では、どうぞ。
とある部屋に乾いた音がカリカリと響く。その男は少し嬉しそうにしながら鼻歌を歌い、右手を紙の上に置いて手を動かしていた。
「やっぱ鉛筆っていいなぁ・・・」
そう言い右手に持っている細長い木の棒を見る。
手に握られている物は鉛筆。里から少し離れた所にある香霖堂から買った物だった。
「おや?いらっしゃい、静次君」
仕事場に向かうついでに頼み事をされていたので立ち寄った香霖堂に行くと此所の店主である霖之助が奥の部屋から店内に出てきた。
「お久しぶりです」
「そうかい?」
俺の言葉に対し霖乃助は頭を少し傾げ
「まぁ、半妖だからか普通の人とは少し感覚が違うのかな?」
もっともらしい事を言う霖乃助に少し感動した。
なんだってこのお方は妖怪の分類に入りながらも幻想郷では絶滅したのかと思えるほどいない数少ないほどの常識人の一人なのだから。しかも俺の事を普通の人間と思ってくれている。こんなに嬉しい事は無いだろう。
夏に近いせいか店内は少し蒸し暑くあまりゆっくりはできなそうだったので早めに用事を済ませることにした。
「霊夢のこれ・・・」
そういい、霖乃助に渡す。
「おや、ボロボロじゃないか」
渡したのは博麗の巫女が着る巫女服だった。所々解れていたり擦れて今にも穴が空きそうな所もあった。
「わかった。直しておくよ」
そう言うと巫女服を受け取った霖乃助は店の奥にいってしまった。
話す相手が居なくなった俺は店内を見渡す。壁には動いていない円上の時計が掛けてあり何だか少し哀しくなるような感じがした。
「この時計も幻想入りしたのか・・・時が経つって何なんだろうな」
こんな恥ずかしい台詞を言ってみたりする。時が経つにつれてどんどん物が高性能な物になっていく。そしてその物に負けた物はいらない存在になる。
「はぁ・・・」
幻想入りを果たしてからだろうか。こんな事は昔の自分では考えれなかっただろうな。
「どうしたんだい静次君」
いつの間にか店の奥から戻ってきた霖乃助に声をかけられた。先ほど預けた服は持っておらず代わりに一枚の紙を持ってきた。
「それは?」
「これだよ」
口調こそ変わらないが表情は嬉しそうでどこかウキウキしていた。渡された紙にはそこそこな金額が書かれていた。そして俺は悟った。これは服だけの金じゃないな。
「これには服の分も入っているけど殆んどは霊夢がツケで払わなかった分も入ってるんだよ」
「・・・どうしてこんな金額になるんだ」
「彼女は"ツケ"が大好きらしいね」
何も言わない。いや、言いたくなかった。本当にごめんよ霖乃助。
「・・・今は全部払えないので後でいいですか?」
今日はこんなに払える分持ち合わせていない。て言うか霊夢は何故払わないん・・・昔の霊夢なら払えないか。
自問自答を自分の心の中でしながら紙に書かれた金額を見つめる。どう見てもこれを払っていくには無駄遣いは出来ないな・・・
「君は払う必要あるのかい?」
「そりゃあ・・・あの、少し店内を見て回っていいですか?」
「断る理由なんてないよ。君は僕のお客さ」
それは金をちゃんと出す客ということか?それなら幻想郷は本当に常識がない所なんだな。改めて思ったわ。
「それと」
俺が店内を見て回るのを止めるかのように何かを続ける霖乃助。
「どうでも良いことなんだけど、静次君僕との話し方少し変わったよね?」
「そうですか?」
「ああ」
そう言われてもな・・・寺子屋で働いているからかな?一応慧音さんとの上下関係はあるし。
商品を見ているとあるものが目に移る。
外の世界では見慣れた物。しかもまだ新しい。
「鉛筆じゃないか」
それだけではなかった。その細長い真ん中に芯が通ったまだ削れていない鉛筆の隣には透明な袋の中に真っ白な紙が何十枚も入っている物。
ルーズリーフだ。
「いい品物だろう?段ボールという物を入れる箱の中に大量に入っていたんだ」
いい拾い物をしたと自慢げに言う霖乃助は数本の鉛筆とルーズリーフ一袋を持ち上げ俺の前に見せつけてきた。
「どうだい?安くするよ」
「そうだな・・・」
此所の書き物は大抵筆だ。そして俺は筆で書くのはとても苦手だ。生徒たちには希に字が読めないと言われたりする。ここで買って悪い品ではないだろう。さすが店主。売り上手じゃないか。
静けさが漂う店内を鉛筆数本とルーズリーフを持ちながら出て里に向かう。少し時間を掛けてしまったが仕事には間に合うだろう。そんな余裕を持ちながら寺子屋に着き、廊下に響く位の声で喋る。
「慧音さ~ん」
すると廊下の奥の扉が開いた。
「おお、きたか静次」
手には厚い本を何冊か持っており、授業の準備をしているのがわかる。
「もう既に何時もの所にやっておいて欲しい事を纏めた紙を置いてる筈だから宜しく頼むぞ」
そういうとそそくさと教室の方へと歩いていってしまった。その慧音が進んでいった方とは逆の方向に歩いて行き、障子を開ける。するとそこには六畳程の和室で綺麗な畳が敷かれており、壁には文武両道と書かれた掛け軸があった。そして外の光に当てられながら作業を進める。
いつもは仕事が面倒になって気が進まなかったが、今日は違う。ちらりと右腕を見る。そこには新品の鉛筆が握られていた。
鉛筆削りは無かったので『文ヶ。新聞』と書かれた新聞紙の上にナイフで鉛筆を削った。
作業を開始して数時間、隣の部屋から声が聞こえてきた。
「全くお前は・・・」
「だって・・・」
この声はチルノか。また何かやらかしたのかな?さては宿題か。思い出すなぁ・・・俺も何時も宿題は休みの最後まで残して結局はギリギリで終わったり終わんなかったり。
コテンと鉛筆を机の上に無造作に転がし両手を上に伸ばす。
「ん・・・」
日は既に沈みかけており、青かった空はもうすでに夕日により赤く染まっていた。
ここで疑問が出る。今日は午前で生徒は帰れる筈だ。なのに何故チルノがまだいる?
気になった俺はその部屋から出て隣の部屋の障子をゆっくりと開ける。するとそこには慧音とチルノが向かい合って座っていた。
「む、静次じゃないか。仕事は終わったのか?」
「ええ、一通りは。それでこれは・・・?」
「ああ、少し生徒とトラブルを起こしてしまってな」
「・・・そうですか」
チルノを見ると一瞬目が合うが直ぐにそっぽを向いてしまった。
「チルノ、皆と仲良くするんだぞ?」
「・・・わかってる」
力のない返事だったが、ちゃんと分かっていてくれてよかった。
それじゃあとチルノと慧音に言い、その場を離れた。チルノは無邪気で喧嘩っぱやいが根は仲間思いのいい子だから仲良くして欲しいな。
寺子屋から出て里の大通りにある八百屋に向かう。すると菊子さんと覚えのある銀髪のメイド服を着た人が話しているのが見えた。
「よお、咲夜」
「あら、静次」
咲夜は両手に色々な野菜を袋に入れて持っており、そこそこ重さがありそうな荷物だが、表情一つも変えないで俺を見ていた。
「おや、咲夜ちゃん。静次君と知り合いなのかい?」
「ええ、彼にはいろいろとお世話になってますので」
「へぇ・・・そうなのかい。二人は付き合ってるのかい?」
ちょ、菊子さん、何を言ってるんだ。そんなわけ・・・
「それは有り得ないです。もしそんなことがあったら・・・」
完全に否定した咲夜に少し悲しくなったが、最後何を言い欠けたのか凄く気になる。
「それじゃあ私は帰るわ。お嬢様が待って居られるので。それと静次」
「何だ?」
「定期的に遊びに来なさいよ?妹様が悲しまれるわ」
「それくらいなら何時でも行ってやるよ」
俺の言葉を確認した咲夜はええ、と言うとその場で浮き、紅魔館の方に飛んでいった。日の光が眩しくて姿がハッキリと確認出来ないが、本当に見えなくなるまで見送った。
「本当にあんたら付き合ってないのかい?」
「付き合ってないです」
今回は3000字いって良かったぁ・・・
最近は少し忙しいので更新が少し遅れると思いますが、これからも宜しくお願いします。
誤字や感想がありましたら言っていただけると嬉しいです。