勇者コールセンター株式会社   作:一宮 千歳

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第1話

「――ですから、陛下。陛下の勇者契約には、勇者自身の巻き起こした被害による損害賠償は含まれておりません。

 

 はい、約款の第8条でございます。はい、左様でございます」

 

西新宿。『勇者コールセンター株式会社』のオフィスに、本日何度目か分からない乾いた謝罪の声が響いていた。

 

パーテーションで区切られたデスクの主――この会社の社長であり、かつてとある世界を救った伝説のパーティの『大賢者』でもある男、ふわふわ髪で人懐っこそうな顔の山田賢介(ヤマダ・ケンスケ)は、

 

スーツのボタンを一つ開け、ヘッドセットで通話しながら、熱心にExcelの修正をしていた。

 

「ええ、はい。今回の『魔王勢力幹部迎撃ミッション』において、わが社が紹介したフリーランス勇者が放ったスキルが、

 

 御国の第一国定公園の山林を3分の1消滅させた件につきましては……

 

 はい、誠に遺憾ではございますが、自然災害、あるいは不可抗力として、御国自己負担での処理をお願いしたく存じます。

 

 ……あ、もしもし? 陛下? ――、切られたか。」

 

ツーツーと鳴るヘッドセットを置き、山田は思いきり胃のあたりを押さえた。

 

時は異世界召喚の条件に「勇者として契約していること」が絶対とされた「勇者コンプライアンス」時代。

 

神と勇者契約をし、勇者業でのワンチャンを願った、老若男女問わずの個人事業主勇者が乱立していた。

 

かつてのようにトラックに撥ねられて「気がつけば見知らぬ世界」なんて時代は終わりを告げた。

 

今の異世界往来には、政府公認の勇者ビザが必要不可欠。

 

要するに、正当な手続きを踏まない異世界転生はただの「不法入国」扱いされる、極めて現代的で世知辛い時代である。

 

そして、そんなフリーランス勇者たちを異世界(現場)へ斡旋し、

 

通信魔法、あるいは電話一本でサポートする企業。それこそが、我らが『勇者コールセンター株式会社』、そして異世界との交流を開始した日本の、新業種であった。

 

「異世界の王族は、どいつもこいつもハンコ文化と契約社会って概念を理解してないな……。 ノマエさん、胃薬、強いやつちょうだい!」

 

「社長、胃薬ばっかり使うと胃が荒れるよ。これでも舐めて落ち着きな」

 

現代のデスクに似つかわしくない、割烹着姿でモップを握った掃除のおばちゃん、ノマエさんが、山田のデスクに個包装のアメをぽいと放り投げる。

 

工業機械で均一にねじられたような包装を開け、山田はカラコロと飴をなめ始めた。

 

「あー。ノマエさんのアメ、沁みるなあ」

 

「おおげさだねぇ。市販品だよ?」

 

市販品、というのは大ウソでノマエさんの手作りなのだが、その話はここでは一旦置く。

 

そしてオペレーター席の一般社員が、悲鳴のような声を上げた。

 

「社長! 緊急! エスカレお願いします!」

 

「エスカレランクは!? 電話回して!」

 

新人オペレーターが青ざめた顔で、震える手のまま保留ボタンを押した。ランクを答える余裕すらないらしい。

 

山田は素早くヘッドセットを頭に装着し、アメをかみ砕きながら画面のポップアップをクリックする。

 

「はい、お電話代わりました、勇者コールセンター、山田です」

 

『あ、あの、もしもしっ!? タ、タイラです、先日コーディネートしていただいた平ですぅ!!』

 

受話器の向こうから聞こえてきたのは、初級短期契約、「ゴブリン集落の間引き」へ意気揚々と出撃していったはずの、まだ高校生の新人勇者の悲鳴だった。

 

背後からは、およそゴブリンのものとは思えない、地響きのような不気味な咆哮と、金属が激しくぶつかり合う轟音が鳴り響いている。

 

「平さん、落ち着いてください。現在、君のGPS……いや、誘導魔法の座標は第23番世界の『アルトリンデ特別保護区』の森林地帯ですね。何がありました?」

 

『わ、わかりませんっ! ゴブリンをちょっと倒したら、なんか急に空間が割れて、真っ黒い鎧を着たデカい人が……っ!

 

 「我は魔王軍四天王が一人、黒鋼のドルバ!」とか言って、なんか、すごいビーム撃ってきて!!

 

 周りの派遣仲間(フリーランス)の人たち、みんな一撃で倒れちゃいましたぁ!!』

 

舌打ち。

 

山田は即座にキーボードショートカットを二、三度叩き、異世界側の魔力データを引き出す。

 

ドルバという存在には心当たりがないが、画面に表示された紅い警告色は、明らかに初心者フリーランスが手を出していいレベルを超えていた。

 

「現場から離脱できそうですか?」

 

『うえええん! むりです! 腰が抜けましたぁ!』

 

ですよねー。と山田はため息をつく。

 

「安心してください、死にはしません。ほら、周りの派遣の方、粒子になっているでしょう?」

 

『ふえええん! こわいですぅ!』

 

平の悲痛な泣き声がヘッドセットから漏れ聞こえる。

 

山田は冷静に、手元の『フリーランス勇者・救済オプション価格表』のExcelシートを開いた。

 

「平さん、落ち着いて。我が社が契約している『強制送還(デスポーン)プロトコル』が正常に作動しています。彼らは死んだのではなく、日本に強制送還されただけです。

 

 あなたもダメージが規定値を超えれば、自動的に――」

 

『それが、さっきのビームのあと、なんか赤い字がいっぱい浮いてますぅぅ!!』

 

平のその言葉に、山田の動きがピタリと止まった。

 

「……は?」

 

「鎧の人、『素晴らしい!あの忌々しい勇者たちを、本当に屠ることができるとは!』 とか言ってますぅ! 何回これ言えばいいんですかぁ!」

 

焦る山田が一瞬ヘッドセットをミュートし、怒鳴り声を響かせる。

 

「これランクA事案じゃないですか! エスカレランクは覚えておいてください!」

 

「ごめんなさいぃ!」

 

涙目で平謝りするオペレーター席の一般社員。しかし山田はふと思う。そういえば、この子も入社して日が浅い。怒鳴ってしまったが、無理からぬことかなとも思い、後ほどフォローすることを決めた。

 

そして山田はヘッドセットを付けなおし、冷静さを取り繕って平に呼びかける。

 

「わかりました、今すぐ『緊急帰還プロトコル』を……効かない!?」

 

「うえええええん! 私ここで死ぬんだぁ!」

 

パニックになる平。焦る山田。

 

そこで声をかける存在がいた。Excel始末書に悪戦苦闘していた、『勇者コールセンター株式会社』唯一のマネージャー職、佐藤護(サトウ・マモル)だ。

 

「おい、賢者。俺が行く」

 

「ダメだよ!」

 

悲鳴が響くヘッドセットを押さえたまま、山田は血相を変える。

 

そこに立っていたのは、無精ひげの男。スーツのジャケットは着崩し、第二ボタンほどまで開けたワイシャツという、およそ『勇者』という言葉から最も遠い、だらしなさの極みのような男。

 

「状況は聞いてた。強制送還プロトコルが機能してねえんだろ。なら、現場(むこう)でその黒い鎧ごと、原因の結界だかなんだかを叩き壊すしかねえ」

 

「ダメだと言っているんだ! いいかい、そもそもあのエリアの王族は『救助オプション』なんて高価なものを契約していない!

 

 うちが自腹を切って出撃したところで、向こうも、勇者も1円も払わないんだよ!」

 

山田は立ち上がり、佐藤の胸ぐらに詰め寄るような勢いで早口にまくしたてる。

 

「これはビジネスだ、友よ。

 

 僕たちは対価を貰い、先方の希望通り、フリーランスを斡旋した。

 

 僕だって彼女を助けたいよ。

 

 でも、ここで契約外救助を常態化させたら、次から誰も救助オプションに入らなくなる。

 

 そうなったら、次に死ぬ勇者を救う仕組みそのものが壊れる」

 

「…………」

 

「冷たいようだが、会社としては、彼女に自力で逃げてもらうしか……」

 

「お前の正論は、いつも正しいな」

 

苦り切った顔で正論を唱える山田に、佐藤が声をかける。

 

佐藤は静かに、胸ポケットから取り出したスマートフォンを操作し始めた。

 

画面に表示されたのは、見慣れた勤怠管理アプリ。

 

『あ、あああ……! 鎧の人が、こっちに来ますぅ! 誰か、だれかぁっ!!』

 

ヘッドセットから漏れる平の絶望的な泣き声。

 

「見捨てたいわけじゃない」

 

山田は、ヘッドセットの向こうで泣いている少女の声を聞きながら、低く言った。

 

「見捨てたいわけじゃ、ないんだよ。友よ」

 

それを聞いた佐藤は、アプリの画面を山田の顔の前に突きつけた。

 

「だがな、俺の正義も正しい」

 

明滅する「午後休申請」の文字。

 

そして佐藤の足元に、オフィスビルの床を突き破るように、黄金の巨大な召喚魔法陣が展開する。

 

「うるせえんだよ、午後休だ。――明日は普通に出勤するから。」

 

光が爆発し、佐藤の姿が消えた。

 

「ああもう……!」

 

「いつもどおり、行っちゃったねえ」

 

ノマエさんがつぶやき、山田の目の前にはぽとりとアメが落とされた。

 

「労基はこんなの会社の業務扱いするに決まってるって何度も! いくら申請出しても午後休にはなんないんだよ!」

 

「お疲れ様どすえ」

 

ころころと笑うノマエさんと、溢れる胃酸に気持ち悪くなりながらアメをなめる山田。

 

そして、他の社員は「佐藤さんが行ったんなら安心だな」ムード。

 

入社まもない女子社員はおろおろしていたが、これが『勇者コールセンター株式会社』の日常だった。

 

----

 

死臭。それが現在の『アルトリンデ特別保護区』の森林地帯に充満していた。

 

緑豊かだったはずの木々は黒く焼け焦げ、強制送還も封じられた凄惨な高位魔族の結界の中で、高校生の新人勇者・平は腰を抜かし、立ち上がることすらできなかった。

 

「素晴らしい絶望だ。さあ、忌まわしき勇者よ。その恐怖と共に塵に還るがいい!」

 

この世界の魔王軍四天王、黒鋼のドルバが身の丈ほどもある、黒炎をまとった大剣を振り上げ、漆黒の魔力を収束させる。

 

平は震える手でスマホを握り直した。

 

震えながらでも、通話だけは切らなかった。

 

ここで切ったら、倒れた自分たちの場所が、誰にも分からなくなるからだ。

 

平が目を瞑り、死を覚悟した――その瞬間。

 

鼓膜を破るような轟音と共に、平とドルバの間に、大地を抉り取るような黄金の魔法陣が叩きつけられた。

 

舞い上がる土ぼこりと、吹き飛ぶ漆黒の魔力。

 

「……あー、くそ。転移先の座標設定、少しズレたか」

 

もうもうと立ち込める煙の中から聞こえてきたのは、およそ戦場には似つかわしくない、低く気怠げなため息だった。

 

「スーツが土まみれになっちまったじゃねえか。クリーニング代、経費請求するか、これ」

 

煙が晴れたそこに立っていたのは、よれよれのワイシャツの袖をまくり、無精ひげを掻きながら文句を垂れる、一人の冴えない中年男だった。

 

「マ、マネージャーさん……?」

 

「おう、佐藤だ。助けに来たぞ」

 

佐藤はワイシャツの袖をもう一度グイと捲り上げながら、相手の黒い鎧を品定めするように細めた目を向けた。

 

「『鑑定』……ああ、なるほどね。装甲の強度はC……ま、素手で十分だな」

 

そのあまりにも舐め腐った、事務的な作業見積もりのような呟きに、ドルバは兜の奥で双眸を激しく血走らせた。

 

「ぬかしたな、勇者め! 貴様のような魔力を感じられぬ、そこな小娘よりも矮小な存在が、この我を前に――!」

 

「ごちゃごちゃ言ってねえで、早く来いよ」

 

「舐めるなァァァッ!!」

 

大気が震え、空間が歪む。

 

ドルバの漆黒の大剣が、周囲の木々を暴風圧で薙ぎ倒しながら、佐藤の頭上から文字通り叩き割るように振り下ろされた。

 

「死ねェェェェイッ!」

 

「マネージャーさん!!」

 

平が悲鳴を上げて目を塞ぐ。

 

しかし――。

 

森に響き渡ったのは、肉が潰れる音ではなく、あまりにも理不尽で硬質な金属音だった。

 

「かきーん。ってな。労災もらえっかな、これ。無傷だから無理か?」

 

「……な、に?」

 

ドルバの巨大な黒鋼の大剣は、佐藤の頭に届く数センチ手前で完全に停止していた。

 

佐藤が、だらしないワイシャツ姿のまま。突き出した片手のたった一本の指で、禍々しいオーラさえ放つ、ドルバの黒炎の大剣の刃先をぴたりと押さえ込んでいるのだ。

 

「こっこーのどるば、だっけ。相手の力量も見極められないなら、(コケコッコー)のドルバに改名したらどうだ?」

 

「貴様貴様貴様貴様!!!!!」

 

激昂したドルバにより、技もなく、ただ力によって乱暴に振り回される大剣。しかしその大剣が佐藤にぶつかるたびに、もはや喜劇としか思えない、間抜けな金属音だけが森に響き渡った。

 

「なぜだ! なぜ身じろぎ一つせぬ! なぜ傷がつかぬ!?」

 

もはやパニックになりながら、ドルバはひたすらに剣を振り回した。暴風が巻き起こり、木の葉が舞う。

 

しかしその中心点となる佐藤には、いや、佐藤の衣服にすら、傷一つつかない。

 

「もういいか?」

 

と言いながら佐藤が繰り出したのは、一見ただの前蹴り。

 

しかし瞬間遅れて空気の弾ける音が響き、ドルバが起こしていたものより数段すさまじい暴風が吹き荒れる。

 

ドルバは蹴りにより、一瞬で見えなくなった。否、一撃で、かけらも残さず消し飛んでいた。

 

森に、嘘のような静寂が戻る。

 

腰を抜かしたままの平は、目の前で起きたあまりにも理不尽な光景に、ただ口をパクパクとさせることしかできなかった。

 

その頭を、無精ひげのおっさんがぽんと軽く叩く。

 

「よし、あとはゴブリン退治だ。さっさと済ませて帰るぞ……って、あー」

 

佐藤は、平の足元に一瞬だけ視線を落とした。

 

すぐに、何も見なかったように顔をそらす。

 

「……立てるか」

 

平は、真っ赤な顔で、小さく首を横に振った。

 

佐藤は平からいったん離れ、倒れている勇者たちの状態を確認し、胸ポケットから取り出したスマホで通話を開始する。

 

「あー、もしもし?

 

 うちで受け持った新人以外、だめだな。死んでる。どっかの異世界で蘇生させてやらんとならん」

 

電話先は山田だ。「蘇生費用はどこが持つんだよそれ」だの、「身元確認できるものないのか」だの。

 

平が当然の疑問を口にする。

 

「あの、みんな、助かる、んですか?」

 

佐藤はジャケットを脱ぎ、なんてことないように答えた。

 

「あー。まあ真っ二つになってる程度ならな。灰になってたら助からんが、そこそこ受けがうまかったみたいだな。これならいけるぞ。……初めてか、人死に」

 

「4年前、おばあちゃんが寿命で。だから、こういう勇者のお仕事で死ぬと、それを思い出して、もうダメなのかなって思って」

 

「死者の蘇生ができる異世界がいくつもあるからな。助かるぞ」

 

「えっ……本当ですか?」

 

「ああ。死体さえ残ってりゃ、どっかしらの異世界の蘇生魔法で無限にコンティニュー可能だ。……ま、コインいっこいれる、とはいかねえ。蘇生費用がバカ高いから、フリーランス連中は高い掛け金を払って『死亡保険』に入らなきゃなんねえんだ」

 

電話の向こうから「だから魔力反応的にその保険の適用外の事態なんだよ! うちが全額立て替えになったらどうするんだ!」という山田の胃の痛くなるような怒声が漏れ聞こえ、佐藤はそっとスマホを耳から離した。

 

「あーうるせ。切るぞ。」

 

山田が「まあ平さんが無事でよかったよ」という言葉を残し、通話は切られた。

 

ほら、これ。と、佐藤が脱いだジャケットを手渡す。「?」という表情の平。

 

「腰に巻きな。戻るまで、それで隠せる」

 

「す、すみません……」

 

「謝ることじゃねえよ。怖かったんだろ」

 

佐藤は、平の手の中のスマホを見た。

 

「それより、お前、通話切らなかったな」

 

「……切ったら、場所が、分からなくなると思って」

 

「上出来だ。あれがなかったら、座標が取れなかった」

 

「はい……! この恩は、必ずお返しします!」

 

頭をぴょこりと下げる平に、佐藤は軽く、否定の意図で手を振る。

 

「そういうのいいわ。そのかわり、勇者業でほかの誰かをその分助けてあげてくれ。」

 

急にかっこいいことをいいだす佐藤に、平は情緒をガツンと殴られた。

 

「……はい!」

 

新人勇者、平真(タイラ・マコト)16歳。勇者とは、誰かを守る勇気がある者だと認識し直した。

 

なお、その話は本筋ではない。あくまでこれは、とあるコールセンターのお話である。

 

----

 

山田の私用スマートフォンが鳴った。

 

会社代表でも、勇者窓口でも、請負窓口でもない。

 

山田賢介個人を知る者だけが鳴らせる、スマートフォン宛だった。

 

山田は嫌な予感とともに電話を取る。

 

『あのね、勇者コールセンターさん。今回の件なんだけどね』

 

やけに穏やかな声。

 

山田は胃を押さえた。

 

「……23番世界の魔王ですか?」

 

『うん。魔王です。だめだよ、あの勇者を現場に出したら。怒られるよ?』

 

「誰にですか」

 

『わかってるでしょ』

 

「……だから僕としても避けたかったんですけどね、また本人が勝手に」

 

『ま、君は“勇者を現場に出す”のが嫌いだったって聞いてる。だから、過ぎたことはいいよ。でも、ドルバ、まだ試用期間だったんだけどな。』

 

「それこそ蘇生させればいいでしょう」

 

『こっちの神様にお願いするの、高いんだよ』

 

「それは勇者も同じですよ」

 

『……そうだね、お金の問題って世知辛い。ドルバの蘇生費用の請求書、真なる勇者様御一行でいいかな?』

 

山田の口が、一瞬だけ止まった。

 

「……いや、『勇者コールセンター株式会社』でお願いします」

 

『払うんだ。……じゃあ今回の件はこれで貸し借りなしってことで』

 

ぷつり。通話が切れた。

 

山田はしばらく、待受画面を眺めていた。

 

「……コールセンター業務、楽じゃないよなあ」

 

「いまさらですか、社長」

 

オペレーターのツッコミが飛んだ。そういう会社なのである。

 

「それよりー。人員補充、考えといてくださいね」

 

「はいはい……そっちはアテがあるから、そのうちね」

 

勇者の悲鳴も、魔王からのクレームも、退職者の穴埋めも。

 

そのすべてを処理しなければならない。

 

それが、勇者コールセンター株式会社の業務である。




次話の投稿は2026/6/13 13:10です。
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