俺の彼女は幻かもしれない   作:Melolololon

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第4章 不信 前半

 七月二十五日、金曜日。

 今日は俺の誕生日。

 

 

 いつものように起きた俺は、台所へ向かう。

 

「あら、おはよう」

 

「......おはよう」

 

 朝食を食べに台所へ入った俺は、母親の挨拶に返事をした。

 

「......ここ最近調子が良くないようだけど、大丈夫......?」

 

「だ、大丈夫......」

 

 体に関しては、調子は悪くない。

 

「......いただきます」

 

 食欲はあまりないが、食べなくては体調を崩してしまう。

 無理やり口に入れ、無理やり食事を詰め込んでいく。

 

 

 母親の回答に対して大丈夫と答えたが、それは体は悪くないという意味だ。

 調子が悪いのは、精神である。

 

 ここ最近、自分に襲い掛かる不可解な現象について考え続けていたせいで、日に日に精神が衰弱していた。

 心配をかけさせないために表には出さないようにしているが、もしかしたらバレているかもしれない。

 

 

「ご馳走様でした......」

 

 食事を食べ終え、食器を水につける。

 そして、いつものように学校に向かう準備をし、いつものように七瀬を待つ。

 

 数分ほど玄関で座っていると、ガラガラと扉が開く。

 

「ハッピーバースデー!」

 

 七瀬は扉を開けるやいなや、大声で俺を祝った。

 

「あ、ありがとう......」

 

 小さな声でお礼を言う俺。

 

「あれ? あんまり嬉しくなかった......?」

 

「い、いや嬉しいよ! ありがとう......」

 

 七瀬の悲しむ顔を見た俺は、即座にちゃんとしたお礼を言った。

 

「それじゃ、誕生日会の話でワクワクしつつ、学校行こうか」

 

「お、おう......」

 

 そして、いつものように七瀬と手を繋ぎ、二人で学校へと向かった。

 

 

「あ、そうだ。坂月先生だけどね。今日は即座に仕事を切り上げて来てくれるってよ。......その分、明日休日出勤するんだろうけど」

 

「へ、へぇ......」

 

「あとね、私のお母さんがケーキをネット注文してたみたいでさ。せっかくお祝いしに行くんだったら、プレゼント代わりに持っていきなって......」

 

「そ、そうなんだ......」

 

「それでね......。......って、正道? 聞いてる?」

 

「あ......。ああ! 聞いてるよ!」

 

 正直、話はあんまり頭に入っていなかった。

 現在の俺の頭の中を支配している話題はただ一つ。

 

 

 何がおかしいのか。

 

 

「......もしかして、調子悪い?」

 

「いや、そんなことないけど......」

 

「......本当?」

 

「本当だってば......」

 

 七瀬が俺のことを怪しみ、顔をジロジロと観察してくる。

 顔が近く、少しだけ恥ずかしくなり、それと同時に、少し恐怖し、俺は後ろへ一歩下がる。

 

「まぁ、顔色はそんなに悪くない感じはするけど......。調子が悪くなったらすぐ言うんだよ?」

 

「わ、分かってるって......」

 

「分かってるならよろしい。じゃ、早く学校に行こ?」

 

 七瀬は俺の腕を引っ張り、歩き始めた。

 

 

 少し前までは、俺の身の回りのおかしな現象は体調不良によるもの。

 そうだと信じていた。

 しかし、数日前にふと、何となく考え込んでしまったせいで、その考えは変わっていた。

 体調不良というだけで、あそこまで不可解な現象に見舞われるものなのだろうか、と。

 

 七瀬が俺の姿に見えた。

 その後、藤波先生と七瀬、両者とも【俺が人を見間違えたこと】に関して質問した。

 そして、七瀬から俺の声が発せられ、他の人は違和感を持っていなかった。

 

 あれから考えてみると、不可解な現象には、全て七瀬が関わっていたことが判明した。

 だからこそ、彼女である七瀬が近づいてきたことに対し、恥ずかしいという感情と共に、恐怖という感情を抱いてしまったのだ。

 

 

「......うーん、今日は霧がすごいね......」

 

 七瀬が辺りをキョロキョロと見渡す。

 それにつられ、俺も周辺を見渡した。

 

 特に気にしていなかったが、今日は霧が深く、先があまり見えない状況だった。

 

「なんかさー。こういう霧が深いときにさ、不可解な現象が発生して、なんだなんだー! ってパニックになっている間に、化け狐にバクっー! っていう展開をこの前アニメでチラッとみたんだけどさ......。その時と似てるんだよねー」

 

「今の状況が......?」

 

「うん。妖怪がテーマの作品でね、幻を見せて人を喰らう化け狐がテーマのお話だったんだー」

 

「幻......。......というか七瀬、アニメとか見るんだな......」

 

「うん。演劇のシナリオとか考えることになった際に、こういう積み重ねが役に立つかなぁ、って思ってさ」

 

「へ、へぇ......」

 

 七瀬は楽しそうに話すが、俺はうわの空だった。

 幻という言葉が、妙に引っかかったからだ。

 

 

 もし、この世界が幻だったら。

 七瀬が俺の姿に見えたのも幻だったら。

 藤波先生と七瀬、両者とも同じ質問をしたのも、七瀬から俺の声が聞こえたのも、幻によるパニック症状による聞き間違えだったら。

 

 

「幻......か......」

 

「ん? どうしたの?」

 

 ふと、七瀬の顔を見る。

 

「な、何......? そんなに私の顔をジロジロ見て......。寝癖でもある......?」

 

 もしこの世界が幻だったら。

 俺の彼女、七瀬も幻なのだろうか。

 

 

 

「ま、正道......?」

 

「はっ......!」

 

 幻、その言葉に囚われ、無意識に七瀬を見つめ続けていた。

 

「す、すまん......」

 

 俺は咄嗟に、少しだけ距離を置く。

 そんな俺を、不思議そうに見つめる七瀬。

 

「......本当に大丈夫?」

 

「だ、大丈夫だって!」

 

「ならいいけど......。大丈夫なら、早く学校行こう? 遅刻しちゃうかもしれないし」

 

 七瀬は学校に向かって歩き始めたので、俺も一緒に歩き始めた。

 

 

「はぁ......」

 

 教室に入り、自席に着席した俺は、大きなため息をついた。

 精神疲労からあまり眠れておらず、登校の疲れもあり、眠くなってきてしまったのだ。

 

「おはようございます」

 

 坂月先生が教室に入り、教室の奥にある教員席に座る。

 

「あ、坂月先生。ちょっといいですか?」

 

 座っていた七瀬が立ち上がり、坂月先生の元へ向かう。

 話している内容が気になるが、俺の席まで声は届かない。

 

「ふわあぁぁ......」

 

 眠気に襲われ、コクリ、コクリと頭が動く。

 そんな中、チャイムが鳴り、朝会が始まろうとしていた。

 しかし、眠気に耐えられなかった俺の記憶は、そこで途絶えてしまった。

 

 

「......ねぇ。まだ勉強するの? もう十一時よ?」

 

「うん。まだする予定。こんなんじゃ、志望校に合格できないから」

 

 眠い目を擦りつつ、お風呂上りでサラサラした髪を指でいじる。

 

「勉強も大切だけど、それ以上に体も大切だから、無茶しちゃダメよ? それに、寝不足は肌荒れの原因にもなるのよ? 肌がボロボロになって、ニキビだらけになったら、同級生の正道くんに驚かれちゃうかもよ?」

 

「大丈夫。興味ないから」

 

「......そう。それじゃ、頑張ってね......」

 

 それから、日付が変わり、二時を過ぎるまで勉強をした。

 ベッドに横になろうと思ったが、疲れで体を動かす気力がない。

 椅子に座ったまま、そのまま伏せ、眠ることにした。

 

 

「......正道! ......正道! 起きて!」

 

 突然、体をユサユサと揺らされ、目が覚める。

 

「んぅ.......。......はっ!」

 

 俺はガバっと勢いよく体を起こし、辺りを見渡す。

 視界に偶然入った時計を見ると、既に午後四時になっていた。

 

「い、いつの間に......四時......?」

 

「正道、今日はずっとボーっとしてて、まともに授業を聞かずに帰る時間になっちゃったんだよ! 眠るごとに私が起こしても、ボーっとしたままだし......」

 

「ま、まさか......」

 

 今日一日、ほとんど意識が無い状態で過ごしてしまった。

 

「ち、ちなみに坂月先生は何か言っていたか......?」

 

「起こしても起こしてもずーっと眠そうだったから、オロオロしてたよ」

 

「そ、そうか......。悪いことしちまったな......」

 

 俺は授業をサボってしまったことを申し訳ないと思った。

 だが、そのおかげで頭はスッキリとしており、眠気は吹き飛んでいた。

 

「あ、そういえばこのあと誕生日会か......。早く帰らないと......」

 

 俺は荷物をまとめ、教室から出ようと立ち上がる。

 

「あ、待って!」

 

 七瀬は帰ろうとした俺の腕を掴み、引き留める。

 

「坂月先生が車で送ってってくれるから、帰る準備が終わるまで待ってて、って言われてるの。」

 

「そ、そうなのか」

 

「うん。だから、もう少し待ってよ」

 

「ああ......」

 

 俺は再び座り、七瀬と待つことにした。

 

 

 窓が開いており、蝉の鳴き声が聞こえてくる夕方直前の教室。

 そんな教室で、彼女と二人きり。

 俺が得体のしれない謎に見舞われていなければ、青春してるな、とでも思えたのかもしれない。

 しかし、今の俺に、この状況を満喫する余裕などなかった。

 

 

 

「ねぇ、正道......」

 

「......なんだ?」

 

「......落ち着いて、聞いて欲しいの。そして、正直に話してほしい」

 

 七瀬が突然、真剣な顔でそんなことを言った。

 普段の七瀬らしくないので、体が強張り、身構えてしまう。

 

「な、なんだよ......」

 

「......最近、変な違和感ってない? ......明らかに、体調不良とか、そういうことに関係していなさそうな......」

 

「......っ! ど、どうして......そんなことを......」

 

「......今は私を信じて答えてほしい」

 

 七瀬の真剣な眼差しが、俺の目を捉える。

 

 

 正直に話すべきなのか。

 正直に話したら、全て解決するのか。

 

 幻覚や幻聴が見えているかもしれないと、七瀬に話してもいいのか。

 馬鹿にされたり、軽蔑されるのではないか。

 

 そもそも、何故、七瀬はこちらに何か問題があるのではないかと分かっているのか。

 何故、俺に問題があると思い、問いかけてきたのか。

 

 もしかして、俺の症状に関して、何か知っているのではないか。

 それなのにも関わらず、困っている俺を見て楽しんでいるのではないか。

 それとも、何か、恐ろしいことでもしよう、いや、している最中なのではないか。

 

 

 七瀬は、信じてもいい存在なのか。

 信じられない存在に、真実を話す利点はあるのか。

 

 彼女である七瀬を裏切るような答えを出していいのか。

 俺を今まで支えてくれた七瀬を、信じなくてもいいのか。

 

 

「......いや、特には......」

 

 苦渋の決断。

 俺は、否定する決断を選んだ。

 彼女である七瀬に、嘘を付く選択をした。

 

「......そう。なら、いいんだけど......」

 

 先ほどまでの真剣な眼差しから一点、少し落ち込んだような表情を見せた。

 いつもの七瀬に戻り、俺は心の中で少しだけ安心する。

 

「あ、正道くん。起きたんだね」

 

 教室の外から、坂月先生が声をかけてきた。

 

「もう......。今日は許しますけど、今度からは夜更かしせずにちゃんと寝て、居眠りしないようにしてくださいね......!」

 

「は、はい......。今日は本当にすみませんでした......。これからは気を付けます......」

 

 俺は深々と頭を下げ、謝罪する。

 

「......さ、先生のお説教はここまで。これ以上空気が悪くなったら、この後の誕生日会を楽しめなくなっちゃいますもんね。車の準備はできたので、一緒に行きましょう」

 

 先生はそう言い、玄関に向かって歩いて行った。

 

「私たちも行こ」

 

「お、おう......」

 

 七瀬は先生の後を追いかける。

 俺も同じように先生の後を追いかけ、教室から出た。

 

 

 校門前には、先生の赤い軽自動車が止まっていた。

 先生が車のロックを解除し、後ろのドアを開ける。

 

「さ、乗ってください。シートベルトはちゃんとするんですよ」

 

「はーい」

 

 七瀬は元気よく返事をし、車に乗りこむ。

 俺も乗り込み、七瀬の隣に座る。

 

「それじゃあ、出発しますね」

 

 坂月先生が運転席に座り、エンジンをかける。

 車が動き出し、デコボコした道を走り始める。

 

 俺は窓の外をボンヤリと眺めていた。

 窓からは森や山、ここ最近使われておらず、草が大量に生えている畑しか見えない。

 しかし、そんな単調な風景でも、現実逃避をするには十分だった。

 

「そういえば先生。先生も今日の料理を作るんですよね?」

 

「そうですよ。参加させてもらうお礼ということで......」

 

「先生の料理、楽しみです!」

 

 七瀬と坂月先生が話し始めるが、俺は窓の外から視線を動かさなかった。

 目を逸らしたら、不安だらけの現実に戻されてしまう。

 そう思ったからだ。

 

「正道も楽しみだよね?」

 

「......え、あ、あぁ」

 

「もー......。先生が料理を作ってくれるっていうんだから、ちゃんと感謝しないと......」

 

「い、いいんですよ! 凄い料理が作れるわけでもないので......」

 

「えー? そんなことないでしょー。先生料理上手そうだし......。私の勘だけど」

 

 再び二人は楽しそうに話し始めた。

 そしてまた、俺は窓の外へと視線を戻す。

 

「先生、こっち方面の道はほとんど通らないんですけど、全然人がいないなぁって毎回思うんですよね......。家はたまーに見かけますけど......」

 

「この辺って老人ばかりだから、みんなふもとの街の老人ホームに入っちゃったんですよね。この辺じゃ、車が無いと生活できませんし。かといって、車に乗るのも危ないですし......」

 

「そうなんですね......。確かに、こんな舗装されてないデコボコしている細い道を、ご老人の方が通るのは大変ですもんね......」

 

「私、ここが好きだから、もう少し人が増えて、少しでもいいから賑わってほしいんですけどね......。せめて、お祭りとかはしたいなぁ......」

 

「そうですねぇ......。流石に、寂しすぎますもんねぇ......」

 

「あ、次に見える家が正道の家ですからね」

 

「知ってますよ。毎年ある家庭訪問で訪れているので」

 

「あ、そっか」

 

 二人はずっと話続けており、俺はずっと窓の外を眺め、ボーっとしていた。

 だが、そろそろ家が近い。

 現実逃避の時間は、もうそろそろ終わりそうだ。

 

 

 

「とうちゃーく!」

 

 車が止まると、七瀬はシートベルトを外し、車から降りる。

 

「じゃ、私は家にケーキを取りに行くので!」

 

「あ、じゃあ乗せて......」

 

「先生は正道のお母さんの手伝いをしなきゃいけないんでしょ? ケーキは私に任せて、お手伝いしてあげてください!」

 

 七瀬はそれだけ言って、自宅へと走っていった。

 俺はそれを途中まで見届け、玄関の扉を開ける。

 

「ただいま......」

 

「お、お邪魔しまーす。担任の坂月でーす......」

 

「あら、おかえり。それに、坂月先生。今日はありがとうございます。お手伝いに来てくれて......」

 

 台所から玄関に向かって歩きながら、俺たちに言う母さん。

 

「いえ、むしろ、今日は私なんかを紹介していただいて、ありがとうございます......」

 

「私なんてって、そんな自分を卑下しないでください。毎日毎日、とてもお世話になっているんですから」

 

 大人の女性二人が楽しそうに会話を始めたので、俺はそそくさと脱衣所に向かい、洗面台で手を洗う。

 そして、何となくだけど、顔を洗ってみた。

 

「ふぅ......」

 

 車の中でボーっとしていたせいでまた眠くなっていたが、冷たい水が俺の脳を叩き起こす。

 眠気は水と共に流れ落ち、少しだけ気が晴れた。

 

「......幻、か......」

 

 もし、今までの不可解な謎。

 それが、病気による幻だったら。

 それが、夢で見るような、不可解な幻のようなものだったら。

 俺の身を包む幻が、この水で流されてくれたら。

 

 しかし、現実は甘くない。

 ゲームやアニメのように何か変わるわけでもなく、ただ、眠気が消えただけだった。

 

「じゃあ、こちらへ......」

 

「はい......」

 

 脱衣所の外から、母さんと坂月先生の声が聞こえてきた。

 母さんが台所に案内しているのだろう。

 

「......俺も手伝おうかな」

 

 俺は脱衣所から出て、台所へ向かう。

 

「あ、正道。わざわざ手伝おうだなんて思わなくてもいいわよ。今日は誕生日なんだから、楽しみに待ってなさい」

 

「そうですよ。料理は先生とお母さんに任せてください......!」

 

 二人は笑顔でそう言うと、料理の支度を始めた。

 どうやら、俺が手伝うまでもなさそうだ。

 

 俺は台所から出て、自室へ向かう。

 自室に入ると、鞄を適当に置き、何となく椅子に座る。

 

「......勉強、するか......」

 

 俺は鞄からノートと参考書、筆箱を取り出し、机に向かう。

 

「今日寝てた分、取り返さないとな......」

 

 そんなことを考えながら、俺は勉強を始めた。

 

 

「正道ー?」

 

 勉強開始から数十分後。

 突然、七瀬が俺のことを呼びながら、部屋の扉を開けた。

 

「わっ......。誕生日なのにそんなガッツリ勉強してるの?」

 

「あ、七瀬......」

 

 俺は勉強を一旦やめ、振り返る。

 部屋の入口には、ピンクのトートバッグを肩にかけた七瀬が立っていた。

 

「私も料理を手伝おうとしたんだけど、私たちに任せなさいっていうから、こっち来ちゃった」

 

「そ、そうか......。ま、まぁ立ちっぱもあれだし、適当に座ってくれ」

 

「うん」

 

 七瀬はベッドを背もたれにし、床に座り込んだ。

 

「あ、そうだ。私からの誕生日プレゼントがあるんだけど。先に渡しちゃうね......」

 

 トートバッグの中に手を突っ込む七瀬。

 そして、トートバッグの中から、如何にもプレゼントの箱だということがわかる、リボンに包まれた箱を取り出した。

 箱は、一辺が五センチメートルにも満たない、小さな立方体だ。

 

「これ、私からのプレゼントなんだけど......。なんだけど......」

 

 七瀬は恥ずかしそうにし、箱を渡そうとしない。

 

「......ごめん。やっぱ、後日でもいい......? 今更、正道に相応しくないと思っちゃって......」

 

 俺に相応しくないプレゼント。

 一体、中には何が入っているのだろうか。

 

「いや、七瀬が俺のことを思って用意してくれた。それだけで、とても嬉しいよ......」

 

 俺は七瀬を気遣い、そう言った。

 

「で、でも......」

 

 しかし、七瀬は渡そうとしない。

 そんなに受け取ってもらいたくないものが入っているのだろうか。

 

 気になる。

 

「そんなに心配しなくていいって」

 

「......後悔しない?」

 

「......え?」

 

 ただの誕生日プレゼントで、何故、後悔しないかなどと聞いてくるのだろうか。

 もしかして、見てはいけない、知ってはいけない物でも入っているのだろうか。

 俺の顔から、冷や汗が垂れ始める。

 

 怖い。

 だが、それ以上に気になってしまう。

 

「こ、後悔しない......!」

 

「じゃあ......」

 

 七瀬は箱を手の平に乗せ、差し出した。

 俺はそれを受け取り、リボンをほどいていく。

 

 リボンをほどいている途中、視線を少しだけ七瀬に向ける。

 七瀬は相変わらず、顔を赤らめている。

 

「じゃあ、開けるぞ......」

 

 リボンをほどき、箱の蓋を持ち上げる。

 中には、いったい何が入っているのだろうか。

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