現世に侵略してきた異世界人を撃退して世界を救ったら、世界と異世界から命を狙われるようになりました。   作:佐久間 譲司

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第三章 勝利、そして…

 突如として上空より舞い降りた緑マントの人物により、それまで虐殺されるだけだった人類側の反撃が始まった。次峰である蜥蜴のような生き物は、一瞬で間合いを詰めた緑マントの手刀一発で、魚の開きのようなって絶命した。

 

 その後も、狼男のような外観の異世界人や、巨大な熊のような異世界人がインターバルを挟むことなく、次々に挑みかかるが、ことごとく、一蹴されていた。

 

 残る異世界側の戦力は大将のみだった。人類側も飛び入りとはいえ、同じであるため、事実上の最終戦と言えた。

 

 世界中の人間は、急激な展開を映し出しているテレビ画面から目を逸らせずにいた。会場内の南側観客も同じように、目の前で繰り広げられている目を疑う逆転劇に、心を奪われていた。狩られるだけの絶望的な戦いが一変し、こちらが狩る側に立っているのだ。緑マントの英雄のごときその姿に、強い尊敬の念が集まり始めていた。

 

 

 

 直斗はリング上で、最終戦の相手と対峙していた。最後の敵は、それまでの相手とは違い、人間そっくりの容姿をしていた。むしろ平均的な人間よりも審美的に優れていると言っても良かった。

 

 高い鼻に、透き通るような白い肌、黒のマントを纏った体は、スラリとした長身だった。白人の男性モデルのようだった。ただ、耳が尖ってることを除けばだが。

 

 決闘開始の鐘の音が鳴り響く。命運を決する戦いが幕を開けた。

 

 これまでは、異世界側のメンバーは皆、判で押したように、決闘が開始するや否や襲い掛かってきたが、今回は違った。長身の異世界人は、ゆっくりと直斗の方に歩み寄ってくる。全く敵対心を見せない、爽やかな笑顔をその顔に纏いながら。

 

 それを受けて、直斗は警戒をする。何かしらの策を弄するのであろうと思った。たとえば、油断させて攻撃を打ち込むような、小手先の策を。

 

 異世界人は、直斗の目の前にまでやってきた。綺麗な目が直斗を見据えている。直斗は、すぐに反撃が出来るよう、身構えた。

 

 しかし、異世界人は意外な行動を取った。爽やかな笑顔のまま、話しかけてきたのだ。しかも、こちらの世界の言葉で。

 

 英語だった。とても流暢で、流れるように喋っている。

 

 会場内放送もそうだったが、直斗には英語を聞き取れる力が無い。目の前の異世界人が、いくらこちらの世界で一番使われている言語を話そうが、無駄なのだ。

 

 だが、それをあからさまに示してはならない。英語を理解できない人種だと判明されてしまう。もちろん、それだけでは身元を解明するまでには至らないだろうが、モニタリングされているのだ。音声も拾われているかもしれない。用心を重ねて置くべきだ。

 

 直斗は、なおも英語で喋り続ける目の前の異世界人をノーリアクションで見つめた。意図はわからないが、やたらと訴えたいことがあるようだった。

 

 石像のように固まっている直斗が、そろそろリアクションを取らないと逆に疑われるかもと、考え始めた時だった。異世界人は言葉を切った。そしておもむろにマントの中から何かを取り出した。

 

 それはグレープフルーツほどの大きさの、藍色の球体状のものだった。ブルークォーツ水晶に似ていた。

 

 その球体状のものは、中心が白く輝いていた。と思ったら、たちまちその白い光が広がり、球体を埋め尽くした。そしてすぐに高出力の電球のように、眩い光となって、周囲に溢れ出した。

 

 ミサイルを打ち込まれたような強い爆風と衝撃が生じた。直斗は、咄嗟に両手で顔をガードする。それでも、頭に被ってあるフードや、サングラスが吹き飛ばされるのがわかった。ゴムが焼けるような嫌な臭いが漂った。

 

 直斗はしまった、と思った。油断をしていた。まさか自爆するとは。

 

 すでに、体内の血液を消費し、肉体を強固にしていたため、直斗の体には、かすり傷一つ付いていない。しかし、服が部分的に焦げ、サングラス、フードの一部が吹き飛んでしまった。かろうじてマスクはガードした腕のお陰で残ってはいるが、これだけでは不十分だ。このままでは、全世界に正体が発覚してしまう。

 

 辺りは爆発による煙に包まれていた。自爆を行った張本人は、バラバラになって吹き飛んだようだ。煙幕のような爆煙越しに、会場のざわめきが聞こえる。

 

 どうにかしなければ。

 

 直斗は周囲を見渡した。

 

 

 

 異世界側の大将である人間そっくりの異世界人が自爆を行い、会場は大きな喧騒に包まれていた。爆発の範囲自体は狭かったらしく、観客席まで巻き込むことはなかったようだ。

 

 中央のリングは爆煙に覆われ、中の様子はうかがい知ることが出来ない。テレビ中継でその映像を見守っていた世界の人々は、固唾を呑んで煙が晴れるのを待った。

 

 やがて徐々に煙が薄れ始めた。その中に人影があった。煙が晴れるに従い、はっきりと姿があらわになる。そこにいたのは緑マントの人物だった。他に人影は無く、対戦相手である異世界人は、リングに空いた大穴の周りに散らばっていた。

 

 緑マントの人物は、大きな爆風と衝撃があったにも関わらず、五体満足だった。フードやマスク、サングラスも乱れなく装着していた。ただ、緑マントは損傷があったようだ。正面に晒していた部分が焼け焦げていた。

 

 会場内放送が人類側の勝利を告げた。これまでで一番大きな歓声がアレーナ・ディ・ヴェローナに湧き起こった。大地を揺れ動かすような激しさだった。

 

 テレビ中継を見守っていた世界中の人間も、人類側の勝利に歓喜した。ある者はお互い抱きしめ合い、ある者は喜びのあまりに泣き出した。

 

 人類の未来が開けた瞬間だった。

 

 

 

 会場内の歓声に包まれながら、直斗はホッと胸を撫で下ろした。

 

 危なかったと思う。爆発の範囲が狭かったことが幸いした。凄まじい衝撃と爆風だったが、自爆のシステムは、周囲の観客に影響が無いように、調整されていたらしい。どういった理屈かはわからないが、リング上のみが爆発の影響下にあったようだ。リング外にはそよ風ほども爆風が行かなかったということだ。

 

 そのため、吹き飛ばされたフードの一部とサングラスはリング上にあり、拾い集めることが容易かった。サングラスはフレキシブルフレームの弾性がある素材だったため、ヒビが入っただけだった。フードの方は、一部分が爆風で千切れて飛んでいた。

 

 急いでそれらを拾い集め、修復したのだ。手袋に染み込ませてある量の血では足りなかったため、手袋を外して直接、傷口から血を使った。

 

 両方の修復が完了すると、急いで身に付けた。煙が覆っている内に終えたので、直斗の素顔を目撃された心配は無かったはずだ。とは言っても、異世界人もこの会場にいるのだ。異世界人の能力は未知数なので、何か煙を見通すような、赤外線のような力を持っていてもおかしくはない。しかし、そこまで考えていたらキリが無い話だった。

 

 直斗は、なおも勝利の歓声に包まれている会場内を見渡した。北側の観客も、歓声と怒声を直斗に向けて浴びせている。

 

 会場内への入り口から、スタッフらしき異世界人と人間がこちらに駆け寄って来るのが見えた。

 

 そろそろ潮時だろう。

 

 直斗は上空に待機させてあった隼をリング上に降下させた。突如現れた巨大な隼に、会場内が歓声からどよめきに変わる。直斗は隼の背に乗った。

 

 こちらに駆け寄って来ていたスタッフが何やら叫んだが、直斗は無視をして、一気に隼を上昇させた。

 

 見る見るアレーナ・ディ・ヴェローナが小さくなる。そして、そのまま巡航高度まで達した。辺りはすでに夕闇に覆われていた。

 

 直斗は隼を透明化させると、日本がある方角へ向かせた。眼下にはイタリアの街並みが広がっている。

 

 これから日本へとんぼ返りだ。ある意味日帰り旅行とも言えた。

 

 直斗は隼を発進させた。たちまち隼は速度を上げ、決戦の地であったイタリアを後にした。

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