世界樹と星空の女神 ~無自覚美少女は最強魔法剣士。彼女の愛が重すぎるが、それでも俺は冒険者!~   作:Soularti

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[COORDINATE 0094] The Skyborne Hero

# That_Girl_Is_Like_a_Sister:

 

 澄んだ青空には、春めいた薄い雲が浮かび、ゆっくり流れている。

 暖かな朝日が、俺たちをやわらかく照らしていた。

 

 そんな日差しの中でもなお、空を割る光の柱はうっすらと見えていた。

 賢者の迷宮に入る前よりも、少しばかり光の強さが増しているような気がする。

 

 ルナリアとフェリスが俺の両隣に立ち、同じ方向を見ていた。

 迷宮の中でも美しかった彼女たちの瞳は、陽光を受けてよりいっそう輝いている。

 どこで見ても二人は綺麗だが、太陽の光が一番似合うなと思った。

 

 俺は左手首にはまった金の腕輪を、指でくるくると回しながら言った。

 

「それじゃ、まあ世界樹までひとっ飛びするか」

 

 ルナリアが、腰に差した銀の剣の柄に手を添え、毅然とした表情を浮かべる。

 フェリスの相貌には凛とした静謐な空気が宿っていた。

 

「いよいよ世界樹だね。今度は絶対に負けないんだから」

「……あの時より、私たちは更に強い。きっと勝てる」

 

 何かに気がついたように、ルナリアがふとこちらへ顔を向けた。

 少し目元を細め、鈴が鳴るような綺麗な声音で、しょうもないことを言い始めた。

 

「ねえ、女神様を助けるのはいいんだけど、あんまり夢中になったら駄目だよ」

 

「……そうか。魔王から助けられる女神か。……あちらも危ないな」

 

 フェリスが真剣な顔のまま、目を伏せて思案し始めた。

 それを受けてルナリアが眉根を寄せた。

 

「確かに。窮地を勇者に助けられるなんて、女神様がアルスに惚れちゃわないかな」

 

「……確か、女神は胸も大きいという話だ。よし、世界樹に行くのはやめるか」

 

 俺は小さく息を吐いた。

 彼女たちが、何を言葉にしてほしいのかは分かる。

 だが、こんなところで言えるか。

 戦いの前にそんなこと口にしたら、そのせいで死にそうだ。

 

「やめないよ。ていうか、俺が行かないと魔王が世界征服を始めるって言ってたろ。迷惑な話だ」

 

 ルナリアが笑みを浮かべ、俺の腕に甘えるように躊躇なく抱きついた。

 その様子を見たフェリスが眉を上げ、外套の前をわざわざ開いてから、俺の腕を抱き寄せる。

 

 濃紺のバトルドレス越しに、ルナリアの豊かな胸が押し付けられ、ぐにゅっと歪む。

 フェリスは俺の腕を、胸元の膨らみに挟み込むようにしながら身体を押し付けてきた。

 

 フェリスはともかく、ルナリアにそういうつもりはないようで、無垢な笑みを俺に向けた。

 

 だが、言葉の最後のほうは無垢ではなかった。

 

「くすっ。魔王は一年経ったらって言ってたよ? 本当はリゼット様と案内人さんがかわいそうだから焦ってるんでしょ。……まあ、嫌な子だったら燃やせばいいね」

 

「……む。今度は、私も見極める側か。……楽しそうだ」

 

 ルナリアは、気に入らないと燃やそうとするのをやめなさい。

 実は、魔王はジークフリートじゃなくてお前じゃないのか。

 

 彼女たちの体温と身体の匂いが混じり合った甘い色香が、俺を強く惹き寄せる。

 ユーリがいなくなった途端にこれだ。

 俺は大森林まで、寄り道しないで真っ直ぐ向かえるのだろうか。

 

 余計な野営を挟んでしまいそうだ。

 

 二人は、俺を両側から挟んだまま会話し始めた。

 話の熱が上がるにつれ、彼女たちの柔らかな身体がより強く密着していく。

 二人が動くたび、少女たちの身体から甘い匂いがふわりと漂う。

 

 彼女たちは心配しているようだが、俺が向ける感情は、二人とリゼット様では似ているようで違う。

 

 こうして密着するルナリアやフェリスに俺が抱くのは、仄かに薄暗い熱と強烈な眩さが共存するような、不思議な感覚だ。

 当然、これが何なのか俺は理解している。

 だが口にはしない。

 俺はそんな簡単な男ではないのだ。

 

 もちろん、リゼット様の姿に俺が強く惹かれているのも間違いない。

 彼女は、まるで俺のために存在しているかのような背徳的な魅力に満ちている。

 それでも、彼女へ向ける気持ちは、やはり二人に抱くものとは別のものだと思えた。

 

「そんな心配はいらないよ。なんて言えばいいのかな。夢で会うリゼット様は……そうだな。妹みたいな感じなんだ」

 

 それを聞いて、二人が会話を止めて俺を見上げた。

 同じように目元を細め、じっとりと俺に顔を向けている。

 

「本当かなあ。妹なんて言われると、余計に怪しいよね」

「……ああ。胸の大きな妹など、危険すぎる」

 

 俺は自分の弱い心を振り切り、二人を優しく引き剥がした。

 

「ああ、もう。うるさい。黙ってついて来い。俺は世界樹へ行くんだ」

 

 少し不満そうにしていた彼女たちだったが、しばらくすると二人で顔を見合わせ、笑みを零した。

 自分で言っておいて可笑しくなった俺も、つられて少し笑ってしまう。

 

 それから、俺は持ち上げた左腕にはまった腕輪に視線を向けた。

 細やかな装飾が施された金の腕輪が、きらきらと陽光を返している。

 

「とりあえず、まずは騎獣ってのを呼ぶか。ええと、どう言えばいいんだ。適当でいいのかな。来い、ルクス」

 

 俺の呼びかけに応えるように、金の腕輪から眩い白い光が溢れ出した。

 腕輪から俺の眼前へ、光の粒子が流れていく。

 光が収束し、ひときわ強い輝きを放った後には、俺の背丈の倍はある隼が姿を現していた。

 

 凛々しい流線型の頭部に宿る眼光は鋭く、全身を輝くような白い羽毛に覆われている。

 太い脚の鈎爪が、しっかりと地を踏みしめていた。

 白い光の粒子が、全身から零れるようにして、きらきらと漂っていた。

 

 俺はひと目で愛着が湧いた大きな隼の首もとを撫でながら言った。

 

「おお、格好いいじゃないか。よろしくな、シロ」

「ピヤアアア!!」

 

 めちゃくちゃ怒ったルクスに、大きな嘴で突かれた。

 少し出血したので、俺は自分に回復魔法をかける。

 反省した俺はルクスの目を見て謝り、再び優しく撫でてやる。

 

「ご、ごめん。そんなに怒るなよ。悪かった、ルクス」

「ピャ」

 

 俺たちのやり取りを見ていた二人も、騎獣を呼び出す。

 

「わあ、可愛いね! わたしの子はどんな感じかな。おいで、ブレイズ」

 

「……名か。鳥なら、まあ構わないか。ゼファー」

 

 彼女たちの呼びかけに呼応し、金の腕輪が赤と緑の光を放つ。

 灰色の岩肌の大地の上に、鮮やかな美しい光が収束していく。

 やがて光の中から、赤い炎をちりちりと纏う隼と、涼やかな風を纏った隼が現れた。

 

「おお、二人の騎獣も格好いいな。よし、行くか」

 

 ルナリアとフェリスが、笑みを浮かべ答えた。

 

「うん。皆で飛ぶの、楽しそうだね」

「……ん。確かに、面白そうだ」

 

 彼女たちは、地を蹴って颯爽と騎獣へ飛び乗った。

 俺は二人の華麗な動きから視線を外し、ルクスを見た。

 腕組みをした俺と、ルクスの視線が交差する。

 

「わるい。俺は跳んでも届かないわ」

「ピヤア……」

 

 すると、ルクスが仕方ないなとばかりに脚を折りたたみ、姿勢を低くしてくれた。

 ルクスが首を傾けると、光の手綱のようなものが垂れてきた。

 それは俺にしか見えず、実際には存在しないものだと、不思議と理解できた。

 

 俺はその魔法の手綱を握り、ルクスに騎乗した。

 

 鳥なので馬に跨るようにはいかない。

 背に膝をつくような形で身を預け、不可視の手綱を握って声をかけた。

 

「よし、行くぞ! ルクス、頼む……うおおお!」

 

 零れ落ちる白い光を雪のように舞わせながら、巨大な翼を広げたルクスが飛翔する。

 真っ直ぐに空を駆けるルクスは、ぐんぐん高度を上げていく。

 凄まじい速度で飛翔しているはずなのに、俺の茶色い髪を揺らすのはそよ風程度だ。

 

「こ、怖い……あれ、あんまり怖くないな。よし、ルクス、飛ばせ! いざ、世界樹だ!」

 

「ピヤア!」

 

 あっという間に、俺たちは雲の真下まで躍り出た。

 眼下には壮大な草原が広がり、先ほどまでいたはずの山脈はすでに視界の外だ。

 

 青空の向こう、地平線が弧を描いて見えた。

 大地が星だというのは、こういうことなのだろうか。

 

 俺の左右を、彼女たちの騎獣が天駆けていた。

 ブレイズが残火を奔らせ、ゼファーが風を流す。

 

 光を零しながら、ルクスが加速した。

 

 

# Someday_I_Will_Too:

 

* * *

 

 先生が旅立ってすぐ、僕は案内人に礼を告げて帰還した。

 

 転送された場所は、賢者の迷宮の入口があった洞窟の真上だった。

 海へ沈み込むような大断崖はやはり壮大で、しばし見惚れてしまう。

 

 激しい波が押し寄せては、水しぶきに姿を変えている。

 

(本当は、一人になったら案内人にもう少し話を聞いてみようと思っていたのですが、釘を刺されてしまいました)

 

 あの叡智の光景は、僕たち『新人類』にかなり気を遣った内容に絞られていると感じていた。

 あれを選定したジークという賢者は、今は魔王らしいが、優しい魔王もいたものだ。

 先生と、いい勝負なんじゃないだろうか。

 

 小さく息を吐いてから、腰の鞘の位置を整え、振り向く。

 相変わらず、北西の方角には白い光の柱が天高く立ち昇っていた。

 

 僕は首もとの賢者のネックレスから、力が共振するような何かを感じた。

 その気配に惹かれるように、そちらへ顔を向ける。

 

 その方角から、三つの小さな光が空へ駆け上がるのが見えた。

 

(白に、赤と緑。きっと先生たちですね。格好いいなあ)

 

 あれが、今の勇者パーティーの光だ。

 

 僕はその光を見ながら、自然と剣の柄を握っていた。

 いつか、あの光をもうひとつ増やす。

 僕は目元に力を込め、その決意を自分の瞳に宿した。

 

 その場合、僕の光は金と黒、どっちなんだろう。

 

(うーん。先生は白ですし、どうせなら黒がいいですね)

 

 僕は腕を組みながら、消え去った光へ視線を向けつつ思案する。

 残念ながら見送る側になった僕だが、やることは山積みだと分かっていた。

 

 王都へ戻り次第、陛下や兄上たちの手を借りて騎士団を各地に派遣しなければ。

 先生たちは、きっとすぐにでも魔王を打ち倒すだろう。

 だが、この異変が街々へ影響を及ぼしているなら、それだけでは終わらないはずだ。

 少なくとも、街に近い森林の調査は必須だし、共和国や教国とも連携する必要がある。

 

(そうだ。特使を僕が務めるのはどうだろうか。そしたら、王宮から離れることができますね)

 

 とはいえ、まず初めにやるべきことは決まっている。

 僕は土を踏みしめ、歩き出した。

 

 楽しい冒険だった。

 自分の歩きたい道を歩くために、僕はもっと強くならなければ。

 

(それにしても、早く背が伸びないかな)

 

 僕はてこてこと歩きながら、迷宮に挑む前に一晩滞在していた別荘へ足を向けた。

 しばらく歩くと、その別荘と、戸口の前に立つ近衛騎士の姿が目に入った。

 

 真紅の剣士服を纏う彼女は、僕がいつ帰ってくるとも分からないのに、毎日そこに立っていたのだろう。

 

 僕はカタリナへ声をかけた。

 

「ただいま戻りました」

「おかえりなさいませ、殿下」

 

 姿勢よく立つ彼女は眼差し鋭く、毅然とした臣下の姿だった。

 先生たちがいた時の、優しげな年上の女性らしい雰囲気は、嘘のように消え去っていた。

 僕は少し寂しく思うが、それはカタリナも同じだと分かっている。

 

 まあ、そのうち王子なんてやめるのだ。

 それまでは我慢するとしよう。

 

* * *

 

 

# COORDINATE 0094 END

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