現世に侵略してきた異世界人を撃退して世界を救ったら、世界と異世界から命を狙われるようになりました。   作:佐久間 譲司

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第二十五章 ルカの忠告

 ルカの寄宿先は、直斗と同じ清見台地区にあった。自然に帰宅路が被ってしまう。

 

 直斗は、ルカを背後に置き去りにしながら、歩き続けた。

 

 「待ってください。さっき変なこと言ったのは謝ります」

 

 「何言ってんだ。わざとのくせに」

 

 ルカはスピードを上げて、直斗へ追いすがった。

 

 「誤解です。ただのコミュニケーションの一貫ですよ」

 

 追いすがり、横に並んだルカを再度、直斗は置き去りにする。それに対し、ルカは負けじと追いついた。

 

 まるで競歩のレースだ。

 

 あまりにもデッドヒートを続けていると、その内、通常の人間における速さの領分を越えてしまう恐れがある。今でも充分、おかしな速さだったかもしれない。二人とすれ違った小学生が、ポカンとした表情で二人に視線を投げ掛けていた。

 

 直斗は立ち止まった。同時にルカも立ち止まり、直斗の顔を見つめる。

 

 「言っておくけど、俺の血は絶対に飲ませないからな。付き纏っても無駄だ」

 

 「ええ。わかっています。今すぐに飲ませろとは言いません」

 

 「これから先も駄目だ」

 

 直斗は突っ込みに似た台詞を吐き捨てると、ルカを無視して歩き出した。

 

 なおも付いて来るルカを意識しないようにしながら、直斗は清見台の自宅へと辿り着いた。

 

 直斗は、玄関の扉を開けようと手を伸ばす。未だに、ルカは幽霊のように直斗をぴったりとマークしている。

 

 「おい」

 

 「はい」

 

 「いや、はいじゃなくて」

 

 直斗はさすがに困惑した。こいつは本気で俺の家に入ろうとしているのか? 積極的過ぎだろ。そんなに血を飲みたいのか。

 

 「お邪魔してもいいですか?」

 

 「駄目に決まっているだろ」

 

 直斗が呆れたように言った瞬間だった。玄関の扉が唐突に開いた。直斗は扉に当たらないよう、咄嗟に避ける。

 

 家から出てきたのは春香だ。これから友達の家に遊びにでも行くのだろう。

 

 玄関の前にいた直斗を発見した春香は、嬉しそうな声を上げた。

 

 「あ、お兄ちゃん、お帰りー!」

 

 春香は直斗の腰にしがみ付いた。そして、誰かがそばにいることに気が付くと、しがみ付いたまま、そっとルカの顔を見上げた。

 

 春香は人見知りしがちな女の子であり、初対面の人間に対しては、警戒心が強かった。後から親密になったとは言え、それはレイラの時も同様だった。ましてや異世界人であったため、その警戒心は尚更跳ね上がったはず。

 

 だが、今回はまるで違った。春香の目が輝いたのだ。テレビで見る男性アイドルを目の前で見たファンのような、羨望が入り混じった輝きだった。

 

 「こんにちわ」

 

 ルカは、歯磨き粉のCMに出演しているモデルのように、白い歯を見せて挨拶を行った。長い八重歯が垣間見えるが、むしろセクシャリズムを増加させていた。

 

 「こ、こんにちわ」

 

 春香は赤くなり、熱に浮かされたような表情で、ルカの顔を見つめた。

 

 直斗は、春香が一撃で恋に落ちたことを悟り、目をつぶりたくなった。

 

 

 

 

 いつかの光景のように、ルカのそばにべっとりと寄り添った春香は、楽しそうに笑い声を上げていた。

 

 あれから春香は、友達の家に行くことを取り止め、ルカとの遊びを切望した。なし崩し的に、ルカを家へと入れることを余儀なくされ、交流を深めざるを得ない状況になった。

 

 春香は、レイラが行方不明になったことを知り、ショックを受けていたが、今回のルカの出現で、幾分か薄れたようである。むしろ、普段よりも元気を見せていた。

 

 相変わらずの春香の提案で、三人は、トランプに興じた。夕方になり、空が暗くなり始めた頃、蛍子が帰宅した。

 

 直斗はルカに帰宅を進言しようとしたが、ルカの挨拶を受けた蛍子は目の色を変えた。

 

 「ぜひ、ご飯を食べて行って!」

 

 既婚者であるはずの蛍子も、ルカに心を射抜かれたようだ。鼻息を荒くし、そう勧めた。直斗は母親のそのような姿に、呆れかえり、また、ルカを追い出す口実が無くなったことに溜息をついた。

 

 今日の夕飯は、ハンバーグをメインにした洋食だった。サラダにオニオンスープを添えてある。

 

 篠崎家では、これでも普段よりは豪華な部類に入る。だが、蛍子は、ルカが来るならもっと豪勢なメニューにしたのに、と報連相の不備について、直斗を咎めた。

 

 達夫は残業のため、帰っておらず、家族三人と、異世界人の四人での夕食となった。

 

 夕食をとっている最中、春香はひっきりなしにルカへ話しかけていた。恋する乙女のように、目を煌かせながら、様々な内容の話を口にする。今日あった出来事や、勉強のこと、クラスメイトのこと。果てや、あの先生とあの先生が浮気していることや、校長先生がギャンブルにはまっているなどと言った、下らない噂のような話まで始めている。その辺りは、さすがに蛍子の注意が飛んだ。

 

 その蛍子も、ルカの生態が気になるのか、根掘り葉掘り、質問攻めを行っていた。

 

 ルカは、それらに対し、何ら気後れすることなく、華麗に受け答えを行っていた。レイラもそうだったが、異世界人は、人当たりが良いことがデフォルトなのかと直斗は思う。

 

 盛会と化した夕食は終わりを迎え、ルカは帰宅に入った。

 

 「そこまで送って行くよ」

 

 不本意だったが、蛍子から不親切な奴だと怒られそうだったので、直斗は、ルカと一緒に篠崎家を出る。

 

 外はすでに闇に覆われていた。

 

 直斗とルカは、無言でその中を歩く。ルカの下宿先は、木更津高専近くらしいので、直斗の家からさほど遠くはない。

 

 清見台の住宅街を五分ほど歩き、木更津高専のそばまでやって来た。柵に囲まれた敷地内には、まだ人が残っているようだ。ちらほら直斗と同年代ほどの私服姿の生徒達が見える。

 

 直斗は立ち止まり、ここで引き返す旨をルカに伝えた。ルカは頭を深々と下げて、今日のお礼を言った。

 

 直斗は、踵を返し、その場を去ろうとする。その背に、ルカは声をかけた。

 

 「直斗さん」

 

 直斗は振り返った。ルカは光るような眼差しをこちらに向けていた。

 

 「敵は異世界人や、国の人間ばかりだと思わない方がいいです。身近な人間にも脅威があるかもしれませんよ」

 

 「お前がそれを言うのか」

 

 直斗の反論に、ルカは爽やかな笑みを浮かべた。

 

 「ただのアドバイスです。ではまた明日」

 

 ルカは再度頭を下げ、直斗に背を向けて、歩き出した。

 

 直斗はしばらくその背中を見送った後、もと来た道を引き返した。

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