現世に侵略してきた異世界人を撃退して世界を救ったら、世界と異世界から命を狙われるようになりました。   作:佐久間 譲司

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第十四章 訪問

 「あそこに寄って行こうぜ」

 

 放課後になり、裕也は、直斗と俊一にそう進言した。裕也の言うあそことは、扶桑高校から十分ほど木更津朝日方面に歩いた場所にある、イオンタウンのことだ。

 

 本来、部活動停止は、勉学の時間を確保するために設けられた制度のはずだが、裕也は完全に、フリーの時間と受け取っているようだ。日曜日の子供のように、生き生きとしている。

 

 「レイラちゃんも呼べよ。四人で回ろうぜ」

 

 裕也は目を輝かせながら、直斗に指示を出す。あくまでレイラは、直斗にくっついて来るのであって、裕也に対しては、おまけのようにしか見ていないはずだ。しかし、裕也は、自分とのデートであるかのような気分でいるらしい。

 

 そんなやりとりを直斗達が交わしていると、レイラが直斗達の教室へ入ってきた。レイラはこの一週間、下校の時刻になると、さよならの挨拶を言いに、直斗の元へとやって来ていた。今日もそのつもりのようだった。

 

 そのレイラに、直斗は誘いの言葉をかける。

 

 レイラは子供のように喜んで、誘いを了承した。直斗からレイラに、何かを誘ったのは、今回が初めてだった。

 

 四人は揃って学校を出た。朝から引き続き、空は暗雲に覆われていた。幸い、空は持ち堪えてくれているらしく、雨は降っていなかった。

 

 裕也は、自転車通学であるため、自転車を取りに行った。俊一はバス通学通学なので、自転車はなかった。

 

 直斗も自転車通学を望んでいたが、不幸にも、自転車通学の許可が下りる校区から、ギリギリ外れていたため、徒歩通学を余儀なくされていた。当初は、己の不運を恨みながら登下校をしたものである。

 

 裕也が自転車を押しながら戻ってきた。

 

 四人はイオンタウンへと向かった。

 

 

 

 ゲームセンターや、本屋などを一通り見て回る。

 

 ここでも学校と同じく、レイラは人々の視線を集めていた。中には、露骨に、スマートフォンのカメラでレイラを撮影しようとした中年の女性がいたが、裕也が注意をし、撤退をさせていた。

 

 そのような中、四人は買い物を終え、店の外へと出た。空はいよいよ今にも降り出しそうだった。

 

 「早めに帰った方がいいかもな」

 

 空を見上げながら、裕也が呟いた。すると、突然、レイラが口を開いた。

 

 「ねえ、今から直斗の家に行っていい?」

 

 レイラは胸の前で手を合わせ、そう訊く。

 

 直斗は首を振った。

 

 「雨が降りそうだから、止めていた方がいいよ。それに、今から来ていたら遅くなるよ。下宿先の人も心配するんじゃない?」

 

 レイラは、学校近くの民家にホームステイをしていた。

 

 「直斗、妹さんがいるんでしょ? 私、会いたい」

 

 断られたことにもめげず、レイラは食い下がった。以前、打診して来た時よりも必死だった。

 

 裕也が口を挟んだ。

 

 「春香ちゃんのことかな? 可愛いよな。いいじゃん、直斗。少しくらいなら会わせてやっても」

 

 裕也はレイラに助け舟を出す。こいつはまた、余計なことを。

 

 直斗の心中などお構いなしに、俊一も援護射撃を行った。

 

 「そうだよ。こんなに頼んでいるんだし。あまりレイラさんを悲しませると、親衛隊や、ファンの連中が怖いよ」

 

 俊一は、実際に直斗が懸念していることに言及した。確かにそれがある以上、無下に断ることは避けたかった。しかし、やはりレイラを家に招き入れるのは、気が引けるのだ。

 

 「私が家にお邪魔するのが、そんなに嫌なの?」

 

 レイラは、悲痛な面持ちで、直斗に訴えかける。

 

 レイラの大きな目が、微かに潤んでいた。

 

 「直斗、連れて行ってやれよ。可哀相だろ」

 

 裕也は、レイラの表情を見て、感化されたのか、直斗を責める。俊一も、そうだそうだと、エールを送った。

 

 直斗は心の中で溜息をついた。二人共知らないのだ。レイラが直斗の血を狙っていることを。この娘は、吸血の対象として、俺を見ているんだぞ?

 

 そう二人に暴露するわけにもいかず、直斗は仕方なく頷いた。

 

 「わかったよ。うちにおいでよ」

 

 「うん! ありがとう」

 

 レイラ、はちきれんばかりの喜びの表情で、直斗に礼を言った。その笑顔から覗く、白くて長い八重歯が、輝いたように見えた。

 

 

 

 裕也達と別れ、レイラと共に清見台を目指す。一緒に歩いている間、レイラは、直斗の血には、一切手を出さないことを何度も誓った。直斗が吸血に対して、警戒しているのを気付いていたようだ。

 

 清見台の自宅へと到着し、レイラを玄関に入らせる。思えば、高校生になってから、女の子を家に連れ込んだのは、これが初めてだった。しかもそれが、異世界人の女の子になるとは、なんとも数奇な運命を辿っているような気がする。

 

 「ただいま」

 

 直斗は土間から、家の中に声をかけた。玄関の鍵が掛かっておらず、土間に靴があったため、春香は帰ってきているはずだった。

 

 ドタバタと、階段を駆け降りて来る音が聞こえる。

 

 「おかえり!」

 

 春香は、無邪気な笑みを浮かべながら、出迎えた。しかし、直斗の隣にレイラがいることに気が付き、硬直する。春香は、大きい動物と対峙した猫のように、まじまじとした目で、レイラを見つめた。

 

 春香が直接、異世界人を目にするのは、この時が初めてのはずだった。その上、突然、それが自身の家で起こってしまったのだ。動揺するのも無理はない。

 

 直斗が、硬直したままの春香に、声を掛けようとすると、レイラがその先を越した。

 

 「あなたが春香ちゃん? 初めまして。レイラって言います。話で聞いた通り、可愛い子ね」

 

 レイラは、全ての人間の心に、隙を作らせるような、愛くるしい微笑を春香に向けた。

 

 そのお陰か春香は、幾分か警戒が解けたようだった。僅かに、はにかんだ表情で、挨拶を返す。

 

 「こ、こんにちわ」

 

 春香は、もじもじと、後ろに組んだ手を、恥ずかしそうに動かしていた。

 

 直斗は靴を脱ぎ、家の中へ上がる。そして、春香の頭を優しくなでた。

 

 「さあ、レイラも入って」

 

 あまり気が進まないものの、ここまで来たのだ。仕方ない。

 

 直斗はレイラを招き入れた。

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