勇者コールセンター株式会社   作:一宮 千歳

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第14話

「そういえば新入社員の歓迎会、してないね」

 

山田がふと思い出したように口に出す。

 

「かんげいかい、ですか?」

 

平が過去問を開こうとしていた手を止め、ボブカットを小さく揺らした。

 

「平は二十未満だぞ。居酒屋は使えねえ」

 

佐藤が即座に平の年齢を指摘する。

 

「うん、だからオフィスでピザパーティにでもしようかと」

 

「いいですね、ピザ!」

 

「『ぴざ』! 地球では深夜時間帯の活動を業とする人員が緊急時に主食にすると言われる、あのファストフード!?」

 

「偏見です、お嬢様」

 

「チーズたっぷりがいいな~」

 

「ベーコンがいっぱいのったやつ!」

 

「トマトバジル!バジルこそ正義!」

 

「……照り焼きチキンピザ……」

 

いつもは目立たない一般社員も、こぞって声を上げる。

 

「あ、社長、『さかぐちちゃんねる』でピザパ配信していいですか?」

 

「待て。その場合ピザ代は『福利厚生費』で落ちないぞ」

 

坂口の提案に対する佐藤の指摘。

 

「えっ、どういうスキームですの?」

 

「え、なんでですか!? ピザってみんなで食べるから『社内親睦のための福利厚生』でいいじゃないんですか!?」

 

「いえ、佐藤マネージャーの指摘は正しいです。

 

 いいですか、お嬢様。そして平さん。日本の税法仕様において、ピザ代を『福利厚生費』として合法的に経費にするためには、

 

 【全社員を対象として、一般的かつ常識的な範囲で行われること】という厳格な規定をクリアしなければなりませんの。

 

 ですが、サカグチ様がそれをHETUBEで『ライブ配信』した瞬間――」

 

ルダがスッと人差し指を平のスマホ画面へと突き出す。

 

「そのピザパの実態は『全社員の親睦会』ではなく、世界中から同接を集めてスパチャ(売り上げ)を稼ぐための『番組制作』へと変貌します。

 

 つまり、ピザは福利厚生の『おやつ』ではなく、配信ビジネスの『番組制作費』として帳簿に記入されなければならないのですわ!」

 

「じゃあ配信できないね。残念~」

 

「ピザパの様子を撮って、SNSに載せるのはどうですか?」

 

「それはギリOKになりますが、あくまで業務外の社内親睦の様子を写す必要があります。

 

 業務に関連するパソコン、電卓、書類などが移りこまないように、片づけをしてからになりますね。

 

 それら物品が映り込むと、『ただオフィスで残業しながらピザを貪っているだけの、労働基準法グレーなブラック企業』としてネットの海にアーカイブされてしまいますよ」

 

「税務署、コワ~」

 

エーデルガルドが震えた。

 

「それじゃあ一週間後、水曜日の午後に片付けとピザパーティってことで、よろしく~」

 

山田がそういうと、おおー、と歓声が上がった。

 

----

 

そして歓迎会(ピザパ)当日。パーテーションを置きなおして休憩用スペースを無理やり広げ、業務用品はパーテーションの向こうに追いやられたオフィスは、中央に多種多様なピザが並ぶ、パーティ会場となっていた。

 

休みの社員まで出社してパーティに参加している。まあ、親睦を深める気があって何より、とも言えるが。

 

「パソコンと机、元に戻すの大変じゃない?これ」

 

「気にしたら負けだ、賢者」

 

「チーズがもちもちですわー! 耳の中にまで何か詰まってますわよ、これ! 地球の調理術、やはり侮れませんわ!」

 

請負窓口の一般女子社員と一緒になってチーズピザをむさぼるエーデルガルドは、どこが貴族?と思われるぐらい満面の笑みでピザを満喫していた。

 

「早い早い。挨拶してないよ、僕。

 

 えーこほん。今日は我が社の新しい仲間、平真(タイラ・マコト)さん、坂口希美(サカグチ・ノゾミ)さん、高橋清司(タカハシ・セイジ)くん、ナ氏族のルダさん、あとエガちゃんの歓迎会、あと『株式会社勇者派遣』の設立記念です。」

 

「また破天荒芸人みたいな呼ばれ方をしていますわ!?」

 

わはは、と一同笑う。エガちゃん呼びは、結構定着してしまっている。

 

「知っての通り、わが友、佐藤マネージャーは勇者だ。けれど、そのオーバースペックを生かせる場がなく、業務委託した個人事業主勇者に依頼を回すビジネススキームでこれまで回っていた。

 

 けれど、平ちゃんと坂口さん、高橋くんを雇用したことでわが社グループ内で仕事を回すことができるようになり、これは大変な利益を生んでいます」

 

『よっ、一億円の女!』とヤジが飛ぶ。テレテレしながらちょっと胃を抑える平。

 

「俺、ピザ食えないんスけど、歓迎会対象に入ってるの、ちょっとエモいっスね」

 

「香料センサーでチーズの匂いだけ味わっとけ」

 

「それ、ほぼ拷問じゃないっスか?」

 

「実は平ちゃんの第33番世界案件で会社にかなり余裕が出た。だから還元したい。

 

 というわけでね、歓迎会と銘打ったこの会ではあるけど、以降も福利厚生は充実させていこうと思う、というのを発表する場ともさせてもらう!具体的には!」

 

謎のファンファーレとともに、どこからかくす玉を召喚する山田。

 

「これだーッ!」

 

くす玉が割られる。飛び出す文字は。

 

「「「「「「全社員費用負担なし、六泊七日温泉旅行ーッ!?」」」」」」

 

オフィス中が火山でも噴火したかのような大歓声に包まれた。しかし佐藤が突っ込む。

 

「おい、賢者。アウトだ。

 

 ざっくり言えば、社員旅行を福利厚生費として処理するには、期間や参加率、会社負担額に条件がある。少なくとも六泊七日は怪しい」

 

「そう! だからこれは『地球内の旅行』ではないのさ!」

 

「「「「「な、なんだってーッ!?」」」」」

 

再びオフィス内が沸く。

 

「我々が向かうのは、第43番世界にある『魔導リゾート・大温泉峡』さ!

 

 あそこの時間流速度は、地球の約四倍! つまり、ざっくりいうと! 現地で【六泊七日】の極上バカンスを満喫して帰ってきても、地球側でみれば、金曜の定時後に直行して月曜の朝一に帰還するような、完璧な【二泊三日】のツアーなのさ!」

 

「あれ?体感時間はどうなるんですか?」

 

「もちろん六泊七日だよ。老化とかも準ずる」

 

「つまり地球の知り合いから見れば3日で7日分年取るじゃないですか。ちょっとなあ……」

 

「そんなの誤差だよ誤差! 社員旅行としてはこんなにいい条件ないんだからね!」

 

「誤差かな……誤差かも……」

 

「若返りの薬も支給してください!」

 

「そうだ!それだ!」

 

わあわあきゃあきゃあ。

 

結局社員旅行は賛成多数、老化してしまう点についてはノマエさん秘蔵の『三日だけ若返りの薬』が旅行参加する全社員に提供されることになった。

 

「ナイスアイデアだと思ったのにノマエさんに借りを作ってしまった……どうして……」

 

「ほほほ。」

 

嘆く山田。笑うノマエさん。

 

『勇者コールセンター』は、今日もだれかが胃を痛めている。

 




次話の投稿は2026/6/25 11:10です。
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