその勢いを利用し高く跳び上がる。

 中空で右腕を後方に溜め、独楽のように回転しながら鋭く降下した。

 

 その回転の力を乗せ、緑と紫の斬撃を様々な角度から繰り出す。

 俺にはもうその連撃を目で追うことは出来なかった。

 

 二人の剣閃がぶつかり合うたびに衝撃波が白く輝き、金属質な音が断続的に鳴り響く。

 

 余波が二人のスカートを捲り上げる。

 白と浅緑のニーハイに包まれた太ももの肌が陽光に照らされる。

 

 一定の間隔で鳴り響いていた音が、ずれて聞こえた。

 

 ルナリアが、わざと防御を遅らせたような気がした。

 フェリスの体勢がわずかに崩れる。

 

 ルナリアは木剣を両手で握り直した。

 紅蓮の炎が燃え上がる。

 

 ルナリアが業火の剣を横薙ぎに振るう。

 体勢の崩れたフェリスの脚へ、風を切り裂く赤い剣閃が迫った。

 

 フェリスは瑠璃色の瞳でそれを捉えていた。

 鮮やかな緑の風が、彼女の周囲にざあっと巻き起こる。

 

 フェリスは瞬間移動しようとしていた。

 

――だが。

 

 それを見たルナリアが、すっと目元を細めた。

 その瞬間、俺は彼女の身体がぶれたと思った。

 

 ルナリアの剣が加速した。

 

 一陣の赤い剣閃が真っ直ぐに疾走る。

 

 赤光に遅れて、真空が巻き起こす轟音が平原へ響き渡る。

 

 フェリスは魔法が発動する前に脚を斬られていた。

 ルナリアの炎を纏う木剣の斬撃が脚に直撃し、フェリスは身体ごと回転しながら吹き飛び、草の上を大きく転がった。

 

 残心ののち、ルナリアははっとしたように声を上げた。

 俺は慌ててフェリスに駆け寄る。

 

「あっ! ご、ごめん!」

「うわあああ! 馬鹿! なにやってんだよ!」

 

 俺が駆け寄る前に、フェリスはすでに地面に手をついて上体を起こしていた。

 さすがに、立ち上がるのは無理らしく、腰を下ろしたままだ。

 両手を地面につき、口元から血を流しながらも、微笑を浮かべている。

 

「……ん。大丈夫だ。片足が折れただけだ。……ありがとう、ルナリア。ためになった。これは、気をつけないといけない」

 

「……うん、ごめんね。癖になったらいけないと思って、強引に止めにいっちゃった」

 

 俺はフェリスのもとへ走り寄り、そのまま回復魔法をかける。

 フェリスの美しい肌についた傷も、折れた骨も、回復魔法がすべて治癒していく。

 

 俺に抱えられたまま、フェリスは口元の血を拭った。

 汗をびっしょりとかいたフェリスの、外套の隙間から浅緑の布がぺたりと張り付いた胸元が覗いた。

 

 ルナリアがこちらへ歩いてきて、右手をフェリスに差し出した。

 その手をぐっと握って、フェリスが起き上がった。

 

「でも気持ちはわかるよ。わたしも最初はそうだったし、なかなか気がつけなかったよ」

 

「……頼んでよかった。……魔族に同じことをしたら、死んでいた」

 

 俺は達人同士のやり取りに置いてきぼりにされ、不満げに口を尖らせた。

 二人はそんな俺を見て、くすりと笑い、優しい表情で説明してくれた。

 

「アルスがいつも言ってることだよ。回復魔法を前提として戦うなってよく言うじゃない?」

「……ん。魔法に依存するな、ということだ」

 

 俺は頭の上で腕を組みながら、その意味を考えた。

 ああ、なるほど。

 

「おお、そういうことか。納得した。しかし、ルナリアが最後に使った、途中から加速した剣はなんだったんだ。どうやったら、あんな動きができるんだ?」

 

 ルナリアは唇に白く細い指を当てながら思案するように答えた。

 ウェーブがかった金糸の髪が、肩からするりと流れた。

 

「えーと、ぐっと踏み込んでぐっと力をこめると加速できるよ」

 

 もう、こいつに戦い方を聞くのはやめよう。

 フェリスはルナリアの発言を聞き、神妙な表情を浮かべた。

 

「……なるほど」

 

 そろそろ、フェリスも理解できない領域に踏み入ろうとしていた。

 

 穏やかな陽光が俺たちを照らしていた。

 

 肌寒い風を受けて神官服の襟元を整え直し、俺たちは雑談しながら馬車へ向かう。

 

 彼女たちのような達人じみたことは、俺にはできない。

 それでも、教国へ向かうこの道中で、しっかり鍛錬をしないといけないな、と思った。

 

 

# COORDINATE 0052 END

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