現世に侵略してきた異世界人を撃退して世界を救ったら、世界と異世界から命を狙われるようになりました。   作:佐久間 譲司

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第十五章 疑惑

 直斗は自室で、春香を交え、レイラとトランプで遊んでいた。春香は当初と打って変わって、すっかりレイラに心を許したようだった。レイラにぴったりとくっつき、楽しそうに笑っている。まるで実の姉妹になったかのようだ。

 

 ゲームの内容は、ババ抜きだった。だが、春香とレイラは同盟を結んでおり、直斗は二対一の苦戦を強いられていた。

 

 「はい、お兄ちゃんの負けーっ!」

 

 春香の手元に残った、最後のトランプを直斗が取り、直斗の負けが確定した。

 

 「いえーい!」

 

 先に上がっていたレイラと、春香は、勝ち誇ったようにハイタッチを行った。直斗は、憮然とした表情で、ババをカードの山に捨てる。

 

 「お兄ちゃん弱いー」

 

 「ねー」

 

 二人は笑い合う。すでに十何年来の仲良しといった雰囲気だ。レイラの美貌のお陰だろうか、やはり容姿が優位であることは、人の警戒心すら、解きほぐす力があるようだった。

 

 直斗は、自室の時計に目を走らせる。そろそろ、六時に差し掛かる頃だ。

 

 「ねえ、レイラ、時間大丈夫? そろそろ帰らないと、下宿先の人が探し出すかもよ」

 

 直斗はレイラに訊く。もうトランプは止めにして、お開きにしたらどうか、というニュアンスを込めた。徒党を組まれ、こちらが負け続けなのは構わないが、このまま遊んでいても、時間の浪費のような気がする。今はテスト直前なのだ。勉強をしたかった。学年の順位を落としたくない。それに、レイラを自分の家に留めておくことは、爆弾を置いているような、妙な危機感を直斗にもたらすのだ。

 

 レイラは、直斗の思惑とは裏腹に、首を横に振った。

 

 「まだ大丈夫だよ。ホストの方にはちゃんと説明するから。私、春香ちゃんのこと気に入っちゃった。ずっと一緒にいたい!」

 

 「あたしも! ずっとここに居て」

 

 レイラと春香は抱き締め合った。先程から、レイラのスカートの裾が捲り上がり、レイラの白くて綺麗な太腿が、あらわになっている。下着も見えそうになっていた。

 

 レイラは、それを直そうとはしなかった。意図的なのかもしれない。直斗を誘惑するような、そんな気配を感じる。

 

 直斗は、レイラの太腿から目線を逸らし、春香に語りかけた。

 

 「そんなこと言ったって、レイラは家に帰らなくちゃいけないんだぞ。諦めろよ

 

 春香は聞く耳を持たなかった。

 

 「いやだー。レイラお姉ちゃん、私のお姉ちゃんになって」

 

 「うん、なるなる。ずっと春香ちゃんみたいな妹欲しかったんだ」

 

 レイラは、春香の三つ編み頭を優しくなでた。

 

 直斗は、二人のやり取りを若干嫌気が差しながら眺めていた。

 

 「嬉しい!レイラお姉ちゃん、ずっと一緒に居てね」

 

 「もちろん。直斗お兄ちゃんと一緒に、ずっと春香ちゃんのそばに居るよ」

 

 レイラの言葉に、春香は顔を上げる。春香の頬は膨れていた。

 

 「それがねー、お兄ちゃん、ずっと一緒に居てくれなかったんだよ」

 

 「どういうこと?」

 

 レイラの質問に、春香は、じっとりとした目を直斗に向けた。

 

 春香は答える。

 

 「去年『ロビン・フッド』が戦った日だよ。お兄ちゃん、友達と一緒に観るって言って、途中で出掛けちゃったんだ」

 

 春香は、あの日のことを独白した。直斗は、しまったと、心の中で後悔する。口止めをしておくべきだったかもしれない。

 

 「へーそうなんだ」

 

 レイラはぼんやりと頷くと、直斗の方へ顔を向けた。

 

 「誰と会ってたの?」

 

 「え?」

 

 「だから、去年の決闘の日、家から出て、誰と会ってたの? 同じクラスの人?」

 

 レイラの詰問に、直斗は一瞬、目が泳いでしまった。当時の台本では、家が近いクラスメイトと会っていたとする筋書きだったが、それはあくまで家族用だった。いくら蛍子とは言え、わざわざ確認など行わないだろうと踏んだ上の考えだった。

 

 しかし、レイラは違う。同じ高校の生徒なのだ。確認など容易い。

 

 そのため、別の筋書きを模索しようと頭が働き、結果、逡巡が生じてしまった。それが表情に表れたのだ。

 

 目の前の吸血鬼は、それをどう受け取ったのだろう。

 

 「……レイラの知らない人だよ」

 

 「他校の人?」

 

 「そんな感じ」

 

 「ふうん」

 

 直斗の曖昧な返答に、レイラは、微妙な顔で頷いた。納得しているのか、していないのか、よくわからない表情だ。

 

 不都合な展開に、直斗は内心、困惑していた。レイラを家に招くことに対し、拒否感があったのは、無意識下でこういった出来事を予想していたせいかもしれない。

 

 元凶を招いた春香は自らの失言に気付くことなく、二人の雰囲気が少し変わったことに、きょとんとした表情をしていた。

 

 「どうしたの?」

 

 春香は、レイラの胸に抱きついた。レイラは微笑み、春香の背中をさする。

 

 「なんでもないよ」

 

 レイラはそう春香に声をかけた後、直斗の方へ向き直った。直斗は、また何かを言われるのかと、ドキリとする。

 

 「直斗、ごめんなさい。今日はこれで帰るね。雨も降りそうだし」

 

 「う、うん。わかった」

 

 別段、何も言われず、直斗はホッとする。

 

 春香が悲しみが混じった抗議の声を上げた。しかし、レイラのまた来るから、という諌めの言葉に引き下がった。

 

 玄関口にて、ローファーを履いたレイラは、可憐な笑みを直斗と春香に向け、頭を下げた。

 

 「それじゃあ、お邪魔しました。また明日、学校でね」

 

 「ああ、気をつけて」

 

 「バイバイ」

 

 レイラは、二人の言葉を背に、玄関から出て行った。

 

 そして、その後、すぐに小豆を挽くような音と共に、大雨が降り出した。

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