ミチなるセカイへ!   作:もーめんど

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第一章 episode③ 《ジュースの空きカン》

 

 

《カァカァカァ》

 

 

『兎にも角にも情報収集だァァッ!勇者を出し抜いて【許可証】を奪い”双夢蝶ドリブライの鱗粉”通称【エデン】を取引した商人を見つけてこの勇者ヤマダがぶちのめしてクエスト【エデン事件】を解決するために情報収集するのだァァッ!行くぞ!ランッ!レムナードもッ!それぞれこの街の中で情報収集するのだァァァァーーーッ!』

 

と言われた勇者のお供レムナードが宿屋を出て10分。

 

サッと吹いた風に煽られカランカラン、と彼の足元をガラクタが通り抜ける。

 

ぽつんと立つ彼の頭上で時計台の針の音と、カラスの鳴き声が寂しく響いた。

 

 

「勇者さまぁ…街の中心なのにあんまり人がいませんよぉ…時間が早すぎます…」

 

レムナード時計台を見上げるとやはり時刻は5時20分だった。

 

《カァ~》

 

彼が情報収集に来た辺境都市テイラの中心部にある時計台前大通りは閑散としていた。

 

道行く人影には朝早くルーティーンをこなすランニングマンや、あくびをする子供や、カゴを片手に散歩をする婦人など、

馬車5台が行き交う人を縫って通れるほど幅広い通りにたったそれだけ、レムナードの視界には数人だけしかいなかった。

 

「こんなんじゃ聞き込みしたところでロクな情報なんかないですよ…多分…勇者さまぁ、ランさん…」

 

勇者ヤマダに対しては威勢のいい彼ではあるがそれは勇者のお供であるがゆえの振る舞いであり、

勇者ヤマダがそばにいない時の彼は自分の行動に後悔してうじうじとしたり、”やるべきこと”を前に立ち止まってしまう少年でもあった。

 

二の足を踏んだレムナードだったが、何にもできず帰った時の”危険性”は無意識のうちに察知していたため、

脳内のイマジナリー勇者ヤマダを使い【情報】を持たず戻った際に言われそうな言葉を想像してみた。

 

『何ィッ!?まさか【情報収集】なのに【情報収集】しないつもりなのかァァッ!?いかん、いかんぞレムナードぉッ!まことに遺憾ぞッ!?もちろんイマジナリーヤマダ及び勇者ヤマダが超絶美麗最強であり模範的なのは言うまでもないがこのオレのお供であるお前がサボるのは勇者のお供としてどうなんだッ!?まさか人に話しかけるのが恥ずかしいのかッ!?そうなのかッ!?この閑散とした中で「あの~…」と話しかける自分自身というちっぽけな姿を予想して引っ込み思案しているのかッ!?それともオレやランと離れたゆえの寂しがりなのかッ!?なッ、なんたる愉快ッ!?面白いなぁッレムナードはァッ!ブファーッハッハァッッ~!』

 

「くッぅ~!聞き込みの成果もなく宿屋に帰って勇者さまにこんなこと言われたらボク悔しくて寝込みますよッ!?あ~こんなんんじゃダメだっ!ボクッ!なんでもいいから情報のひとつでも持ち帰るんだァッー!」

 

叫んで地団太を踏むレムナードは意気揚々とした立ち姿で決意を表明するが、

傍目に見るとそれはボーッと突っ立っていた少年が突然発狂したように見えたので人々は若干2メドルほど距離を置いた。

 

■◆■◆

 

「あの~、”双夢蝶ドリブライの鱗粉”通称【エデン】についてや行商人について知っていることはありますか?」

 

「ごめんなさい急いでるの」

 

「あの、”双夢蝶ドリブライの鱗粉”通称【エデン】について…」

 

「そーむちょうどりぶらいってなに?」

 

「あの、行商人について…」

 

「買い物がしたいならココじゃなくて市場に行きなされ…」

 

「行商人または”双夢蝶ドリブライの鱗粉”通称【エデン】について知りませんかぁッ!?」

 

「うわっ!?え?あ、エデンかエデンならそれじゃないか、じゃあなッ」

 

■◆■◆

 

レムナードが道行く人々に聞き込みをして数十分、地道な【情報収集】によって実を結んだ”小さな成果”は彼の右手に握られていた。

 

「コレが【エデン】って、確かにエデンではあるけど【エデン】じゃないですよコレはぁ…」

 

レムナードは右手の何の変哲もない紫色の空きカンを見た。

 

そこにはしっかりと【エデン】という名前が刻印されていた。

 

ついさっきカランカランと風に吹かれレムナードの足元に転がったガラクタ、新発売のグレープジュース”エデン”250ミリリトル空きカン。

 

昨日、レムナードはこのジュースのコマーシャルをテレビで見たが宣伝途中からだったため”品名は【エデン】ではなく【デン】”と思い込んでいたが、実際は【エデン】だったらしい。

 

コマーシャルの直後、放送された【よくわかる魔物解説】とその後の言い争いで彼はこのジュースのことなど忘れていたが、レムナードは通行人が指さした空きカンを注視してようやくソレを思い出すことが出来た。

 

「もしかしてこのジュースが【エデン】と関係してる、ってことはないですよね…?」

 

”双夢蝶ドリブライの鱗粉”通称【エデン】とジュースの共通点は”名前”の一点のみ、

この情報が【エデン事件】に関連するかは分からない。

 

しかし今の所、これがたった一つの【情報収集】の成果であり、慣れない聞き込みでぐったりしたレムナードが宿屋に戻るための切符でもあった。

 

《グゥ~…》

 

広い石畳の上でレムナードの腹の音が響く。

 

《カァカァカァ~ッ》

 

カラスが大きな腹の音につられて鳴いた。

 

頭上の時計台の針が指す時刻は6時、いつもなら勇者ヤマダが「朝食の時間だッ!腹が減っては勇者のお供はできないぞッ!レムナードッ!オレは腹が減ってもいつも勇者だがなぁッ~!」と騒ぎ立てる時刻だった。

 

「朝ごはん食べてないんですよ、ボク…だから疲れてこんなにお腹も空いちゃって…あーッ!もういいですよッ!勇者さまにどんな風に言われようとッ!これがボクの【情報収集】の結果ですよッ!だから帰りますッ!誰が何といおうとッ!この空き缶を握りしめてェッー!」

 

勇者ヤマダのように大げさにいきり立つレムナード。

 

見当たる範囲に人影はないからと、警戒を怠っていた彼の背後に影がにじり寄っていた。

 

「そーっと、そーっと…わーーっ!」

 

「うわァーーーーーッ!?誰ぇーッ!?」

 

「あははっ、びっくりした?”あうな”かった?転びそうになった?おはようレムナードくんっ!」

 

突然に脅かされ、カラダを捕まえられ、兎のようにぴょーん!と飛びあがりかけた彼がびくびくしながら首を後ろにかしげると、

肩をがっしりと掴んでいたのはあの【暴れ馬事件】にて勇者ヤマダが助けた瓶底メガネの黒髪女性、【ビンゾコ】だった。

 

「な、なんだ、”ビンゾコ”さんですか、おはようございます…でも何で脅かすんですかッ!?」

 

「思春期の少年はやっぱり【衝撃的な出会い】に飢えてるんじゃないかなぁーって思ったんですよっ」

 

「それは絶対に”脅かされて衝撃を受ける”的な意味じゃないとボクは思うんですけどッ!?」

 

「あははっ!打てば響くねぇ…うん面白いよっ!さすが”あの”勇者さんのお供さんだねぇー!」

 

ビンゾコが弾けるように笑ってくるりと一回転すると、黒いミニスカートがふわりと浮き上がった。

 

「ビンゾコさん、あのぅ…今日は踊り子さんみたいに、なんというか…かっこいい恰好ですけどなんでです?」

 

レムナードがビンゾコをちらりと見る、昨日はワンピースにエプロンドレス、赤い頭巾といったこの街中でも婦人や子供が着る衣装の代表格のような普通の服装であったが今日は黒のミニスカートに胸元に真っ赤なリボンをたたえた黒の水兵服という姿だ。

 

「ひーみーつっ!でも12時に市場の奥にある広場に行ってみると何かいいことあるかもねっ?レムナードくんもよかったら来てねっ!うるさい勇者さんには秘密だよーっ!」

 

「ええッ!?何があるんですかッ!?ちょっとビンゾコさぁんッッー!?」

 

おそらく【エデン事件】にはつながらない情報と予想しながらも”何らかの情報ではある謎の情報”にすがりつくレムナード。

 

だが彼が止める間もなく、ビンゾコは瓶底メガネをキラリと光らせたまま走り去っていった。

 

《グゥ~…》

 

結局レムナードが一連の情報収集で手に入れたのはジュースの名前”エデン”とビンゾコのもたらした謎の情報と”空腹の腹”のみ。

 

「もうッ…疲れましたッ!成果はこれだけだし、ボクみたいに小心者に見えたビンゾコさんも勇者さまやランさんみたいにアクが強いし、お腹が空いたからもういいですよねッ行きますよボクはッもうッ!今度こそッ!」

 

レムナードは念のため勇者ヤマダが見ていないかぐるぐると周りを確認してから歩き出した。

 

視線の先にそれらしい人影はなく、特別目についたのは数本の空きカンが転がった横で時計台の壁にもたれかかってうなだれる、赤ら顔のオジサンひとりだけであった。

 

 

■◆■◆

 

 

☆現在のパーティー

 

お供;レムナード

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