現世に侵略してきた異世界人を撃退して世界を救ったら、世界と異世界から命を狙われるようになりました。 作:佐久間 譲司
直斗は自室で、春香を交え、レイラとトランプで遊んでいた。春香は当初と打って変わって、すっかりレイラに心を許したようだった。レイラにぴったりとくっつき、楽しそうに笑っている。まるで実の姉妹になったかのようだ。
ゲームの内容は、ババ抜きだった。だが、春香とレイラは同盟を結んでおり、直斗は二対一の苦戦を強いられていた。
「はい、お兄ちゃんの負けーっ!」
春香の手元に残った、最後のトランプを直斗が取り、直斗の負けが確定した。
「いえーい!」
先に上がっていたレイラと、春香は、勝ち誇ったようにハイタッチを行った。直斗は、憮然とした表情で、ババをカードの山に捨てる。
「お兄ちゃん弱いー」
「ねー」
二人は笑い合う。すでに十何年来の仲良しといった雰囲気だ。レイラの美貌のお陰だろうか、やはり容姿が優位であることは、人の警戒心すら、解きほぐす力があるようだった。
直斗は、自室の時計に目を走らせる。そろそろ、六時に差し掛かる頃だ。
「ねえ、レイラ、時間大丈夫? そろそろ帰らないと、下宿先の人が探し出すかもよ」
直斗はレイラに訊く。もうトランプは止めにして、お開きにしたらどうか、というニュアンスを込めた。徒党を組まれ、こちらが負け続けなのは構わないが、このまま遊んでいても、時間の浪費のような気がする。今はテスト直前なのだ。勉強をしたかった。学年の順位を落としたくない。それに、レイラを自分の家に留めておくことは、爆弾を置いているような、妙な危機感を直斗にもたらすのだ。
レイラは、直斗の思惑とは裏腹に、首を横に振った。
「まだ大丈夫だよ。ホストの方にはちゃんと説明するから。私、春香ちゃんのこと気に入っちゃった。ずっと一緒にいたい!」
「あたしも! ずっとここに居て」
レイラと春香は抱き締め合った。先程から、レイラのスカートの裾が捲り上がり、レイラの白くて綺麗な太腿が、あらわになっている。下着も見えそうになっていた。
レイラは、それを直そうとはしなかった。意図的なのかもしれない。直斗を誘惑するような、そんな気配を感じる。
直斗は、レイラの太腿から目線を逸らし、春香に語りかけた。
「そんなこと言ったって、レイラは家に帰らなくちゃいけないんだぞ。諦めろよ
春香は聞く耳を持たなかった。
「いやだー。レイラお姉ちゃん、私のお姉ちゃんになって」
「うん、なるなる。ずっと春香ちゃんみたいな妹欲しかったんだ」
レイラは、春香の三つ編み頭を優しくなでた。
直斗は、二人のやり取りを若干嫌気が差しながら眺めていた。
「嬉しい!レイラお姉ちゃん、ずっと一緒に居てね」
「もちろん。直斗お兄ちゃんと一緒に、ずっと春香ちゃんのそばに居るよ」
レイラの言葉に、春香は顔を上げる。春香の頬は膨れていた。
「それがねー、お兄ちゃん、ずっと一緒に居てくれなかったんだよ」
「どういうこと?」
レイラの質問に、春香は、じっとりとした目を直斗に向けた。
春香は答える。
「去年『ロビン・フッド』が戦った日だよ。お兄ちゃん、友達と一緒に観るって言って、途中で出掛けちゃったんだ」
春香は、あの日のことを独白した。直斗は、しまったと、心の中で後悔する。口止めをしておくべきだったかもしれない。
「へーそうなんだ」
レイラはぼんやりと頷くと、直斗の方へ顔を向けた。
「誰と会ってたの?」
「え?」
「だから、去年の決闘の日、家から出て、誰と会ってたの? 同じクラスの人?」
レイラの詰問に、直斗は一瞬、目が泳いでしまった。当時の台本では、家が近いクラスメイトと会っていたとする筋書きだったが、それはあくまで家族用だった。いくら蛍子とは言え、わざわざ確認など行わないだろうと踏んだ上の考えだった。
しかし、レイラは違う。同じ高校の生徒なのだ。確認など容易い。
そのため、別の筋書きを模索しようと頭が働き、結果、逡巡が生じてしまった。それが表情に表れたのだ。
目の前の吸血鬼は、それをどう受け取ったのだろう。
「……レイラの知らない人だよ」
「他校の人?」
「そんな感じ」
「ふうん」
直斗の曖昧な返答に、レイラは、微妙な顔で頷いた。納得しているのか、していないのか、よくわからない表情だ。
不都合な展開に、直斗は内心、困惑していた。レイラを家に招くことに対し、拒否感があったのは、無意識下でこういった出来事を予想していたせいかもしれない。
元凶を招いた春香は自らの失言に気付くことなく、二人の雰囲気が少し変わったことに、きょとんとした表情をしていた。
「どうしたの?」
春香は、レイラの胸に抱きついた。レイラは微笑み、春香の背中をさする。
「なんでもないよ」
レイラはそう春香に声をかけた後、直斗の方へ向き直った。直斗は、また何かを言われるのかと、ドキリとする。
「直斗、ごめんなさい。今日はこれで帰るね。雨も降りそうだし」
「う、うん。わかった」
別段、何も言われず、直斗はホッとする。
春香が悲しみが混じった抗議の声を上げた。しかし、レイラのまた来るから、という諌めの言葉に引き下がった。
玄関口にて、ローファーを履いたレイラは、可憐な笑みを直斗と春香に向け、頭を下げた。
「それじゃあ、お邪魔しました。また明日、学校でね」
「ああ、気をつけて」
「バイバイ」
レイラは、二人の言葉を背に、玄関から出て行った。
そして、その後、すぐに小豆を挽くような音と共に、大雨が降り出した。