勇者コールセンター株式会社   作:一宮 千歳

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第3話

「チートがあれば勇者業なんてラクショーっすよ」

 

そういう若手は、多い。

 

特にここ最近、某大手IT企業により開発された『チートスキル・サブスクリプション』が爆発的に普及してからは、その傾向が顕著だった。

 

月額1万円で「即死」だの「水魔法」だの「鑑定」だのといった、使いようでほとんど無敵になれるようなスキルをアプリ感覚でインストールし、

 

安全な初心者エリアで無双しては、動画サイトに『チートスキル徹底紹介!』といった動画をアップして承認欲求を満たす――。

 

それが、現代のタイパ至上主義を地で行く、新世代の『チート勇者』たちの実態だった。

 

パーテーションで区切られたデスクの主、社長山田賢介(ヤマダ・ケンスケ)は、目の前の画面に表示された、

 

チャラついた金髪にブランド物のピアスを開けた男子大学生勇者の登録データを眺めながら、本日何度目か分からない深いため息をついた。

 

「……というわけでね、友よ。次の仕事は別会社から回ってきた、この『チートラクショー世代』の若手の救出になる予定だ」

 

「はぁ。また面倒くさそうなガキだな」

 

よれよれのワイシャツのボタンをさらに一つ外しながら、佐藤がペットボトルコーヒーを片手に画面を覗き込む。

 

「今回のもともとの依頼は『初級ダンジョンの踏破』。本来ならインストールされたチートスキルで文字通りラクショーのはずなんだけど……。

 

 どうも魔族も、最近のチート勇者たちの動きを動画サイトで『研究』していたらしくてね。チートの弱点を完全に突いた、冷酷なビジネスライクなカウンターを仕掛けてくる、と噂があってね。僕たちにお鉢が回ってきた」

 

「……動画で対策されるチートとか、タイパ最悪だな」

 

佐藤が苦笑する。

 

その時、オフィスのソファで昼寝(休憩時間)をしていたエーデルガルドが、がばっと身を起こした。

 

「チートなんて甘えですわ! 男は黙ってダクトテープと10フィート棒、それと足に馴染むいい靴ですの!」

 

「お嬢様、聞きかじりの知識はみっともないです」

 

ルダが冷静にお茶を差し出す。

 

その横では、いつのまにか入りびたるようになり、専用の入館証をぶら下げるようになった平が、不安そうに佇んでいた。

 

「あの、マネージャーさん……。そのチートの人、大丈夫なんでしょうか。私みたいに、また『強制送還(デスポーン)』が効かなくなったりしたら……」

 

不安そうに見上げる平を、佐藤は安心させるように言った。

 

「安心しろ、嬢ちゃん。俺がそうはさせねえ」

 

----

 

「は? なんで効かねえの? バグ? バグってんのこれ!?」

 

初級ダンジョン『ゴブリンの地下アジト』。

 

チャラついた金髪を恐怖で激しく振り乱しながら、男子大学生勇者・高橋(タカハシ)はスマホ型の端末を狂ったようにタップしていた。

 

彼の月額1万円のサブスクチートスキル、『絶対不可避の即死(インスタント・デス)』。

 

これまではどんな凶悪なモンスターも、端末のボタン一つでバタバタと即死させてきた。ラクショーだった。動画の再生数も稼げた。

 

だが、今、高橋の目の前を埋め尽くしているのは――数千、数万という、骨と皮と武器だけの『死者の軍勢』。

 

即死(デス)即死(デス)ってば! なんで赤いの(エラーポップアップ)が出んだよクソがぁ!!」

 

端末の画面には虚しく【対象はすでに死亡しています】という、あまりにも冷徹なシステムメッセージが点滅する。

 

当然だ。生きている相手には効くだろう。だが、スケルトンやゴーストなどの、すでに命を失った存在をどうやって「即死」させるというのか。

 

「ア、ァ、……いや、待てよ、俺にはサブオプションの『建築』が――」

 

焦る高橋が慌てて別のチートアプリを起動しようとした瞬間、背後の闇から現れた、黒いローブを纏った魔族の『マネージャー』が、冷酷に目を光らせた。

 

「スキル『建築』の発動には平均3.2秒の発動ラグがある。……それより早く、包囲を完了すれば、『対象地点に敵性存在有り』として発動しない。」

 

「ひっ……!?」

 

カタカタと骨の音を鳴らしながら、包囲網を縮めてくる無数のゴブリンスケルトンたち。

 

慌てて『強制送還』のボタンを押すが――発動しない。

 

「さあ、皆、狩りの時間だ。take it easy.」

 

----

 

時は少し戻って、『勇者コールセンター株式会社』のオフィス。

 

「例の企業への問い合わせ結果、来ました。この男性のチートは現在『即死』と『建築』らしいです」

 

勇者窓口の一般女子社員が口頭で共有する。

 

「……えー。即死とか汎用性ねえじゃん。あの会社のサブスクなら『水魔法』とか『錬成』にしとけよ。それか『鑑定』か」

 

「まあ、格が低い『即死』に頼りたくないのは同意だけど」

 

佐藤と山田のやりとり。そこにエーデルガルドののんきな声が響く。

 

「あれ、佐藤様って、もしかしたら我々の故郷で言う、レジェンド級勇者ですの……?」

 

そこにルダの冷静な訂正。

 

「レジェンドどころか、その上、エピックですわ。社長も同じく。」

 

「なんでこんな会社でマネージャーやってますの!?」

 

「こんな会社で悪かったね」

 

エーデルガルドの失言に、山田がにっこりと笑う。

 

「あ、いや、この会社を悪く言う気はないのですわぁ~!」

 

慌てるエーデルガルド。

 

そこにサイレンのような音が鳴る。ネットワーク警告灯の電子音だ。

 

「ななな、なんですの!?」

 

「他社回線からのエマージェンシーコールだ! 俺が出る!」

 

佐藤がいち早く席に戻り、通話を取る。

 

「はいこちら『勇者コールセンター株式会社』」

 

「『あ、もしもし!? 助けて! 助けてください! なんか『即死』が効かなくて、周り全部骸骨で、もう、死ぬ、死にますぅぅ!!』」

 

ヘッドセットから鼓膜を突き破らんばかりに響いたのは、さっきまでチートでラクショーと舐めくさっていた高橋の、みっともない絶望の悲鳴だった。

 

背景からはカタカタと不気味に鳴り響く、無数の骨の音が漏れ聞こえる。

 

「高橋君だな。状況は分かっている。こちらの把握している敵の展開数はおよそ一万、すべてアンデッド。間違いないか?」

 

「『骨の山ですぅ! あとなんか変なローブ!』」

 

「……はあ、相手のマネージャー級か。なあ賢者。前から言ってる通り、危険な派遣なんざ全部俺が行けばいいだろうが。」

 

「待て。敵の予測展開数が一万を超えてるなら、さすがの君もスキルを発動せざるをえない」

 

「それがどうした」

 

「君のスキル、起動したら命を食う(・・・・)だろう。これ以上君の命を戦場に支払わせるわけにはいかないんだ。君を失いたくない。」

 

真剣な眼の山田。沈黙が訪れる。

 

「……」

 

「……」

 

「……ホモかよ」

 

「ホモじゃねえよ!」

 

佐藤の問いに、山田が返す。山田としては男の友情だといいたいのだが、まったく伝わっていなかった。

 

「安心しろ、オリジナルの方(・・・・・・・)は使わねえ。どころかあっちにも行かねえ。俺がひよっこにサブスクの有効活用方法をリモートで教えてやる」

 

「え、きみ、あの会社のサブスク使ってんの?」

 

「おう、日ごろの水道代が要らなくて便利だぞ、『水魔法』」

 

「サブスク代の方が高いじゃんそれ!」

 

オフィス全体にうっすら、「この人バカなんじゃなかろうか」という雰囲気が漂う。

 

そんな雰囲気も気にせず、佐藤がインカム通話を高橋につなぐ。

 

「おいひよっこ、お前に俺の『水魔法』ホームプランを分けてやる。指示通りに戦え。」

 

「ひよっこ!? 俺には高橋って名前が……」

 

「お前の命がかかってる。ちょっとおとなしく聞け」

 

「……ウス」

 

高橋のスマホ型端末に、突如としてポップアップが浮かび上がる。

 

【佐藤 護 さんから『水魔法:ホームプラン』の共有招待が届いています。承認しますか?】

 

「いいかひよっこ。お前が使ってる『建築』のアプリをバックグラウンドで起動しろ。足元の岩から炭素を結晶化させて、極小のダイヤモンドの粉(研磨材)を作り出せ。それを俺の『水魔法』の【超々高圧水流】にブレンドしろ」

 

「え!? 何それ、スマホ熱い、熱いっす! 爆発するんじゃねえすか!! あとなんか水ぶしゃーって! やばい!」

 

「ガタガタ抜かすな。その【ウォータージェットカッター】ならスケルトン程度スパスパ行けるはずだ! 向けてみろ!」

 

「ひ、ひえぇぇぇぇぇッ!!」

 

高橋がパニックのままに、スマホを構えた右腕を横一文字に薙ぎ払う。

 

瞬間、鼓膜を抉るような超高音の風切り音が洞窟内に木霊した。

 

次の瞬間、高橋に掴みかかろうとしていた十数体のゴブリンスケルトンたちが、その頑強な骨と武器がまとめて、まるで熱したナイフでバターを断つように美しく「真っ二つ」に両断され、ガラガラと崩れ落ちた。

 

「……マー?」

 

「マ。」

 

唖然とする高橋。肯定する佐藤。

 

「マジあざッス! 生き残れる気がしてきたっす!」

 

「そうか。まあがんばれ」

 

「黒ローブがなんか居なくなったっス! 逃げ足だけは早いっスね!」

 

対抗手段を手に入れたことで元気になった高橋は礼を言い、スケルトンの掃討に意欲を見せる。

 

高橋が通話を切る。『勇者コールセンター株式会社』に平和が戻ってきた。

 

「あの。通話終了してよかったんですか」

 

平の疑問。それに佐藤と山田が応じる。

 

「ああ。相手のマネージャー級は泡くって逃げ出したみたいだから、ひよっこがスケルトンを始末できれば勝ちだ」

 

「モニタリングしてる感じ、順調だよ~。今回は転移もしてないし、この案件はわずかだけど、儲けになるね」

 

「よかったです!」

 

「よかったついでに、アメちゃん、いる?」

 

ノマエさんが平にアメを差し出す。

 

「あ、ノマエさん!ありがとうございます! いただきます!」

 

『勇者コールセンター』は、今日はちょっと平和だった。

 




次話の投稿は2026/6/14 11:10です。
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