勇者コールセンター株式会社   作:一宮 千歳

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第11話

「というわけで高橋くんと平ちゃんに仕事だ。現地ギルドの依頼の採取任務だね」

 

山田の声に、平と高橋が意外そうな声をあげる。

 

「えっ、今更フリーランスの駆け出しがやるような?」

 

「もっとこう、ドラゴンをバシーッとやっつける、とかじゃないんスか?」

 

「いや、仕事なんてお願いする相手にとって確実にできるものしか斡旋しないよ。ましてや雇用してる社員なんてね。でも、そういう簡単な採取任務じゃなくて、ちょっとだけ厳しめなんだ」

 

「「はあ……」」

 

山田が明るく言う。

 

「じゃじゃーん。隠密魔法をかけて第40番世界の魔王城に潜入! その中庭にしか生えない『魔妖花』、正確にはその蜜を入手してきてほしいんだよね!」

 

「「魔王城!? 正気!?」スか!?」

 

「だって現地ギルドが依頼かけてるんだもん。業務上検討するしかないよね?」

 

「「現地ギルドのせいにした!?」」

 

「いやね、うちの会社に指名で依頼飛んできたんだよ。しかも報酬はなんと日本円にして一億円相当の財宝(マジックアイテム)。そりゃ受けるよ」

 

「「結局受けた社長が悪いんじゃない!」スか!」

 

「いや。たぶんマジで簡単だから。ほら、迷彩魔法(みえなくなーれ)~」

 

山田がひらりと手を振る。すると、平と高橋の姿が消えた。

 

「平ちゃんが見えなくなったっス!」

 

「高橋先輩いきなりどこ行ったんですか!? 転移早退ですか!? でも声はする!?」

 

パーティションの裏からひょこ、とルダが現れた。

 

「拙から解説いたします。山田総帥は三千世界に名高き大賢者ですので、その迷彩魔法は100%視認不可能となります。」

 

「え、最強じゃないスか」

 

「それなら一人でも行けそうな……」

 

口々に感想を言う平と高橋。

 

「それでこっそり花をゲットしてくればミッションコンプリートだよ」

 

「しかし問題もあります。原則的に味方にも視認不可能なので、対策しないと容易くはぐれます」

 

「「微妙に使えない!」っスね!」

 

一見最強っぽい迷彩魔法の使えなさと、もう一点に平のツッコミが入る。

 

「なんで二人で行かせようとしたんですか?

 

 あと根本的な問題として。なんで現地ギルドは『魔王城の中庭にしか咲いてない花』の蜜が必要なんです?

 

 おかしいですよね、魔王城って場所がわかってるのに一億円の報酬を出すなんて」

 

「ああ、それは観光名所だから。 第40番世界の魔王、ガーデニングが趣味でね。魔族にも人間にも庭を公開してるんだよ」

 

「観光名所!?」

 

「ずいぶん尖ったブランディングっスね…」

 

「二人に振ったのは、平ちゃんも高橋くんもお金稼ぎたいでしょ? 別に一人だけで行ってもいいけど、簡単な仕事の報酬を二人で山分けして仲間意識を高める、とかもいいかと思ってね」

 

「「うーん、ギリギリ納得できる微妙なラインの気遣い」っス」

 

「でまあ、あとは迷彩魔法で見えなくなっても発する声や音は聞こえちゃうから、高橋君はバックアップで、平ちゃんがメインで動くといいかもね」

 

「「なるほど」」

 

そういうことになった。

 

----

 

そして、現地。第40番世界に、山田の迷彩魔法(みえなくなーれ)がかかったままの平と高橋が降り立った。

 

「つきましたねー」

 

「あ、平ちゃん、ちゃんといるっスね。見えないから不安だったっス」

 

「……そういえばバックアップって何やるんですか?」

 

「インカム持ってるっすよね。通信つなげて、案内するっす」

 

「……見ればわかる構造してるって山田社長は言ってましたけど……?」

 

「スニーキングミッションっすよ!バックアップは必要なんス!」

 

「はあ……」

 

力説する高橋。しかし平は理解に苦しんでいた。

 

「今対象の魔王城内部の3Dマップを俺の視界に展開したっス。まあ平ちゃんへの共有方法がないっスけど」

 

「ダメじゃん」

 

「でもこれに熱源探知モニターをオンにすればパーフェクトな隠密任務が可能っス。まあ共有方法がないっスけど」

 

「ダメじゃんリターンズ。……てゆか、【音消し】の魔法とかあれば高橋先輩だけでよかったんじゃ」

 

「【音消し】は難しくてダメっすねー」

 

「あれ、そうなんですか? 私、使えますけど」

 

「お、じゃあ二人で潜入するっすか?」

 

『音も姿も見えないと大変なことになるよー』

 

「「あ、社長」」

 

『姿が見えないだけでも盗みには大きなアドバンテージだから。がんばってね』

 

「「今、盗みって言った」っスね……」

 

働く会社のコンプラに大いなる不安を抱きながら、二人は魔王城へと向かった。

 

そこには「お客様大歓迎」「お庭公開中」のアドバルーンを多数浮かべた洋風の城と、入り口に向かう長い行列があった。

 

「観光地っスね……」

 

「……あの、言っていいのかな? なんだかとってもネズミーな感じ……」

 

「いや、ネズミーはアドバルーン使わないっすよ」

 

どうでもいい感想を口にしながら、日本人気質剥きだしで列に並ぼうとする二人。しかし透明化しているせいでやたらと人にぶつかられる。

 

「あいたっ」 「なんか見えない壁がある?」 「透明人間人種かしら? ごめんなさいね」

 

あまりにもぶつかられるので、二人は早々に列から離れた。

 

「めっっっちゃぶつかられるんですけど!?」

 

「正面から入るのは無理があるっスね……」

 

「えー、じゃあ、不法侵入? 入場料払わないのは気が引けるなあ」

 

「そもそも植えてある花盗もうとしてる時点で大概っスけどね……えーと、3Dマップいわく、こっちに従業員通用口があるっす」

 

「こっちってどっち!?」

 

「あ、見えてないスね……えーっと、左っす」

 

「左って……こっちか!」

 

「そっちは右っす!」

 

「あれ!?私逆向いてた!?」

 

見えないのでわちゃわちゃしている。

 

「あ、俺は熱源探知すればいいっス。(うぃーむ)……平ちゃんの姿がサーモグラフィーで見えるっす。」

 

「あ、そっちからは見えるのね……でもそれ、ウインウインうるさくない?」

 

「熱源探知機能を使ってるせいっすねえ。これじゃ怪しい音でバレるっス」

 

「そーなると、高橋先輩は予定通りバックアップ担当?」

 

「そっスね。見張りっぽい人に気をつけるっす」

 

「ちゃんと教えてくださいよー?」

 

こうして平による第40番世界魔王城スニーキングミッションが始まった。

 

----

 

しかし、平はあっけなく見つかってしまった。

 

「お客様、こちらは従業員通用口でございます」

 

相手をよく見ればコウモリ型の魔族だ。そりゃあ、赤外線探知なんてお手の物である。

 

「あ、すみませーん。透明な場合ってどう入ればいいですか?」

 

「透明人種の方は見えるスタッフがご案内することになっております。この場合は……私ですかね?」

 

「はーい。」

 

『平ちゃん何やってるんスか!?』

 

「見つかっちゃったからしょうがないでしょ!? ……えへへ、入場料払いますね」

 

「はい。では、入口の方にお回りください」

 

平がコウモリ型魔族についていく。

 

更には「中庭が見たいんですけど」と平が注文すると、コウモリ型魔族はあっさり中庭まで連れていってくれた。

 

「なんかあっさり中庭まで来れましたけど」

 

『おかしいっス……これは何かの罠では……?』

 

「観光名所ですよ? 案内されるのもおかしくないんじゃないですか?」

 

てくてくと平が歩くと、庭の花壇は柵で保護されていて、説明看板があった。

 

『魔妖花。魔王陛下が二百年かけて品種改良した希少種です。眺めて楽しむ花ですので、無断採取はご遠慮ください』

 

平が報告する。

 

「見つかりましたけど、魔妖花」

 

『早くないスか!?』

 

「いや、なんかこの中庭の目玉みたいで。いっぱい咲いてます」

 

『そうかー……いっぱい咲いてるかー……』

 

平が見渡せば、中庭の中央、一区画まるまるが魔妖花の花壇のようだった。

 

----

 

「おかえり。魔妖花の蜜、確保できた?」

 

「えっと、それが……」

 

平と高橋がもじもじしている。

 

「普通に魔王にお願いしちゃったんスよ、平ちゃん」

 

「譲ってもらえちゃったんですけど……蜜があればいいんです、よね?」

 

山田が頷く。

 

「うん、正解」

 

「「え?」」

 

「いやね、第40番世界の魔王、知り合いなんだよね。だから僕なら、もとから蜜が欲しいって頼めるわけ。

 

 もちろん、危険がないことは確認済みだよ。魔王にも“新人研修で行かせる”って伝えておいた」

 

二人がずっこける。

 

「「先に言ってくださいよ!?」」

 

「先に言ったら、二人ともただのお使いだと思うでしょ。今回は、“採取任務”と“盗取任務”を区別できるかの研修」

 

「じゃあ、私が盗まずにお願いしたのは……」

 

「合格点。依頼分類は採取任務。でも依頼書の達成条件は“魔妖花の蜜の入手”。だから、盗む必要はない。もちろん僕もそんな事は言ってない」

 

「いーや、ダーヤマ社長、花をゲットすればって言ってたっス!」

 

「それでも盗めとは言ってないよ」

 

「釈然としねえっス……」

 

「まあ、簡単な採取任務を新人研修に使うのはどこも一緒ってね」

 

山田の言葉に、佐藤が口を挟む。

 

「そだな。覚えとけ。依頼の達成方法は一つじゃねえ。よく読め。で、間違えずに仕事しろ」

 

「はい」

 

「うっス」

 

勇者コールセンター株式会社の新人研修は、ちょっと特殊だった。

 




次話の投稿は2026/6/22 11:10です。
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