現世に侵略してきた異世界人を撃退して世界を救ったら、世界と異世界から命を狙われるようになりました。   作:佐久間 譲司

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第六章 学校にて

 家を出て、二十分程が経った。

 

 直斗は、通勤途中の車が行きかう稲荷町の交差点を抜けた。目の前に、私立扶桑(そうふ)高校の白い校舎が見えてくる。

 

 扶桑高校は、木更津駅に程近い場所にあった。近場にイオンタウンやコンビニもあり、立地条件は良かった。表面的には生徒の買い食いは禁止されているが、こっそり破る者も少なく無く、生徒達は、憩いの場としてそれらを利用することも多い。

 

 直斗は、他の生徒と共に校門をくぐり、上履きに履き替えた後、自分の教室に向かう。

 

 二年三組の教室に入った時は、始業時間まで十分を切っていた。直斗は、窓際の自分の席に行き、ホッと一息つく。朝食を抜いた甲斐があった。タッチダウンのような真似はせずに済んだようだ。

 

 直斗が、通学鞄の中身を机の中に移していると、後ろから声が掛かった。

 

 「いつもより遅かったじゃん。どうした?」

 

 直斗が振り向くと、そこにはクラスメイトの小黒裕也(おぐろ ゆうや)が立っていた。がっちりとした体格と長身を持ち、ハーフのような彫りの深い顔に笑みを浮かべている。

 

 「ちょっと寝坊してさ」

 

 「情けないぞ。俺よりも早く来いよ」

 

 裕也はバスケ部の早朝練習があるため、始業時間より、二時間は早く学校へ来ていた。

 

 「嫌だよ。意味が無いじゃん。バスケ部じゃないんだし」

 

 「ならバスケ部に入れよ。帰宅部なんかやらずにさ。鍛えてやるぜ」

 

 二年にして、バスケ部のレギュラーを務める裕也が、冗談交じりで勧誘を行う。

 

 「体育会系は性に合わないよ。帰宅部のままが気楽だよ」

 

 直斗が本心で、そう言った時だった。

 

 教室の隅から声が上がった。

 

 直斗がそちらを見ると、クラスメイト数名が、固まって何やら騒いでいる。

 

 直斗の怪訝な顔を見て悟ったのか、裕也が答えた。

 

 「木場(こば)の奴だよ。魔法を使えるようになったらしい」

 

 「魔法?」

 

 直斗の問いかけに、裕也は頷いた。そして、どこか羨んでいるような口調で説明を行う。

 

 「なんでも木場の叔父さんが異世界に行って、魔法の道具を買ってきたと言っていたぞ。金持ちだからな木場の家系は。もう何回か向こうに行っているみたいだ」

 

 直斗は、一つの席にたむろしているクラスメイトの合間から、木場建治(けんじ)の姿を確認した。黒縁眼鏡を掛けた優等生風の顔に、真剣な表情を貼り付かせ、右手の人差し指を上に向けている。その上方では、シャーペンや消しゴムが、惑星軌道のように、ゆっくりと回っていた。

 

 人差し指には、赤い宝石を付けた銀色の指輪がはまっている。ガーネットリングに似ていた。木場のような、真面目で大人びた男にはとても似合わない。しかし、たむろしている女子達の尊敬の念は、集めているようだ。

 

 「あの指輪は日本円で百万はするとさっき自慢していたぞ」

 

 「百万!?」

 

 木場の操る文房具惑星よりも、そちらの方が衝撃的だった。あんな手品もどきを行うために、百万かかるとは。

 

 「そんなにするのか」

 

 直斗の呆れた声に、裕也は首を振った。

 

 「木場自身はともかく、魔法は凄いと思うぞ。手品と違って、本当にそういう現象が起きてるんだから」

 

 「でも、ただ宙を回っているだけだろ」

 

 直斗は木場の方を指差しながら言う。

 

 裕也はわかっていないな、というような顔をした。

 

 「それだけでも凄いだろ。人間の力じゃ不可能なことをやってるんだぜ。それにさっき聞いたけど、あの指輪はその気になれば机くらいは浮かばせて投げつけることができるらしい」

 

 「机を投げ付けるなんて誰でも出来るよ」

 

 「人の腕力に頼っていないから凄いんだよ」

 

 直斗には、どこがどう凄いのかわからなかったが、裕也は本気で言っているようだった。

 

 やはり魔法はこちらの世界の人間にとって、相当魅力的に映るらしい。異世界の魔法は、戦闘に特化したものが多いと聞くが、それでも信奉に値するようだ。人間というものは、邪馬台国時代からも変わらず。不可思議な力を追い求めるものらしい。

 

 「今日留学してくる異世界人達も魔法使えるのかな?」

 

 裕也が訊いた。直斗は首をひねる。

 

 「どうだろうね」

 

 「女子が不安がっているぜ。いきなり襲われるんじゃないかって。しかも吸血鬼だしな」

 

 直斗の脳裏に、今朝見た夢の光景が蘇る。吸血鬼に血を吸われるのは、あんな感じだろうか。

 

 「先生の話じゃ、血を自分達で用意しているから、安全だと言ってたよ」

 

 吸血鬼が留学して来ることについての事前説明で、学校側は幾度と無く、吸血鬼達は、生徒を襲う危険性がないということを喧伝していた。

 

 「わかっているよ。でも不安じゃん。俺、嫌だぜ。血を吸われてミイラみたいになるの。それに、こっちの世界で言われているような吸血鬼と違って、十字架や日光も平気らしいじゃん。絶対やばいよ。異世界人だってだけで危険なのに」

 

 裕也が、彫りの深い顔を曇らせながら、不安を吐露する。それと同時に、始業のチャイムが鳴り響いた。

 

 裕也は直斗に手を挙げ、自分の席へと戻って行った。

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