俺の彼女は幻かもしれない   作:Melolololon

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第3章 謎 前半

 ドッペルゲンガー

 

 自分と瓜二つの分身。

 様々な推測や噂があるが、自分と同じ姿のドッペルゲンガーを見ると、本物は死に、ドッペルゲンガーが代わりに生き続けることになる。

 

 

 そんなことをスマホで調べたのは、七瀬が帰ってから数時間後。

 空が夕焼けで赤く染まり始めた頃だった。

 今のところ俺はピンピンしており、死ぬ気配は一切無い。

 

「なんだったんだ......。あれは......」

 

 はっきりと見えていた、七瀬のあの姿。

 服装は違うが、後ろ姿は明らかに俺と同じ姿だった。

 

「......疲れてるのかな、俺。それとも、何か体に異常が......?」

 

 昨日釣りの途中で倒れたこともあり、身体の疲労や健康を疑い始める。

 

「明日、診療所に行こうかな......」

 

 俺は学校を休み、診療所へ行くことにした。

 早めに伝えた方がいいと思い、俺は部屋を出て、母さんがいる居間に向かうことにした。

 部屋から出て階段を降り、居間へと向かう。

 居間では父さんと母さんがせんべいを食べながらテレビを見ていた。

 

「おっ、正道。どうした?」

 

 テレビを見ていた父さんが振り向き、俺に声をかける。

 

「母さんに用事があって......。なぁ母さん......。今、少し体調が悪くてさ......。明日診療所へ行きたいんだけど、いい?」

 

「あら? 体調悪いの? 顔色は悪そうに見えないけど......。あっ」

 

 母さんは何かに気が付いたのか、少し考えた。

 

「......分かったわ。明日診療所へ行きましょう。学校には連絡しておくわ」

 

「あ、ありがと......」

 

 俺はお礼を言い、居間を出る。

 階段を上る途中、母さんの違和感について考えていた。

 

 調子が悪そうではない俺の何を見て、何を考え、何に気が付いたのだろうか。

 少し考えてみたが、全く予想ができない。

 

 部屋に戻った俺は、ベッドに寝転んだ。

 

「......なんか最近、人に対して違和感があるんだよなぁ」

 

 ボーっとしていて、ふと思っていたことを口にしてしまった。

 

 今までの違和感。

 記憶を辿り、今までの違和感を思い出していく。

 

 直近だと、七瀬と母さんに関してだ。

 まず、先ほどの会話。

 その前は、七瀬の見た目が俺と同じになるという、幻覚のような症状。

 更にその前は、七瀬と母さんがお互い話しており、内容を知られたらまずいのか、少し慌てていた。

 

 昨日に関しては、父さんと釣り竿を買った店の店主に関してだ。

 父さんが街に行かせようとしなかったことは明らかにおかしいが、今思い返せば、店主もおかしかった気がする。

 俺が店に入った時、驚いたような顔をしていたような気がする。

 そのせいで、言葉にも詰まっていたような、そんな感じがした。

 

 先月だと、入院した時、それと、退院して通学した日もおかしかった。

 お見舞いに来た際、父さんと母さんは少しだけよそよそしかった。

 何かに驚いていたのか、それとも困惑していたのか。

 話があまり続かなかった記憶がある。

 

 それと、坂月先生だって少し様子がおかしかった。

 俺の姿を見ただけで、あの慌てっぷり。

 あれは明らかに異常だった。

 まるで、普通ではない何かを見たが、それを隠そうと必死に誤魔化したかのような驚き方だった気がする。

 

「......考えすぎか?」

 

 これはあくまで俺が感じた違和感とそれに対する予想であり、事実ではない。

 俺が必死に考えたところで、それが本当かどうかは分からない。

 そう思うと、考えるだけ時間の無駄な気がしてしまった。

 

 ただ、そう思ってしまっても考え続けてしまうのが、人間という生物だ。

 少し考えてみると、みんな俺に出会った際に困惑していることに気が付いた。

 

 ふと気になり、俺はスマホのカメラで自分を見てみることにした。

 

「......普通、だな」

 

 カメラには普遍的な男子中学生が映っているだけで、おかしなところはなかった。

 

「......やっぱり、考えすぎなのかな?」

 

 自分の姿を見て異変がないと分かると、やはり俺の考えすぎであると結論を出した。

 このことについては一旦考えるのを止め、先ほどの続きを考えることにした。

 

 七瀬が自分と同じ姿をしていた。

 まるで、ドッペルゲンガーの様に。

 

 まず、俺の姿をしていたこともおかしいが、急に姿が変わったというのもおかしい。

 ここは現実世界であり、ゲームの世界ではない。

 姿が急に変わるなんて、あり得ないはずだ。

 

「......本当にそうだよな?」

 

 俺はふと、スマホであることを調べた。

 

 

 仮想世界

 

 コンピューターによって作られた、疑似的な世界。

 創作においてはVRMMO作品が有名であり、作られた世界がまるで現実かのように感じられる。

 

 

「......こんな非現実的な技術が、現在に存在するのか......?」

 

 それから、関係ありそうなことをひたすらスマホで調べ続けた。

 

 

 統合失調症

 幻覚や幻聴、思考の異常により、生活に支障をきたす精神疾患。

 

 

「でも、本当に俺が統合失調症だったら、診療所で診断が出たり、専門的な病院に通うことになってるよなぁ......」

 

 俺は入院して検査を受けていたが、特に異常は無かった。

 最初に藤波先生と話した時も、勉強による過労やストレスで倒れた、としか言われていない。

 そうなると、病気の類では無いかもしれない。

 

 

 前頭葉(ぜんとうよう)白質(はくしつ)切截術(せっせつじゅつ)

 通称ロボトミー手術。

 脳の神経を切除する手術により、患者の人格を矯正する手術。

 手術後は精神疾患に悩まされる可能性がある。

 創作などでは、人格を変えてしまう手術として登場する場合もある。

 

 

 俺は慌ててスマホで後頭部や頭頂部を撮影した。

 もし、そんな手術をされているなら、手術跡があるはずだ。

 

「......って、あるわけないよな。そんなの......」

 

 そう思いながら撮影した写真を見ていくが、手術跡は一切無かった。

 

「ということは、やっぱり藤波先生が言った通り、勉強のし過ぎか......?」

 

 これ以上は思いつかず、やはり疲れによる見間違えや思い込みではないか。

 俺はそう思った。

 もう考えたり調べてしまうのに疲れてしまい、俺は寝て体を休めることにした。

 

 

 

 次の日、母さんに車で俺が入院していた診療所まで送ってもらった。

 診療所と扉を開けると、カランカランと鐘の音が鳴る。

 建物に入ると、人は一人もいなかった。

 この周辺は人がほとんど住んでおらず、しかも健康的な人が多いので、診療所に人が来ないのだろう。

 

「おや? 正道くんじゃないですか」

 

 入院の際にお世話になった藤波さんが、受付の奥から姿を現す。

 

「あれから体調はどうですか? ......まぁ、良くはないから本日やってきたのだとは思いますが......」

 

「はい......。ちょっと調子が......」

 

「お話は診察室でしましょう。今は見ての通りお客さんは誰一人いませんし」

 

「わかりました」

 

「じゃあ、母さんは受付前の椅子で待ってるからね」

 

 母さんはそう言うと、受付の正面にある椅子に座る。

 俺は藤波さんの案内に従い、診察室へと入った。

 

 診察室には藤波さんが使っているであろうデスクが置いてあり、その上にはパソコンが置いてあった。

 デスクの反対側には、診察用のベッドが置いてある。

 

「こちらに座ってください」

 

 デスク前の椅子に座っている藤波さんが、丸椅子に座るように案内をする。

 俺は丸椅子に座り、藤波さんと向き合った。

 

「では......。本日はどうされましたか?」

 

「えっと......」

 

 ここまで来て、俺は思った。

 果たして、本当のことを話してしまっていいのだろうか。

 

 七瀬の姿が変わり、ドッペルゲンガーであるかのように自分の姿になっていた。

 

 そんなことを話してしまえば、明らかに精神疾患を疑われてしまう。

 そうなった場合、七瀬との生活を続けるのは不可能になってしまう可能性がある。

 

「......ん? どうしたんだい?」

 

 なかなか答えない俺に、藤波さんが心配をして声を掛ける。

 

「あの......その......」

 

 必死に頭をフル回転させ、最適解を考える。

 

「実は......。最近目の調子が悪いような気がして......」

 

 とりあえず、無難な解答をしてみた。

 

「目ですか? 例えば、どのような症状が出ていますか?」

 

「例えば、ぼやけて見えたり......。後は......。疲れてるのか、見間違えが増えたような気がして......」

 

「見間違え......」

 

 見間違えという言葉に引っかかるのか、藤波さんは何か考え始めた。

 余計なことを言ってしまったのではないかと思い、心拍数が上がり、冷や汗が出始める。

 

「......ちなみにその見間違えって、物に対してかい? 例えば、人を見間違えたりとか......。そういうことはない?」

 

「えっ......?」

 

 何故、そんなことを聞いてきたのだろうか。

 何故、見間違えている対象を、物か人か気にするのだろうか。

 

「りょ、両方です......。どちらも、時々見間違えが......」

 

 俺は咄嗟に嘘を付いた。

 勘であるが、少しだけこの先生を怪しく感じてしまったのだ。

 

「ふーむ......。ちなみに、具体的に例を教えてもらっていいですか? 例えば......。目の前の人をじ......。失礼、目の前の人を身近な人と見間違えてしまったとか、そういう症状はあったかい?」

 

 どういうことだ。

 まるで、こちらの症状を把握しており、それを俺の口から言わせようとしているような気がする。

 これでは、診察というよりは尋問だ。

 

「......いえ、別の人に見えたというよりは、ちょっと髪型が変わってるように見えたとか、その程度です......」

 

 また嘘を付く俺。

 少しだけこの人のことが怖くなり、本当のことを言えなくなっていた。

 

「......なるほど」

 

 藤波さんはキーボードでパソコンに文字を打ち込み始める。

 おそらく、カルテに情報を入力しているのだろう。

 

「ちなみに、勉強はどのくらいしていますか? 入院前みたいに過剰にしていたりしませんか?」

 

「......勉強はそこまでしていないはずです。平日は授業を除くと二時間。休日は六、七時間ほどで......」

 

「ふーむ......」

 

 再び情報を入力していく藤波さん。

 

「......おそらく、入院明けの環境変化による体調不良と勉強疲れが重なり、調子が悪くなっているのでしょう。どうしても気になるのであれば......。街のふもとの眼科に行ってください。生憎私は眼科では無いので、詳しい目の治療はできないので......」

 

「そ、そうですか......」

 

「......診察は以上となります。何か、聞いておきたいことはありますか?」

 

「いや、特には......」

 

「そうですか。では、お疲れさまでした」

 

「あ、ありがとうございました......」

 

 俺は立ち上がり、お辞儀をする。

 そして、扉を開け、診察室から出た。

 

 

 

「あら、もう終わったの?」

 

 診察室から出ると、椅子に座っていた母さんが心配した様子で声をかけてきた。

 

「それで、結果は......?」

 

「......疲労で調子が悪くなってたみたい」

 

 俺はとりあえず藤波さんに言われたことをそのまま伝える。

 

「......そう。正道、勉強頑張ってるから、そのせいかもね......。体調悪いなら、座って少しでも休んだら?」

 

 母さんが隣の座席を手でポンポンと叩く。

 俺は母さんの隣に座り、一緒に藤波さんを待つことにした。

 

 

「高凪さん。お会計の準備ができました」

 

 数分後、藤波さんが奥の部屋から受付へ移動してきた。

 母さんは立ち上がり、会計を済ませる。

 俺は椅子に座ったまま、二人のやり取りを眺めていた。

 

「......ん?」

 

 会計にしては、やけに会話が長いような気がする。

 何を話しているか聞き取ろうとしたが、声が小さくてこちらには聞こえない。

 

 俺は会話が気になり、母さんたちに近づこうとした。

 しかし、藤波さんがこちらに気が付くと、会話を切り上げてしまった。

 まるで、俺に聞かれてはマズイ会話をしていたかのように。

 

「さ、帰りましょ」

 

 母さんはスタスタと診療所の入口に向かって歩き始めた。

 俺も入口に向かって歩き始める。

 

「なぁ母さん。さっき、先生と何を話してたんだ?」

 

 診療所から出て、駐車場の車に向かっている途中に母さんに聞いた。

 

「たいした話じゃないわよ。ちゃんと見守っててあげてくださいとか、そういうことを言われただけよ」

 

 母さんは車のロックを解除しながら話す。

 

「さ、早く帰りましょ。ちゃんとシートベルトはするのよ」

 

 母さんが車に乗り込み、俺もそれに続いて乗り込む。

 俺がシートベルトをすると、母さんは車を発進させた。

 

 森林の中の下り道を走る車内で、俺は窓の外をぼんやりと眺めながら藤波さんの診察を思い出していた。

 既に症状が分かっているかのような、的確な質問。

 何かを知っていそうなのに、疲労という普遍的な診断結果を出した。

 

 藤波さんは信用できる人物なのか。

 俺の頭の中では、その疑問で埋め尽くされていた。

 

 

 帰宅後、母さんに調子が悪いなら寝て休んでいなさいと言われたので、ベッドに横になっていた。

 しかし、特に眠いわけでもないので、スマホで調べ事をしていた。

 調べている内容は、昨日と同じ内容だ。

 

 ドッペルゲンガー、仮想世界、統合失調症等々。

 

 頭の中ではあり得ないと思いつつも、どうしても気になって調べ続けてしまった。

 症状や事例を調べ、心の中で否定するも、変な妄想により不安になる。

 

 横になりながら精神を疲弊させていると、いつの間にか午後になっていた。

 

「......昼食、食べるか」

 

 俺は起き上がり、台所へと向かった。

 

 

 昼食を食べた後は、またベッドに横になり、色々と調べ、不安になる。

 絶対に良くないとは分かっていても、調べる手を止めることはできなかった。

 

 

「......目が疲れたな」

 

 目の疲れを感じ、スマホをスリープ状態にしようとした。

 その時にふと時刻を確認すると、既に夕方の五時であることに気が付く。

 

「マジかよ......」

 

 俺は後悔した。

 せっかく学校を休んだのに、意味の無さそうなことについて調べて時間を潰してしまったのだから。

 

「はぁ......」

 

 俺は大きなため息をついた。

 それとほぼ同時に、インターホンが鳴った。

 時間的に、帰宅した七瀬がやってきたのであろう。

 

「七瀬......」

 

 ふと、この前の七瀬を思い出してしまった。

 突然姿を変え、俺と同じ見た目になった七瀬のことを。

 

 

 怖い。

 七瀬に会うのが怖い。

 

 得体のしれない七瀬と会うのが怖い。

 

 

 俺の心は恐怖で満たされていた。

 

 一方七瀬は、階段をドタドタと駆け上がり、俺の部屋に近づいてくる。

 俺は反射的に布団を頭まで被り、身を潜めてしまった。

 

「正道!」

 

 扉が開き、七瀬が俺を呼ぶ。

 

「......寝てるの?」

 

 七瀬の足音が、こちらに近づいてくる。

 俺は怖いと思いつつも、ほんの少しだけ頭を出し、七瀬を確認した。

 

「あ、起きてたんだ」

 

 恐る恐る七瀬の顔に視線を向けると、いつも通りの可愛らしい七瀬が立っていた。

 俺は少しだけ安心した。

 

「顔色はそんなに悪くなさそうだね。良かったー」

 

 七瀬は安心したのか、笑顔を見せる。

 その笑顔を見て、俺は更に安心した。

 

「まぁ、そこまでは悪くないよ。明日は学校に行けると思う」

 

「そうなんだ! ......正道が居ないと寂しいからさ」

 

「......悪いな。休んじまって」

 

 少し申し訳なくなり、謝罪する。

 

「仕方ないよ! 調子が悪かったんだし......。あ、そうだ」

 

「どうしたんだ?」

 

「あんまり言いたくなかったらいいんだけどさ......。どんな感じで調子が悪かったの? 例えば、前みたいに意識を失った、とかさ......」

 

「あー......。今回はそんな大ごとじゃないよ。ただ、目の調子が悪い気がしてさ。なんか、ここ最近見間違えが多くなった気がしてさ。学校を休むほどでもないと思ったけどさ、少し心配だったから......」

 

「......見間違え、かぁ」

 

 七瀬は少し引っかかるのか、考え始めた。

 

「ちなみにさ......」

 

(あれ......)

 

 この流れ、このやり取り。

 先ほどした診察と酷似している気がする。

 

 藤波さんの診察の時は、このあとこんなことを言ったはずだ。

 

「人を見間違えたりとか、そんなことってあった......?」

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