俺のポケモンが全員ヤバいらしい   作:炭水化物は飲み物

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気分転換

ガバガバ設定です。


始まり

世界には、ずっとガ・ラ・ス・が嵌まっていました。

 

 

 

……あ、これ、シリアスな哲学の話とか文芸誌みたいな高尚な話じゃないです!

 

ブラウザを閉じないでくださいね!?

 

 

 

要するに、前世の僕は生まれつき心臓と肺がバカみたいに弱かった。

 

物心ついたときから、白い病室のベッドの上が定位置。

 

いわゆる「いつ死んでもおかしくない枠」の病弱ボーイだったというお話です。

 

 

 

世界の構成要素は、白い天井と、点滴の管と、消毒液の匂い。

 

 

 

それと、心電図モニターの電子音。

 

 

 

痛みには最後まで慣れなかった。

 

けれど、慣れたものもあった。

 

痛いときに「へらへら笑う癖」のほうだ。

 

 

 

顔をしかめると、大人たちの顔がもっとお通夜みたいになっちゃうから。

 

心配されるのって、痛みより疲れるんだわ……。

 

 

 

だから僕は、検査の結果がゴミカスな日ほど、よく笑うクソガキになりました。

 

 

 

そんなある日、枕元に転がっていたのが一台の携帯ゲーム機。

 

 

 

差し込まれていたソフトの名前は『ポケットモンスター スカーレット』。

 

 

 

ぶっちゃけ、これが誰の置き土産だったのかは全然覚えていません。

 

 

 

とにかく起動した。

 

 

 

そしたら、僕の視界に緑色の子猫が出てきた。

 

 

 

首元の白い襟。

 

ぴんと立った耳。

 

光の加減で揺れる、若葉の色の毛並み。

 

 

 

ニャオハ(初恋、または救世主)

 

そういう名前らしかった。

 

 

 

——かわいい。

 

 

 

その瞬間、僕の語彙力は完全に死滅しました。

 

 

 

十数年生きてきて、心がこんなふうに時速五百キロでバックドロップを食らうみたいに大きく動いたのは初めてだった。

 

 

 

痛み以外の感情で脳みそがいっぱいになる。

 

その経験を、僕はそのとき初めて知ってしまったんだ……!

 

 

 

そこからは、もう早かった。

 

 

 

完全にブレーキの壊れたガチ勢の誕生である。

 

 

 

動かない足の代わりに、画面の中で草原を走った。

 

海を渡った。

 

雪山を越えた。

 

 

 

隣にはいつも、あの緑の猫がいた。

 

 

 

やがて猫は二本足で立ち、マントみたいな襟を翻す、妖艶な仮面マジシャンになった。

 

 

 

マスカーニャ。

 

 

 

僕の、最初の推し。

 

そして、最後まで一番の正ヒロイン()だった。

 

 

 

当然、ストーリーをクリアして「あー面白かった」で終わるわけがない。

 

 

 

もっと強く。

 

もっと完璧に。

 

 

 

僕の歪んだ愛は、完全に『厳選(あいのぶつりえんざん)』という修羅の道へ伸びた。

 

 

 

個体値最高(6V)なんてただの最低条件。

 

 

 

性格、努力値、特性。

 

すべてが理想の輝きを放つ一匹に出会うまで、世界を何千回、何万回とリセットし続ける。

 

 

 

動かない身体の代わりに、僕の親指のボタン連打速度だけは世界のトップランカー並みに進化した。

 

 

 

同じ子を、全部の「性格」のぶんだけそれぞれ揃えた。

 

 

 

全シリーズの、全ソフトで。

 

 

 

我ながらどうかしていると思う。

 

 

 

でも、白い天井の下でできる愛しかたが、僕にはこれしかなかったんだ。

 

 

 

撫でられない。

 

餌をやれない。

 

散歩に行けない。

 

 

 

だったらせめて、誰よりも完璧なきみたちでいてほしい。

 

 

 

僕の愛情を注げる場所は、ステータス画面の六角形(レーダーチャート)の中にしかなかったから。

 

 

 

さらに拍車がかかる。

 

 

 

幻のポケモン、メロエッタ。

 

 

 

もう手に入らない配信限定の歌姫のために、ネット通販で中古ソフトを買い漁りまくった時期だ。

 

 

 

中身が全部同じゲームの色違いパッケージだと知ったとき、夜勤の看護師さんは何も言わなかった。

 

ただ、僕の頭を憐れむようにくしゃりと撫でた。

 

 

 

やめろ。

 

その優しさは効く。

 

 

 

ちなみにその人は、僕のパーティ名を知っている唯一の人間だった。

 

 

 

手持ちの六匹には、ここにはとても書けない名前を付けていた。

 

回診中の主治医に画面を覗き込まれて、三日ほど目を合わせてもらえなくなったレベルのヒドい名前だ。

 

 

 

チーム名は『最高の性癖パーティ(ぼくのゆめとへきのすべて)』。

 

 

 

我ながら最低で、最高だった。

 

 

 

マスカーニャは、エース。

 

僕の初恋。

 

 

 

ブイズたちは、全員が日替わりの嫁。

 

 

 

八匹ぶん、全部最高個体で育てた。

 

 

 

サーナイトは、ドレスの淑女。

 

 

 

彼女の専用ボックスの背景内装だけに、僕はベッドの上で丸三時間を費やした。

 

 

 

キュウコンは、男の子。

 

 

 

男の子なのに、世界で一番きれいな僕の「男の娘」枠。

 

 

 

シビルドンは、浮いている電気鰻。

 

 

 

弱点がない。

 

特性「ふゆう」とか完璧か?

 

 

 

超絶クールな僕の防壁イケメン。

 

 

 

メロエッタは、最後に来た歌姫。

 

 

 

一番、手と諭吉がかかった。

 

 

 

ピクニック画面で、撫でる操作をする。

 

 

 

画面の中のマスカーニャは目を細めて、気持ちよさそうに喉を鳴らす。

 

 

 

でも、僕の指が触れているのは冷たいガラスだ。

 

 

 

指でなぞると、僕の熱で液晶がうっすら曇る。

 

 

 

ガラス越しの感触は、いつだって、僕自身の体温のことしか教えてくれなかった。

 

 

 

「——今度は、この画面の壁をぶち壊して。直接、触れたい。……ずっと、一緒だよ」

 

 

 

最期の夜。

 

 

 

口の中に広がる錆の味。

 

けたたましく鳴り響く心電図のアラーム音

 

 

 

その中で、僕は光るゲーム画面の六匹を眺めながら、そんな願いを零して息を引き取った。

 

 

 

 

 

 

次に目を開けたとき、世界はクソみたいに健康的だった!

 

 

 

今の俺は、籠目蓮。

 

四歳。

 

 

 

手足が動く!

 

走れる!

 

 

 

それだけで毎日が脳汁ドバドバのお祭り状態だった!

 

 

 

居間のテレビでは、よく筋肉の塊みたいな金髪の男が、巨大な瓦礫を片手で担いで「私が来た!」と笑っていた。

 

 

 

母さんが「ヒーローよ、すごいわねえ」と言うので、ふうん、と返した。

 

 

 

興味はなかった。

 

 

 

俺の興味は、もっと別の、古い夢のほうにあったから。

 

 

 

四歳の秋。

 

 

 

俺は、個性検査に連れて行かれた。

 

 

 

白い壁。

 

白い天井。

 

機械の音。

 

消毒液の匂い。

 

 

 

前世の「痛い場所」の記憶がよみがえる。

 

四歳の身体が勝手にビクッと竦んだその時、俺の手のひらが文字通り爆熱を発した!

 

 

 

木の葉みたいな光の粒と、小さな火の粉が指のあいだから零れ落ちる。

 

 

 

零れた光は床に落ちて、ほどけて、膨らんで、形になった。

 

 

 

緑の、子猫。

 

 

 

白い、子狐。

 

 

 

尻尾が、六本。

 

 

 

俺は、完全にフリーズした。

 

 

 

()()()()()()()()()

 

 

 

()()()()()()()()

 

 

 

画面の中にしかいなかったはずの、ガラスの向こうにしかいなかったはずの俺の相棒たちが、そこにリアル等身大で存在していたんだ……っ!

 

 

 

ニャオハが一歩近づき、検査室の床に、ぺた、と可愛い肉球の音が響く。

 

 

 

ガラスが、ない。

 

 

 

どこにも、ない……!?

 

 

 

「本物だ……っ、本物だあああああ!!! 会いたかった、会いたかったよぉぉおおおおおおおお!!!」

 

 

 

俺は周囲の医者や親の目なんて一切気にしなかった。

 

床にスライディング土下座する勢いで、検査室の床に膝をついた。

 

 

 

涙と鼻水を盛大に撒き散らしながら、全力のフルパワーでニャオハとロコンをその小さな腕の中にギュウギュウに抱きしめる。

 

 

 

「にゃ、にゃーん……!」

 

 

 

「こおん……っ」

 

 

 

腕の中に伝わる、ふかふかの確かな質量。

 

生きている体温……っ!

 

 

 

ニャオハは俺の涙を舐め取るように顔を熱心にすり寄せ、ピクニックの画面で俺がいつも撫でていた「右耳の後ろ」をあざとく差し出してくる。

 

 

 

ロコンは何も言わずに俺の胸元へ潜り込んで、六本の尻尾で俺の腕ごと自分をガチガチに巻き込んできた。

 

 

 

覚えてる。

 

 

 

こいつら、前世のあの何千時間の厳選の記憶を、完璧に覚えてるんだ……っ!

 

 

 

俺が緑と白に顔を埋めて「うわああああん生きててよかったあぁぁ!」と歓喜の涙を流している最中、検査員の人がロコンを調べようと手を伸ばした。

 

 

 

ばしん、と、ニャオハの尻尾が床を爆音で打った。

 

 

 

それだけで、検査員の動きが恐怖で完全に停止した。

 

 

 

この時の俺は、ただの可愛い猫パンチ未遂だと思っていた。

 

 

 

思っておくべきだった。

 

 

 

「個性名の登録ですけど……ご本人は、なんと?」

 

 

 

「…………ぽけもん、ますたー」

 

 

 

「は?」

 

 

 

「ぽけもんますたー!!」

 

 

 

こうして、国の公的な書類に、俺の個性は『ぽけもんますたー(四歳児の後悔なき選択)』と、ひらがなで記載された。

 

 

 

後年、提出書類のたびに俺は遠い目をすることになるのだが、四歳の俺に悔いはない。

 

 

 

両腕が緑と白のモフモフでふさがっていて、それどころじゃなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

そこから、我が家の家族は順調に増殖(インフレ)していき、同時に俺への身体接触(イチャイチャ)の密度もバグっていった。

 

 

 

五歳の春にイーブイが来て、夏にもう一匹来た。

 

 

 

気づけば毛色の違うのが八匹、リビングを占拠して、家の中が完全なるブイズカフェ状態になった。

 

 

 

六歳の冬にラルトスが来た。

 

七歳のある日、風呂場に謎の巨大な鰻《シビルドン♂》が顕現して母さんが腰を抜かした。

 

 

 

浮いていた。

 

 

 

風呂場で浮く必要は全くないと思うが、めちゃくちゃ顔が良い超絶イケメンだから許した。

 

 

 

最後に来たのは、八歳の誕生日。

 

ケーキの蝋燭を吹き消した瞬間、その火を借りるみたいにして歌いながら現れた幻の歌姫、メロエッタ♀。

 

 

 

年少期の俺の生活空間は、常にこいつらとの過剰な密着で埋め尽くされていた。

 

 

 

俺がテレビを見ていると、ニャオハが当然のように俺の首元にマフラーのごとく巻きつく。

 

ゴロゴロと喉を爆音で鳴らしながら、頬をこれでもかとすり寄せてくる。

 

 

 

さらに、その俺の膝の上をロコンがガッチリ占拠。

 

 

 

あざとい鳴き声を上げながら、俺の脱いだパーカーの袖をこれまたガッチリホールドして絶対に離さない。

 

 

 

それだけならまだしも、宿題をしようと机に向かえば、八匹のブイズたちが俺の背中や足元に「むぎゅっ」と隙間なく群がる。

 

リビングの床が完全なる『ふかふかの生きた肉壁』と化す。

 

 

 

ラルトス《後のサーナイト♀》にいたっては、俺の指先に自分の小さな手をずっと重ねて「精神リンク」を二十四時間繋ぎっぱなし。

 

 

 

お風呂に入れば、超絶イケメンの電気鰻《シビルドン♂》が、弱点なしの完璧な巨体で俺の体ごとふわふわと湯船の中でホールドしてくる。

 

 

 

あまりの過剰な独占欲と、常時発動の物理的ホールド。

 

 

 

普通なら「これ監禁されてね?」とヤバさを察するレベルなのだが、限界オタクの俺の脳内変換はこうだった。

 

 

 

「お前達も、前世であの薄い板《液晶画面》で閉ざされて触れ合えなかった分、今世では好きなだけ甘えてるんだな! 俺は世界一嬉しいぞうへへへへ!!」

 

 

 

完全に、ただの「最愛の手持ちたちの可愛い愛情表現《デレ》」としてハッピーに受け取っていた。

 

 

 

彼らが俺にすり寄る裏で、近づこうとする母親や医者を「主の身体に触れるな有象無象の害虫ども。消毒《ミンチ》するぞ」という、ハイライトの完全に消えた目でロックオンしている狂気に、俺は一ミリも気づいていなかったんだ……。

 

 

 

さて、小学校に上がった俺には、前世から持ち越した輝かしい宿題があった。

 

 

 

友達を作って、放課後に誰かと帰り道を歩いたりする。

 

絵に描いたようなリア充ライフを送るのだ!

 

 

 

……と、思っていた時期が、俺にもありました。

 

 

 

「籠目くんの、それ、なあに? ボール?」

 

 

 

隣の席の女の子が、俺の腰の球を指さして無邪気に笑った。

 

 

 

俺の心臓は跳ね上がった。

 

 

 

人間の友達の入口だ!

 

 

 

「あ、えと、これは——」

 

 

 

ガタガタガタッ!!!

 

 

 

腰のボールが親の仇みたいに激しく震えた。

 

 

 

二つ同時にパーンと弾け、白い光の中から、緑の猫《ニャオハ》とリボンの獣《ニンフィア》がポップアップ。

 

 

 

彼らは鳴き声一つ上げず、俺の前に仁王立ちして『物理的な鉄壁のディフェンス陣形』を構築。

 

 

 

女の子から俺を隠すように完全にホールドしつつ、全身から焦土を作るレベルの殺気を一〇〇パーセント全開で放った。

 

 

 

「ひっ……! うわあああああん!!!」

 

 

 

当然、女の子は大号泣。

 

 

 

先生が血相を変えて飛んできて、俺はうちの子たちにガッチリ抱きつかれたまま廊下に強制フェードアウト。

 

 

 

騒ぎの隅で、誰かが落とした「……ばけもの」というドン引きの声が響いた。

 

 

 

そんなことが数回続き、俺はクラスで完全に孤立。

 

 

 

誰も半径二メートルに近づかなくなった。

 

 

 

前世で友達がいなかった反動もあり、俺は普通に傷ついた。

 

 

 

「うわあああ! 俺の今世のリア充ライフがァァ! なんで誰も近づいてくれないんだよ、俺なんか悪いことしたっけ……?」

 

 

 

学校で友達が一切できなかったことにガチでショックを受け、大真面目にガチ凹みしていた。

 

 

 

そんな俺の、涙目を浮かべる姿を、手持ちのポケモンたちはバッチリと観察していた。

 

 

 

主を独占できてハッピーだった。

 

 

 

けれど、自分たちの防衛行動のせいで、主がこんなにも傷ついて悲しそうな顔をしている……!

 

 

 

『(……ア、ヤベッ。主を悲しませるとか、我が性癖パーティ(ファミリー)のツラ汚し……!)』

 

 

 

手持ちたちの間に、猛烈な大反省の嵐が吹き荒れた。

 

 

 

彼らは「主の独占」よりも「主の笑顔《幸せ》」を最優先にするべきだと、痛烈に思い知ったのだ。

 

 

 

その結果、ある日突然、ポケモンたちはピタリと大人しくなった。

 

 

 

翌朝から、学校で誰かが俺の近くを通っても、腰のボールは置物みたいに「しん……」と静まり返るようになった。

 

 

 

過剰なポップアップも、殺気の放射も、完全に封印されたのだ。

 

 

 

俺は「あれ? 急にみんな大人しくなったな……。まあ、夜中に俺の落書き帳のページが肉球だらけの判子まみれになってたのは気になるけど、家族にも秘密の一つや二つあるか!」と深く考えなかった。

 

 

 

もっとも、ポケモンたちが突然大人しくなったところで、一度校舎の壁に染み付いた『籠目に近づくとガチで死ぬ』というバケモノの評判までは戻らなかった。

 

 

 

小学生の社会は、一度貼った札を卒業まで剥がしてくれない。

 

 

 

評判は最悪。

 

 

 

友達はやっぱりゼロ。

 

 

 

ビジュアルだけは男版・岸波白野の儚げクールイケメンなのに、実態は完全なる限界ぼっち。

 

 

 

普通なら病むところだが、お家に帰れば、世界一可愛い日替わり嫁定食が「待ってました!」とばかりにベタベタに密着してくる。

 

 

 

「……まあ、学校ではぼっちだけど、ポケモン《推し》と今世はいっしょに楽しく暮らせればそれでいいや!」

 

 

 

と秒で回復。

 

 

 

俺の人生の目的が『ポケモンといっしょに楽しく暮らそう』に完全固定されたのは、この頃だった。

 

 

 

のちにヒーロー社会の前提と若干揉めることになる俺の哲学は、こうして完成したのである。

 

 

 

 

 

 

そうして俺は、ぼっちの風格を無駄に極めながら中学校に上がった。

 

 

 

そこで——ついに、我が家のポケモンたちが公式に認めた、唯一の『特例の例外』が現れる。

 

 

 

人の心を操る、最強にカッコいい男だ。

 

 

 

「……お前、その個性、周囲から怖がられてるだろ。ヴィランみたいだって」

 

 

 

紫色の髪を乱した、目の下に深い隈のある少年——心操人使が、そう言って俺を睨んだとき。

 

 

 

俺の心臓は、オタク的に跳ね上がった。

 

 

 

「え、洗脳!? 人の心操れるとかめちゃくちゃカッコいいじゃん!! タイマンなら最強のサポートじゃん!!」

 

 

 

「……は?」

 

 

 

心操は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。

 

 

 

その瞬間、俺の背後《ボールの中》では、目に見えない無線が飛び交っていた。

 

 

 

『(主が、あの男と喋ってめちゃくちゃ嬉しそうにしている)』

 

 

 

『(……排除する?)』

 

 

 

『(待て。あの男を消せば、主はまた小学生の時みたいに傷ついてガチ凹みするぞ)』

 

 

 

『(……主の笑顔のためだ。あの男だけは【無害な置物】として、近くにいることを公式に許可する)』

 

 

 

彼らの脳内会議の結果、心操人使だけは特例措置として接近が許された。

 

 

 

それ以来、俺たちは親友になり、学校帰りに一緒にゲームをしたり遊んだりした。

 

 

 

うちの子たちは、心操が近づいても実害がなければ、遠くから猫のように「フシャーッ」と形だけ申し訳程度に威嚇するだけでスルーした。

 

 

 

心操も「お前のペット、俺のことは噛まないから偉いな」と、自分が狂気のヤンデレ包囲網の中で『無害な置物《生存ルート》』として特例公認されていることには全く気づいていなかった。

 

 

 

現在、俺の周囲のイメージは「いつも心操と一緒にいる、大人しくて目立たない、ちょっと顔が良い一般人のボッチ」。

 

 

 

だが、誰も知らない。

 

 

 

俺の腕の中にいる進化前のニャオハやロコンが、前世からの絆の力で、すでに『全盛期のオールマイトの全力を十分程度は生身で抑え込める』という、世界を震撼させるスペックを秘めていることを。

 

 

 

ついでに、キズぐすりやプラスパワーといったポケモンの道具も使えることを。

 

 

 

中にはマスターボールやいのちのたまもあるが、怖すぎるので脳内で厳重に封印している。

 

 

 

そして、俺にはもう一つ、隠された最大最高の「切り札」があった。

 

 

 

ポケモンフィールド(最期の十秒)』。

 

 

 

最大五十メートルの空間を書き換え、俺がこれまでの全シリーズでレベル一〇〇まで育て上げた貯蓄データの数だけ、種族値と努力値をすべて「掛け算」で手持ちに加算するという、神話の神々をも屠るレベルの概念破壊兵器。

 

 

 

ただし、維持できるのは「十秒が限界」だ。

 

 

 

それ以上維持すれば、俺の頭がおかしくなって、脳に深刻な後遺症が残る。

 

 

 

本当に命がけの、最期の十秒間。

 

 

 

そんなイカれた個性を抱えながら、俺は今、雄英高校の入試会場の前に立っていた。

 

 

 

隣には、ガチガチに緊張して震えている心操がいる。

 

 

 

俺は胸ポケットの手作りノートをそっと撫でた。

 

 

 

そこには、前世の記憶から血眼になって絞り出した文字が踊っている。

 

 

 

『ポケモンと楽しく幸せに暮らそう計画』

 

 

 

正直、俺は雄英高校になんて入るつもりはなかった。

 

 

 

プロヒーロー?

 

 

 

命をかけて人を救う?

 

 

 

素晴らしいと思う。

 

 

 

尊敬もする。

 

 

 

だが、俺がやりたいかと聞かれたら、答えは否である。

 

 

 

俺は前世で、命が減っていく感覚を知っている。

 

 

 

だから、今世では命を削りたくない。

 

 

 

この健康な身体で、推したちを抱きしめて、日なたで昼寝したい。

 

 

 

あまりにも志が低い。

 

 

 

でも、俺にとってはそれが一番高い夢だった。

 

 

 

それなのに、なぜここにいるのか。

 

 

 

理由は二つある。

 

 

 

一つ。

 

 

 

親が「うちの蓮ちゃん、こんなに綺麗な狐や猫を出せるんです!」と、妙に誇らしげにヒーロー科の受験を後押ししたこと。

 

 

 

二つ。

 

 

 

唯一の親友である人使が、「お前も受けるだろ?」という顔で、当然のように誘ってきたこと。

 

 

 

親の期待を無下にするのは気まずい。

 

 

 

人使に置いていかれるのも寂しい。

 

 

 

つまり俺は、流された。

 

 

 

最低に人間らしい理由で、雄英の門の前に立っている。

 

 

 

「あ、そういえば原作でB組にいる小大唯ちゃんって子、前世で散々二次創作を漁ってたっけ」

 

 

 

ふと思い出した。

 

 

 

「もしどこかで見かけたら、一目拝んで眼福に預かれたらいいな。まあ、ついでに見るくらいの軽さでいっか」

 

 

 

そのくらいの軽さだった。

 

 

 

本当に、それだけだった。

 

 

 

俺は気だるげに笑って、試験会場へと一歩を踏み出す。

 

 

 

肩の上では、ニャオハが俺の首筋に頬を擦り寄せていた。

 

 

 

甘えるように。

 

 

 

愛しむように。

 

 

 

そして、周囲の受験生たちを冷酷な目で品定めしていた。

 

 

 

「どいつから間引きしてやろうか」

 

 

 

たぶん、そういう目だった。

 

 

 

俺は気づいていなかった。

 

 

 

いつものことである。

 

 

 

無自覚な原作崩壊(カタストロフ)のカウントダウンが、今、テンポよく始まった。

 

 

 

――なお、本人に自覚はない。

 




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