現世に侵略してきた異世界人を撃退して世界を救ったら、世界と異世界から命を狙われるようになりました。   作:佐久間 譲司

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第九章 告白

 妙な夢を見ることもなく、翌朝、直斗は気持ち良く目を覚ました。春香と共にしっかりと朝食を取り、晴れた空の中、一緒に家を出る。

 

 春香は相変わらずJENNIの服で纏めていた。今日は青のショートパンツとピンクカットソーだ。家の門の外で待っていた春香の友達も同じブランドのものを着ているようだ。小学生のファッションは没個性的な傾向にあるらしい。

 

 途中、春香が通っている春日小学校方面へ向かう二人と別れ、直斗は一人で扶桑高校を目指した。今年は空梅雨らしく、雨が降る気配はなかった。相変わらず、強い日差しが燦々と照りつけている。

 

 直斗は、扶桑高校へ到着し、二年三組の教室へと歩く。三組の教室に入る際、直斗は二組の方へ目を向けた。関係者以外の接近を禁じられたお陰か、それともまだレイラが登校を行っていないせいか、昨日とは打って変わって、教室の前は静まり返っていた。すでに登校している二組の生徒が、わずかにたむろしているだけだった。

 

 直斗は教室に入り、自分の席に通学鞄を置いた。教室の隅にある席を見ると、木場がポツンと座っているのが目に入る。魔法はもう披露していないようだった。レイラの魔法が、木場の残り少ないファンを、全て掻っ攫って行ったらしい。

 

 直斗は心の中で木場を哀れみながら、裕也の席へ行った。

 

 「よお、今日は早かったな」

 

 裕也はスマートフォンで、ゲームをやっていた。扶桑高校は、スマートフォンの校内持込を禁止にしてはいないが、緊急時のみの使用に限定されていた。しかし、それが遵守されるわけがなく、緊急時以外の使用が黙認されている状態となっていた。

 

 「昨日が特別に遅かったんだよ」

 

 直斗は裕也の隣の席に座り、スマートフォンを取り出す。裕也と共通のソーシャルゲームをやっており、時々一緒にプレイしていた。

 

 裕也と直斗は、授業開始が迫るまでそのゲームをして過ごした。

 

 一時限目は現代国語だった。中島敦の『山月記』を習う。戦時中に書かれた変身譚だった。

 

 優秀だが、傲慢な李徴は、没落の末、虎になってしまう。李徴《りちょう》は、手に入れた強靭な爪と牙をもって人を食い殺す。

 

 それは、虎になったために薄れ行く自意識の欠如のせいだと李徴は語っていたが、自意識を保っていても、李徴は同じことをしただろう。仮に、自由に人間へ戻れたとしても結果は同じだ。いずれ禁軍などに捕えられ、悲惨な運命を辿るはずだ。

 

 過ぎた力は使うべきではないのだ。例え善行に使っても、ろくなことにはならないものだ。

 

 やがて、一時限目が終了し、休み時間が始まった。俊一が直斗の元へやって来る。

 

 「レイラさんを一目見に行かない? 友達に頼めば入れてくれると思うよ」

 

 昨日と変わらず、俊一は美少女留学生に熱心だった。鼻息荒く言う。

 

 「俺も着いて行くぜ」

 

 裕也もいつの間にか傍にいて、同行を申し出る。

 

 「いいよ。一緒に行こう」

 

 俊一がそう答えるのと同時だった。

 

 教室の後方にある出入り口付近から、よめきが聞こえた。

 

 直斗はそちらを向いた。

 

 直斗の目に映ったのは、レイラだった。たった今、三人が会いに行こうとしていた人物が、この教室に入って来たのだ。

 

 三組の教室は、アイドルの突如とした訪問に、色めき立った。そのような生徒達の視線を一斉に受けながら、レイラは、気にする素振りを一切見せず、教室の中を進み始めた。

 

 教室にいる生徒達が目で追う中、レイラは金色の綺麗な髪をたなびかせ、直斗達がいる方へと向かって来ていた。視線も直斗達を捉えているように見える。

 

 レイラのその行動を見て、直斗は自分達に用があるのではないか疑った。

 

 しかし、すぐに、まさかと否定する。そんなはずは無かった。接点など、全くないのだから。

 

 直斗がそう思考したのも束の間、そのまさかであることが判明する。

 

 直斗達のすぐ目の前まで来たレイラは、そこで立ち止まった。そして、直斗をまっすぐ見据え、大きな目を直斗へ向けながら、小さな唇を開いた。

 

 「あなたが藤崎直斗君?」

 

 レイラの綺麗な声に、直斗は反射的に頷いてしまう。

 

 そして、レイラは驚くべきことを口にした。

 

 「あなたが好きになりました。私と付き合ってください」

 

 レイラは周囲に憚ることなく、大きな声で、そう告白を行った。そして、ぺこりと頭を下げる。

 

 直斗は一瞬、頭が真っ白になった。

 

 隣に居る俊一が、殺人現場を目撃でもしたかのように、小さな呻き声を上げた。裕也は唖然とした表情で、レイラを凝視する。

 

 一連の展開を見守っていた教室中の人間も、始めは静まり返っていたが、たちまち火がついたかのように、ざわざわと騒ぎ始めた。

 

 その喧騒の中、直斗の脳裏には、様々な疑問文が渦を巻いた。

 

 一体なぜレイラが自分に告白を? 昨日留学してきたばかりなのに? 何かしら裏があるのだろうか? それとも本心で言っているのだろうか?

 

 想像だにしなかった、異世界人の美少女からの告白に、直斗の頭は混乱を来たしていた。喜びや嬉しさと言った感情は生まれず、ただ、動揺が直斗の胸を覆っていた。

 

 女子からの告白は生まれて初めてだったが、こんなに心がざわめくものなのか。それとも相手が異世界人だからなのか。

 

 直斗の心中に、複雑な思いが去来する。

 

 いつの間にか周りが静かになっていたので、直斗は周囲を見渡した。すると、そこでクラスメイト達の視線が全て、自分に注がれていることに直斗は気が付く。そして、その視線に込められた意味を、テレパシーのように感じ取った。

 

 皆、レイラの告白に対する、直斗の答えを待っているのだ。恋愛ドラマのクライマックスシーンを見ているかのような、興味津々とした様子で。

 

 レイラも、人形のように可憐な顔を直斗に向けたまま、辛抱強く返答を待っていた。

 

 直斗は唾を飲み込み、答える。

 

 「ごめんなさい」

 

 直斗は頭を下げ、断りの言葉を発した。なぜだがわからないが、ここは断るべきだと直感が告げているような気がしたのだ。

 

 レイラは悲しそうな顔を見せた。そして顔を伏せる。

 

 再び、周りが騒がしくなる。直斗を非難するような声が一部から発せられた。

 

 裕也は今度は、責めるような目を直斗に向けていた。断るなんて何を考えているんだ。この馬鹿は、とその目は語っていた。

 

 一方、俊一は、困惑したような表情で直斗とレイラを見比べていた。レイラの反応を気にしているらしい。

 

 レイラは顔を上げた。その顔は笑顔に変わっていた。天使のような、見るもの全てを魅了させるような笑顔だった。チラリと長い八重歯がのぞく。それも魅力を助長させるチャームポイントとなっていた。

 

 「そう。ごめんなさい。突然、こんな告白をしてしまって」

 

 レイラは申し訳なさそうに言うと、再びぺこりと頭を下げた。そして続ける。

 

 「でも、本当にあなたのこと好きになったの。だから……その……」

 

 レイラは迷うような仕草をした後、決心し、口を開いた。

 

 「付き合うのが駄目なら、友達からでお願いします」

 

 そして、今度は深々とおじぎをした。

 

 レイラの二度目の告白に、直斗は再度、当惑する。どうしようと思う。周囲のクラスメートや、裕也達から、刺さるような視線が自身へと向けられているのを直斗は、肌で感じ取っていた。そこには、拒否権を認めないような、妙なプレッシャーが含まれている気がした。もしも、これすら断れば、非難轟々かもしれない。

 

 「わかった。友達からなら」

 

 意を決して、直斗は了承を行った。さすがにクラスメイト全員を敵に回したくない。まだ学園生活は、続くのだから。

 

 レイラは太陽のように明るく顔をほころばせ、喜んだ。今にも抱きつきそうな程に体を近付け、直斗の顔を見つめたまま、直斗の手握った。レイラの豊満な胸が、手に当たりそうになる。

 

 直斗は恥ずかしくなって、周囲を見渡した。羨ましそうな表情の俊一と目が合った。他に目を移すと、他の生徒達も、羨望や嫉妬と言った感情が読み取れる表情をしていた。

 

 直斗は、再びレイラに視線を戻す。その時、レイラは直斗の顔ではなく、直斗の体の『ある』部分を見ていた。直斗の視線が自身に戻ると同時に、レイラは『そこ』から目線を慌てて戻したのだ。

 

 そのように直斗の目には映った。だが、一瞬のことなので、確信は持てなかった。

 

 その後、レイラは何事もなかったように、スマートフォンを取り出し、直斗に連絡先の交換を申し出た。

 

 直斗は言われるまま電話番号やメールアドレス、SNSのID等の情報を交換する。その最中も、周囲にいるクラスメイト達からの視線を、痛いほど感じていた。

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