現世に侵略してきた異世界人を撃退して世界を救ったら、世界と異世界から命を狙われるようになりました。 作:佐久間 譲司
翌日もレイラは、学校を休んでいた。不思議なことに、直斗に向けた連絡すらなかった。ストーカ並みの頻度で送られて来るメッセージに、直斗は辟易していたのだが、パタリと止まると、返って違和感を覚えた。だからと言って、こちらから連絡を取るようなことはしなかったが。
今朝方、再び降り出した雨のせいではなく、レイラの二日に渡る欠席が原因で、同級生達は憂いを帯びているようだ。
二組からの情報で、レイラの風邪が長引いての欠席だと言うことは、周知されていたが、詳しい容態までは言及されていなかった。
レイラを心配する一部の生徒達は、レイラの親衛隊にそのことについて質問を行った。だが、親衛隊は次々に首を横に振った。親衛隊のメンバーも、レイラと連絡先を交換しているが、昨夜辺りから、いくらチャットやメールを送っても、返信が無いのだと言う。
生存自体は、レイラ本人からの欠席を告げる連絡であったため、確認はされていた。しかし、それ以外が不明瞭だった。
親衛隊への当てが外れたせいで、次は、本命の直斗へ、白羽の矢が立った。休み時間になると、ぞろぞろと、烏合のように、レイラを心配する連中が直斗の元へ集った。そこには、新たに親衛隊も加わっている。
面を食らっている直斗に、レイラの安否に対する質問が投げかけられた。だが、連絡を取っていない以上、直斗に答えようがなかった。
直斗は正直に、そのことについて話すと、一同は、揃って異常者を見るような目でこちらを見た。
彼らは、直斗とレイラが恋人同士であると思っているようだ。そのため、レイラへの安否確認の連絡を取っていないということは、つまり、学校のアイドルであり、異世界人という、未曾有のステータスを誇っている美少女と付き合っているのにも関わらず、心配の欠片もしていない、鬼畜だと彼らの目には映ったようだ。
親衛隊からも非難の言葉が浴びせられた。そして、その現象は、周囲の人間へも飛び火した。裕也などは、一昨日、レイラが篠崎家宅へ立ち寄ったことについて言及しており、レイラの欠席自体も、本当の風邪ではなく、その時何かしらの不貞があったせいではと、不躾な勘繰りを行っていた。
直斗は、否定したが、肝心のレイラがいないため、証明しようがなかった。
そのような一日を直斗は過ごした。
翌日も、レイラは休んでいた。それが週末まで続いた。レイラが登校して来ないせいで、疑惑は晴れることなく、直斗は針のムシロに立たされた形になっていた。
やがて、試験まで土日を抜き、残り二日となった。
欠席を続けていたはずのレイラから、呼び出しがあった。
金曜の夜のことだった。
夕食後、入浴を済ませた直斗は、自室で勉強を行っていた。期末試験は来週の水曜に迫っている。土日を入れて、残り四日しかない。ここ最近、レイラの件があり、なかなかモチベーションが上がらなかった。ペースを上げ、その挽回を行わなければならない。
集中して過去問を解いていた矢先、直斗のスマートフォンに着信があった。発信元を見てみると、レイラからだった。
勢いを削がれたため、直斗は心の中で舌打ちをした。一瞬、無視しようかと思ったが、久しぶりのレイラからの連絡であり、他生徒達や親衛隊に含む所が生まれてしまった手前、ここで、対応しない行動は悪手だった。
直斗は勉強を中断し、身を震わせ続けるスマートフォンを耳に当てた。
「もしもし」
直斗が応答すると、受話器から、レイラの安堵の声が聞こえた。
『よかった。直斗、出てくれた! ごめんねこんな時間に』
「何かあったの? それに体調は大丈夫?」
直斗の気遣う言葉に、レイラは、アイドルから甘い言葉を囁かれたかのような、喜びの声を上げた。
『ありがとう。もう大丈夫だよ。直斗が心配してくれて嬉しい!』
「皆心配しているよ。来週は学校に来れる?」
『うん。行けるよ。それで、ちょっと直斗にお願いがあるの』
レイラは唐突に、本題を切り出した。直斗の心に、少しばかり、不安の根が差す。
「何?」
レイラの願いは単純なものだった。
『今から会えない?』
直斗は、自室の壁に掛けられた時計を見た。現在時刻は、十時半。高校生が外出するには、少し遅い時間だ。蛍子も咎めるだろう。
「ごめん。もう遅い時間だから、外出できないよ」
『お願い! 少しだけでいいの。見せたいものがあるから』
レイラは食い下がった。
「見せたいもの?」
『うん。今から大田山公園の展望台前に来て! 必ずね! 待ってるから』
レイラは、そう一方的にまくし立てると、通話を切った。
またそろりと、直斗の心に不安の陰が掛かる。始めは、また『血』を懇願するのかと勘繰ったのだが、どうも違うようだ。
何だろうか。見せたいものがあると言っていたが。
直斗は、学習机から離れ、クローゼットを開けた。このままレイラを放置しておくわけにはいかない。来週から登校すると言っていたので、そこで余計なことを吹聴されては、ますます立場が悪くなる。
直斗は、クローゼットから、黒のスキニーパンツと白のロングTシャツを取り出し、着替える。
着替えている最中、直斗は、レイラと最後に会った日のことを考えていた。春香からの『暴露』の件である。冷静になって考えると、あの言葉を聞いたからと言って、何か判明するわけはない。アレーナ・ディ・ヴェローナでの決闘の際、使用した道具類は、ナイフ以外、全て処分したのだ。証拠などあるはずもない。だから、この呼び出しは、『ロビン・フッド』にまつわるものではないはずなのだ。
直斗は着替えを済ませ、机の引き出しから、フォールディングナイフを取り出した。決闘の時と同じ物だ。
このナイフは念のために持って行くつもりだ。警察からの職質に対し、著しくリスクを上げるが、仕方がない。
直斗は、ナイフをポケットに収め、窓のクレセント錠を下ろした。決闘の日のようなイレギュラー時とは違い、今日は玄関からの外出は出来ないだろう。そのため、ここから出るしかない。
直斗は、こういった時のために用意していた、予備の靴をベッドの下から取り出す。
そして、窓を静かに開けた。