世界樹と星空の女神 ~無自覚美少女は最強魔法剣士。彼女の愛が重すぎるが、それでも俺は冒険者!~   作:Soularti

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王国帰還編
[COORDINATE 0075] Return to the Kingdom


# Crossing_the_Border_Mountains:

 

 俺たちの馬車は、道中いくつかの街を経由しながら、ソプクウ平原を進んだ。

 雪解けの水を含んだ大地はまだひんやりとしていたが、教国側の凍てつくような寒さはもう薄れていた。

 空気は冷たいままでも、どこか柔らかい。

 

 ブルーとブラウンは心なしか、足取りが軽いような気がした。

 故郷へ向かっていることを本能的に感じているのかもしれない。

 

 やがて、平原の端に横たわる山脈へ辿り着いた。

 

 遠目には灰色の岩肌が連なって見え、その上にまだらに残った雪が白く張りついている。

 平地ではもう積雪はほとんど残っていなかったが、山頂のあたりにはまだ冬の名残が色濃く留まっていた。

 

 御者台から降りた俺は、ふと見上げたその景色に見入っていた。

 ふわりと甘い石鹸の匂いが鼻先をかすめた。

 そちらへ顔を向けると、ルナリアが肩の触れそうなほど近くに身体を寄せていた。

 

 この無意識な距離の近さは、旅を始めたころと変わらないなと思った。

 

 ルナリアは俺と同じように山脈を見上げていた。

 感慨深そうにした彼女が、潤いのある綺麗な唇を開いた。

 

「いよいよ、王国だね」

「そうだなあ。ユーリは元気かね」

 

 山越えの準備をしていたフェリスが、水色の髪に手を差し込み後ろへ流して言った。

 

「……ん。金具はこれで問題ない。……街道もほぼ見えているな。高所につくまでは、ルナリアの除雪がなくても大丈夫だろう。久しぶりにアルスと御者台に乗るといい」

 

 ルナリアが笑顔を浮かべてそれに答えた。

 

「いいの? えへへ、ありがとうっ」

「……ここまで我慢していたからな。……アルス、私はしばらく徒歩で進む」

 

 俺はそれを聞いて街道の奥に視線を向けた。

 

 山頂付近は岩肌が覗いていて、ここからでも開けていることがわかった。

 だが、そこへ至る山道は曲がりくねっていて見通しが悪い。

 さらに、うっすらとではあるが樹木が密集しているそこは森と言っていいだろう。

 

 森林なら上位魔物や、もしかすると魔族がいるかもしれなかった。

 

「そうだな。ここのところ、戦いは圧勝だし、逆にここは気持ちを引き締めて丁寧に進むべきか」

「……ん。それがいい。ルナリア、硝子板を返しておこう。もう使わないかもしれないが」

 

 俺は踏み板に脚をかけて御者台へ乗り、手綱を握った。

 ルナリアが、フェリスから硝子板を受け取り、俺の隣に腰を下ろした。

 

 フェリスは俺たちが馬車に乗ったことを確認すると、歩き始めた。

 青い外套を翻して進む彼女の後ろに続いて、馬車が進み始める。

 

 山脈を貫く街道を伝い、山を登っていく。

 道中、何度か魔物に行き当たった。

 

 俺たちのパーティーで一番最悪な状況は、先日の迷宮のように分断されることだろう。

 また、奇襲を受けて俺が初めに狙われる状況も危険性が高い。

 

 しかし、フェリスがいるのだから、先制するのは常にこちら側だった。

 そして、分断するような罠や魔法は、野外では起こり得ない。

 

 フェリスが索敵し、ルナリアが斬る。

 上位魔物の群れも支援魔法を先に展開できるから、ほとんど危険はない。

 

「俺たち本当に強くなったなあ」

「フェリスちゃんがいれば、アルスに危険が迫ることもほとんどないしね。安心して戦えるよ」

 

 街道の奥へ視線を向けたまま、フェリスが答えた。

 

「……確かに、私たちは相性がいい。ふふ。懐かしいな。……初めて会ったのはグリフォン戦だったか」

 

「おお、そうだそうだ。あの時はルナリアが、わたしを馬にしてって危ないことを言っていたんだ」

 

 ルナリアが、俺の腕に胸を押し付けるようにして密着してきた。

 宝石のようにきらきら輝く赤い瞳を俺に向け、彼女は覗き込むようにして言った。

 

「ふーん。わたしが変になっちゃったときのこと、そういう風に言うんだ……」

「あ、いや。ごめんなさい」

 

 くすりと笑ってルナリアが身を離した。

 

「そういえば、フェリスちゃん。最近あんまり罠は使わないね」

 

「……ん? そうだな。今となっては罠が通用する程度の魔物は、短剣で倒せる。……癖で持ち歩いているが、もう銀はいらないな。今度奮発して白金をひとつ買っておくか」

 

 雑談をしながら、俺たちは山道を進み続けた。

 山を抜ける街道は少しずつ尾根へ近づいていく。

 それにともなって、道の脇に残る雪は少しずつ厚みを増していた。

 

 甘えるようにして、俺に体重を預けていたルナリアに声をかけた。

 

「そろそろ、除雪が必要だな。頼む」

「うん、任せて」

 

 ルナリアはそう言うと御者台の縁に手をかけ、腕の力だけで飛ぶように跳躍した。

 彼女のスカートが翻り、白いニーハイに覆われた太ももが覗いた。

 中空でくるりと回転した彼女は、ぽすっと雪の残る地面へ着地した。

 

 フェリスの前に出たルナリアは、銀の剣に業火を纏う。

 業火の剣を軽く横へ振るうと、進路上の雪が一気に溶け、蒸気が白く立ちのぼった。

 

 露出した街道をルナリアは歩き出し、フェリスはそんなルナリアの隣へ歩み寄った。

 二人は仲良く雑談しながら山道を進む。

 

 かっぽかっぽと愛馬が歩き、ごとごとと馬車の車輪の音が聞こえてくる。

 風が優しく吹き抜け、木々が靡くようにしてざわめいていた。

 

 しばらく、そうしていると森が終わり灰色の岩肌が見えてきた。

 ぶわっと風が吹き抜け、前を歩く少女たちのスカートとワンピースを煽った。

 強い風が、彼女たちの脚の付け根から丸い尻まで覗かせ、二人は裾を押さえると視線をこちらへ向けた。

 

 俺はそんな視線にも負けず、彼女たちへ微笑み返した。

 ルナリアとフェリスは少し顔を赤らめただけで、再び前に向き直り雑談へ戻った。

 

 胸を押し付けたり、脚を見せつけたりするのに下着を見られるのは恥ずかしいらしい。

 街道が山脈の尾根を超え、唐突に眼前が開けた。

 

「おお、凄い」

 

 俺は馬車を止め、景色をゆっくりみようと街道へ降り立った。

 ルナリアとフェリスが遠方へ目をはせているところへ俺も歩み寄る。

 

「へえー、こちら側だけ雪がないんだな」

 

 ルナリアがウェーブがかった金糸の髪を風で揺らしながら言った。

 

「不思議だね。後ろの森はまだ真っ白なのに」

 

 ルナリアの隣に立つフェリスが、長い髪を白い指で押さえつつ口を開く。

 

「……風が山で止まるかららしい。山脈は気候を分断するそうだ」

「そうなのか。面白いもんだな。お、王城じゃないかあれ」

 

 眼下に広がるのは、かつて訪れたスプートニク高原。そして、その地平の向こうにはうっすらと建物が見えた。

 

「あ、きっとそうだね。もしかして、すぐそこなのかな」

 

「……ん。いや、一日でいける距離ではない。城が大きいだけだろう。……そうか、あれがセレスティア王国の王城か……」

 

 そういえば、リナルドさんは王国との戦争で亡くなった。

 少しばかり、思うところもあるのかもしれない。

 しばし、俺たちは雄大な景色と、その先に覗く王城へ視線を向けていた。

 

 日も傾き始めていたので、俺たちは景色の綺麗なここで野営をすることにした。

 山脈の尾根は空気がうすいらしく、俺が少しへばり始めていたのを、目ざとく察した彼女たちが休ませようとしてくれたのもある。

 

 少し情けなくなったが、満天の星空の下、高原を見下ろしながら食べる食事はとても美味しく、俺はすぐに気にしなくなった。

 翌朝、馬車を再び動かし、俺たちはゆっくりと街道を下りていく。

 

 尾根を越えると、急に気候が変わってきた。

 突き刺すような寒さはなく、少し肌寒いくらいまで気温が上がっていた。

懐かしい王国の冬だった。

 

 心地良い風が吹き抜けるスプートニク高原を、俺たちの馬車が進む。

 ふと、懐かしい景色が視界に映った。

 

 高原の端の方に、ひっそりと佇む石造りの遺跡だ。

 薄く魔力が流れている気配を感じた。

 その遺跡の中央には、四角く開いた地下へ降りる階段が覗いていた。

 

 迷宮だ。

 

 俺は、硝子板の地図を見ていたルナリアへ声をかけた。

 

「懐かしいな。ルナリア、あれって人形師の庭だよな」

「なあに? うん、そうだね。フェリスちゃん、あの迷宮でアルスが罠にはまって閉じ込められたの」

 

 見通しがよくなったので、フェリスは馬車に乗り込んでいた。

 彼女は荷台で、硝子板と賢者の迷宮で取っていたメモを、見比べるようにしていた。

 集中していた彼女は、声をかけられ瑠璃色の瞳をこちらへ向けて口を開いた。

 

「……スカウト無しで、よく迷宮へ挑んだな」

「俺じゃなくて、ルナリアが罠にかかったら詰むって途中で気がついて、Bランク級以上の迷宮は挑戦するのを止めたよ」

 

 フェリスは水色の髪を、長い耳にかけて作業へ戻りつつ言った。

 

「……お前たちが二人でやっていた冒険の話も、今度ゆっくり聞きたい。……楽しそうだ」

「うんっ。いっぱい楽しい話があるよ。任せて」

 

 そんな会話を交わしながら、街道を進み続けた。

 スプートニク高原を下り、平地に入った。

 綺麗な小川が流れる横を街道が真っ直ぐに伸びていた。

 

 しばらくその街道を進むと、地平の先に見覚えのある壮大な王城の尖塔が見えてきた。

 徐々に王都を護る城壁が姿を表し始めた。

 白い石造りの城壁は高く、ほとんどの建物を隠しているが、王城だけはすでに輪郭を示していた。

 

――王都セレスティア。

 

 俺たちは、十ヶ月近い旅路を終えて王都へ帰還した。

 

 

# Back_to_the_Royal_Capital:

 

 教国の閑散とした様子とは違い、王都の城門前は入都審査を待つ人々で大いに賑わっていた。

 荷馬車を連ねた商人、旅装の冒険者、地方から出てきたらしい旅行者。

 様々な目的の人々が行き交い、門前には絶えず人の声が満ちていた。

 

 俺たちもその列へ並び、しばらく待ったあと王都へ足を踏み入れる。

 まずは馬車を一時預かりの厩舎へ預け、王都の中央通りへ出た。

 

 俺は、左手を星切に軽く添えて通りを進んだ。

 両脇には、俺を挟むように、ルナリアとフェリスが並び歩いていた。

 

 最近のフェリスは、よほどの理由がなければフードを被らない。

 長い耳をすっと伸ばし、透き通るような水色の髪をさらさらと風に流していた。

 

 王国で獣族やエルフ族を見ることはほぼない。

 俺は共和国へ行って痛感した。隣にあの国があるなら、彼らが王国に滞在する理由がない。

 

 だが、すれ違う王都の市民は、ちらりと見ることはあっても、それだけだった。

 俺はそれを王国民が特別優しいとか、そういうことではないだろうと思っていた。

 

 この国は立地と気候に恵まれていて平和なのだ。

 だから取り立てて騒いだりしないし、教義に固執したりする必要がない。

 要するに雑でも生きていけるから、おおらかなだけだ。

 

 離れてみて初めて気がついたが、俺も王国民なんだなと思った。

 

 綺麗に切り出された石材で造られた石畳が、王城へ向かってときおり曲がりながら伸びていた。

 中央通りの両脇には、教国の整然とした町並みとは違い、生活感に満ちた店がところ狭しと軒を連ねていた。

 

 焼き立ての香りを漂わせるパン屋、布地を吊るした服飾店、香辛料と果物を並べた露店。

 俺は漂ってくる匂いを、どこか懐かしいと思った。

 

 目的地へ向かう途中、俺は焼き菓子屋へ寄り道した。

 以前、滞在していた時、いい匂いがすると横目で見ながら値段で諦めた店だ。

 

 だが、今の俺たちは違う。

 お金持ちなのだ。

 

 俺は菓子を三つ買い、紙袋へ小分けにされたそれを二人へ手渡した。

 

「ルナリア、フェリス、ほい」

 

「わあ、美味しそうだねえ」

「……ん。ありがとう」

 

 彼女たちは嬉しそうに菓子を受け取り、上品に口へ運んだ。

 身体へじんわりと染み渡るような甘味に、二人の表情がふっと和らぐ。

 

 その様子を見て、俺はほんわかと幸せな気持ちになった。

 

 そんな二人から視線を外し、町並みの向こうに見えてきた冒険者ギルド本部へ目を向けた。

 その近くに、以前王都へ滞在していた時、高すぎて諦めた高級宿があったのを思い出した。

 

 折角だし、あの宿にするか。

 

 菓子を食べ終え、紙くずを店主へ返して「美味しかった」と伝えると、店主は誇らしげにしていた。

 俺は手を振ってそこを離れ、二人と一緒に目的の宿へ向かう。

 

 やがて、精巧な石材で造られた立派な宿が見えてきた。

 正面の看板には、なぜか人参があしらわれている。

 

「高い宿は、野菜の名前をつける決まりでもあるのか」

「そういえばそうだね。なんでなんだろう」

 

 俺とルナリアは二人で首を傾げた。

 そんな俺たちを、微笑ましそうにフェリスが見ていた。

 

 俺たちは重厚な木製の戸を開き、吹き抜けになった広間を抜けて奥へ進む。

 高い天井からは、前の俺ではそれがなんなのか理解できなかっただろう、硝子製の照明が吊るされている。

 炎の灯りが、ルナリアの金糸の髪と、フェリスの水色の髪を淡く照らしていた。

 

 俺は淡い陰影を落とす少女たちの美しい相貌を見て、妙に意識してしまい早足で受付へ向かった。

 身分証を見せ、宿泊の希望を伝える。

 

 受付の女性は俺の身分証を見た瞬間、目を見開いて驚いた表情を浮かべた。

 

「しょ、少々お待ちください」

 

 受付の女性は、すぐに人を呼びに行き、入れ替えに立派な服装の男性が笑顔を浮かべながらやってきた。

 その男性が揉み手をせんばかりの勢いで口を開いた。

 

「ようこそ、おいでくださいました。アルス様。私はこの宿の支配人でございます。本日はどのようなお部屋をご希望でしょうか」

 

「金額は気にしないので、いい部屋へ泊まりたいです」

 

 そういえば、さっきから見せている書面で俺の身分を証明しているのは、この国の第三王子だ。支配人が出てくるのも当然だった。

 

 俺の返答を聞いた支配人は、後ろのルナリアとフェリスに視線を向けた。

 それから支配人は大仰に頷くと、二つ返事で了承した。

 

「お任せくださいませ。最適なお部屋をご用意致します」

 

 彼が呼んだ従業員がきびきびとした動きで俺たちの荷物を持ってくれ、俺たちは最上階の広い部屋へ案内された。

 上品な調度品に彩られた広い部屋には、大きな硝子窓が張られていた。

そして、寝台はやたらと立派な上に巨大で、なぜかひとつしかなかった。

 

「わあ、えへへ……」

「……ん。……ふふ」

 

 ルナリアとフェリスが謎の含み笑いをしているが、俺は聞かなかったことにした。

 

 宿を確保した俺たちは、愛馬と馬車を宿の厩舎へ移動させ、その足で冒険者ギルド本部へ赴いた。

 

 久しぶりの冒険者ギルド本部の門前に立つ。

 

 建物の威圧感だけで言えば、共和国の庁舎や教国の中央教会の方が断然上だ。

 それでも、やはりこの建物からは独特の格というか空気を感じた。

 俺の贔屓目もあるかもしれない。

 

「さすがに、ここはかなり懐かしいな」

「王立図書館に入るまで、苦労したもんねえ」

 

 建物を見上げていたフェリスが、周囲へ視線を配りながら感慨深そうに口を開いた。

 

「……想像していた冒険者ギルドと違うな。……建物も行き交う冒険者も、思っていたより綺麗だ」

 

「王都のギルド本部だからだよ。他の街のものは、もっと雑然としてる」

 

 俺はフェリスにそう答えると、ギルド本部の重厚な木製の戸を開けた。

 重い音を立てて開く戸をくぐり、俺たちはギルド本部へ足を踏み入れた。

 

 俺の革靴の音が、かつかつと綺麗な床に小気味よく響く。

 

 洗練された雰囲気を漂わせた冒険者ギルド本部の中を進み、受付カウンターへ向かった。

 懐かしい受付カウンターの奥には規則正しく事務机が並び、その上には書類の束がいくつも積まれていた。

 優秀そうなギルド員たちが、慣れた手つきでそれを次々処理していく。

 

「たのもー! ハロルドさん、アルスが帰還しましたよー!」

 

「くすくす」

「……楽しそうだな」

 

 ルナリアが肩を揺らして笑い、フェリスも優しい笑みを浮かべていた。

 

 そんな中、カウンターの奥にいた見覚えのある細身の男性が腰を上げ、こちらへ顔を向けた。

 その男性は、以前と変わらない小さな苦笑を浮かべ、書類を机においた。

 椅子から立ち上がり、真っ直ぐな姿勢でこちらへ歩み寄ってきた。

 

 ハロルドさんだ。

 

「お久しぶりです、アルスさん。ご活躍は聞き及んでおりますよ。教国にいると聞いておりましたが……お戻りになられたのですね」

 

「こんにちは、ハロルドさん。いや、本当にお久しぶりですね。あれ、俺たちの居場所までギルドに伝わっていたんですか」

 

 ハロルドさんは穏やかな笑顔のまま、少しだけ身を寄せて俺へ耳打ちした。

 

「ユリウス王子殿下が、貴方の帰還を心待ちにしていましたからね。大まかな移動先や戦果はギルドへ報告されていました」

 

「あいつは恋する乙女かよ。……あ、いや。そうですか」

 

 俺は、それを聞いて苦笑した。

 とはいえ、気持ちは分かる。

 まだ小さいあいつにとって数ヶ月は、俺が思うよりも長い時間だったんだろうな。

 

「今日はそのユーリ、……じゃない。ユリウス王子殿下へ帰還を知らせてほしいというのと、旅の間のドロップ品の売却に来ました」

 

「分かりました。アルスさんの持ち込み査定ですか。かなり高額そうですね。誰か、査定所へドロップ品を運んでくれ」

 

 さすが王都のギルド本部だな。

 フリージアのギルドなら一度大騒ぎを挟んでから査定に入るところだ。

 ガストン商会ですらそうだったものな。

 

 それを見送ったハロルドさんが、改めてこちらへ向き直った。

 

「このあとはどうされますか? 換金を待つのでしたら、応接室へご案内しますが」

 

「ハロルドさんの仕事の邪魔になりますし、宿へ戻ります。実は今日着いたばかりなので、少し疲れてもいるんですよ」

 

 ハロルドさんは、少し驚いた表情を浮かべて答えた。

 

「真っ直ぐここへ来られたのですか。相変わらず冒険者らしからぬ気配りですね。では、殿下からの返事を兼ねて買取金もその際にお持ち致します」

 

「そこまでしてもらうのは悪いですよ。こちらから伺います」

 

 俺はさすがに、そこまでしてもらうのは申し訳ないと思って遠慮した。

 だが、ハロルドさんはそんな俺を見て、少し目元を細めていたずらめいた笑みを浮かべた。

 

「いえいえ、なんといってもアルスさんはSランク候補の冒険者ですからね」

 

「え?」

 

 俺は、王都で依頼を受けてもいないのに、Sランク冒険者になろうとしていた。

 

 

# COORDINATE 0075 END

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