「なあ、どうすんだよ萩。さっきの返事。俺らのことを即戦力って考えてるみたいだぜ?」
うちと萩原さん、松田さんがEOD……爆発物処理班にスカウトされるなんて思うとらんかったな。
なんとなく目配せして談話室に集まったのはいいものの、なんだか空気は重苦しい。
確かに萩原さんは実家が整備工場やっていたらしいし、松田さんも分解魔として爆弾の取り扱いに詳しいらしいから実技の成績もトップクラス。
妥当な人選やと思う反面、なんだか心に嫌な霧が立ち込めとる。
うち、何か重要な事を忘れてる?
頭を強く打ったから一時的に何か近々の予定や突発的に使ったキーワードを思い出せなくなっただけ?
「そりゃあ嬉しいよ? 気心知れた友と同じ部署。しかも大好きな機械イジリと来たもんだ」
同期の二人が居れば、もし組織側から急な呼び出された時も『ATFの義兄からのお使い』として上手くはぐらかせるかもしれん。
「だったら」
「親父の……親父の工場を見てっから。何もかも順調だと掛かっちまうんだ。……これは破滅への入り口何じゃないかっていうブレーキがな」
栄枯盛衰……人生の岐路はどっちが正解で、そもそも重要なターニングポイントに立っているかどうかすら当人は分からんもんや。
「まあ、迷ってんなら辞めときな……。爆発物処理班はかなりヤベー仕事らしいから……」
あの口の悪い松田さんですら、幼なじみである萩原さんに気を使って言葉を選んでる。
「うちもそう思う。迷いは爆弾解体の一番の障害になるから」
爆発物の構築から解体まで数百、数千単位で毎日構造の理解と対処方法を手を変え品を変えバイジウにみっちり仕込まれたうちには分かる。
知識で追えない迷いが生じてしまったら、それは死につながる。
「……手厳しいねえ、龍絶ちゃん。てっきり『一緒に頑張りましょう!!』って発破を掛けてくるもんだとばかり……」
萩原さんが寝転がっていたソファから起き上がると、眉を下げて苦笑いをした。
「人の人生、その人の命が掛かっている事に対して簡単に背中を押せんよ。ましてや爆発物処理班っちゅう第一線につくかつかないかを他人のうちがどうこうと口出し出来へん」
うちも向き直って真剣なトーンで思いの丈を話した。
すると松田さんが横から顔を覗き込んできて、おでこに手を当てた。
「龍絶……お前、ちょっと変わったか? 熱でもあるんじゃねえの?」
な、うちが真面目な話をしたらおかしいん!?
「確かに龍絶ちゃんの言う通りだ。自分の人生の道案内を他人に委ねちゃダメだね。自分が進むべき道を選ばないとだ。……ありがとう」
「龍絶、鬼公の車んとこ一緒に来るか? 俺が音聞きゃメカのどの部分がイカれてるか分かるっつったらあの車のエンジン見てくれって。ついでに洗車もしとけって頼まれちまってよ」
RX-7 FD3S……鬼塚教官の殉職した先輩警官の娘さんの為の車やったっけ。
「うん! ええよ! うち、車には詳しくないから構造を教えてくれへん?」
バイジウに車体を爆発物にする時に気をつけるメカニズムと解除時に陥りやすい罠を叩き込まれたせいで、まともな一般知識がないから。
「とっとと卒業して、早く爆処にいきてぇよ」
うちも爆処に行って……。
あかん、やっぱり何か引っ掛かる。
「松田、お前は怖くないのか? ……爆発物処理班」
怖くない人間なんておらんと思う。
今は防水や冷却による破壊という処理法がメジャーになっているとはいえ、特殊な工作物を使われとったら隊員が現地で解体せなならん場合があるし、死ぬ可能性もあるんやから。
「怖くねーっつったら嘘になるけど、前から爆処には興味あったし」
……死ぬ可能性。
あれ、うち……テキーラと離れる前、バイジウに……誰かの死亡事故について調べて貰ったような……。
「それに、俺には元々……アクセルしか付いてねえからよ!!」
松田さんの言葉を聞いた瞬間、なんだか気分が悪くなってきた……。
なんで……?
実際の爆発物処理をしたことがないやろうに、無鉄砲やから?
自信に溢れていて猪突猛進、何かにぶつからないと止まれなさそうな危うさがあるから?
「ちょ、龍絶ちゃん大丈夫!? 唇真っ青だよ!? やっぱりまだ本調子じゃないんじゃないの?」
あ、当たり前やんそんなん、警察学校に居る警察志望の人間なんやから、正義感溢れる向こう見ずな性格の人らが集まっとる……。
うちかて罪のない市民を守るために警察学校に……。
……警察官になるために警察学校へ……。
……組織のメスカルとしてスナイパーの職務を言い渡され暗殺稼業を営んでいた、うちが人の命を守る……。
「オイオイ、龍絶……あんまり無理すんなよ」
ふらついてテーブルに頭から倒れそうになったところで松田さんに腰を抱きとめられた。
「平気平気……軽い立暗みや……」
テーブルに手をついて一呼吸置いたあと、ゆっくりと立ち上がった。
「陣平ちゃん、龍絶ちゃんを頼んだ」
「……龍絶、お前の義兄ってどんな奴なんだ? ATF……爆発物処理に詳しいんだろ?」
地下の車庫でRX-7 FD3Sの修理をする松田さんを眺めていた。
「普通のおっとりした人。なんでそんなに兄貴のことが気になるん?」
バイジウは組織におって、ジンが名前を把握しているコードネーム付き……そして二人はうちの評価についてやり取りをしている。
どんな地位にいるか、どんな人間関係を持っとるのかサッパリ分からん。
「そりゃあ……血の繋がりがない男兄弟ってことだろ? ……何歳の時に義兄妹になったんだ?」
そういえば、なんでバイジウはうちの義兄妹になってくれたんやろ。
あの時は確か組織の指示やなく……あれ、うちから義兄妹になってくれって頼んだんやった?
警察学校に潜入したのは……誰の指示で……。
「えっとな……うちが18歳の時で兄貴が20歳の時やな」
カラン、とスパナが地面に落ちる金属音がコンクリート造の車庫に響いた。
「……犯罪じゃねえか!!」
……犯罪、犯罪ぃ!?
日本の法律で義兄妹になるのには父方母方やら色々と戸籍情報を細工しないといけんのは分かっとるけど、義兄妹が犯罪って……なんか法律を見落としてたん!?
「犯罪って何!? うち、悪いことしとるん!?」
慌ててスパナを拾って松田さんに渡そうとすると、両肩を掴まれた。
「……その、なんだ。……今から言う事に対して、絶対にキレるなよ?」
後ろめたさと真面目さが入り混じった顔をした松田さんを初めて見た気がする。
「うん。……分かった。絶対にキレたりせえへんから安心して」
松田さんは深い溜息をついたあと、小さく零した。
「……その年頃の男女が一つ屋根の下とか。……エ……如何わしいことされそうなシチュエーションで……その……」
「兄貴がそないなことするわけ無いやろ!!」
いくらなんでもバイジウがそんな卑劣なことするわけないのに!
勢い余って突き飛ばす姿勢になり、大声を上げて泣いてしまった。
「だからキレるなって前置きしただろ。少女漫画とかのお決まり設定だから……悪かった。言っていいことと悪いことを履き違えた。……だから泣くなよ、龍絶……。俺が悪い」
泣きじゃくるうちの頭を撫でて、何とか涙を止めようと松田さんが焦るほどに涙は流れた。
「松田さんは意地悪や……。酷いわ……うぅ……うわぁん」