世界樹と星空の女神 ~無自覚美少女は最強魔法剣士。彼女の愛が重すぎるが、それでも俺は冒険者!~   作:Soularti

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[COORDINATE 0081] The Town of Leeds 2

# Julius’s_Training:

 

 ゲオルグ子爵の館にお世話になって、数日が過ぎた。

 

 実際に冬の大森林を歩いて分かったが、夏にあそこを抜けて世界樹へ至るのは俺には不可能だ。

 春のうちに、あの魔界を踏破する必要があるだろう。

 

 子爵邸の庭で訓練をしていた俺は、ふと空を見上げた。

 日は傾き始めていたが、肌に感じる空気は少しずつ暖かくなっていた。

冬もじき終わる。

 

 居心地がよくて、つい長居してしまったが、そろそろ旅を再開しないといけない。

 

 黒檀の木剣を握った右手を下げ、井戸へ向かった。

 冷たい冬の空気の中の訓練だったが、集中していた俺の身体は暑いくらいだった。

 ばしゃっと水を頭からかぶるようにして汗を流した。

 

 冷たい水が心地よかった。

 

 びちゃびちゃになった茶色い髪を、両手でかきあげるようにして撫でつけたあと、用意しておいた清潔な布で頭を拭き取る。

 しっかり水分を拭い、頭を振ると、いつも通りの乱雑に切り揃えられた髪型に戻った。

 

 濡れそぼった身体を拭き取りながら、離れた位置で超人じみた訓練をしているルナリアとユーリへ視線を向けた。

 

 傾きかけた陽の下で、なおルナリアの金糸の髪はつややかに輝いていた。

 ユーリの訓練をつけてやっている彼女は、汗ひとつかいていない。

 横から照らされる陽光が、彼女の整った相貌に淡い陰影を作っていた。

 

 彼女は星の宿る赤い瞳で、才能あふれる弟子の動きを見つつ、指導していた。

 

 旅に出てからこちら、俺はルナリアにユーリの組手の相手をするよう頼んでいた。

 賢者の迷宮に挑戦するまでに、少しでも彼の練度を上げておきたかったのだ。

 

 ユーリが黄金の剣を握り、ルナリアに向かって打ち込んでいた。

 必死に剣を振るうユーリに向かって、ルナリアの容赦のない、そして凡人には理解できない雑な指導が飛ぶ。

 

「ほらユーリ君、剣を振るうたびに止まったら駄目だよ。こう、ぐっとしてぐんっだよ」

「は、はい!」

 

 ユーリの背丈は俺の腰より少し高いくらいだ。

 そんな小さな少年は激しい訓練のせいで全身が汗だくだった。

 

 ユーリが剣を右へ向けて鋭く振り払った。

 

 ルナリアは、アストライアの剣を最小の動きで振るい、わざとユーリの剣を強く弾き返す。

 ユーリはルナリアの指導を実直に守り、その反動を利用して身を捻るように黄金の剣を薙いだ。

 くるりと回ったユーリは、今度は左へ剣閃を奔らせた。

 

 ルナリアはその剣を、銀の剣の柄でかあんと上に弾いた。

 ユーリは持ち上がってしまった黄金の剣を、再び両手でしっかり握り直し、振り下ろそうとする。

 

 その瞬間、ルナリアのすらりとした脚が鋭くユーリの軸足を蹴り抜く。

 そのまま彼女は、すっと横へ身を逃がした。

 

 剣を振り抜こうとしたユーリは、重心をかけていた足を取られ、その勢いのまま前方へ吹っ飛び、邸宅の外壁へ突っ込んでいった。

 

 どごん、という音を立ててユーリが石壁に激突した。

 

「お、おい。大丈夫か、ユーリ」

「心配いらないよ。ユーリ君なら、あれくらいかすり傷だから。だよね?」

 

 頭から石壁に突っ込んだ幼い少年は、すくっと立ち上がり、鼻から垂れた血を拭った。

 鼻血が出ている以外、本当になんてことなさそうだった。

 

「はい。このとおり、全然大丈夫です! ルナリアさん、ありがとうございます! うーん、どうしても足運びがおろそかになってしまいますね」

 

「まだ自分の身体を把握できていないからだね。そこが難しいの。でもユーリ君なら、すぐにできるようになるよ。それにしても、アルスはユーリ君に甘いなあ」

 

 よく言うよ。

 

 俺が同じ状況になったら、ルナリアは血相を変えて駆け寄ってくるだろ。

 ユーリを認めたのかなんなのか、ルナリアはわりと訓練に手心を加えていなかった。

 それにしても石壁に頭から突っ込んで、負傷は鼻血だけか。

 

 俺は腕を組んで思案した。

 

 これはいよいよ、女の子と子どもに守られる勇者であることが確定してしまったのかもしれない。

 まあ、実戦で危険なのが俺だけなら、それはそれでいいのだが。

 

 そんなふうに考えていると、清涼な匂いを感じた。

 そちらへ振り向くと、俺と同じように二人を見ているカタリナさんが立っていた。

 

「殿下……いや、ユーリ殿の最近の上達は凄まじい。本物の天才と出会うと、ここまで伸びるのか」

 

「天才同士じゃないと成り立ちませんけどね。俺はルナリアと二度と組手しませんよ。初めてやったとき死にかけたので」

 

 俺の答えを聞いたカタリナさんが、口元に笑みを浮かべた。

 

「ふふ。確かに、誰でもできることではないな。私も無理だろう」

「そうですか? カタリナさんは、十分に打ち合えるんじゃないですか?」

 

 カタリナさんは肩をすくめて、俺の言葉に答えた。

 その動きにつられるように、後ろで束ねた赤みがかった長い髪がふわりと揺れた。

 

「いや、無理だ。ルナリア殿は、おそらく私には手加減してくれないからな。そろそろ、食事の用意が整うそうだ。準備しておいてくれ。私は少し、所用を済ませてくる」

 

「わかりました」

 

 俺はカタリナさんの背中を見送り、ルナリアとユーリに声をかけた。

 

「そろそろ終わりだ。夕飯の準備ができたってよ」

 

「はーい。じゃあ今日はこんなところだね」

「はい! ルナリアさん、ありがとうございました!」

 

 姿勢を正して頭を下げるユーリに、ルナリアが笑顔を返していた。

 ルナリアはユーリが第三王子なことを、忘れているのではないだろうか。

 

 身体を清め、俺たちは一度部屋へ戻った。

 

 硝子板とメモを交互に見ながら調査していたフェリスに声をかけ、戻ってきたカタリナさんとも合流した。

 それから、五人で連れ立って食堂へ移動した。

 

 

# A_Commemorative_Photograph:

 

 ベルンハルト邸は、華美な装飾こそ少ないが、隅々まで清掃と手入れが行き届いていた。

 廊下に置かれた燭台も、壁に掛けられた古い絵画も、長く大切に使われてきた品のようだった。

 使用人たちは丁寧でありながら機敏で、余計な音を立てずに屋敷の中を行き交っていた。

 

 質実剛健ってやつだろうか。

 違うか?

 

 そんな雰囲気は食堂も同様で、俺たちは貴族の屋敷へ滞在しているというのにゆったりと日々を過ごせていた。

 子爵は様々な冒険の話を楽しそうに聞いてくれるので、俺もついつい語りに熱が入ってしまう。

 余計なことを言いかけては、フェリスに止められていた。

 

 食事を終えた俺たちは、ゆっくりと酒を飲みながら歓談していた。

 もちろん、ユーリは果実汁だ。

 

 ゲオルグ子爵が、葡萄酒の注がれた杯を置いて言った。

 

「では、アルス殿は明日にでも出立なされるのですかな」

 

「はい。話にあったとおり、冬の大森林でも最後の方は汗だくでした。夏はとても俺には無理だと思うので、早めに世界樹を目指したいと思います」

 

 俺の話を聞いて頷いた子爵が、薄い笑みを浮かべて答えた。

 

「そうですか、それは残念だ。しかし、君の冒険譚は非常に心躍るものでした。ありがとう。私が子爵でなければ、君に同行したかった。いや、この老体では足手まといか。はっはっは」

 

 そんなことはないと俺は思った。

 ゲオルグ子爵は強い。

 俺には、武人の強さを測れるような技量はないが、それでも一流の戦士かどうかくらいは分かる。

 

「そんなことないでしょう。ゲオルグ子爵はかなりの武人ですよね。なあ、ルナリア」

 

 ルナリアは、葡萄酒のあてに出されていたつまみを頬張っていた。

 彼女は口の中のそれを呑み込むと、上品に口元を拭ってから答えた。

 

「うん、そうだね。ユーリ君も完敗だったもの。子爵様には、わたしも神器無しでは勝てるかどうかわかりません」

 

「僕は次は負けません」

 

 ユーリがきりっとした表情を浮かべて言った。

 ルナリアの言葉を聞いて、ゲオルグ子爵は破顔するように笑った。

 

「ははは。やめてくだされ、ルナリア殿。貴公に敵うわけがない。ルナリア殿が無手であっても、勝てませんよ」

 

 俺からすれば、どちらも雲の上の強さなのでなんとも言えない。

 だが、まあ最近のルナリアはとんでもないからな。

 こいつは、魔王と剣を打ち合っていた。

 

「まあ、ルナリアは置いといて、僕が出会った戦士の中でも子爵は相当強そうですけどね」

 

 あまり興味なさそうにしていたフェリスが、補足してくれた。

 

「……そうだな。アルスの見込みは正しい。ガルデンやらに比べても、相当格上だ。……教皇と同じくらいはやるんじゃないか」

 

 俺はフェリスの方へ視線を向けた。

 彼女はそれだけ言うと、ゆるりと葡萄酒を飲みながら、瑠璃色の瞳を俺に向けていた。

 照明の炎を返す瞳が、きらきらと輝いていた。

 

 俺は、あの夜に一度会話しただけなのに、妙に記憶に残っている威厳ある老人を思い浮かべた。

 

「え? そんなに? あの人、賢者の迷宮を踏破してるんだぞ」

「……はぁ。……お前は、どうしてそうなんだ。……賢者の迷宮の話はしないんじゃなかったのか」

 

 フェリスは俺の答えを聞いて、小さく息を吐いた。

 俺から離れた席に座るカタリナさんが頭を抱えている様子が見えた。

 カタリナさんは、大体の場合、凛々しいか頭を抱えているかのどちらかだな。

 

 全部、俺かユーリのせいだけど。

 

 ゲオルグ子爵は、髭をさすりながら俺の言葉に答えた。

 

「賢者の迷宮の話は、聞かなかったことにしましょう。一応、公爵以上でなければ知らないはずなのでね。教皇というと、ルードリヒのやつのことですかな。ええ、あやつには負けませんとも」

 

「あれ、子爵は教皇のことをご存じなんですね」

 

 俺は意外な組み合わせに、少し驚いた。

 確かに年頃は近そうだが、教国とここでは相当離れている。

 

 ゲオルグ子爵は懐かしむように天井を見上げて、それから俺へ視線を向け直した。

 

「やつとは、何度か剣を交えたことも、共に迷宮に挑んだこともあります。そうですか、アルス殿はあれに会ったのですか。そういえば、教国には勇者認定で行かれたのでしたね」

 

「実際は、野営中の街道で夜中に話しただけですけどね」

 

 そのときのことを思い出したルナリアが、可笑しそうにくすりと笑った。

 

「アルスは、偉い人と道端で出会う天才だからね」

「そういえば、どこかの国の第三王子と会ったのも、道端の露店だったな」

 

 柔らかな黒髪をふわふわと揺らしながら、ユーリが声を上げた。

 

「それは、かなり運命的な出会いですね!」

 

 そのあとも、俺たちは最後の夜を楽しみながら和やかに歓談していた。

そうしていると、ルナリアが思いついたように硝子板を取り出した。

 

「ねえ、アルス。いいかな? 写真を撮りたいの。動かして」

「ん? うーん。まあ子爵ならいいか。ほれ」

 

 俺たちの様子を見ていたフェリスが、呆れたような表情を浮かべて言った。

 

「……どういう判断だ。……二人とも本当に自由だな。まあ、いいか。ルナリア、後で私の硝子板にも送ってくれ」

「送るって何?」

 

 ルナリアが硝子板に指を這わせながら、こちらに赤い瞳を向けた。

 彼女の薬指のルビーが、きらりと光を返していた。

 

「案内人さんに教えてもらったの。わたしの硝子板の写真を、フェリスちゃんのものに送れるんだよ!」

「いや、そうじゃなくて、送るってなんだよ。まあ、いいか。どうせ俺の硝子板には穴あいてるし……」

 

 勇気の試練以降、ルナリアは卓越した硝子板使いになっており、俺には理解できない使い方をどんどん覚えていた。

 

 ルナリアが立ち上がり、皆に壁際へ並ぶよう伝えた。

 理由は、女神様の凄い魔法を見せるということにした。

 

 当然、子爵は俺の隣で真ん中だ。

 

 そうすると俺の隣は一つしか空いていないので、そこを巡ってルナリアとフェリスが揉めていた。

 俺の預かり知らない取引が二人の間でなされ、ルナリアが俺の隣、その向こうにフェリスという配置になった。

 ゲオルグ子爵と手をつなぐようにしてユーリが向こう側に立ち、その後ろにカタリナさんが立った。

 

 三人の写真はすでに何枚も撮っていたので、ルナリアのやりたいことはわかっていた。

 彼女はテーブルの上に、杯を支えにして器用に硝子板を立て、こちらへ小走りに戻ってきた。

 

 ルナリアが、にっこりした笑顔を硝子板へ向けた。

 俺は最高に格好良いと自分で思っている表情を作った。

 

 すぐに、硝子板から眩い光が発せられた。

 

「おお、感じたことのない光ですな。今のが女神様の魔法ですか。全く魔力を感じませんでしたぞ」

「アルス殿……。はぁ……また、私の頭痛の種を増やしたな」

 

 ルナリアが、俺たちに待つように言い、硝子板のところへ走り寄った。

 指を這わせてきちんと写っていることを確認した彼女は口を開いた。

 

「うんっ。ばっちりだよ。ほら、みんな見て!」

 

 ルナリアが硝子板を、写真が見えるようにこちらへ向けた。

 真っ先に、髪を揺らしながらユーリが走っていく。

 

「うわあ! なんですかこれ、凄い! これは僕ですか? うーん。本物より、背が少し低い気がします」

 

 続いて、カタリナさんとゲオルグ子爵が、ルナリアのかざした硝子板へ歩み寄った。

 

 ゲオルグ子爵は、驚いた様子でしばらく固まっていた。

 それから、興味深そうに目を細め、静かに笑みを浮かべて口を開いた。

 

「これはまた……凄い奇跡だ。こんなものが手に入るのでしたら、死を覚悟で賢者の迷宮に挑んでみるのもいいかもしれませんな」

 

「やめてください、子爵。アルス殿、これは賢者の迷宮すら関係ないのではないか? 世界樹とはまったく関係ないだろう。あと、私の体型はもっと細い」

 

 俺とフェリスは互いに顔を見合わせ、笑みを浮かべた。

 それから、みんなのところへ歩み寄った。

 四人は硝子板を覗き込みながら、思い思いの感想を口にしていた。

 

 こんな素敵な魔法を、なぜ賢者は俺たちに残さなかったのだろうか。

 俺はみんなの楽しそうな笑顔を見ながら思った。

 

 最後の夜の食事会を終え、俺たちは自分たちの部屋へ引き上げた。

 

 硝子板の写真を大層気に入ったゲオルグ子爵は、本気で賢者の迷宮に行きかねない勢いだった。

 危ないので、手に入れたのは大森林にある別の遺跡であることと、入手の際に魔王と出会うかもしれないことを伝えると、さすがに諦めてくれた。

 

 あてがわれた部屋の窓際に立つ俺の背後から、ルナリアとフェリスの布擦れの音が聞こえていた。

 彼女たちは例の極薄の部屋着に着替えている最中だ。

 

「楽しかったね。また来たいな」

「……ん。王国の貴族は皆、ああいう気さくな人物なのか?」

 

 俺は着替えている彼女たちを見ないように窓の外の景色を見ていた。

 

「どうだろうな。俺が会った貴族の中には気に食わないのもいたよ。ゲオルグ子爵がいい人なだけだろう」

 

 そもそもあの授与式のとき、彼しか俺に声をかけてくれなかったのだ。

 そう考えると、さもありなんだった。

 

 フェリスの問いに答えながら、俺の頭の中はすでに、薄手の生地に覆われた彼女たちの肢体のことしかなかった。

 柔らかな彼女たちの身体の線を、ぼんやりと妄想しながら外を見ていたときだった。

 

 窓の外の夜空が急激に明るさを増した。

 俺は驚いて窓際に駆け寄り、外へ目を向けた。

 

 俺たちにあてがわれたのは第二客間だ。

 一番いい部屋は、ユーリとカタリナさんが使用しているからだ。

 

 この部屋の窓は、北西に向いている。

 

 その北西のはるか彼方、地平線の向こうから、青白い光の柱が立ち昇っていた。

 光は弱まりつつあったが、いまだその柱はうっすらと夜空を縦に割っていた。

 

 あの光があるところは……世界樹か!

 

 さらに異変は続き、どん、という地鳴りのような音が響いた。

 続いて凄まじい唸り声が、遠く離れたところから聞こえた気がした。

 

「ルナリア! フェリス!」

 

 少し艶やかさを帯び始めていた二人の声音が、即座に戦士のものへと切り替わった。

 

「うんっ」

「……ああ」

 

 俺は振り向き、立てかけていた星切を握った。

 その瞬間、やや危ない格好の二人が視界に映った。

 淡い照明に照らされ、なだらかな肌の陰影と身体の線が目に入る。

 

 せめて、前を隠してくれないかな。

 いや、それどころじゃない。

 

「俺は先に外へ出て確認する。まず、装備をきちんと整えろ。それから、フェリスは先に窓から出て状況確認。ルナリアは俺のところへ来い」

 

 それだけ言うと、俺は戸を開け、すぐに閉めた。

 カタリナさんが着の身着のまま戸を開けて、部屋から出るところだった。

 

「カタリナさん、しっかり装備を整えてから来てください。多分、長い夜になる」

「そ、そうか。分かった」

 

 屋敷の重厚な戸を開け、正面の庭に出ると、すでにゲオルグ子爵と数人の兵士が集まっていた。

 俺は彼のもとへ走り、状況を確認した。

 

「子爵、状況はもう把握できていますか」

「アルス殿か。いや、まだだ。斥候をこれから向かわせる予定だ」

 

 会食のときのような柔和な表情は影を潜め、貴族に相応しい、毅然とした態度で子爵が答えた。

 

 俺はざっと子爵の兵士たちを見渡したあと、思案するように口元へ手を当てた。

 それから、唸り声のした方向へ視線を向ける。

 今日のアズールは明るく、遠くにある森林の輪郭が影となって星空に浮かんでいた。

 

 屋敷の方から、水色の髪を靡かせて暗がりへ跳躍していくフェリスが見えた。

 ルナリアが窓枠に手をかけ、腕の力だけで凄まじい速度でこちらへ跳んできた。

 

 そのまま中空でくるくると回転しながら俺のそばへ着地する。

 

「お待たせ、アルス」

「ああ、多分、唸り声は森の方だ。お前なら、なにか見えるか……」

 

 俺は、途中で言葉を切った。

 森林までは、かなりの距離があるというのに、俺でも見えた。

 

 木々が作る森の暗がりの中、鎌首をもたげる蜥蜴の頭のような巨大な影が視界に入った。

 凄まじい巨体のそいつは、再び唸り声を上げた。

 絶対的な格を持つ生物が発した、地の底から響くような声が、周囲の兵士たちの動きを縛った。

 

 俺の首元の星屑のネックレスが、わずかに光を放ち、理不尽な拘束を拒否する。

 

 上位魔物の中でも、抜きん出た力を持つ竜種。

 ドラゴンはその竜種の中でも突出した強さを誇り、ただ一体で街を滅ぼす。

 

 魔族。同種の魔物とは隔絶した力を持つ強大な個体の総称。

 

 今まさに宵闇を切り裂く咆哮を轟かせたのは――ドラゴンの魔族だった。

 

 

# COORDINATE 0081 END

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