現世に侵略してきた異世界人を撃退して世界を救ったら、世界と異世界から命を狙われるようになりました。   作:佐久間 譲司

29 / 34
第二十八章 赤獅子傭兵団

 直斗ら三人と別れた後、ルカは戦獣を『駆除』しながら、首謀者を探していた。三人に言及した通り、この戦獣達を統率するならば、必ず使役者が一定の範囲内にいるはずだ。ましてや、相手は結界を張っている。確実に、高校の敷地内に潜んでいるはのは間違いない。

 

 問題はその場所だった。慎重なタイプならば、入念なカモフラージュを施し、姿を眩ましているだろう。それをすぐに発見することは、困難を極める。姿を見つけた時には、おそらく大部分の生徒が殺された後に違いない。

 

 相手が、慎重ではないタイプでも、結果は似たようなものになるはずだ。わざわざ堂々と姿を晒すような真似をするわけがない。こうやって戦獣をけしかけ、殺戮を行っているのだ。殺戮が目的ならば、姿を晒す意味がない。

 

 他に何か意図がない限り。

 

 ルカは、運動場の戦獣を殺した後、B棟とC棟の間にいた。周りは惨殺体か、パニックになって逃げ惑う生徒の姿しか見えない。

 

 ルカは、頭の中に、扶桑高校の校内の見取り図を思い浮かべた。北側にある食堂から南に向かい、A棟からD棟まで校舎が並んでいる。そしてその西側には、南側から体育館、武道場、そして部室棟が建てられていた。

 

 その何処かに、該当者はいるはずである。体育館よりも、さらに西側にある運動場には、その姿がないことは確認済みだった。

 

 再び、生徒の悲鳴。B棟内部からだ。二階の廊下に、戦獣がいる。女子制服姿の悲鳴の主が、今にも襲われそうになっていた。

 

 ルカは、校舎の壁を蹴り上がり、二階へ飛び込む。そして、間髪を入れず、電撃を叩き込んだ。この戦獣は相当頑丈であり、意識して強力な攻撃をしないと、一撃では倒せなかった。始めの内は仕留め損なったが、今では力加減がわかり、即死させることが出来ていた。

 

 戦獣は、髪の毛が焼けるような嫌な臭いを放ちながら、倒れた。襲われていた女子生徒が、怯え切った表情で、こちらを凝視している。そして、呆然と呟く。

 

 「ルカ君?」

 

 血に塗れてすぐには気付かなかったが、その女子生徒は志保だった。

 

 「志保さん」

 

 志保は、ルカに駆け寄ると、抱き付いた。そして、震えながらすすり泣く。

 

 「怪我は?」

 

 ルカの問いに、志保は首を振る。ルカは、ひとまずホッとする。多少なりとも関わりのある人なのだ。無事なのは嬉しい。

 

 志保は、泣きながら訴える。

 

 「木場君が……。クラスの皆が……」

 

 ルカは頷いた。

 

 「どこも安全な所はありません。今から僕は、この化け物を操っている人物を探して、倒します。それまで、近くの教室へ隠れていてください」

 

 志保は顔を上げ、涙に濡れた目をルカに向けた。

 

 「行かないで! 一緒に居て」

 

 ルカは、優しく志保の肩を抱いた。

 

 「これ以上犠牲者を増やさないためにも、僕は行かないといけません。わかってください」

 

 その後、縋り付く志保を説得し、ルカは、志保の元を離れた。志保は、近くの教室へ隠れるようだ。運が良ければ、生き延びるだろう。

 

 ルカは、B棟から、そのままC棟へと飛び移った。そして、屋上へと駆け上がる。高い所から見渡せば、何かわかるかもしれない。

 

 ルカはそう考えた。しかし、その必要がなかった。

 

 D棟の屋上に、そいつ等はいた。

 

 大柄な黒甲冑と、白甲冑の人物だ。

 

 あろうことか、黒甲冑は、髑髏をあしらった椅子に座り、堂々とその姿を晒していた。背後には、旗すら立ててあった。赤の下地に、黒い狼の刺繍を施したデザインだ。何処かで見た記憶がある。名前まではわからないが、リウド国の傭兵団だったはず。

 

 あまりにも堂々としたその光景に、ルカは面食らう。いささか滑稽にも見えるが、明らかに不自然だった。

 

 なぜ、姿を晒しているのか。

 

 戦獣を放った以上、統率者が姿を晒すメリットはない。行使者が倒されれば、戦獣は制御出来なくなるからだ。

 

 罠だろうか。ルカは訝しむ。しかし、躊躇っている余裕はない。あの二人が首謀者なのは明白だ。仕留めなければ。

 

 ルカは、C棟の屋上から、D棟の屋上へと飛び移った。飛び移ったにも関わらず、二人は、何らアクションを取らなかった。元々、ルカの接近を感知していたようだ。

 

 ルカは、二人へと近付いた。

 

 そしてようやく、黒甲冑が口を開いた。それはリウド国の言語だった。

 

 「違う奴が釣れたな」

 

 野太く、力強さと、残忍さを感じさせる声質だ。

 

 「しかし、なかなかやるなお前。戦獣をあんなに殺すとは。もう半分程度しか残っていない。さすがは吸血鬼様か」

 

 どうやら黒甲冑が頭らしい。ルカは、リウド語を使い、黒甲冑に向けて言い放った。

 

 「今すぐ、戦獣を引き上げてください」

 

 黒甲冑は、くつくつと笑った。

 

 「勘違いするな。お前はお呼びじゃないんだよ」

 

 黒甲冑は、右手を上げた。すると、隣に控えていた白甲冑が前へと出る。

 

 「戦獣は幾分か減ったが、本隊を出すまでもない。さっさと殺せ」

 

 黒甲冑が指示を出す。白甲冑は頷くと、こちらに向かって歩いてくる。そして、一定の距離まで近付き、立ち止まった。

 

 白甲冑は言葉を発した。

 

 「私の名前は、キルウル・ロウロ・スルルクル。お前の名前は?」

 

 リウド国らしい、決闘前の口上だ。相手はやる気らしい。言葉での説得は不可能なことは、先ほどのやり取りでわかった。ここは腹を括るしかない。

 

 これから戦いが始まるのだ。

 

 ルカも名乗り返す。

 

 「ルカ・ケイオス・ハイラート」

 

 キルウルと名乗った白甲冑は、頷いた。

 

 「赤獅子傭兵団副団長の名にかけて、お前を殺す」

 

 キルウルは、そう宣言し、右手を上に掲げた。

 

 そして、拳を握る。

 

 空中に、大量の石の塊のような物が出現した。だが、それは、石ではなかった。刃物だった。刀剣の刃の部分のみを取り出したような、刃が、いくつも空中へ浮いている。百はあるだろうか。

 

 キルウルは、右腕を振った。

 

 空中に浮いていた刃物の群れが、一斉にルカへ襲い掛かった。矢のように早い。

 

 ルカは、真横へ移動し、軸をずらす。

 

 だが、刃物達は、軌道修正を行った。まるで、エサを狙うムクドリの群れのように、身を翻しながら、ルカを追う。

 

 大量の刃物がルカの身に迫った瞬間、ルカは電撃を放った。相当大きな電撃だった。

 

 ルカを襲っていた刃物のほとんどを、それで叩き落す。いくつかは手で受け止めた。そして、一時の間も与えず、ルカは、キルウルへと距離を詰めるために、駆け出す。

 

 だが、キルウルは冷静に対処した。D棟屋上の床板が盛り上がり、グラディウスのような巨大な刃が剣山の如く、いくつも下から突き上げた。

 

 ルカは、咄嗟に身を翻し、背後へと飛び退る。刃物が少しだけ掠り、左腕に切創を負う。

 

 ルカは、左腕から流れる血を舐めながら、相手の様子を伺った。

 

 キルウルは余裕綽々のようだ。当然だ。まだ戦闘は始まったばかりだ。反面、自分は、戦獣との戦いに続き、連戦となっている。魔力も随分と消費してしまった。

 

 可能な限り、早めにケリを着けたい。まだ黒甲冑が残っている。そして、その黒甲冑こそが、最も危険な存在だと、直感が告げていた。

 

 ルカは、先ほどキルウルが作り出した床板の剣山を足蹴にし、上空へと跳んだ。そして、右手をキルウルへと向ける。

 

 キルウルの頭上に、強烈な雷鳴と雷光が発生した。強力な稲妻が、キルウルへ青白い触手を伸ばす。確実に稲妻は、相手を捉えたはずだった。

 

 だが、キルウルは先読みをしていた。雷光が迸る直前に、キルウルの左右に、電柱ほどの長さの剣が出現した。それが避雷針となり、稲妻は全て逸れてしまった。

 

 しかし、それでも良かった。

 

 ルカは、懐に入れていた刃物をキルウルへ向かって投げた。これは、先ほど、ルカへと襲い掛かった刃物だ。受け止めた内のいくつかを懐へと入れていたのだ。

 

 だが、それすらもキルウルは難なく避けた。ルカが投げた刃物は、虚しく、キルウルの背後の床板へと刺さる。

 

 キルウルは、ルカが着地することを許さなかった。

 

 D棟屋上の至る所が、盛り上がったと思うと、発破したような、大きな音がした。屋上の床板から、巨大な剣や、鎖鎌を模した刃物が、無数に出現した。それらは、意思を持っているかのように、一斉にルカへと襲い掛かる。

 

 刃物の森と化した屋上に、プラズマに似た発光球体が発生した。ルカを中心に、強力な電撃が放たれたのだ。

 

 襲い来る刃物を、いくつかは、それで弾き返すことに成功したものの、大部分が掻い潜ってしまう。

 

 刃物の集団が肉薄する。

 

 手足が、次々に切り裂かれた。体のあちらこちらに、切創が付けられ、血が噴き出す。

 

 凶刃がルカの胴体に迫る。魔法で作られた刃物は、通常の刃物より殺傷能力が数段高い。薄い制服に包まれたルカの胴体など、容易く貫くだろう。

 

 だが、刃物達の先端が、ルカの体に触れる直前、電池が切れたかのように、刃物達の動きが唐突に止まった。

 

 同時に、キルウルが、ひざまづく。キルウルは、胸部を押さえていた。その胸部から、アンテナのように、ナイフの突端が突き出ている。

 

 それは、ルカが投げたキルウル製の刃物だった。キルウルへと投げる際、ルカは、刃物に磁力を帯びさせた。その後、キルウルの背後の床板に刺さった刃物を、キルウルの攻撃を防御する傍ら、磁石のように引き寄せたのだ。

 

 ちょうど自身と刃物の間に、キルウルが位置するように調整していたため、刃物は、見事、キルウルを背後から襲う結果になった。

 

 刃物には、強力な魔力が込められていたため、白甲冑ごと、キルウルを難なく貫いた。

 

 だが、致命傷には至っていなかったようだ。

 

 ルカは、方々から突き出ている刃物の山を避け、屋上へ降り立つと、即座にキルウルへと突進した。刃物の森を縫うようにして、進む。付けられた手足の傷がひどく痛むが、気にしてはいられない。

 

 すぐさま間合いが詰まる。キルウルは、体勢を立て直しつつあった。間に合うか。

 

 ルカはキルウルへ肉薄した。キルウルは、中途半端な体勢のまま、右腕のガンドレット部分を剣化し、突き出してくる。ルカはそれをウィービングし、ギリギリの所で避ける。

 

 剣が、こめかみを掠るように通過し、ルカの銀色の髪が数本切断された。

 

 がら空きになったキルウルの胴体へ、ルカは渾身の電撃を叩き込んだ。それも、一撃ではなく、連続で叩き込む。

 

 一撃。

 

 二撃。

 

 三撃。

 

 電撃が迸る度に、キルウルの体が大きく跳ねる。戦獣ならば、この時点で、即死のはずだ。しかし、キルウルは、そうはいかなかった。

 

 キルウルは、電撃で硬直する体を何とか動かし、右腕の剣の先端を、ルカへと向けようと、必死にもがく。

 

 まだ死なないのか。ルカは、目の前の、傭兵団副団長の頑丈さに驚嘆する。これほど電撃に耐えた生物は、初めてだった。

 

 それでも、ルカは、攻撃を続けた。

 

 四撃。

 

 五撃。

 

 奇妙なオブジェと化したD棟屋上に、雷光が瞬く。

 

 やがて、必死に反撃しようと、もがき続けたキルウルの動きが緩慢になり、とうとう、完全に停止した。

 

 ルカは息を荒げながら、一歩離れた

 

 甲冑に包まれたキルウルの体が、床板へと倒れ込む。スクラップを地面に叩き付けたような、耳障りな音が響く。

 

 倒れた衝撃で、白甲冑のヘルムが脱げた。中からは、虎に似た顔が現れる。人虎種だ。マガン・ガドゥンガン。

 

 鋭い虎の目は、電撃の影響で、冗談のように飛び出し、血が溢れていた。それにより、キルウルが、完全に絶命していることを確信させた。

 

 突然、周囲に拍手が起こった。なおも息を上げ続けているルカは、そちらを見た。

 

 黒甲冑が、髑髏の椅子から立ち上がり、拍手をしていた。何処か馬鹿しているかのような、おどけた動作が入り混じっていた。

 

 「いやいや、やっぱ強いわ、お前。ガキとは言え、吸血鬼は別格だな」

 

 黒甲冑が前に進み出る。ルカは警戒し、同じ距離だけ、後ろに下がった。

 

 黒甲冑は嘲笑した。

 

 「まあ、そう警戒するなよ。坊や」

 

 そして、さらに近付く。やがて、絶命しているキルウルの横まで来ると、黒甲冑はヘルムを脱いだ。

 

 燃えるような真っ赤なたてがみを持つ、厳つい顔が外に晒された。野生の獣を思わせる風貌だ。

 

 黒甲冑は、屋上に倒れ伏している、キルウルを顎でしゃくった。

 

 「この雑魚には失望したよ。油断するとはな」

 

 そして、ルカへと視線を向ける。レッドスピネルのような、赤い瞳が、ルカを真っ直ぐ射抜く。ルカは、威圧され、再び少しだけ、後ろへと後退った。

 

 そんなルカの行動に気を留めることなく、黒甲冑は、声をかけた。それは思いもかけない内容だった。

 

 「なあ、お前、ウチに入らないか? 若いし、強いから、簡単に出世出来るぞ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。