現世に侵略してきた異世界人を撃退して世界を救ったら、世界と異世界から命を狙われるようになりました。   作:佐久間 譲司

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第七章 二人の吸血鬼

 担任教師の遠田昭三(とおだ しょうぞう)が、教室へ入ってきた。遠田は教壇に着き、神経質そうな顔を教室中の生徒に向け口を開く。

 

 「えー、これよりショート・ホームルームを始めます。以前から話していた通り、今日は異世界のリウド国から留学生がやって来ます。それでこの後、紹介のために、体育館で全校集会を行います。出欠確認の後、速やかに移動を開始して下さい」

 

 遠田がクラス名簿を読み上げる。やがて、出欠確認が終了し、二年三組の生徒は、体育館へと移動を開始した。直斗も裕也と連れ立って、生徒の流れに乗りながら、体育館へと入る。

 

 体育館において、直斗達の組が整列する位置は、中央付近に定められている。壇上を正面に据えているため、ステージ全体が良く見えた。

 

 三々五々、生徒達が体育館に集結し、整列が完了した所で、集会が始まった。ステージ上で、禿頭の校長が、集会の流れの説明を行う。地元の新聞社が来ているらしく、時折フラッシュがたかれていた。

 

 ステージ上には、まだ留学生の姿は無い。

 

 校長の話が終わり、扶桑高校理事長である、御神龍司《みかみ りゅうじ》に交代した。

 

 モデルのように整った顔と、長身を持つ御神は、扶桑高校の理事長、つまり経営者である。老人ホームやアパートも所有しているらしく、直斗が聞いた限りでは、相当な凄腕の経営能力を誇っているという。年齢も、四十代始めと若く、絵に描いたような、エリート然とした人物だ。

 

 御神が講壇に立ち、全校生徒を見据えながらマイクに向かって口を開く。

 

 「今日は扶桑高等学校において、大きな意味を持つ日となります。一年前、異世界にあるリウド国と我々の世界との間に平和条約が締結し、交流が始まりました。そして、文部科学省が進める異世界間交流制度にのっとり、私たちの学校に留学生を迎え入れこととなりました。グローバル化した社会において、他国の人間と触れ合うことは非常に大切なことですが、世界が違う人間同士でも、それは変わらないはずです」

 

 マイクを通じて、御神の爽やかな声が体育館に響く。校長の時よりもフラッシュが多く瞬いていた。

 

 「よく言うよ。多分補助金目当てだよ」

 

 直斗の背後に並んでいた柳田俊一(やなぎだ しゅんいち)が、こっそりと耳打ちをする。直斗は首を横に向け、横目で、俊一の顔を確認した。俊一の綺麗に整ったマッシュルームカットの下にある、細い目が直斗を見ていた。

 

 「前に他のクラスの人間から聞いたけど、交流制度を利用して、異世界人を受け入れると、国から補助金が出るらしいよ。しかもかなりの額の。だから飛びついたんだって。つまり、俺らはお金のためにイケニエにされたってわけ」

 

 「イケニエ?」

 

 直斗は、声を抑えて聞き返した。あまり目立つと、教師に注意されてしまう。

 

 「うん。お金のために危険な異世界人をわざわざ受け入れてるからそう言われてるよ。生徒のことを案じていない証拠だって」

 

 俊一は、神妙な顔でそう答えた。

 

 俊一の言葉を聞き、直斗は、裕也との会話を思い出す。裕也も同じように、留学生に対する危惧の気持ちを吐露していた。そしてそれは、他の生徒達も同じ心情である、ということにも言及をしていた。

 

 そのような声は、異世界出身の留学生がやってくることが決まった時から、存在していた。吸血鬼という人種もさることながら、異世界人そのものに対しての拒否感の声が、保護者や生徒達の中から沸きあがったのだ。しかし、それに対し御神は、敏腕経営者たる巧みな話術で丸め込み、押し通したのだった。

 

 そのような背景からでもわかるように、現在も異世界人に対し、危険視している人間は多いようだ。無理もないかもしれない。向こうが降伏したとはいえ、一度侵略を行ってきた相手なのだ。人類側の犠牲者は極々少数であるものの、アレーナ・ディ・ヴェローナでの凄惨な光景は、人々の脳裏に強く刻み込まれているのだろう。

 

 直斗は、周りを気にしながら返す。

 

 「やっぱり異世界人はそこまで危険視されているんだ」

 

 「そうだよ。あれだけの事をしたからな」

 

 「でも、一対一の決闘でしか命を奪わないというルールを向こうが持っている以上、大丈夫なんじゃない? 決闘を受けなければ」

 

 直斗の言葉に俊一は、細い目をさらに細くし、そして鼻で笑った。

 

 「そんなもの何のアテにもならないよ。あの時、決闘が成立したのも、あくまで国単位で絡んだお陰で、個人にまでそのスタイルが浸透しているとは限らないかもしれないだろ? 少なくとも、そういう意見がネットでは主流だよ。国連が平和条約の他に、個人に対する安全保障条約を制定したのも、常任理事国がその確信があるんじゃないかって噂だよ」

 

 御神のマイク音声が響く中、俊一は捲くし立てた。

 

 俊一が言及した安全保障条約は、リウド国との交流が始まった時に、締結された条約である。簡単に言うと、リウド国民全員に、こちらの世界の人間に対し、一切の危害を加えることを強く禁止する条約だ。破れば厳罰である。正確には、表向き、こちらの世界の人間にも規定されているものだが、リウド国は敗戦国の立場であるため、ほぼ、一方的に押し付けている形となっている。

 

 「むしろ、それなら安全が確約されたものじゃない? そのための条約なんだし」

 

 直斗がそう言うと、俊一は呆れた口調で返した。

 

 「わかってないな。彼らがその気になったら、いくらでも反故に出来るだろ? それだけの力があるんだから」

 

 異世界人達は、個人レベルで、人間を凌駕する力を持っている。銃火器や、兵器を常に携行している人種を、受け入れるようなものかもしれない。

 

 そう考えれば、恐怖を感じて然るべきだとは思う。しかし、限定的とはいえ、異世界との交流が始まり、移住や留学が行われている現在、人間が危害を加えられたという話が、一つも出ていないのも事実ではある。杞憂の面もあるのかもしれない。

 

 直斗は、熱くなりかけている俊一を宥めようと、口を開きかける。だが、体育館の壁際で控えていた遠田が、射殺すような目でこちらを見ていることに気が付いた。

 

 直斗は口をつぐみ、前に向き直った。

 

 ちょうど、御神の話が終わりを迎えようとしていた。

 

 「生徒の皆さんはこれから多くの夢ある将来に向かって羽ばたきます。温故知新の思いを胸に、今日の転機を良い経験として、ぜひ人生に役立ててください」

 

 御神は力強く言い放った。その後、襟首を整え、再び口を開く。

 

 「それでは、これから皆さんと共に学んでいく留学生を紹介したいと思います。しかし、あらかじめ言っておきますが、少しも不安がる必要はありません。何度も担任教師の方から説明を受けていると思いますが、異世界人や吸血鬼だという肩書きに捕われてはいけません。留学生のお二人は、学ぶため、そして交流するためにこの学校に来たのですから」

 

 御神はそこで言葉を切り、舞台袖の方に向かって腕を広げた。そして高らかに言う。

 

 「紹介します。リウド国からやって来たレイラ・ソル・アイルパーチさんと、ルカ・ケイオス・ハイラート君です」

 

 御神の声を合図に、舞台袖から、二人の男女が姿を現した。

 

 生徒達は、始めは様子を伺うように静まり返っていたが、二人の留学生がステージの正面に立ち、全身を見せたことで、大きなざわめきへと変化した。

 

 そのざわめきは、やがて嘆声や、嬌声にシフトしていった。

 

 「か、かわいいじゃん」

 

 直斗の後ろで、異世界人排斥派の俊一が、唖然としたように呟いた。

 

 周りの男子生徒達も同じだった。皆口々に「可愛い」「人形みたいに綺麗」「美少女」といった感想を発している。

 

 女子生徒達も同様に「かっこいい」「女の子みたい」「イケメン」という言葉が聞こえる。

 

 男子生徒達は、主に、留学生の少女に対して、女子生徒は、主に、留学生の少年に対して、感想を向けているようだ。

 

 直斗の目にも、他生徒と同じように、留学生達は魅力的に映った。

 

 留学生の少女は、服装こそは、扶桑高校の制服を着用しているが、その中身は、人間とは思えないほどの美貌をもっていた。金色の綺麗なストレートの髪型に、パッチリとした二重の目、そして、小さな唇と高い鼻。それらがバランス良く配置された顔は、精巧に造られたドールのようだった。肌は陶器のように美しい白肌である。

 

 身長は一般的な女子高生と同じくらいだが、ステージが良く見える直斗の位置からは、かなり魅惑的なスタイルを誇っていることが見て取れた。

 

 もう一人の留学生の少年も同じように、白人のアイドルのような美形だった。銀色の髪の下にある小顔は、一見すると、女の子ではないかと勘違いするほど中性的なものだった。体は小柄であるものの、それも綺麗な容貌と相まって、その中性的な魅力を引き立てていた。

 

 「えー、皆さん、お静かに願います。留学生のお二人が戸惑ってしまいます」

 

 留学生二人の容姿に、嘆声を上げる生徒達を、嗜める御神の声が響き渡った。その声は、どこか満足気だった。

 

 何度か、御神の静粛を促す声が繰り返され、やがて生徒達は静かになった。

 

 「皆さんが落ち着いたようなので、これから留学生二人の自己紹介に移りたいと思います。それではレイラさんから自己紹介をお願い致します」

 

 舞台袖に控えていた教師が、レイラにマイクを手渡した。

 

 レイラは、マイクを口に当てる。ステージ上で、マイクを持ったレイラを見ると、これから美少女アイドルのコンサートが始まるかのような様相だった。

 

 マイク越しに、レイラの鈴のような可愛らしい声が、体育館中に広がった。

 

 「扶桑高校の皆様、始めまして。私はレイラ・ソル・アイルパーチといいます。リウド国にある、クイエスという高校からやってきました」

 

 レイラは、とても流暢な日本語を使った。一般的な日本人よりも綺麗な発音をしているように思える。

 

 「私が日本の高校を選んだ理由は、日本人は、とても心優しい方が多いと聞いたからです。平和的で争いを好まないと、そう聞きました。そんな方達に囲まれて学校生活を送れることに、とても魅力を感じたのです。日本の文化のことは知らないことが多いですが、頑張って学んでいきたいと思います。扶桑高校の皆様、これから宜しくお願いします」

 

 レイラは、自己紹介を終えると、ぺこりと頭を下げた。一拍、間を置き、生徒達の拍手が沸き起こる。

 

 生徒の列の中から、可愛い、綺麗な声だった、といった感想が漏れ聞こえた。

 

 「続きましては、ルカ君、お願いします」

 

 御神の指示が飛び、ルカにマイクが手渡される。

 

 ルカは、自己紹介を始めた。

 

 「皆様、始めまして。ルカ・ケイオス・ハイラートといいます。リウド国にあるニペルという高校から僕はやってきました。日本を選んだ理由は――」

 

 ルカもレイラと同様、とても流暢な日本語を使い、自己紹介を行う。

 

 直斗はそれを聞きながら、感心の念を覚えていた。異世界との交流が始まって、まだ一年程度なのだ。日本への留学が決まった時期から学習を始めたと考えると、一年すら期間は無い。その短期間に二人は日本語をマスターしたことになる。言語を覚えるための魔法は存在しないらしいので、自力で習得したのだ。

 

 直斗は、アレーナ・ディ・ヴェローナでの最後の戦いを思い出した。内容はともかく、自爆した敵の大将も流暢に、英語を使っていた。

 

 ネットやテレビで、何度も流れた、そのシーンを観たネイティブの人間達が、完璧な英語だと、判を押したらしい。また、ホワイトハウスで決闘を宣言した異世界人や、アレーナ・ディ・ヴェローナの会場アナウンサーも、当たり前のように英語を使っていたが、それらも非の打ち所のない、マスターされた英語であるようだ。

 

 異世界人、少なくとも、リウド国の人間は、言語習得能力が高いかもしれない――。そういった話が一部で囁かれているが、もしかすると、真実かもしれなかった。

 

 ルカの自己紹介が終わり、生徒達の拍手が響き渡った。

 

 留学生二人の自己紹介が終了したので、再び、御神にバトンタッチされる。

 

 「留学生の方々、素晴らしい自己紹介をありがとうございました。日本語も大変上手で、感服しました。予め説明していた通り、お二人が編入するクラスは、レイラさんが二年二組に、ルカ君は、一年四組となっています」

 

 御神は、言葉を区切った後、続けた。

 

 「それでは、これにて閉会を行いたいと思います。各自、担任教師の指示に従い、教室へ戻ってください」

 

 最後に、御神による起立と礼の声が掛けられ、全校集会は終わりを迎えた。

 

 やがて、体育館の出入り口に近いクラスから、生徒達がぞろぞろと外へ向かって進み出す。いつもより、ざわめきが大きかった。皆、留学生について口にしているのだろう。

 

 直斗も、生徒達の流れに乗りながら歩く。隣では、俊一が、興奮したように、レイラについて語っていた。

 

 「すっげー可愛かったな。日本のアイドルよりも可愛いよ。声も聞き惚れるくらい素敵だったし、胸も大きかったな。レイラちゃんを一目見た瞬間、俺はハートを奪われたね」

 

 鼻の下を伸ばしながら、俊一はそう言った。

 

 「そうだね。確かに可愛かったけど、俊一、意見変わりすぎじゃないか」

 

 直斗は、俊一の心変わりの早さに、舌を巻いた。

 

 「そりゃそうだよ。あんなに可愛いんだぞ。手の平なんてすぐに返すさ。むしろ御神に感謝したいくらいだよ。ただ、うちのクラスに入れなかったことだけ、許せないね。二年二組の奴等が羨ましい!」

 

 俊一は、歯噛みをした。ついさっきまでは、同じクラスどころか、学校へと転入することにすら、拒否感を示していたのにも関わらず、今は本気で悔しがっているようだった。

 

 それから俊一は、教室に着くまでレイラについて、まるで歴代のファンのように、熱弁を振るっていた。レイラの美貌は、見事俊一を虜にしたらしい。

 

 しかしそれは、他の男子生徒も同じだった。

 

 「あんなに可愛いとは思わなかったぜ。レイラちゃん、どんな人が好みかな」

 

 裕也も、いとも簡単に、ハートを射抜かれていた。全校集会が始まる前に、留学生に血を吸われることを、あれだけ懸念していたはずが、完全に忘れ去ったかのような発言だった。

 

 直斗がそこを突っ込むと、裕也はあっけらかんと意見を覆した。

 

 「前言撤回するわ。俺、レイラちゃんになら、血を吸われてもいい」

 

 裕也は、目を輝かせながら、そう言った

 

 俊一や他の男子生徒もそうだが、可愛い女の子とは、こうも男の意識を変えることができるものらしい。

 

 二時限目の授業開始のチャイムが鳴り響いた。一時限目は、全校集会で潰れたので、授業は二時限目からになる。

 

 裕也は、休み時間になったらレイラを見るために、隣のクラスへ行くことを直斗と約束をし、自分の席へと戻って行った。

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