現世に侵略してきた異世界人を撃退して世界を救ったら、世界と異世界から命を狙われるようになりました。   作:佐久間 譲司

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第十二章 執着

 レイラの告白を受けた日から、直斗を取り巻く環境は変化を見せた。その要因の一つが、レイラの執拗なアプローチだった。そのアプローチは、半ば、ストーカーじみており、対応自体に四苦八苦した。

 

 レイラと交換を行ったSNSでのメッセージにおいても同じだった。家に帰ってから、毎日大量のチャットが届くのである。返信が少しでも遅れると、今度は電話が掛かってくるのだ。

 

 そういったレイラの行動に、なぜか周囲のクラスメイト達は疑問を持っておらず、羨むばかりだった。レイラの美貌のせいで、皆は、盲目になっているのだろうか。

 

 そして、もう一つの変化が、周囲の目であった。学校のアイドルとなった異世界人から告白を受けたのだ。直斗は注目の的となった。それまで、他者に注目を受けるような人間ではなかった直斗は、強い戸惑いを覚えた。

 

 直斗自身、レイラを避けたい気持ちがあったのだが、周囲の生徒がそれを許さなかった。少しでもレイラに対し、無礼があれば、非難が集中するのだ。

 

 そのように変化した環境の中、一つのことが判明した。レイラの告白を受けて、ちょうど一週間が経過した時だった。

 

 レイラの『目的』がわかったのである。

 

 放課後のことだった。

 

 いつも付き纏ってくるはずのレイラは、その日に限って、神妙な顔で、直斗を体育館裏へと呼び出した。

 

 姿を見せた直斗に対し、レイラは、直斗の胸に縋り付き、こう懇願したのだ。

 

 「もう限界なの。血を飲ませて」

 

 薄々は察していたものの、その言葉により、ようやくレイラの本当の目的が明らかとなった。やはり、直斗の『血』を欲していたようだ。

 

 直斗は、その事実を知り、むしろホッとしていた。『ロビン・フッド』である疑いを抱かれるよりも、遥かに安全と言える事実だった。『血』が目的の場合、その『血』さえ摂取されなければ問題ないからだ。

 

 レイラの言動からは、その『性質』までは気付いておらず、ただ単に、『血』が魅力的に映っているだけのようだった。もしも、レイラに『血』を摂取されれば、『性質』を見抜かれ『ロビン・フッド』とは別の形で脅威とはなるかもしれない。しかし、それでも、世界を丸ごと相手に回してしまう『ロビン・フッド』だという事実が判明するより、リスクは低いはずである。 

 

 そうは言っても。もちろん、直斗の『血』の力が判明したために背負う危険も、決して無視出来ることではない。なので、断固として、レイラの要求は断らなければならない。

 

 そこで、直斗は取り付く島を与えないほど、はっきりと拒否の構えを取った。

 

 血を飲まれるのは怖く、精神的に受入れる事が出来ない、体を傷付けられるのがどうしても嫌だ、だから、絶対に血を飲ませるわけには行かない、とそう伝えた。これは事実でもあった。

 

 直斗から拒否を受けたレイラは、過剰な反応を見せた。大きな胸を押し付け、哀願した。

 

 「お願い、何でもするから」

 

 レイラは真に迫るような必死の形相だった。麻薬に漬けになった女が、売人に、薬を懇願するような姿であった。

 

 「無理だよ。諦めて」

 

 直斗は突き放すように言い放った。そして、やんわりと、レイラの体を自身の体から引き離し、レイラに背を向けて歩き出した。

 

 「待って!」

 

 背後から、レイラの悲痛の声が響く。その声を聞き、直斗は一瞬、レイラが襲って来るのではないかと警戒をした。それほど、鬼気迫る思いが、声に込められているように感じられた。

 

 仮にレイラが吸血鬼の力を以って、襲って来たとしても、直斗の『血の力』を使えば、撃退できる自信はある。しかし、それはやはりリスクを増大させる行為だった。体育館裏は閑散としており、人は自分達以外いなかった。そのため目撃者の心配は無かったが、レイラはそうはいかない。力を行使すれば、血を飲まれたケースとほぼ同等の疑念をレイラに与えてしまうだろう。

 

 詰まる所、面倒なことに、血を飲まれるのも、撃退するのも、避けなければならない。可能な限り、水際で止めるべきなのだ。

 

 だからここは、天に祈るしかない。

 

 頼むから、何もするなよ。

 

 直斗の祈りが届いたのか、レイラは何のアクションも示さず、うな垂れたまま、その場から動くことは無かった。

 

 直斗は、心に少しだけ、罪悪感を覚えつつ、体育館裏を後にした。

 

 

 

 その夜のことだった。

 

 自室で《Z会》の過去問を解いていると、直斗のスマートフォンに、レイラからSNSのチャットが届いた。あれだけ突っぱねたにも関わらず、すぐにでもコミュニケーションを取ろうとする気概に直斗は感心を覚えた。

 

 内容を確認してみる。

 

 《今日はごめんなさい。あまりにも直斗の血が魅力的だから、我を忘れちゃって。もう二度と、血を欲しいなんてお願いをしないから、嫌いにならないで》

 

 絵文字や顔文字を使用していないシンプルな構成だった。内容を見ても、真摯な気持ちが強いように思える。

 

 だが鵜呑みにしていいものだろうか。

 

 直斗は少し思案し、無難な返答を送った。

 

 《気持ちはわかってるよ。気にしていないから、安心して》

 

 あまりにレイラを無下に扱うと、今度は学校の同級生達が怖かった。下手をすると、学校生活が立ち行かなくなってしまう。それはロビン・フッドだと判明することと同等なほど、破滅的なものに直斗は感じていた。

 

 レイラから返信があった。

 

 《よかった。直斗って優しいね。大好き》

 

 先ほどのチャットとは打って変わって、ハートや顔文字を使用しての、派手にデコレーションされた文章だった。

 

 直斗がどう返信しようか悩んでいると、部屋のドアが、ノックも無しに急に開かれた。

 

 そこから春香が、ひょっこりと顔を出す。

 

 「お兄ちゃん。何をしているの?」

 

 三つ編みを下ろした髪を揺らしながら、春香がトコトコ部屋の中へ入ってくる。春香はパジャマ姿だった。風呂から上がり、暇を持て余したため、直斗の部屋へと赴いたようだ。

 

 「勉強」

 

 直斗のすぐそばまでやって来た春香に、直斗はさらりと答えた。春香は頬を膨らませる。

 

 「嘘ばっかり。スマホをいじっているじゃん」

 

 「連絡してるんだよ」

 

 「誰と?」

 

 春香は、直斗の手元にあるスマートフォンを覗き込もうとした。直斗は慌てて、スマートフォンの画面を春香の目から遠ざけた。

 

 これは、あまり人目に触れさせるような内容のチャットではない。ましてや妹だ。見せない方がいいだろう。

 

 「あー、なんで隠すの?、もしかして女の子?」

 

 春香は幼さを感じさせる顔に、悲しさを滲ませながら、拗ねた声を出す。

 

 「違うよ。裕也だよ」

 

 直斗は嘘をつき、裕也の名前を上げた。裕也は、何度かこの家に遊びに来たことがあり、春香とは顔見知りだった。

 

 「嘘。裕也君だったら見せてよ」

 

 「また今度な。それより遊びに来たんだろ?」

 

 直斗はそう言いながら、《Z会》の参考書を閉じ、スマートフォンをチノパンのポケットに入れた。レイラへの返信は後回しにしようと思う。妹を構っていたため、返信できなかったと説明すれば納得してくれるだろう。

 

 「うん。ゲームしよ」

 

 春香はなおも、チャットの相手が気になるのか、スマートフォンを入れた直斗のチノパンのポケットを気にしながら、そう答えた。

 

 「オッケー」

 

 直斗は据え置きのゲーム機を準備し、二人で遊び始める。

 

 遊んでいる間、頻繁にチャットの受信を告げるバイブレーションが脅迫のように、ポケットの中で鳴っていた。しかし、直斗はそれを無視した。春香は直斗のその行動に対し、不思議そうな顔をしていたが、質問してくることはなかった。

 

 やがて階下から、風呂へ入れという、蛍子の声が直斗へと飛び、兄妹のレクリエーションは終わりを迎えた。

 

 春香が自室へ戻ったのを見届けた後、スマートフォンを確認する。

 

 《107件》

 

 レイラからの受信件数だった。背筋が寒くなるものを感じるが、連日のことなので、少し慣れてしまっていた。

 

 《ごめん! 妹にせがまれて遊んでいたら返信できなかった》

 

 そして送信。

 

 送ると同時に、そのチャットを相手が読んだことを示す「既読」の文字が表示された。送信から、既読表示までのスパンが全くなかったことから、画面を開いたまま、ずっと直斗からの返信を待っていた可能性がある。 

 そして案の定、すぐさまレスポンスがあった。

 

 《妹さんがいるのね! 今度、会ってみたい》

 

 妹の話を出したことに対する後悔の念が、直斗の頭に、少しだけよぎる。大した問題ではないだろうが、あまりこちらのプライベートの情報を明かすべきではなかったかもしれない。

 

 直斗は、それから何度かレイラと無難なやりとりを続けた。そして、いよいよ蛍子が部屋に乗り込んできそうなほどの、怒声が家中に響き渡ったことから、すぐにでも直斗は風呂へ入ることを余儀なくされた。

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